2005年10月22日

特別抗告申立書

特別抗告申立書


平成17年10月18日


最高裁判所 御中

申立人ら代理人                  
弁護士     神 山 美智子

同       光 前 幸 一

同       柳 原 敏 夫

同       柏 木 利 博
 
同       近 藤 卓 史

同       馬 場 秀 行


                  
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり


上記当事者間の東京高等裁判所平成17年(ラ)第1355号遺伝子組換え稲の作付け禁止等仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件について,同裁判所は,平成17年10月12日抗告棄却の決定をなし,当該決定は,平成17年10月13日に抗告人らに送達されたが,憲法違反があり不服があるので,特別抗告の申立てをする。

原決定の表示

1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は,抗告人らの負担とする。

申立ての趣旨

1 原決定を取り消す。
2 (変更前の抗告の趣旨)
(1) 相手方は,即時抗告決定の送達の日から2日以内に,原決定別紙記載の圃場に試験作付けしたディフェンシン遺伝子を組み込ませたイネを刈り取らなければならない。
   (2) 相手方が,上記期間内に上記イネを刈り取らないときは,抗告人らは,新潟地方裁判所執行官に相手方の費用で上記イネを刈り取らせることができる。
  3 (変更後の抗告の趣旨)
(1) 相手方は,刈り取った本件GMイネ,収穫したもみおよび圃場に残された株につき,発生したディフェンシン耐性菌もしくはその発生を予防するため,本決定受領後2日以内に,火炎滅菌,乾熱滅菌(160℃で4時間,または180℃で2時間),加圧蒸気滅菌(121℃で20分)のいずれかの方法により耐性菌の殺菌処理をせよ。
(2) 相手方は,本件圃場の土壌につき,発生したディフェンシン耐性菌もしくはその発生を予防するため,本決定受領後2日以内に,火炎滅菌,乾熱滅菌(160℃で4時間,または180℃で2時間),加圧蒸気滅菌(121℃で20分)のいずれかの方法により耐性菌の殺菌処理をせよ。
(3) 相手方は,平成18年4月上旬から6月下旬に予定している本件圃場へのカラシナ由来のディフェンシン遺伝子挿入イネの野外実験栽培をしてはならない。
(4) 相手方が,(1),(2)につき,その期間内に耐性菌の殺菌処理をしないとき,抗告人らは新潟地方裁判所執行官に相手方の費用で耐性菌の殺菌処理をさせることができる。

特別抗告の趣旨

原決定を破棄し,変更後の抗告の趣旨に記載のとおりの裁判を求める。

特別抗告の理由

おって,抗告理由書を提出する。

添 付 資 料
1 委任状        通
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抗告許可の申立書

抗告許可の申立書


平成17年10月18日


東京高等裁判所 御中

申立人ら代理人                  
弁護士     神 山 美智子

同       光 前 幸 一

同       柳 原 敏 夫

同       柏 木 利 博
 
同       近 藤 卓 史

同       馬 場 秀 行



当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり

上記当事者間の東京高等裁判所平成17年(ラ)第1355号遺伝子組換え稲の作付け禁止等仮処分申立命令却下決定に対する抗告事件について,同裁判所は,平成17年10月12日抗告棄却の決定をなし,当該決定は,平成17年10月13日に抗告人らに送達されたが,当該決定には民事訴訟法第337条第2項の理由があるので,抗告を許可されたく申し立てる。

原決定の表示

1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は,抗告人らの負担とする。

申立ての趣旨

1 原決定を取り消す。
2 (変更前の抗告の趣旨)
(1) 相手方は,即時抗告決定の送達の日から2日以内に,原決定別紙記載の圃場に試験作付けしたディフェンシン遺伝子を組み込ませたイネを刈り取らなければならない。
   (2) 相手方が,上記期間内に上記イネを刈り取らないときは,抗告人らは,新潟地方裁判所執行官に相手方の費用で上記イネを刈り取らせることができる。
  3 (変更後の抗告の趣旨)
(1) 相手方は,刈り取った本件GMイネ,収穫したもみおよび圃場に残された株につき,発生したディフェンシン耐性菌もしくはその発生を予防するため,本決定受領後2日以内に,火炎滅菌,乾熱滅菌(160℃で4時間,または180℃で2時間),加圧蒸気滅菌(121℃で20分)のいずれかの方法により耐性菌の殺菌処理をせよ。
(2) 相手方は,本件圃場の土壌につき,発生したディフェンシン耐性菌もしくはその発生を予防するため,本決定受領後2日以内に,火炎滅菌,乾熱滅菌(160℃で4時間,または180℃で2時間),加圧蒸気滅菌(121℃で20分)のいずれかの方法により耐性菌の殺菌処理をせよ。
(3) 相手方は,平成18年4月上旬から6月下旬に予定している本件圃場へのカラシナ由来のディフェンシン遺伝子挿入イネの野外実験栽培をしてはならない。
(4) 相手方が,(1),(2)につき,その期間内に耐性菌の殺菌処理をしないとき,抗告人らは新潟地方裁判所執行官に相手方の費用で耐性菌の殺菌処理をさせることができる。

抗告の趣旨

原決定を破棄し,変更後の抗告の趣旨記載のとおりの裁判を求める。

抗告の理由

おって,理由書を提出する。

添 付 資 料
1 委任状        通
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2005年10月13日

高裁決定

高裁決定が出されました。(2005年10月12日)

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2005年10月12日

債権者準備書面(14)

平成17年(ラ)第1355号
抗告人 山田  稔他11名
相手方 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構

債権者準備書面(14)

  平成17年10月 日
  東京高等裁判所第5民事部 御中

抗告人代理人  神山 美智子

同       柏木 利博

同       光前 幸一
 
同       近藤 卓史

同       馬場 秀行
 
同       柳原 敏夫


  
相手方の準備書面(7)に対し、次のとおり反論する。

第1 申立の趣旨変更の正当性、合理性
1 相手方の主張
相手方は、請求の趣旨の変更が許されない理由として、本件仮処分の被保全権利は「あくまでも特定の行為の差し止め」であるとし、抗告人らの申立の趣旨の変更が、@請求の基礎に顕著な変更がある、A債務者の防御に過大な負担が発生する、B著しく本件抗告手続きを遅延させる、C変更の申立は疎明提出期限後にされた、C債権者の不当な意図による申立変更権の濫用であるなどと主張し、変更を許さないことに不都合もないと述べている。
しかし、いずれの主張も、未熟な法律論と事実認識の誤りに基づくものである。やや、煩瑣であるが、逐一、相手方の主張の誤りを指摘していく。

2 請求の基礎に変更がないこと
(1)  まず、本件仮処分の被保全権利は、「特定の行為の差し止め」などではない。被保全権利は、安全なコメ(安全性の承認されていないGMイネと交雑していないコメ)を食する権利,多様な生物が共存するなかで生活する権利,不用意な耐性菌の発生により健康をおかされることなく健康に生活する権利という人格権であり、GMイネの刈り取りは、この権利を保全する目的を実現するための一手段にすぎない。相手方の法律論の誤りは、この大前提の無理解からすべてが出発している。
 なお、相手方は、抗告人らの主張している被保全権利が「今回の控訴の趣旨変更を導くという便宜的な観点から、新たに整理しあるいは創作されたものである」とまで論難しているが(6Pの(3))、被保全権利は、抗告人らの準備書面の(5)と(6)で述べているところのものであり、確認願いたい。

  (2) ところで、相手方の栽培実験計画は、平成17年から18年の2年間にわたり、平成17年度は試験栽培したGMイネの系統の選抜と採種、平成18年度は選抜したイネを試験栽培し詳細な評価と採種を行うというものであるところ(甲8号証)、抗告人らは、この計画が、抗告人らの人格権を侵害する虞の強いものであり、権利を保全するには計画の事前差し止めの必要性があると考えた。

