2005年12月20日

訴 状

訴 状


2005年12月19日


新潟地方裁判所高田支部 御中

原告訴訟代理人弁護士 安藤 雅樹

同  弁護士 神山 美智子

同  弁護士 柏木 利博

同  弁護士 光前 幸一

同  弁護士 近藤 卓史

同  弁護士 竹澤 克己

同  弁護士 馬場 秀幸

同  弁護士 柳原 敏夫

同  弁護士 若槻 良宏


当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり

             
遺伝子組換えイネ野外実験栽培差止め等請求事件

訴訟物の価額 金2670万円也
貼要印紙額  金10万1000円也

第1 請求の趣旨
1 被告は、平成18年4月から被告の北陸研究センター(所在地ー新潟県上越市稲田1−2−1)に付設された高田圃場において予定しているカラシナ由来のディフェンシン遺伝子を挿入したイネの実験栽培をしてはならない。
2 被告は原告番号1から3に対し、それぞれ金50万円とこれに対する本訴状送達の日から完済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は原告番号4から15に対し、それぞれ金10万円とこれに対する本訴状送達の日から完済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 仮執行宣言

第2 請求の原因
1 当事者
(1) 被告は、農業に関する技術上の試験及び研究等を行うことにより、農業に関する技術の向上に寄与するとともに、民間において行われる生物系特定産業技術に関する試験及び研究に必要な資金の出資及び貸付け等を行うことにより、生物系特定産業技術の高度化に資することを目的として設立された、資本金2915億5317万9538円の独立行政法人である(独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構法4条)。
被告における農業技術の研究機関として、北陸研究センター(所在地ー新潟県上越市稲田1−2−1)があるが、同センターは、遺伝子組換え技術を用いてカラシナのディフェンシン遺伝子をイネに組み込み耐病性を付与することを企図したイネ(以下、「本GMイネ」という)の開発に取り組んでいるところ、平成17年5月と同6月、交雑の危険や実験の安全性を危惧する農業従事者、消費者、研究者らの反対を押し切り、同センターに付設されている高田圃場(以下「本件圃場」)の一画に、国による食品安全性の審査を経ていない本GMイネの野外栽培実験を強行し、平成18年4月から、同様の野外実験を再度、実施しようとしている。

(2) 原告ら
原告番号1〜3は、本件圃場の近隣で新潟産ブランドのコメを生産、出荷している農業従事者、同番号4〜15は、いずれもコメの安全な生産,地球環境の保全,生物多様性の維持等に多大な利益、関心を抱くものであるところ、とりわけ、農業従事者においては、本GMイネの実験栽培による新潟産コメの市場評価が下落することに懸念しているものである。

2 本GMイネの構造及びディフェンシンについて
(1) 本GMイネは、アブラナ科の越年草であるカラシナ(芥子菜)からディフェンシンという殺菌作用を持つたんぱく質(抗菌たんぱく質)を作り出す遺伝子を取り出し、これをイネの細胞内に組み込んで、イネが常時ディフェンシンを生成するよう形質を変更して、これによりイネの病害であるいもち病や白葉枯病の病原菌に耐性を付与しようとするものである(甲1,2号証)。
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(被告北陸研究センターのHP〔一部加筆〕より)                           
(2) 近時におけるディフェンシンの重要性の認識
ディフェンシンなどの抗菌ペプチドについては、最近、感染予防の第一線で大きな役割を果たしていることが明らかになりつつあり、その重要性が認識されるに至っている。
ディフェンシンは生物種を問わず広く存在する抗菌たんぱく質で,病原菌に対する防御機構の一つとして重要な役割を担っている。抗菌活性の強度や範囲を特徴付けるアミノ酸構造の違いによりα型(ヒト),β型(サル),サペシンA型(昆虫),植物型などに分類されているが,哺乳類のディフェンシンについては,白血球やパリア上皮細胞など,宿主防御に携わる免疫細胞中に豊富に存在し,微生物の殺滅に直接関わっているという知見が増加しており,αディフェンシン−1からHIV感染を抑止する作用が明らかとなったり,歯周病との関係で,β−ディフェンシンが口腔内の細菌の増殖を抑止する作用があることなどが発表されている。
病原菌からの防御機能としては免疫反応があるが,免疫能が病原菌進入から数日後に作動しはじめるのに対し,ディフェンシンは病原菌の進入に対し直ちに反応することから,とみにその重要性が認識されるようになった(甲3,4号証)。

