第1回口頭弁論において,原告代理人の神山美智子弁護士より陳述される訴状要旨は,以下のとおりです。

この訴訟は、人類及びすべての生物の危機を回避するための重大な裁判であることを最初に申し述べます。
では原告たちが求めている裁判の内容を簡潔にまとめて述べます。
第1 請求の趣旨
1 被告独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構は、平成18年4月から被告の北陸研究センター(所在地−新潟県上越市稲田1−2−1)に付設された高田圃場において予定しているカラシナ由来のディフェンシン遺伝子を挿入したイネの実験栽培をしてはならない。
2 被告は原告番号1から3に対し、それぞれ金50万円とこれに対する本訴状送達の翌日から完済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は原告番号4から15に対し、それぞれ金10万円とこれに対する本訴状送達の翌日から完済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決ならびに仮執行の宣言を求めます。
第2 請求の原因

被告は、農業に関する技術上の試験などを行うことを目的として設立された独立行政法人であり、資本金は2915億5317万9538円であります。
被告の研究機関とである、北陸研究センター(所在地ー新潟県上越市稲田1−2−1)は、カラシナのディフェンシン遺伝子をイネに組み込み、いもち病や白葉枯れ病に強い性質をもたせるように改変したイネ(これを
「本GMイネ」といいます)の開発に取り組んでおり、平成17年5月と同6月、多くの関係者の反対を押し切って、センターに付設されている高田圃場(以下「本件圃場」)の一画に、本GMイネの野外栽培実験を強行し、平成18年4月から、同様の野外実験を再度、実施しようとしているものであります。

原告番号1ないし3の原告は、本件圃場周辺においてイネを栽培している米農家であり、原告番号4ないし15の原告は、米を主食として食べている消費者であります。

被告が強行している本GMイネの野外栽培実験には、以下に述べるような危険性があります。
@ まず周辺イネとの交雑の危険性です。イネの花粉は風に乗って遠くまで飛んでゆき、他のイネと受粉します。本GMイネの花粉とて同様で、花粉が飛んでいけば、原告や周辺農家の栽培している一般のイネと交雑します。原告たちが栽培しているイネが知らないうちに、被告の本件圃場から飛んでくる花粉により交雑してしまう危険性が十分あります。イネ花粉による交雑の可能性そのものは、被告も認識しており、昨年の実験においては、他の圃場との間に一定の距離を設け、周辺圃場とは開花時期をずらす、不織布で覆うなどの交雑防止措置をとっていますが、これらの措置によっても、交雑を完全に防げるという保障は一切ありません。なぜなら花粉の飛ぶ距離が20メートルや30メートルだという証明はないのです。むしろ気温、風向き、風力などにより、どこまででも飛んでゆくおそれがあります。また覆いは不完全で、ごく小さな花粉が外へ飛び出るのを防ぐことはできません。
さらに花粉の受粉能力が数十分で尽きるなどという証明もないのです。
原告ら周辺農家は、被告の野外実験により、欲してもいない本GMイネとの交雑を受ける危険性があるのです。
A 次にディフェンシン耐性菌出現の危険性です。本GMイネはカラシナがディフェンシンを作るために持っている遺伝子をカラシナから取り出し、これをイネに組み込んだものであります。ディフェンシンとは、細菌に抵抗するために生物が作り出すたんぱく質のことで、抗菌たんぱくあるいは抗菌ペプチドと呼ばれています。ディフェンシンは、生体が持つ細菌感染に対する防御機能の一つであり、近時その作用が非常に注目されている物質です。
被告が作り出した本GMイネは、このディフェンシンを常時作り出すという性質をもっており、しかも微生物と栄養の宝庫である水田に、常時ディフェンシンが流出するものでありますから、細菌がディフェンシンに対する耐性を獲得するおそれが高いものであります。
人間がカビなどが作り出す抗生物質を人工的に製造し、乱用した結果、MRSA、VRSAなどの抗生物質耐性菌が出現し、病気になっても抗生物質が効かないという状況になっていることは公知の事実です。
ディフェンシン耐性菌は、人間や他の生物の生体防御機能を破壊するという点において、抗生物質耐性菌よりはるかにおそろしいものであります。
被告はこれまでディフェンシン耐性菌が出現した報告はないなどと説明していますが、これまではディフェンシンを組み込んだ植物の野外栽培などが行われてこなかったため、耐性菌も出現していないのであって、被告が世界で初めて、このような危険な野外実験を強行したことにより、世界で初めて耐性菌出現の危険性をもたらしたのであります。
ディフェンシンには、人型、サル型、昆虫型、植物型など、さまざまな構造をもったものがあり、植物型についての研究は1990年以降に始まったばかりで、詳しい作用機序などは十分に分かっておりません。このことは被告が作成した文書にも記載されていますし、過去の研究がなく、被告の技術が新規なものであるからこそ、特許申請をすることが
できたものであることは明らかであります。
耐性菌が発生した場合、被害を最も受けやすいのは他のアブラナ科植物であろうと思われ、わが国の野菜栽培が大きな打撃を受けるおそれがあります。
また最近の研究により、ディフェンシンには、HIV感染を抑止したり、口腔内の細菌の増殖を抑止する効果があることなども分かってきました。しかし耐性菌が発生すると、多くの人がHIVに感染しやすくなるなどの被害が発生するおそれがあります。
抗生物質耐性菌はインフルエンザの例でいえば、タミフルが効かなくなることですが、ディフェンシン耐性菌は多くの人がインフルエンザにかかりやすくなることを意味します。
被告は本GMイネのディフェンシンは、大きさからして細胞の外へ出られないとか、中和されるとか、人にはディフェンシン以外に免疫機構があるので、ディフェンシンがやられても大丈夫だなどと説明していますが、これはまったく根拠がありません。ディフェンシンの大きさに関する被告の説明は、科学の基礎的な知識不足によるものであり、中和されるということは、水田という微生物と栄養の宝庫の存在を無視したものであります。免疫機構があるから大丈夫などという議論は、暴論というべきものであります。生物界は微妙なバランスの上に互いの共働的関係を築いてきたのです。このような精緻な生態系環境に、人工的な抗菌物質を放出するなどという行為は絶対に止めなければなりません。