  (3) そして、抗告人らは、相手方の栽培実験計画は2年度にわたってGMイネを野外で試験栽培するものではあるが、平成17年度に試験栽培されたGMイネの実験の危険性が法的に認知され、栽培されたGMイネの強制刈り取りが実現されれば、抗告人らの人格権は保全され、相手方の栽培計画も中止されると考え、権利を保全するための手段として、17年度に試験栽培されたGMイネの即時刈り取りを選択し、本件仮処分を提起した。

(4) しかし、仮処分の審理は遅滞し、しかもその間、相手方は試験栽培を続行し、10月3日には平成17年度の試験栽培の目的は達成されたとして栽培したGMイネを刈り取った。そのため、抗告人らは、その権利を保全するには、本年度の試験栽培により発生が危惧されるディフェンシン耐性菌を即時に除去し、かつ、次年度に計画されている試験栽培の中止を求めるしかないと考え、保全手段の変更を申立てたものである。

(5) 以上のとおり、今回の抗告の趣旨の変更は、被保全権利を変更するものではなく、しかも、抗告人らの被保全権利を保全するという目的の範囲内で、保全(差し止め)手段を変更するにすぎないのであって、請求の基礎に、いささかの変更もない。
準備書面(12)で明らかにしたとおり、抗告人らは、民事保全法24条の解釈について、いわゆる「目的拘束説」の考えにたっており、目的拘束説においては、原則として、当事者も仮処分の目的の範囲内で権利保全手段を自由に変更できると考えるのが妥当である。今回の抗告人らの抗告の趣旨変更は、仮処分申立て後の事情の変更により、被保全権利を保全するための手段を変更しているにすぎないのであって、民事保全法24条が予定するところのものであり、審理の争点に全く異同をもたらさないから、このような手段の変更申立てが、ことさら仮処分の審理を遅延させるといった事情もない。

 3 債務者の防御の過大な負担をかけないこと
(1) 相手方は、申立ての趣旨の変更により争点が変更され、債務者の防御に過大な負担が発生すると述べている。
しかし、抗告の趣旨変更の2、3、5にかかる部分の争点は、本件GMイネ栽培によるディフェンシン耐性菌の発現可能性であり、従前の争点と何ら変更はない。

(2) また、抗告の趣旨変更の4ついて相手方は、1年後に行われる栽培計画にかかるものであり、規模や時期、交雑防止措置等については今回の試験栽培の結果をみて検討するから、従前の疎明資料を利用できる関係にない旨を述べている。
しかし、平成18年度の栽培試験計画は(既に約に半年後に迫っている)、本年度の試験栽培実績から、これが計画どおりに実施される高度の蓋然性があり、計画されている栽培試験の問題は、本年度の試験栽培と全く同様で、争点に変更はない。
もし、仮に、相手方が平成18年度の栽培計画につき、抗告人らが問題としている点を変更するのであれば、抗告審の過程で主張すれば足りることで、何ら、相手方に過大な負担をかけるものではない。

4 本件抗告手続きを著しく遅延させないこと
相手方は、抗告の趣旨の変更が、「まったく別の被保全権利とまったく別の仮処分命令発令の必要性を新たに議論することを内包する」から、抗告審の手続きを著しく遅延させると述べているが、上記のとおり、抗告の趣旨の変更によっても被告保全権利や争点に変更はないのであって、相手方が真摯に応訴すれば、抗告審の結論は迅速に下されるはずである。

5 変更の申立が疎明提出期限後になされたこと
相手方の言わんとすることが判然としないが、相手方は、変更の申立てが「決定の是非を議論する段階になって、突如求められた」ことに不満を述べている。しかし、決定の是非を議論する段階になって、突如、イネを刈り取ったとして抗告の却下を求め、決定の是非の論ずる機会を奪っているのは、相手方である。
繰り返しになるが、抗告人の抗告の趣旨変更は、このような相手方の行為による事情変更に対処した保全手段の変更にすぎない。

6 申立変更権の濫用ではないこと
相手方は、抗告人が求めていたGMイネの刈り取りを実行したのだから、抗告人らが仮処分を継続するのは権利の濫用だと主張している。さらに、相手方によるGMイネの刈り取りは評価されるべきことであるとまで主張している。
真面目に反論する気にもならないが、抗告人らが、相手方のGMイネの刈り取りを評価するとすれば、それは、相手方が、抗告人らの主張する本件栽培計画の危険性を理解してGMイネを刈り取り、次年度の栽培計画を撤回した場合のことであろう。相手方は、GMイネを刈り取るにあたり実施したプレス発表では、試験栽培の目的を達したから刈り取るとしているのである。
相手方が目的を達成した本年度の栽培試験、さらには来年度に予定している栽培試験により、抗告人らの権利は危殆に瀕し続けているのである。そして、権利の侵害を予防するには、本年度の試験栽培により発現した可能性のある耐性菌の即時滅菌と、平成18年4月から予定されている栽培試験の中止を求めるしか方法がないのであって、抗告の趣旨の変更が権利の濫用などといわれる所以はどこにもない。

7 変更を許さないことに不都合があること
相手方は、申立の趣旨の変更を認めなくても、別の仮処分や別訴の提起が可能であること、平成18年度の試験栽培については、その詳細が判明した時点で話し合いや法的手段により解決すればよい旨を述べている。
しかし、別の仮処分や別訴の提起が、抗告審での解決に比べ、裁判所を含めた関係当事者に著しい訴訟不経済をもたらすことは論をまたない。
また、本年度の試験栽培が強行、続行された経緯をみれば、相手方の主張は、来年度の試験栽培を強行するための口実にすぎない。

第2 相手方の反論(5P以下)に対する再反論
 1 相手方は、@抗告人らの趣旨変更は被保全権利の変更であり、A抗告人がよってたつところの「提案説」は不合理で、提案説たちながら被保全権利を整理、創作する矛盾は、「是が非でも債務者を本手続きから開放させない」という不当な動機からなされたアドホックなもので、B相手方によりGMイネが刈り取られたことを評価しないのは理不尽で、C「債務者を本手続きから開放せず、過大な負担を負わせる」抗告人らの行為に、相手方は困惑するばかりである等などと主張している。

2 今回の抗告の趣旨変更が被保全権利の変更でないこと、抗告人らが民事保全法24条の解釈について「提案説」ではなく、「目的拘束説」立っていることは準備書面(12)とそこに引用している文献で明らかにしており(抗告人らは準備書面(12)の第3の2で、「目的拘束説」に立つ瀬木裁判官の論考を引用しながら、「仮処分手続きにおいては,民事訴訟法246条が規定するような処分権主義が適用されるものではなく,裁判所は,申立人が達成しようとする目的という中間的レベルで申立に拘束されているにすぎない」と明記しているのであり、相手方がこの記載を「提案説」と解釈する理由が理解できない)、さらに、抗告人らにおいて危険性を指摘する試験栽培計画にしたがって実施されたにすぎないGMイネの刈り取りを評価せよと迫られても、抗告人らは面食らうばかりである。
このような粗雑とも言うべき相手方の反論は、ただ、ひたすら、本件仮処分手続きからの開放を求めんがための便法としか評しようがない。