(3) 植物型ディフェンシンについて
植物型ディフェンシンは,その存在が報告されたのが1990年と比較的最近のことであるが,45〜54のアミノ酸残基からなり,生物学的活性から,@病原菌の成長を抑制する,A病原菌の成長を遅らせる,B抗菌活性はなく,α−アミラーゼを阻害する3グループに分類され,現在,80種にのぼる植物種でディフェンシン遺伝子の存在が知られており,被告は,植物由来のディフェンシンを利用した新規抗菌剤の開発を目指している(甲3号証)。 

3 科学技術開発と安全性の確保、国民との相互コミュニケーション
(1)  科学技術基本計画
科学技術基本法(平成7年11月施行)に基づき5年毎に策定される科学技術基本計画は、現在、内閣総理大臣を議長とする総合科学技術会議において、第3期(平成18年から23年度)計画の内容を審議、策定中であるが、基本政策専門部会は、平成17年6月、「科学技術基本政策策定の基本方針」を取りまとめた(甲5号証)。
(2) これによれば、第3期計画における基本姿勢を「社会、国民に支持され、成果を還元する科学技術」におき、科学技術システムは、社会・国民から独立して存在するものではなく、社会・国民に支持されて初めて発展が可能になるとの認識のもとに、@科学技術が及ぼす倫理的・法的・社会的課題への責任ある取組、活動ルールの策定、A科学技術政策に関する説明責任の強化、B国民の科学技術への主体的参加の促進の各必要性を強調している(報告書18P以下)。

(3) また、21世紀に向けた食料、農業の基本施策を定めた「食料・農業・農村基本法」(平成11年7月制定)15条に基づき政府が策定する「食料・農業・農村基本計画」は、農業の担い手の育成、近時における狂牛病、食品の不正表示問題等による国民の「食の安全」に関する不安の増大、持続可能型社会に向けた環境保全型農業の必要性等の諸要請を受け、平成17年3月全面改訂され、新たな基本計画が制定された。
そこでは、農産品の研究・技術開発においても、消費者の視点を政策に反映させること、すなわち、消費者の信頼に応え、消費者から支持される食料供給の実現に向け、企業等の社会的責任(SR)の理念も十分踏まえつつ農業団体や食品産業等の関係者の意識改革を促していくことを、改革の基本視点としている(甲6号証)。

(4) そして、政府のバイオテクノロジー戦略会議(BT戦略会議)によって策定された「バイオテクノロジー戦略大綱」(平成14年12月)も、「研究開発の圧倒的充実」、「産業化プロセスの圧倒的強化」とともに、「国民理解の徹底的浸透」(国民が適切に判断し、選択できるシステムの構築)をバイオテクノロジー技術開発における基本戦略とし、以下のような指摘をしている(甲7号証)。
「BT関連製品・サービスには、医薬品や食品など直接人体に摂取されるもの、植物・動物・微生物等環境に放出されるものなどがあり、人の健康や環境への影響の防止の観点で安全性の確保が不可欠である。
 BTの発展には、産業への応用技術開発とその安全確保が車の両輪であり、BTの応用が進められる際に、これに対応して安全情報の収集や科学的分析、評価などの安全確保対策とその充実のための基盤の確立に取り組んでいくことが必要である。
 一方、確たるルールの確立のないまま、研究開発が先行している側面もあり、クローン人間の生成、個人遺伝情報の取扱いなど、倫理面での課題について国民の関心も高まってきている。」
「国民に対し、政府は、BTに関する情報を積極的に提供していくことが必要である。その情報提供に当たっては、常に国としての理念を持ち、その理念の下、国民に媚びるのではなく、科学的事実を根気よく伝達することを心がけるべきである。
 情報提供は、単に科学的説明のみならず、BT技術の応用によって人々の生活がどのように改善されるかをわかりやすい形で説明することが必要である。
 一方、官からの一方的な価値観の押しつけとならないよう、NPO法人、学界、消費生活センター等の民間団体との多様な連携を積極的に図ることが肝要と考える。また、これまで各府省がそれぞれ行ってきた情報提供に関し、共通の窓口を設定することが重要である。」
「BTの発展には、産業への応用技術開発とその安全性の確保が車の両輪であり、まず、安全情報の収集や科学的分析、評価などの安全確保対策とその充実のための基盤の確立を行うことが不可欠である。
 その上で、安全確保対策に政府として万全を期すことに加え、その強固な姿勢を国民に分かりやすく提示することにより、国民の目から見て、BT技術の応用製品についての安全性の信認が得られるよう最大限努めることが肝要である。
 その一環として、BT製品の安全審査や安全管理に関する大規模な組織を整備し、抜本的に強化することが必要である。現状では、米国FDA(食品医薬品局)などの例を見ても、この面で、我が国は大きく欧米に遅れている。安全性に関する透明な審査機構の確立は、行政の重要な役割であることを改めて認識し、対応を強化すべきである。
 また、BTに係る合理的な規制の整備が必要である。なぜなら国際的にも整合性を持つ科学的根拠に基づく合理的な規制の存在が、消費者の安全性の信認を得る大きな道だからである。そうした合理的な規制に関する科学的な研究を進めるべきである。消費者の信頼を得る規制が、結局は、研究開発や産業活動の活性化につながることを改めて認識すべきである。
 一方、BTが広く国民に受け入れられるためには、研究者・産業人の倫理の確立が不可欠である。BTの進展に合わせ国民各界各層において、倫理的・法的・社会的問題についての理解を深め、BTを適切に進めるためのルールの設定・見直しを行うことが重要である。特に、今後、BTの発展に伴い、利用・提供が進むことが想定される個人遺伝情報に関しては、個人の権利を守るとともにその公共利用に関するルールの整備を行うべきである。
 国民の理解の基本は、個々の研究者、従事者が国民に適切な説明・対話を行うことである。研究機関、研究者及び企業、従事者は、研究の内容や成果を社会に対して説明することが基本的責務であることを改めて認識し、国民との双方向のコミュニケーションを充実すべきである。」