ここで遺伝子組み換え技術の規制について述べます。
まず1992年、ブラジルのリオデジャネイロにおいて、国連環境開会
議が開催され、生物多様性に関する条約が採択されました。次に2000年に、生物多様性に関するカルタヘナ議定書が採択されました。
わが国は2002年、生物多様性国家戦略大綱を閣議決定し、2003年、通称カルタヘナ法を成立させました。こうした一連の動きは、生物の多様性の著しい減少や喪失のおそれがある場合に、予防的な措置をとるべきことを求めています。戦略大綱では、生物・生態系のすべてはわかり得ないものであることを認識し、常に謙虚に慎重に行動することを求めています。そして人の健康や環境への影響の防止の観点から、安全性の確保と国民の理解が不可欠であることもうたっています。
被告の本野外実験は、農林水産大臣及び環境大臣がした第1種使用規程承認に基づくものでありますが、この栽培実験指針には、ディフェンシン耐性菌に関する条項が含まれていないという驚くべきものであります。また交雑防止距離についても、新たな知見が出るたびに変更されるような不十分なものであります。つまりカルタヘナ法に基づいて、生物多様性を保護するために策定されたはずの使用規程そのものが、生物多様性や人の健康を保護するためのものとはなっていないのですから、被告の本GMイネ野外栽培実験は、人の健康や人を含む生態系の安全、環境保全を損なうおそれが非常に大きいものなのです。

次に被告の野外栽培実験と原告らの損害について述べます。
原告全員が、ディフェンシン耐性菌出現により健康を害されない固有の
権利をもっていることは自明の理ですが、これに付け加えれば、原告番号1ないし3の原告は、被告の本件圃場周辺で米を栽培している農家であって、被告の本野外栽培実験により、交雑のおそれ、遺伝子汚染のおそれを直接受けているものです。仮にその年に原告の栽培種に対し直接の交雑が起きなくても、本件圃場に近いイネが交雑を受ければ、年を経るごとに交雑範囲が広がり、ついに米所上越の米が壊滅的打撃を受けるであろうことは、農業に従事するものなら誰でも知っています。
農家である原告らはすでにいもち病に強いコシヒカリを品種改良によって
作り上げ栽培し販売しておりますが、このコシヒカリと本GMイネが同じではないかとのあらぬ疑いをかけられる、風評被害が現実のものとなりつつあります。こうした被害に対する慰謝料は各人について、50万円を下るものではありません。
原告番号4ないし15の原告は、日本人として米を主食にし、健康な食生活を送りたいと願っている消費者であります。被告が作り出した本GMイネにより消費者原告らは、安全な食生活を送る権利を侵害されるおそれがあります。これに対する慰謝料は各人10万円を下ることはありません。
よって請求の趣旨記載のとおり、本GMイネの野外栽培実験の中止と、原告らに対する慰謝料及びこれに対する本訴状送達の翌日から支払済みまで、民法所定の年5分の遅延損害金の支払を求めるものであります。
なお、ディフェンシン耐性菌出現問題につきましては、本日付準備書面で詳しく述べております。
以上です。