3 しかし、抗告人らとて、何もすき好んで本件審理に貴重な時間と費用を費やしているのではない。自然環境が破壊され、人格権を侵害される可能性のある試験栽培からの開放を切望して、迅速な審理と裁判所の賢明な判断に期待を寄せているのである。
  抗告人らは、抗告審においても、審理の迅速化を再三にわたり要望してきたが(抗告人らの準備書面(10)を参照)、相手方は本年9月27日になってようやく、実質的な準備書面を提出した。そこには、「債権者の求める技術説明会の開催には貴庁の指示があれば、適宜応じる所存である」とも記載されている。
しかし、他方で、本年9月30日には、試験栽培したGMイネを10月3日に刈り取る旨のプレス発表を行い、刈り取り作業は一般に公開せず、刈り取りが終了するや、10月4日には、刈り取り終了を理由とする抗告却下の申立書を提出している。
この一連の経過を通覧すれば、相手方は、抗告審の審理を出来る限り遅延させ、書面提出時の9月27日には10月3日の刈り取りを既に決定し、その上で書面には「債権者の求める技術説明会の開催には貴庁の指示があれば、適宜応じる所存である」など実体審理に積極的な姿勢を装い、ひたすら、抗告審の審理を回避しようとしていたと指摘されても、弁解できまい。このような相手方の応訴姿勢は、科学者と市民の溝を深めるだけであり、甲24号証で提出した池内了氏の指摘する「ヤバンな科学」そのものである。
本件が、仮にこのまま終わるとすれば、多数の良心的な科学者が、自らの不利益も省みず、国家的事業の危険性に異議を唱えたことともに、公共機関に従事する科学者が手続き的不正義の限りを尽くした事例として、記憶にとどめられるべきである。
以 上

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2005年10月08日

抗告人準備書面 (13)

平成17年(ラ)第1355号 遺伝子組換え稲の作付け禁止等仮処分即時抗告事件
抗 告 人  山 田   稔 ほか11名
相 手 方  (独) 農業・生物系特定産業技術研究機構

抗告人準備書面 (13)

2005年10月4日


 東京高等裁判所 民事第5部 御中

抗告人ら訴訟代理人 弁護士  神山 美智子

同       弁護士  柏木 利博

同       弁護士  光前 幸一

同       弁護士  近藤 卓史

同       弁護士  馬場 秀幸

同       弁護士  柳原 敏夫


1、はじめに
 相手方(以下、債務者という)の準備書面(5)及び書証(乙117〜119)は、長い沈黙の末ようやく提出された抗告審における債務者の初めての反論であるが、その内容たるや、
まず、抗告人(以下、債権者という)が抗告審で明らかにした本野外実験の問題点の核心(準備書面(11))に対して一切口を閉ざした全くの肩透かしのものであり、
その一方で、今回初めて、「科学的に公知」(9頁第6、2)と称するディフェンシン耐性菌問題に関する新たな主張(6〜7頁)を持ち出すに至ったが、それは初歩的な科学的知識のレベルですら誤った杜撰な主張というほかない。

2、ディフェンシン耐性菌問題に関する債務者の誤り
(1)、まず、債務者は、第4、1(5頁)で、ディフェンシン耐性菌問題に関する債権者の主張を要約しているが、耐性菌の影響に関する(8)から(13)について、債権者はこんな順番で主張をしたことは一度もない。いったいどこでそんな主張がなされているのか、明らかにされたい。
(2)、次に、債務者が「科学的な考察においても生じようがない」(6頁2)と言い切った今回の主張の最大の目玉である「ディフェンシン耐性菌がイネの細胞から外部に出る可能性は存在しない」(6頁3)は、科学的にみて完全に誤ったものである。その誤りを理論面からも、実験面からも余すところなく解明したのが、今回提出した金川意見書(甲125)である。債権者は、この金川意見書で、ディフェンシン耐性菌問題は決着を見たと確信している。

3、 交雑の可能性に関する債務者の主張
債務者は、本野外実験の問題点のひとつである「交雑の可能性」についても、あれこれ反論をしているが、その中身たるや、
一方で、「イネの花粉の交雑能力の時間」とは、生物学的に見た交雑能力のことか、それとも人工受粉という特定の目的に用いる場合に適切なイネの花粉の寿命のことか(債権者準備書面(11)4頁(a)の争点)という肝心要の核心については、一言も明らかにせず、
他方で、それ以外のことについて、専門家の目から見て「一言で言って、身の入らない、中身の薄い、蒸し返しで、肝心なところには全く触れずじまいの」(生井陳述書(2)6頁。甲124)主張でしかない。
そのことを明らかにするため、受粉生物学の専門家生井兵治氏の陳述書(2)(甲124)を提出する。

4、結語
以上の通り、今回の債務者の主張、立証とこれに対する債権者側の証拠により、次のことが明らかになった。
一方で、債権者が準備書面(11)で明らかにした本野外実験の問題点の核心に対して、債務者には積極的に反論するものが何ひとつないこと、
他方で、今回、債務者が起死回生の一打として持ち出した「科学的に公知」と称する「ディフェンシン耐性菌がイネの細胞から外部に出る可能性は存在しない」という主張は、初歩的な科学的知識のレベルですら誤った、撤回するしかないような杜撰なものであること。              
以 上
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債権者準備書面(12)

平成17年(ラ)第1355号
抗告人 山田  稔他11名
相手方 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構

債権者準備書面(12)

平成17年10月4日
東京高等裁判所第5民事部 御中

抗告人代理人  神 山 美智子

同       柏 木 利 博

同       光 前 幸 一
 
同       近 藤 卓 史

同       馬 場 秀 行
 
同       柳 原 敏 夫

  
第1 抗告の趣旨の変更   
抗告の趣旨の2以下を次のとおり変更する。

2 相手方は,刈り取った本件GMイネ、収穫したもみおよび圃場に残された株につき,発生したディフェンシン耐性菌もしくはその発生を予防するため,本決定受領後2日以内に,火炎滅菌、乾熱滅菌(160℃で4時間、または180℃で2時間)、加圧蒸気滅菌(121℃で20分)のいずれかの方法により耐性菌の殺菌処理をせよ。

3 相手方は,本件圃場の土壌につき,発生したディフェンシン耐性菌もしくはその発生を予防するため,本決定受領後2日以内に,火炎滅菌、乾熱滅菌(160℃で4時間、または180℃で2時間)、加圧蒸気滅菌(121℃で20分)のいずれかの方法により耐性菌の殺菌処理をせよ。

4 相手方は,平成18年4月上旬から6月下旬に予定している本件圃場へのカラシナ由来のディフェンシン遺伝子挿入イネの野外実験栽培をしてはならない。

5 相手方が,2,3につき,その期間内に耐性菌の殺菌処理をしないとき,抗告人らは新潟地方裁判所執行官に相手方の費用で耐性菌の殺菌処理をさせることができる。

第2 申立の趣旨を変更する理由
 1 相手方は,平成17年9月30日,上越記者クラブ等のマスコミに,本年10月3日に本件GMイネを刈り取る予定である旨を発表し,予定どおり,これを実行した。なお,刈り取り作業は,原審決定が明示した市民への情報公開要請や,第1種使用規定承認組換え栽培実験指針(疎甲14号証の1,2)が定める情報公開規定を無視し,一般には公開されず,新聞記者のみの立会いで行われた。

 2 抗告人らは,本件GMイネの花粉が周辺の一般イネと交雑する危険と,本件GMイネから発現されるディフェンシンに対する耐性菌が発生し,これが本件圃場外に流出する可能性を指摘して,未だ科学的に不可知で,しかも不可逆的損害が発生するおそれの高い「遺伝子交雑」及び「耐性菌」被害を未然に防ぐには,近時におけるリスク論の趨勢となっている予防原則が取られるべきことを説明し,本件仮処分申立の合理性,必要性,緊急性を述べてきた。