4 GM作物の栽培実験に関する法規制
(1) 「生物多様性条約」、「カルタヘナ議定書」、「カルタヘナ法」、「生物多様性国家戦略」
平成4年6月にリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議において署名開放された「生物多様性に関する条約」は、地球上の多様な生物をその棲息環境とともに保全することを目的と、現在、わが国を含め180ケ国以上の国や地域が締約している。
その前文には、
「生物の多様性の著しい減少又は喪失のおそれがある場合には、科学的な確実性が十分にないことをもって、そのようなおそれを回避し又は最小にするための措置をとることを延期する理由とすべきではない」と予防原則の内容が表明されている(甲7号証)。

また、同条約19条3項に規定されている「バイオテクノロジーにより改変された生物であって、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に悪影響を及ぼす可能性のあるものについて、その安全な移送、取扱い及び利用の分野における適当な手続(特に事前の情報に基づく合意についての規定を含むもの)を定める議定書」(いわゆる「生物多様性に関するカルタヘナ議定書」)が平成12年1月に採択された(甲8号証)。
カルタヘナ議定書の第1条には、目的として、
「 環境及び開発に関するリオ宣言の原則15に含まれる予防的アプローチに従い、本議定書の目的は、人の健康に対するリスクをも考慮し、特に国境を越える移動に焦点を当て、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に悪影響を及ぼす可能性のあるモダン・バイオテクノロジーによって改変された生物(LMOs)の安全な輸送、取扱及び利用の分野における適切な水準の保護を確保するために貢献することにある。」
と予防原則を適用することが宣言されている。

わが国も平成15年5月にこれを承認し、同議定書の担保法である「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(いわゆる「カルタヘナ法」)を同年6月公布した。
さらにわが国は,生物多様性条約に署名後、平成7年10月には「生物多様性」を維持するための国家戦略を閣議決定し、平成14年7月には、自然環境の荒廃、移入種や新種との交雑や化学物質による環境撹乱の増悪という事態を踏まえ、「新・生物多様性国家戦略」を閣議決定した。そして,新戦略においては、生物多様性確保のための理念の1つに、「予防的順応的態度」を掲げ、これを、次のように説明している。

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(2)  カルタヘナ法
@ 同法は、国際的に協力して生物多様性の確保を図るため、遺伝子組換え生物等の使用等の規制を講ずることにより、カルタヘナ議定書の的確かつ円滑な実施を確保することを目的として制定された(同法1条、但し、わが国の法律は、野生生物のみを保護対象としている)。
A そして、遺伝子組換え作物を、新規に、野外の圃場等で試験栽培しようとするものに対しては、事前にその使用規程(第一種使用規程)を定め、かつ、その使用等による生物多様性への影響を評価した「生物多様性影響評価書」を添付して主務大臣(農林水産省、環境省)に提出し、承認を受ける義務を課している(同法4条)。
B  また、生物多様性評価書が適正に作成されることを担保するため、関係各省庁合同の告示により,「遺伝子組換え生物等の第一種使用等による生物多様性評価実施要領」が示されている(平成15年財務省・文部科学省・厚生労働省・農林水産省・環境省講告示第2号,甲10号証))。
同告示では、適正な評価書の記載項目として、宿主の基本的特性、宿主に供与される核酸の構成や機能、遺伝子組換え生物が生物多様性に影響を生ずるおそれのある場合にはその防止措置等があげられているが、生物多様性に影響を生ずるおそれがあるか否かの判断にあたっては、当該野生動植物等の固体の反応について実験を行い、関連する情報を集めることや、当該野生動植物等の生息又は生育する場所又は時期その他の関連する情報を集め、影響の生じやすさを評価すべきとしている。
C  そして,上記関係各省の同年告示第1号は,「第1種使用規程の承認」の基準として,I.実験により,影響が危惧される野性動植物種等に影響が出ないこと,II.生物多様性への影響を評価するための情報が既に得られていること,III.生物多様性に対する影響を防止する措置が確実に講じられることの3要件を明示している(同告示1の(2)のロ,甲11号証))。