 3 ところが,本件手続きの審理は,相手方の怠慢ともいうべき応訴姿勢により長期化し,裁判所の最終結論が出る以前に,本件GMイネの実験計画にしたがった刈り取りという事態に至った。しかも,地元の生産者の言によれば,刈り取られたイネはいまだ青く,本来の刈り取り時期からすれば10日以上も早い時期の刈り取りだったとのことである。この緩慢な応訴と迅速な刈り取りというコントラストが,健全な市民感情を無視した相手方の開発優先思想を如実に示している。
しかし,本件GMイネを刈り取ったとしても,既に発生したディフェンシン耐性菌は引き続き刈り取った本件GMイネ、そのもみ、圃場に残った株または圃場の土壌中のいずれかに存在している可能性があり、発生した耐性菌が自然条件下で死滅することを期待するわけにもいかない。そこで、抗告人からの権利を保全するには,既に発生している可能性のあるディフェンシン耐性菌を除去する必要がある。

4 また,相手方の栽培実験計画書(疎甲8号証)によれば,相手方は,平成18年4月下旬から6月上旬には,刈り取った本件GMイネから選抜,発芽したGMイネを,今回と同様に相手方圃場に試験栽培するとしており,これが予定どおり実行されれば,現時点において抗告人らが晒されている以上のGMイネ花粉の周辺イネとの交雑,ディフェンシン耐性菌の発現とその流出の危険を生じさせるから,抗告人らの権利を保全するには,相手方が平成18年度に予定しているGMイネの試験栽培を事前に禁止しておく必要があり,残された時間のなかでこれを事前に禁止するには,本件仮処分手続きによるしかない。

第3 申立の趣旨変更の正当性
1 仮処分審理においても,民事訴訟法147条の規定が類推されるとするのが一般であるところ,今回の申立の趣旨の変更は,被保全権利(安全なコメ−安全性の承認されていないGMイネと交雑していないコメ−を食する権利,多様な生物が共存するなかで生活する権利,不用意な耐性菌の発生により健康をおかされることなく健康に生活する権利という人格権)には変更はなく,この権利を保全するための手段を変更するにすぎないものである。

2 ところで,民事保全法は,裁判所に,仮処分命令の目的を達するに必要な処分をなすことを認めていること(24条)からも明らかとおり,仮処分手続きにおいては,民事訴訟法246条が規定するような処分権主義が適用されるものではなく,裁判所は,申立人が達成しようとする目的という中間的レベルで申立に拘束されているにすぎない(瀬木比呂志「民事保全法」前訂第2版の355P,431P等参照)。

3 抗告人は,本件GMイネの刈り取りが認められれば,権利保全の目的が達成されるとの見地から申立の趣旨を構成してきたが,相手方が抗告人らの主張を理解せず,当初の実験計画に則って本件GMイネの刈り取りを実施したことから,抗告人らは,その権利を保全するには,本件GMイネや圃場に残された耐性菌の完全な除去と,相手方が予定している同様な栽培実験の中止を求めざるをえず,このような事情の変更に基づく保全手段の変更が,審理をことさら遅延させるような恐れもないことから,申立の趣旨を変更するに至ったものである。
以 上
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債権者準備書面 (11)

平成17年(ラ)第1355号 遺伝子組換え稲の作付け禁止等仮処分即時抗告事件
債 権 者  山 田   稔 ほか11名
債 務 者  (独) 農業・生物系特定産業技術研究機構

債権者準備書面 (11)

2005年9月20日


 東京高等裁判所 民事第5部 御中

債権者ら訴訟代理人 弁護士  神山 美智子

同       弁護士  柏木 利博

同       弁護士  光前 幸一

同       弁護士  近藤 卓史

同       弁護士  馬場 秀幸

同       弁護士  柳原 敏夫



本書面は、債権者のこれまでの主張・立証をその骨格に絞って整理したものである。

目  次

第1、債権者の抗告審における事実主張・立証の整理            
1、主要な証拠について                        2頁
2、(a)の争点(二重の袋がけの措置の安全性)と主張・立証について    3頁
3、(b)の争点(ディフェンシン耐性菌の出現の可能性)と主張・立証について   7頁
4、(c)の争点(第1種使用規程の承認手続違反)と主張・立証について  11頁
第2、債権者の抗告審における法的主張の整理
1、債権者の法的主張の射程距離                   14頁
2、予防原則のエッセンスと実際の適用                15頁
3、予防原則の具体的内容――とりわけ立証責任の転換―― 17頁
4、小括                              18頁

第1、債権者の抗告審における事実主張・立証の整理
1、主要な証拠について
 債権者が原決定を覆すに足りると考える証拠は、ほぼ次の3つに尽きる。
@. 植物育種における受粉生物学の体系化に長年研究してきた前筑波大学教授の生井兵治氏の陳述書(疎甲95)
A. 微生物生態を研究する東大教授の木暮一啓氏の意見書(疎甲99)
B. 地元上越市で有機農業に従事する天明伸浩氏の本件圃場を視察した報告書(疎甲102)
なぜなら、抗告審における主要な争点は次の3つであるが、
(a)、二重の袋がけの措置の安全性について(原決定17頁以下)
(b)、ディフェンシン耐性菌の出現の可能性について(同19頁以下)
(c)、第1種使用規程の承認手続違反について(同18頁。準備書面(8)22頁)
 このうち、
(a)の争点については、
理論面から疎甲95の生井陳述書(乙113の横尾陳述書の誤りを明らかにしたもの)、実際面から同102の天明報告書が、
(b)の争点については、
理論面から疎甲99の木暮意見書(乙106の高木報告書と乙116の黒田陳述書の誤りを明らかにしたもの)、実際面から同102の天明報告書が、
債権者の主張を余すところなく立証したものだからである。

2、(a)の争点(二重の袋がけの措置の安全性)と主張・立証について(1)、議論の整理
 問題点を理論面と実際面に分けて, 以下検討する。
(2)、理論面における問題の所在
(a) の争点の決め手となる大前提の争点として、
「イネの花粉の交雑能力の時間がどれくらいか」
という論点があり、これをめぐって、原審では、
(。)、「長くとも5分程度で消滅」という見解(以下、「5分」説という)
(「)、「50時間である」という見解(以下、「50時間」説という)
が対立し、原決定は、(不当にも債権者に反論の機会を与えられないまま)主に乙112を根拠に、(。)の「5分」説を採用した(17頁)。
そこで、問題は、原決定のこの事実認定が正しいか否かにある。

(3)、理論面に関する債権者の主張・立証
この点、債権者は、「原決定のこの事実認定は明らかに間違っている」と主張する。
その理由は、疎甲95の生井陳述書3頁以下に詳細に明らかにされている通りであり、要約すれば以下の通りである。
ア、本裁判で問題になっている「交雑能力の時間」とは、言うまでもなく、生物学的にみてイネの花粉がどれくらいの時間、交雑能力を有するかということであるが、これに対し、乙112の横尾陳述書が問題にしている「イネの花粉の寿命」とは、「人工受粉」というあくまでも特定の目的に用いる場合に適切なイネの寿命はどれくらいまでかということであり(したがって、それは当然、生物学的にみたイネの交雑能力の時間より短くなる)、両者は明らかに違う問題である。にもかかわらず、乙112の横尾陳述書は、驚くべきことに、両者を同じ問題であるかにように主張し、債権者の反論を聞く機会を持たなかった原審裁判所は、これを鵜呑みにしてしまった。この顛末が、これまで「裁判に関わることをしてこなかった」一介の研究者にすぎない生井氏をして、「横尾政雄氏の陳述書(乙第113号証)を読み、さすがの私も植物の生殖の専門家としての立場から、どうしても黙っているわけにいかなくなった」(1頁前文)と言わしめ、周到な陳述書を書かしめたのである。
イ、同時に、生井陳述書は、債権者が主張する「50時間」説を非科学的なものとして排斥することができないことも詳細に明らかにした(14〜17頁)。
ウ、以上の理由から、「イネの花粉の交雑能力の時間がどれくらいか」という論点について、「50時間」説を前提にして、具体的な交雑防止策を検討しなければならないという結論が導かれる。

(4)、実際面における問題の所在
 次に、上の結論を前提にして、債務者が実際に行なった交雑防止策が、交雑防止として原審裁判所が求めたような完璧なものといえるかどうか――これが実際面における問題である。

(5)、実際面に関する債権者の主張・立証
この点、債権者は、「債務者の実際に行なった交雑防止策は原審裁判所が求めたようなものとは全く異なり、交雑防止として不十分極まりなく、これでは交雑の可能性は大いにあると言わざるを得ない」と主張する。
その理由は、実際に、本件圃場を視察した疎甲102の天明報告書1〜5頁に詳細に明らかにされている通りであり、要約すれば以下の通りである。
ア、原審裁判所が、それまでの債務者主張の交雑防止策では不十分であるとして、審理の中で、完璧な防止策の実施を釈明したところ、債務者が
@ 個々のイネとイネの栽培地域全体とを二重に覆う物理的に完璧な防止策を採用。
A さらに、@の期間中、イネの開花特性や交雑能力の限界等を踏まえて観察を実施。
B 本GMイネの刈り取り後、二番穂が生じた場合には再度刈り取ること。
を確約したのでこれを信用し(原決定17頁下から4行目以下)、「一般イネとの自然交雑の可能性はほとんどない」と判断した(同19頁5行目)。
イ、しかし、債務者の実際の防止策は、
@:イネに被せたパラフィン袋が、至るところで、傷がつき、穴が開き、袋からイネの葉が飛び出しており(別紙1の写真の赤丸で囲んだ部分)、こうした穴は、たとえ1cm2 ほどの小さなものであっても、直径0.04o〜0.02oのイネの花粉にしてみれば、約8〜30万倍の巨大な穴であり(4頁2行目以下)、そこから容易に花粉が外に飛び出していく。
A:債務者は、理論面における前提問題である「イネの花粉の交雑能力の時間」について「長くとも5分程度で消滅」という立場に立ち、これを前提に、「午後には花粉が交雑能力を完全に喪失した状態となっていることが科学的に明らかであ」り、「午後3時以降にイネの観察を行なう」(準備書面(3)2頁3(2))としたが、午後3時以降に袋を外すのでは、交雑能力を持つ花粉が外に飛び出す可能性が極めて大と言わざるを得ない。なぜなら、上記「5分」説は前述の通り間違った見解であり、本来なら、「50時間」説を踏まえて、1つの開花につき「最低でも2日間(48時間)は袋を外さない」ことが求められ、なおかつ1つの穂の花は次々に開花して約7日間で全てが咲き終わるため、各穂につきその開花期間中は袋を外さないことが求められるからである(天明陳述書(2)1頁。疎甲85。生井陳述書17〜18頁【それ以外の理由についても同頁参照】。疎甲95)。
B:本野外実験のひとつとして、既に8月1日に刈り取った本GMイネについて(疎甲122参照)、その後、二番穂が生じ、花が咲いたが、にもかかわらず、債務者は、確約に反し「再度刈り取ること」をしないで放置しており(別紙3の写真の赤丸で囲んだ部分)、その結果、袋も何の防止策もしていない二番穂から花粉が飛散し、自然交雑するのは火を見るより明らかである。
 もっとも、債務者は、「この二番穂は本GMイネではない」と反論するであろうが、もし本GMイネの栽培用の本件圃場に発生した二番穂が、本GMイネでないというのなら、どうしてそう言えるのか証明する責任が債務者にはあるが、天明氏らの質問にもかかわらず、これに対する証明は未だ一切ない。

(6)、小括
 以上の検討から、「債務者が実際に行なった交雑防止策が、交雑防止として原審裁判所が求めたような完璧なものといえるかどうか」という論点について、「原審裁判所への確約に反し、実際の交雑防止策は杜撰極まりないもので、これでは交雑の可能性は大いにあると言わざるを得ない」という結論が導かれる。

3、(b)の争点(ディフェンシン耐性菌の出現の可能性)と主張・立証について
(1)、議論の整理
問題点を理論面と実際面に分けて, 以下検討する。

(2)、理論面における問題の所在
 第一に核心的な問題は次のことである――「ディフェンシン耐性菌の出現を報告したとする2つの論文(甲82,83)から、本野外実験においてディフェンシン耐性菌が出現する可能性は高いと推測することが合理的かどうか」(木暮意見書の第4と第5.4頁2行目以下。疎甲99)。
なぜなら、この点について、債権者は肯定したのに対し、原決定は債務者提出の証拠(乙105、106、116)を根拠にこれを否定し、ここからディフェンシン耐性菌の出現の可能性について疎明がないとしたからである(20頁イ・21頁オ)。
 第二の問題は、「ディフェンシン耐性菌の出現の危険性というのは、『出現するディフェンシン耐性菌の数が飛躍的に増加すること』を意味するのか、それとも『ディフェンシン耐性菌が出現すること』そのものなのか」

(3)、第一の問題に関する債権者の主張・立証
この点、債権者は、「これを否定した原決定の事実認定は明らかに間違っている」と主張する。
その理由は、疎甲99の木暮意見書8頁3に詳細に明らかにされている通りであり、そのエッセンスを以下に要約する。
ア、そもそも、原決定も認める通り、本GMイネの際立った点として、
「本件GMイネに組み込まれたカラシナ由来のディフェンシンは,必要に応じて生産される自然界のディフェンシンとは異なり,いもち病等の病原菌の有無にかかわらず,常時ディフェンシン遺伝子が発現してディフェンシンを多量に作り続ける性質を有して」(20頁下から3行目以下)いるという過去前例のない特徴が認められる。
イ、なおかつ、本件圃場の水田には、菌のエサになる物質が存在し、多種多様の菌が大量に生育しており、その結果、本野外実験において、常時大量に産出されるディフェンシンが多種多様の菌とが接触する機会が、過去の状況に比べ飛躍的に増加する。
ウ、他方で、疎甲82と83の報告は、実験室において菌とエサとディフェンシンを混ぜて放置するだけで自然に(spontaneous)起こった変異で耐性菌が出たというものであり、ここから、自然界においても、この三者が混じり合えば、自然に(spontaneous)起こった変異で、耐性菌が出るだろうと予想できる。
エ、以上から、本野外実験において、多種多様の菌が大量に生育している本件圃場で、それらの菌が常時大量に産出されるディフェンシンと頻繁に接触する以上、そこに耐性菌が出現する可能性は、過去に比べ、飛躍的に増えると考えるのが合理的である。さらに、野外では突然変異を誘発する紫外線が存在するので、実験室よりも変異の頻度が増すと考えられる。
オ、こうした推理は、昨今、深刻な社会問題となっている抗生物質の多用・乱用が耐性菌の出現を促したという事実からも容易に理解できる(疎甲111〜113)。
 
これに対し、債務者は、「疎甲82と83で報告された実験は、耐性菌の生育を可能にさせるため、他の生物相等の環境影響の存在しない、およそ自然界とはかけ離れた、特殊な、人工的環境の下で実験を行ったもので、この実験から、自然界で容易に、ディフェンシン耐性菌が出現するという主張の根拠にはならない」旨反論し(黒田陳述書2頁第2。疎乙116)、原決定もまたこの反論を採用した(19〜20頁のア・イ)。
しかし、この反論が全く的外れであることは、木暮意見書の第4(4〜7頁)で、完膚なきまでに再反論した通りである。