(3)  農林水産省の指針
@ 農林水産省は、カルタヘナ法4条または9条により第1種使用規程の承認を受けた組換え作物が,同種ならびに近縁の栽培作物と交雑することを防止し、また実験に関する情報を一般に公開させること等を目的とする「第1種使用規程承認組換え作物栽培実験指針」を定め、栽培実験者にその遵守を求めている(甲12号証)。
A 同指針は、実験者に「栽培実験計画書」を作成することを義務付け、計画書には、栽培実験の目的、期間、場所、交雑防止措置の内容、栽培実験に係る情報提供に関する事項等を記載することを求めており、情報の提供に関しては、実験開始前の計画書の公表、説明会の開催、実験中は経過に関する情報提供や見学会の開催、実験終了後は栽培実験結果の説明会の適宜開催等を義務付けている。
B なお、同指針では、組換えイネと同種栽培作物との交雑を防止するために必要な離隔距離を20メートルと定めていたところ、農林水産省農林水産技術会議事務局長は、平成17年4月、「平成17年度における第1種使用規程の承認を受けた組換え作物に係る栽培実験の留意点について」と題する書面で、交雑防止措置として開花前の摘花や袋かけ、防止ネットによる被覆等を行わない場合は、実験対象イネとその周辺イネとの離隔距離を26メートル以上とし、周辺イネ(26メートル近辺)にある栽培イネとの出穂期を2週間程度以上離なす旨を通知している。(甲13号証)

5 被告の野外栽培実験について
(1) 経過(甲22号証)
@ 被告は、平成16年11月17日に農林水産大臣および環境大臣に本GMイネの野外栽培実験(以下、本野外実験という)に関する第1種使用規程承認を申請し(以下、本申請書という。甲1号証)、同年12月24日から地元説明会を開始し、平成17年4月22日には栽培実験計画書を公表した。
A  計画による栽培実験の播種時期は、平成17年度は4月下旬と5月下旬から6月上旬、平成18年度は4月下旬から6月上旬,移植(苗上)時期はいずれも5月下旬から7月上旬というものであったところ,栽培されるGMイネと周辺イネとの交雑や生物多様性への影響等を危惧した生産者や消費者からの反対は根強く、新潟県や上越市等からも、「生産者や消費者らの意向を無視した実験の強行は控えて欲しい」旨の申し入れが再三なされた。
しかし,被告は、平成17年5月25日に上記両大臣の承認がおりるや、同月31日には第1回目の移植、また、翌6月29日には第2回目の移植を強行した。
B  本件原告らの一部は、平成17年6月24日,新潟地方裁判所高田支部に対し、第2回目の移植の禁止、移植された場合にはイネの即時刈り取りを求める仮処分を提起した(平成17年(ヨ)第9号 遺伝子組換え稲の作付け禁止等仮処分事件)。現在、申立ての趣旨を平成18年度の栽培実験禁止、本GMイネの作付けにより発生するおそれのあるディフェンシン耐性菌の土壌等からの即時殺菌として,特別抗告中である(最高裁判所平成17年(ク)第1148号。甲23号証)。

(2) 被告の野外栽培実験の概要、目的等
@ 本野外実験は、いもち病と白葉枯病に複合抵抗性を持つイネの実用化を目指したもので、イネ品種「どんとこい」に、カラシナ由来のディフェンシン遺伝子を挿入したイネを、上記の被告北陸研究センター稲田圃場(本件圃場)内に植え、耐病性と栽培特性評価、試験研究用種子の採種、周辺への生物多様性への影響評価を目的としている(甲1,2号証)。
A 実験期間は平成17年と18年の2年間であり、17年は系統の選抜と採取、18年は選抜した系統の詳細な評価と採取が予定されている(甲2号証)。

(3) 近隣栽培イネとの交雑防止措置
@ 被告は,公表した栽培実験計画書において,以下のような交雑防止措置を取ることを明記している(甲2号証)。
I. 近隣栽培イネとは26メートル以上の距離を保つ(最も近接した近隣栽培イネは220メートル)。
II. いもち病抵抗性検定の目的で周囲の水田と同時期に移植されたGMイネは開花前に穂または植物体を刈り取る。
III. 白葉枯病抵抗性検定,栽培実験・採取目的で移植するGMイネの移植時期は6月下旬から7月上旬に遅らせることにより,周辺栽培イネとの開花期間の間隔を2週間以上見込む。
IV. GMイネの開花期には,イネ固体を袋掛けするか,栽培区全体を不織布で覆う。

(4) 生物多様性影響評価
 本来、被告の本申請書は、農水省等で作成した告示「遺伝子組換え生物等の第一種使用等による生物多様性影響評価実施要領 」(以下、本実施要領という。甲14号証)にのっとって作成されるべきものであり(第一、趣旨)、評価すべき項目として別表第二が掲げられ、そのうち「微生物」の項目中に「その他の性質」という欄があるが、本件ではこの欄に後記するディフェンシン耐性菌が該当する。また、本実施要領は、評価すべき手順として別表第三が掲げられているが、本件では、まず第一に、カラシナディフェンシン耐性菌の出現とその耐性菌のカラシナへの影響のことが考慮されるべきである。
 しかるに、本申請書の生物多様性評価においては,ディフェンシン耐性菌の出現による土壌微生物等への影響を含めた生物多様性への評価に関する記載が全くない。
 また,イネの交雑に関しては,イネ花粉の寿命は最大で10分程度,花粉飛散距離との関係では20メートルを越すと交雑率は0%に至るとの見解が引用されている(甲1号証)。

6 被告の野外栽培実験における交雑の可能性,生物多様性に及ぼす影響
(1) 予防的配慮,被告における安全性の立証責任
@ 上記のとおり,わが国は,リオデジャネイロ国際環境会議の開催期間中に,地球上の多様な生物をその棲息環境とともに保全することを目的とした「生物多様性に関する条約」に批准した上で,その後,同条約の国内担保法たるカルタヘナ法を制定し,また,生物多様性条約を実効あらしめ生物多様性を真に維持していくための国の方策(生物多様性国家戦略)を閣議決定し,その後、上記条約の国内担保法たるカルタヘナ法を制定した。
A 上記環境会議において宣言された環境政策の諸原則(「リオ宣言」)は,既に環境政策の世界ルールとなっているが,同宣言の15は,環境保護における予防的配慮の重要性を明らかにしている。
B そして,わが国の「生物多様性国家戦略」は,上記のとおり,リオ宣言の主意を平易な文章で国民に示しながら,「予防的順応 的態度」の重要性を説いている。そこで述べられている「エコシステムアプローチ」を,ここに再記する。

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C このエコシステムアプローチが,科学者や技術者に謙虚な予防的姿勢や,国民への情報公開・説明責任を求める所以は,生物の多様性と自然の物質循環を基礎とする健全な生態系は,これが侵害されればヒトの生存そのものを脅かすこととなり(被害の甚大性),しかもその回復は困難で(回復の困難性),被害の発生は時を経てから発生するためその原因究明も困難になる(被害の晩発性)という事情があるためである。
それだからこそ,科学技術やバイオテクノロジー開発の重要性を説く科学技術基本計画やBT戦略会議,食料自給率の向上を目指し農業技術の開発の重要性を説く新食料・農業・農村基本計画も,おしなべて,開発者に対し,安全性の重視,開発倫理の確立,国民への情報提供,説明責任を基本理念に掲げているのである。
そして,上記した関係各省告示も,このような諸要請を踏まえたうえで,第一種使用規程の承認基準として,申請者に対し,I.生物多様性に影響がないこと(の証明),II.その点について確たる知見,情報があること,III.きちんとした防護措置が取れることという,厳しい3要件を課しているのである(告示第1号第一1(2)ロ)。
D 以上のような,遺伝子組換え栽培実験の規制に関する国際条約,これを担保する国内法令,法令運用基準等に鑑みるとき,本件栽培実験に関し,原告らが指摘し,危惧する生物多様性に対する影響については,開発者たる被告らが,指摘された事実の不存在を証明する責任を負っているというべきである。
 本件のような,科学技術の開発にともなう公共的利益の侵害を背景とした民事訴訟において,旧来の証明責任理論にしたがい,権利の救済を求める原告らに権利侵害事実の厳格な立証を求めることは,生物多様性の保護に関する国際条約や関係国内法令の趣意に照らし,著しく時代感覚を逸したものとなる。