(4)、第二の問題に関する債権者の主張・立証
この点、債権者は、「ディフェンシン耐性菌の出現の危険性とは、『出現するディフェンシン耐性菌の数が飛躍的に増加すること』ではなく、『ディフェンシン耐性菌が出現すること』そのものである」と主張する。
その理由は、微生物の研究者なら誰もが指摘する通り、それゆえ、疎甲99の木暮意見書8頁の第6、第8もくり返し指摘する通り、耐性菌は有害化学物質などと異なり、短時間のうちに細胞分裂をくり返して爆発的に自己増殖する微生物であり、たとえ1匹でも出現すれば、通常、それが何万匹、何億匹に増えるのに1日とかからないものだからである。

(5)、実際面における問題の所在
 次に、債務者が実際に行なっている本野外実験が、ディフェンシン耐性菌の出現・流出を防止する上で完璧なものといえるかどうか――これが実際面における問題である。

(6)、実際面に関する債権者の主張・立証
この点、債権者は、「債務者は何の対策も講じておらず、その結果、出現するディフェンシン耐性菌の流出の可能性は確実にある」と主張する。
その理由は、そもそもディフェンシン耐性菌の出現について、「耐性菌の出現の余地は科学的になく」(答弁書12頁12(1))を首尾一貫して主張してきた債務者は、近時も、
「2.ディフェンシン耐性菌の発生については、今回の実験の目的ではなく、調査する予定はない」(債権者らの質問に対する9月7日付回答。疎甲105・106)
と、耐性菌の出現及び流出に対する防止策を何ひとつ講じていないことを明らかにしており、その結果、「職員から、実験圃場内の水は、外部にそのまま流していると説明を聞いた」(疎甲102の天明報告書3頁。別紙4の写真の赤丸で囲んだ部分参照)の通り、出現するディフェンシン耐性菌は間違いなく外部に流出することになるからである。

(7)、小括
以上の検討から、
@「本野外実験においてディフェンシン耐性菌が出現する可能性は高いと推測されるか」
A「もしその場合、債務者が実際に行なっている本野外実験が、ディフェンシン耐性菌の出現・流出を防止する上で完璧なものかどうか」
という論点について、
@:「ディフェンシン耐性菌が出現する可能性は高いと推測され、耐性菌出現の可能性についての疎明は十分である」
A:「債務者は耐性菌の出現及び流出に対する防止策を何ひとつ講じておらず、その結果、出現する耐性菌は確実に外部に流出する」
という結論が導かれる。

4、(c)の争点(第1種使用規程の承認手続違反)と主張・立証について(1)、問題の所在
本件における承認手続違反として看過できない重大な問題とは次の2つである。
第1に、債務者は、本来ならば、承認申請書(疎甲21。以下、本申請書という)にディフェンシン遺伝子がコマツナ由来と書くべきところ、これとは別種の植物であるカラシナ由来と記載して、本野外実験の承認を受けた点について。
第2に、前述したディフェンシン耐性菌の出現とその影響という重大な問題について、本来ならば、本申請書に記載し、これについて十分な審査を受けなければならないのに、債務者は、これを記載せず、この点の審査を受けずに実験の承認を受けた点について。

(2)、第一の問題に関する債権者の主張・立証
この点、債権者は、「カラシナとコマツナは明らかに別種の植物であり、遺伝子組換え実験の安全性審査において最も基本的で重要な事項である『導入した遺伝子』の記載について、専門家であれば間違う筈がなく、虚偽としか言いようのない記載をした債務者の行為は凡そ科学者としてあるまじき行為であり、その責任は極めて重大である」と主張する。
その理由は、先般提出された疎甲115の金川報告書により明らかにされた通りであるが、要約すれば以下の通りである。
今回の本申請書からすれば、挿入したDNAの塩基配列がコマツナ由来であるから、債務者が承認を受けたのは、あくまでもコマツナのディフェンシン遺伝子を導入したイネである。言いかえれば、カラシナのディフェンシン遺伝子を挿入したイネの実験については申請されておらず、したがって承認もされていない。よって、承認されていないカラシナのディフェンシン遺伝子を導入したイネである称する今回の実験は直ちに中止しなければならず、もしカラシナのディフェンシン遺伝子を挿入したイネの実験を実施するのであれば、これを正しく記載した申請書を作成し、再申請しなければならない。

(3)、第二の問題に関する債権者の主張・立証
この点、債権者は、「もし申請段階でこれについて記載していれば、本野外実験の承認がおりなかった可能性が高く、この意味において、債務者の第1種使用規程の承認手続に関して、手続的に重大な違法がある」と主張する。
その理由は、疎甲80の金川陳述書(2)に詳細に明らかにされている通りであり、要約すれば以下の通りである。
ア、もともと、債務者の本申請書は、農水省等で作成した告示「遺伝子組換え生物等の第一種使用等による生物多様性影響評価実施要領 」(以下、本実施要領という。疎甲79)にのっとって作成されるべきものである(第一、趣旨)。
イ、本実施要領は、第三で、生物多様性影響の評価の項目及び手順を定め、評価すべき項目として別表第二が掲げられ、そのうち「微生物」の項目中に「その他の性質」という欄があるが、本件ではこの欄にディフェンシン耐性菌が該当する。
ウ、次に、本実施要領は、評価すべき手順として別表第三が掲げられているが、本件では、まず第一に、カラシナディフェンシン耐性菌の出現とその耐性菌のカラシナへの影響のことが考慮されるべきである。
エ、したがって、本来ならば、本申請書には、カラシナディフェンシン耐性菌の出現とその耐性菌のカラシナへの影響について記載されなければならない。
オ、しかるに、本申請書には、こうした記載が一切ない(4〜5頁)。
(4)、小括
以上の検討から、最も基本的で重要な導入遺伝子について虚偽としか言いようのない記載をし、さらに、本来なら記載すべき重大な項目を記載しなかった本野外実験の承認申請手続には重大な違法があり、債務者の申請は無効と言わざるを得ない。この点からも、本野外実験は直ちに中止されなければならない。

第2、債権者の抗告審における法的主張の整理
1、債権者の法的主張の射程距離

 債権者が本野外実験中止の判断基準と考えている最大の規範は予防原則である。
しかし、原決定が「ア 債権者らの本件仮処分命令の申立ての趣旨・目的は、現在問題となっているGM技術及び同技術の農作物等への応用の是非、あるいはGM作物の野外実験一般を問題としているものではなく、あくまでも債務者が現に実施している本件野外実験が今後も継続されることにより」(15頁)と認定した通り、債権者が本裁判で差止を求める対象が様々な危険性・問題点をはらんだ本野外実験だけであることと対応して、債権者が主張する予防原則もまた、GM技術及び同技術の農作物等への応用の是非、あるいはGM作物の野外実験一般にまで適用を要求するものではなく、あくまでも本野外実験についてだけその適用を主張するものである。
なぜなら、前述した通り、本野外実験の最大の特質である、ディフェンシンの常時大量産出という歴史上未だかつてなかった事態の下で、ディフェンシン耐性菌の出現とその外部への流出という問題は、今や、日本のみならず世界中の研究者・関係者らが憂慮するところとなり(疎甲81〜94・116〜117のみならず118〜121)、その場合の「予見不可能性」と「回復不可能性」という特質は、まさに予防原則の適用が要請されるに最も相応しい事態だからである。