(2) 本GMイネ実験栽培による近隣栽培イネとの交雑の可能性。
 前記のとおり,被告は,本野外実験における交雑防止措置として,I.近隣栽培イネとの26メートル以上の離隔,II.開花時期の2週間以上の離間,III.開花時期のイネ固体への袋掛けもしくは栽培区全体への不織布掛けを予定し,これにより,周辺イネとの交雑は完全に防止できるとしている。
 しかし,原告らは,以下の事実から,本GMイネによる交雑の懸念を払拭できない。
@ 防止条件I.(26メートル以上の離隔)は,イネ花粉の交雑能力は5分程度という知見を前提にしていることが窺えるが,この知見は,イネの人口受粉という人為的,効率的交雑を検証した際に得られた知見(人口受粉に使用するに適したイネ花粉は開花から5分程度という知見)にすぎない。
 これに対し,生物学的な意味でのイネの受粉能力は50時間に及ぶとの有力な知見が存在するのであって,自然交雑の防止という観点からは,この50時間を基礎に,離隔距離を設けなければならない筈であり,26メートル程度の離隔では,自然交雑を十分に防止できないと考える(甲15号証)。
 そもそも,農水省の「第1種使用規程承認組換え作物栽培実験指針」が,イネの交雑防止に必要な距離20メートルを出す根拠にしたのは5検出例にとどまり,しかも,この5検出例のうち、最大の交雑距離を検出したとされる事例で調査したイネの株数はわずか2株にすぎないのであって,交雑防止に関する情報としては,余りに不十分なものである。
A 次に,防止条件II.(開花時期の2週間程度以上の離間)については,イネの生育は,当該年度の天候や気温といった自然環境や栽培土壌,生育技術等により影響を受けるから,机上の計画どおりの離間を保つことは本来至難なことであるが,平成17年に栽培されたGMイネと近隣イネとの開花期日の離間も1日程度となってしまい,開花期の調整は困難であって交雑防止の有力な手段とはなりえないことが被告自身の手により既に実証されている。
B また,防止条件III.(袋掛け,不織布)も,人為的な措置として十分な実効性が保てるのか,このような措置による実験目的への障害が,措置自体を不十分なものにするのではないかとの懸念を抱かざるをえなかったところ,平成17年に栽培されたGMイネ固体への袋掛けの杜撰さは,原告らの危惧を遥かに上回るもので,いたるところで,袋が破れ,イネが飛び出していることが視認された。
 栽培区全体への不織布についても,栽培期間中におけるGMイネの観察,破損した固体袋の補修等のため,栽培区への出入りが不可欠であり,これによる花粉の飛散の懸念も払拭できていない。
 イネの花粉の大きさは直径0.04o〜0.02oであり,袋の破損がわずか1cm2 (1cm×1cm) であったとしても,直径0.02oの花粉にとっては約30万倍もの大きさになることを考えれば,袋掛け等による交雑防止が完全でないことも明らかである。

 以上のとおり,被告が計画において示している交雑防止策はいずれも不十分なものである。言うまでもなく,イネは自己増殖していく。たとえ1粒のGM種子でも、5年後には約28兆粒のGMイネが発生している可能性がある。仮に,1穂約100粒のイネの1粒(1%)に交雑が発生したとしても,1坪1,200穂で1,200粒。10aで約40万粒,50aでは200万粒、1haでは400万粒が交雑する可能性があり,数年後には莫大な数のGMイネとなって生態系を脅かすこととなる。

(3) ディフェンシン耐性菌出現の可能性
 抗生物質に対する耐性菌の出現が医療を混乱に陥れ,生態系そのものに重大な脅威を与えていることは,既に公知の事実である。抗生物質ペニシリンは,イギリスの研究者フレミングがアオカビの周囲で細菌が死滅しているのを発見したことを端緒に作り出されたものであるが,細菌は数百万年にわたりこの自然の抗生物質に接触してきた。ところが,これが1940年代から医薬として広く使われたことにより,多くの耐性菌を出現させ,1960年代にはペニシリンを無力化させてしまった。抗生物質と耐性遺伝子との協調関係を破壊する抗生物質の濫用が,耐性遺伝子の量を爆発的に増加させる結果となったのであり,病原菌の耐性獲得は,物質との接触の頻度によることが明らかとなっている。
 前述のとおり,ディフェンシンの抗菌作用に関する研究,技術開発は,近年盛んになってきているが,それとともに,耐性菌問題に対する認識も深まってきている。動物型ディフェンシンに対する耐性獲得例は枚挙にいとまがないが,植物型ディフェンシンについては,研究の歴史が浅いこともあって,抗菌性等の作用機作そのものが未解明であり,耐性菌についても動物型ほどの事例報告はないが,酵母菌がダリアのディフェンシンに耐性を獲得した事実や,実験で耐性獲得が認められた例は報告されており,現時点で,植物型ディフェンシンには自然条件で耐性菌が発生しないと考える科学的合理性はない(甲3,4,16から21号証)。

 ところで,原告らが,本GMイネの実験栽培により,ディフェンシン耐性菌が出現し、外部に流出する可能性を危惧するのは以下の事実からである。
@ ディフェンシン遺伝子は,病原菌に感染したときだけ発現(誘導的発現)して,抗菌性ペプチドを生産するのに対し,本GMイネは,使用したプロモーター遺伝子(pLS)により,挿入されたディフェンシン遺伝子は,病原菌の有無にかかわらず不必要に常時発現(構成的発現)される結果,抗生物質の濫用と同様に,耐性菌が発生する虞がある(甲4,16から20号証)。
A 既知の実験例において,水にディフェンシンと微生物と微生物のエサにある物質を混ぜるだけで耐性菌が出現する報告があるところ,本野外実験の圃場は,水田の水や土壌中で微生物が増殖しており,イネの茎から漏出したディフェンシンが水にとけ,水田内でディフェンシン濃度差も発生することから,より耐性菌は出現しやすく,しかもディフェンシン耐性のない微生物の生育は阻害されるから,耐性菌の増殖も促進されると予測される。
 いわば,水田には多種多様な微生物が生存し,また多種多様の病原菌も存在するが,水田そのものが耐性菌を繁殖させる巨大な培養装置となって,様々な病原菌がカラシナ由来のディフェンシンに耐性を獲得し,これが,他の生物種のディフェンシンに対しても耐性を持つことが懸念される(甲4,16から20号証)。
B 被告の圃場には昆虫やネズミが出入りできるスペースがあることから,水田で生育した耐性菌が圃場外に容易に流出する虞がある。
また 被告の本栽培実験の計画書(甲2号証)では,水田の水やドロ,使用した機械の殺菌処理が予定されていなことから,水やドロ,機械に付着した耐性菌がそのまま放置され,これが外部に流失する虞れがある(甲18号証)。
     
 このような原告らの懸念に対し,被告らは,仮処分手続きのなかで,以下のとおり弁明していた。
@ カラシナもディフェンシン遺伝子は常時作動しており,ディフェンシンの発現態様は本GMイネと異ならない。本GMイネについてだけ耐性菌の発生を危惧するのヘ不合理である。
A 細胞同士をつなぐ細い通路(プラスモデスム)の直径は20〜40ナノメーターであり、そこを通過できる物質の大きさは分子量に換算して800以下のサイズであるところ、カラシナディフェンシンの分子量は約5、700あるから,細胞膜を通過できず外部に分泌しない。
B カラシナディフェンシンはプラスに荷電されているが,細胞膜外に分泌されようとする際,マイナス荷電されて細胞を取り囲んでいる細胞壁と結合(トラップ)するから,ディフェンシンは細胞間隔にとどまっている。このトラップを乖離させるには,細胞壁の電荷を中和させる必要がある。
C 植物由来のディフェンシン耐性菌出現の報告論文は,ディフェンシンの病原菌に対する作用機構等を明らかにする実験過程で,他の生物相等の環境の存在しない,およそ自然とかけ離れた特殊な人工的環境のもとによるものであり,自然界で容易に耐性菌が発生する根拠にはならない。

しかし,これらの反論は以下に述べる通り誤っており,少なくとも,上記したエコシステムアプローチにおける予防的順応的態度に照らせば,開発者としての説明義務,耐性菌不出現の立証義務を尽くしていない。
@ まず,カラシナにおいても遺伝子が常時発現しているとの点であるが,甲17号証の河田陳述書および甲19号証の金川陳述書(3)が述べているとおり,ディフェンシン遺伝子は,通常,病原菌に感染したときだけ発現する(誘導的発現)ものであるのに対し,被告の承認申請書11頁の4(2)によれば,本GMイネは,「供試した全ての組換え固体において,茎および葉特異的にDEFに由来するRNAバンドが検出された」と明記されており,これは,本GMイネが病原菌に感染しなくても常時ディフェンシンを発現していることを意味しているものである。
A 次に,カラシナディフェンシンのイネ細胞膜通過の可否の点であるが,同ディフェンシンのサイズは直径約2〜4ナノメーターにとどまるから,容易に細胞膜を通過する。
B さらに細胞壁との結合(トラップ)の点も,水田の水にはCa2+、Mg2+、Na+、 K+など、マイナスの荷電を中和するイオンが十分に存在するので、これらのイオンで細胞壁の荷電が中和され、結合したディフェンシンが容易に解離し、溶出する。
C 最後に,耐性菌出現の実験報告論文については,菌とエサとディフェンシンを混ぜて放置するだけで耐性菌が出現したというものであるから,自然界でもこの三者が混合すれば耐性菌が出現する可能性があり,他の生物相との環境影響が耐性菌発生にとってプラスとなる場合も多いのである。少なくとも,他の生物相との環境影響が,耐性菌の発生を否定する根拠にはならない。