2、予防原則のエッセンスと実際の適用(1)、予防原則に関する概括的な解説として、三菱総研の研究ノートがある(疎甲108)が、これを簡潔にまとめたものが債権者代理人がまとめた疎甲114の基礎知識の6頁以下である。
そこでも解説した通り、予防原則のエッセンスは「疑わしきは罰する」である(疎甲110の放送大学「集団と環境の生物学」第15回講義参照)。
しかし、これは、「疑わしきは罰せず」を原則と信じてきた者にとって躓きの石である。しかし、すべて原則は特定の文脈の下でのみ妥当するのであって、これを離れて普遍性を持つことはない。それは、「契約自由の原則」、「過失責任の原則」の変遷を考えれば明白である。
(2)、では、なぜ、「疑わしきは罰する」という逆転が生じたのか。それは、現代文明が、これまで地球上にはなかった未知の事故に直面することになったからである。では、どういう点で、それはかつてない新しさ、未知と言えるのか。これについて、前記三菱総研の研究ノートは、以下の4つの要素を挙げる(99頁。疎甲108)。
@ .リスクの不確実性(申立書11頁にいう「予見不可能性」)
A .不可逆性(申立書11頁にいう「回復不可能性」)
B .晩発生(病原体やアスベスト等を体内に取り込んでから実際の被害が発生するまでに時間がかかること。疎甲2の153頁下段参照)
C .越境性(リスク源が国境を超えて移動すること)
つまり、このような新たな要素をはらんだ事故については、もはや従来の事故を想定したリスク管理の原則では対応できないため、そこで、この新しい事態に即応した新しい管理の原則を発見するしかなかった。そこで見出されたのが、この予防原則=「疑わしきは罰する」である。
(3)、そして、この新たな要素をはらんだ事故が発生する分野として、三菱総研の研究レポートは、遺伝子組み替え技術をはじめとする、以下の分野を挙げる(99頁。疎甲108の)。
−化学物質(環境中の化学物質、温暖化ガス)
−食品(BSE、ホルモン牛肉)
−技術(遺伝子組み替え技術、クローン技術)
−生態系(絶滅危機種、捕鯨)
−電磁波、放射線
(4)、しかも、予防原則は、国際関係では既に数多くの条約、協定に適用されており、三菱総研の研究ノートは、その具体例を紹介している(100頁。疎甲108)が、そこには本裁判でその適用が問題となる次の条約、議定書も含まれている。
−生物多様性条約(1993年)
−カルタヘナ議定書(2000年)
(5)、のみならず、この予防原則が、既に国内の食品安全に関する原則として適用されていることは、(社)農林水産先端技術産業振興センター作成のハンドブック「バイテク小事典」に、
《バイオの分野では、遺伝子組換え食品の安全性に関して、予防原則を基に話し合いが進められている事実。》(111頁。疎甲70)
と明記されている通りである。
 さらに、先月8月29日放送のクローズアップ現代「食の安全をどう伝えるか」で、同月12日、わが国の食品安全委員会が、予防原則に基づいて、「魚介類等に含まれるメチル水銀に関する食品健康影響評価について」、2年前の基準より厳しい基準を明らかにしたことが取り上げられ、放送された(疎甲123の映像参照)。
これは、魚介類等に含まれるメチル水銀が胎児に何等かの影響を与える恐れがあると判断され、そこで、その影響がたとえわずかであっても、それが疑われる限り、予防原則の立場に立って、それを未然に防ぐ必要があるとして、食品健康影響評価について見直しを行なったものであり、食品安全に関する行政の現場では、予防原則が既に使われている。
(6)、他方、本裁判で問題となる生物多様性の保全に関しても、予防原則が確立した原則となっている(疎甲110の放送大学「集団と環境の生物学」第14回、第15回講義参照)。

3、予防原則の具体的内容――とりわけ立証責任の転換――
 予防原則の具体的内容については、この間、多くの人たちの手により、その内容が詰められてきた。そのひとつの成果が、EUが2000年に発表した「予防原則に関する欧州委員会からのコミュニケーション」である。
この中で、とりわけ注目に値することは、リスクに関する立証責任が取り上げられている点にある(三菱総研の研究ノート101頁参照。疎甲108)。
もっとも、その責任の内容は「適切な関係者に課す必要がある」とやや曖昧であるが、その後、2004年11月22日にEUが発表した Questions and Answers on REACH Part II(ただし、これは化学物質の分野である)の中では、立証責任について、安全性の立証責任は当局側から開発する企業側に転換された。(疎甲109「EU 新化学物質政策REACH の紹介」より)
つまり、予防原則の内容を吟味していけば、その適用はおのずと立証責任の問題にまで行かざるを得ず、そして、リスクの不確実性や不可逆性などの新しい事態の特質を熟慮すれば、その解決の仕方もまた証拠を独占し開発する者の側にあるとするしかないことは自明である。現に、スウェーデンや英国では、既にこれを明記している(疎甲44「予防原則」242頁)。

4、小括
前記(1)で既述した通り、ディフェンシンの常時大量産出という歴史上未だかつてなかった事態をもたらした本野外実験こそ、予防原則が適用されるに最も相応しいケースである。
そこで、債権者は、この極めて重大な特質を直視したとき、取り返しのつかない事態を回避するために、予防原則を適用して、本野外実験が即時中止されるべきことを主張する。
なお、念のために言えば、債権者は、本GMイネの実験自体を中止せよといった法外な主張をしている訳ではない。あくまで、債務者側のGM作物の研究の必要性も十分尊重した上で、回復不可能な事態を回避するためにやむを得ない必要最小限度の措置として「安全性が確保されるまでの間、本GMイネの実験を野外から室内に戻すべきである」とごく控え目な主張をしているにすぎない。
以 上

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債権者準備書面 (10)

平成17年(ラ)第1355号
抗告人 山田  稔他11名
相手方 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構

準 備 書 面(10)

                                          東京高等裁判所民事第5部  御中
平成17年9月20日
                 
抗告人ら代理人弁護士  神山 美智子

同       光前 幸一

同       柳原 敏夫

同       柏木 利博
 
同       近藤 卓史

同       馬場 秀行
 
                  
  本書面は,原決定後の事情をふまえ,本手続きの審理促進とともに,予防原則に基づく裁判所の早期判断について意見を述べるものである。

第1 信義誠実を欠いた相手方の応訴姿勢(民事訴訟法2条)
1 即時抗告の申立て後、既に1ケ月余りが経過した。
   この間、抗告人らは、8月25日には準備書面(8)を提出して原決定の誤りを指摘したが、とくに、原審での審理が不十分であったディフェンシン耐性菌の問題については、あらたに東京大学海洋学研究所教授である小暮一啓氏の意見書(甲99号証)を提出し、また、交雑の危険性に関する原決定の誤りについても、筑波大学教授であった生井兵治氏の詳細な陳述書等を提出した。そして、9月5日には、審理促進の上申書を提出し、相手方にもその意向は伝えられているはずである(なお,ディフェンシン耐性菌問題については,その後,山形大学理学部・物質生命化学化教授である西田雄三氏の要望書−甲116号証−も提出した)。
しかし、相手方は、抗告人らのこれらの主張に対して全く応答、反論をしないまま、GMイネの実験栽培を強行している。しかも、その栽培方法は、原審において自らが提示・確約した交雑防止措置さえ怠っているのである。

2 原決定は、相手方が提示・確約している交雑防止措置(イネ自体にパラフィン紙及びビニールシートを被せる他、さらにGMイネの作付け部分全体を不織布で覆う)等により、周辺農家のイネとの自然交雑の可能性は殆どないこと、ディフェンシン耐性菌の出現、流出の可能性については疎明がないことを理由に本仮処分申請を却下したが、併せて、相手方の対応には適切さを欠いたものがあることを指摘し、実験を継続するにあたっては、「生産者や消費者の不安感や不信感等を払拭するよう努めていく責任があり、仮にも、上記の情報(交雑の可能性やディフェンシン耐性菌の発生状況等を意味する)公開等が円滑に行われず、いたずらに生産者や消費者の不安感等を助長するような事態を招き、その結果、農業等を行う上で具体的な損害ないし支障が生ずるような状況に立ち至ったときには、本件野外実験の差止めを求められてやむを得ない」との異例の警告を発した(24頁)。

3 しかし、原決定が交雑防止のよりどころとしたイネの袋がけの実態は、甲101号証の写真や102号証の説明のとおりで、袋は穴がアキ、そこからイネの葉が飛びだしたまま放置され、およそ花粉飛散を防止するようなものではなかった(この写真は、8月30日に、相手方職員により撮影されたものである)。
  また,相手方は,原決定が指摘したディヘンシン耐性菌の調査と情報公開についても,「実施するつもりはない」と抗告人らに言明し(甲102号証参照),原決定の警告を真摯に受け止める姿勢がない。

4 このように,相手方は,抗告人らの不安を助長させ、原審裁判所との確約を反故にし、原審裁判所からの警告を無視する一方,抗告審においては,裁判所からの審理促進の要請にもかかわらず,書面の提出を9月26日に行うと申し入れているとのことである。
保全処分の抗告審において,本野外実験の資料や情報をすべて掌握し、原審において詳細な答弁書の提出に3日足らずで対応できた相手方が,素人集団呼ばわりしている抗告人らの書面に対する応答に1ケ月以上もの日時を必要とする理由は理解不可能としか言いようがないが,抗告人らは,次の事実だけは,指摘しておかなければならない。
抗告人らが,原審の段階から審理促進を要請した理由は,仮処分の対象が室内ではなく、野外における実験栽培中のイネだからである。野外実験栽培のため,耐性菌は人知の及ばぬところでいつ発生するやも知れず,なおかつそれがいとも容易に外部に流出するかもしれず、また,本GMイネの開花は8月中旬から始まり,周辺イネは交雑の危険に晒された。しかも,相手方の栽培実験計画書(甲8号証)によれば,GMイネの栽培終了予定時期(刈り取り時期)は,「9月下旬〜10月上旬」とされているのである。
もし,万が一にも,相手方が9月26日まで書面を提出しない理由が,抗告審の審理を引き延ばし,抗告審での決定前にイネを刈り取ることで本手続きの無効化を目論み,期待しているのだとすれば,相手方は,抗告人らだけでなく,司法を冒涜したものとなるし,裁判所が,相手方のそのような手続き進行を容認すれば,自らの権威を失わせることとなる。

5 相手方は原審答弁書において,抗告人らの主張を,「一般的な高等教育機関で教授ないし研究されている遺伝子科学の理論に基づいた主張を展開しているものではなく,遺伝子科学に関し聞きかじりをした程度の知識を前提に特定の指向をもった偏頗な主張を抽象的述べているに過ぎず」とまで論じている(19頁(4))。
しかし,本件の特長の一つは,高等教育機関の現職の専門学者の多数が,科学者としての良心に基づいて,本件実験の危険性を,自らの言葉で表明して下さっていることである(たとえば甲81〜94号証)。かつて,この種の裁判に,国立系のしかも現職の学者諸氏が,国家的プロジェクトなるものに,ここまで表立って反対表明されるようなことはなかった。
しかも,諸氏は,遺伝子組み換え研究そのものに反対している方々ではない。むしろ,これまで,組み替え技術の研究を専門とさえしてきた方々である。それが何故,嫌がらせや不利益処分を覚悟してまで本野外実験に反対表明されたかと言えば,このような安全性を無視した本野外実験は,これまで培ってきたリスク管理を重視した研究手法と相容れないもので,新たな危険微生物の出現とともに,GM研究そのものを後退させる結果になることを危惧されるからである。
相手方は,素人ではない専門家のこのような真摯な指摘に,専門家として,同様な真摯さをもって応える義務がある。そのような専門家の応答こそが,今後の研究開発を実り多いものとし,市民の信頼を得るための捷径となるからである。

6 以上のとおり,相手方のこれまでの応訴姿勢は,民事訴訟法2条が規定する「裁判所は,民事訴訟が公正かつ迅速に行われるように努め,当事者は,信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない。」に明白に違反している。
裁判所におかれては,前述した相手方の原審裁判所への確約違反、原決定の相手方に対する警告事実をも踏まえ,直ちに,仮処分決定を下すよう求めたいし,相手方のイネの刈り取り作業終了により,保全事件の終結という事態だけは絶対に回避していただきたい。

第2 予防原則に基づく審理の促進の必要性 
1 抗告人らは,本件野外実験の即時中止を求める根拠や疎明のあり方として,予防原則を主張してきた(準備書面(8)19頁以下。準備書面(10) 
  頁以下など)。
すなわち,これまでのように、危険性に関する科学的知見が十分に得られているような事項が紛争の対象であれば,事実を認定し,当該事実に当該知見を適用することの合理性を判断するという,旧来型の司法判断(いわゆる法的三段論法)が妥当するが,しかし、危険の発生に関する科学的知見が十分でなく(予見不可能性),危害の兆候がなくても長い期間を経て被害が発生し(晩発性),しかも危害がひとたび発現すれば取り返しのつかない事態を引き起こす(不可逆性)事項が対象となっている事案においては,事実の特定や科学的知見の適応において,予防的なアプローチが必要になるということである(甲108号証)。
遺伝子組み換え技術は,まさに,このような予防的アプローチが必要な事案であり,事実の特定や科学的知見の適用において旧来の証明責任にしたがえば,危険は垂れ流し状態となり,被害が現実化した時点では被害回復の可能性もない(甲108号証)。
わけても本件は、遺伝子組み換え技術のうちでも、外部との遮断が不可能なため、危害が外として確立しており(甲110号証)、また、国の食品安全委員会でも、予防原則にのっとった措置が取られているが(甲114号証7頁)、裁判所部へ流出する可能性が高い野外実験であり、その上、ディフェンシン耐性菌という極めて危険な微生物が出現し、外部に流出する可能性が高い野外実験である以上、予防的なアプローチが最も必要とされる事案にほかならない。
にもかかわらず、抗告人にとって最も重大なこの指摘に対し、相手方は、抗告審において何ひとつ対応しない。

2 言葉を返せば,抗告人らの危惧する交雑や耐性菌発生の問題に対し相手方が平然としておられるのは,仮に交雑や耐性菌が発生したとしても,被害の発生は晩発的で,本野外実験との因果関係の特定も困難なことから,相手方は,組織としても,また個人としても,事後的な損害賠償責任を負担する恐れが少ないからである。近時,ようやく、血友病患者のワクチン使用によるHIV感染に関する事件で,規制官庁の公務員が刑事責任を問われるようになったものの,このような裁判は,今後はいざ知らず,わが国では稀有なことだからである。
昨今,リスク管理の手法について,リスクの性質に応じ,決定分析型から予防原則型への転換が叫ばれており(甲108号証),既に生物多様性の保全の領域では基本原則の差止め訴訟においても,同様の意識転換が強く求められる。

3 また、本野外実験の有用性が乏しいことはこれまで指摘したとおりである(準備書面(5)8〜9頁)。
  本野外実験の負の側面である食品安全性の承認されていない(相手方の栽培実験計画書2(3).甲8号証)GMイネの交雑やディフェンシン耐性菌出現の可能性を考量すれば,本件は,裁判所においても,予防的なアプローチに基づく早期審理,決定が求められる事案である。
以 上



posted by GMNG at 12:12| Comment(53) | TrackBack(0) | 裁 判 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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