詳細は,専門家の意見書に譲るが(甲4,16から20号証),被告の上記反論は,到底,原告らの提起している懸念を払拭させるようなものではない。

(4) 本野外実験の違法性と原告らの差し止め請求等
@ 以上のとおり,本野外実験は,近隣イネとの交雑の防止,導入されるディフェンシン遺伝子から常時生み出されるディフェンシンと水田に棲息する各種病原菌との接触による耐性菌の出現,増殖,流出・伝播に対する十分な検討を欠いたまま,第一種使用規程の承認を受け,栽培計画を実行したものであって,生物多様性の維持に厳重な注意を払うべきとしているカルタヘナ法(同法4条5項は、「野生動植物の種又は個体群の維持に支障を及ぼすおそれがある影響その他の生物多様性影響が生ずるおそれがないと認めるとき」に限り使用を承認するとして定めている)に実体的にも手続き的にも違反する瑕疵があるばかりでなく,この瑕疵は,現実に,生態系に重大な影響を及ぼす可能性を有している。

A 安全性審査を受けていない本GMイネと周辺栽培イネとの交雑は,原告らはコメ生産者に直接の被害を与えるばかりでなく,安全なコメを選択して食するという一般消費者の権利(人格権)も侵害するものであって違法である。
また,専門家が指摘するとおり,ディフェンシンという抗菌たんぱく質に対する耐性菌の出現・流出は,生態系をかく乱する要因となり,世界的規模で,人間を始めとした動植物の生存に重大な脅威となるのであり,これを防止するには,本野外実験の中止しかない。とくに,抗生物質に対する耐性菌が抗生物質を服用していない者には影響を与えないのに対し,ディフェンシン耐性菌はすべての生物種から病原菌に対する抵抗性を失わせる可能性を秘めているのであって,生態系、人体の健康に及ぼす影響はとうてい抗生物質耐性菌の比ではない(この問題の深刻さが、仮処分手続において、日本及び世界の少なからぬ研究者に、実験中止の要望書を提出させたのである)。
B 以上の危険を防止するには、本件栽培実験の中止しか方法はなく、原告らは被告に対し、平成18年4月から本件圃場において予定しているカラシナ由来のディフェンシン遺伝子を挿入したイネの実験栽培(本件栽培実験)を差し止めるよう請求する。

また、被告の違法な本件栽培実験の強行により、本件圃場の近隣でコメを生産・出荷し生計を立てている原告1ないし3は、新潟産米という高品質ブランドの毀損による販売量・販売額の低下、耐性菌の増加による将来の生産コストの増加等、農業従事者としての生産基盤を一挙に失わせ、回復不能の損害を蒙らせるおそれに直面しており、原告1ないし3が被告による違法な栽培実験の強行により受けた精神的損害は金50万円を下らない。

さらに、原告4ないし15は、コメを主食として生活するものである。健全な食物の生産と消費を基礎とする食の安全、安心は、ヒトが平穏に生存し、自らを発展させ、持続可能な社会を維持するための最も基本的な前提条件というべきものであって、それ自体が安全に、安心して食するという人格権であるのみならず、現代におけるあらゆる生存権、人格権の基礎をなすものであるところ、原告4ないし15は、本GMイネの実験栽培により交雑が起きる危険があることやディフェンシンという抗菌たんぱく質に対する耐性菌の発生の危険があること等から、コメの安全な生産、地球環境の保全、生物多様性の維持等について強い危惧を覚えており、原告4ないし15が被告による違法な栽培実験の強行により受けた精神的損害は金10万円を下らない。
   
C以上より、原告らは、被告に対し、
I.人格権に基づき、本件栽培実験の中止
II.これまでの違法な栽培実験の強行という不法行為に基づく精神的損害の賠償として、原告1ないし3については各金50万円及び原告3ないし15については各金10万円並びにそれぞれ訴状送達の日から支払済みまで民法所定年5分の遅延損害金の支払い
を、求める。
以上


証拠方法


甲第22号証    原告代理人柳原敏夫作成の報告書(本野外実験差止の仮処分事件の一審決定後の経過について)
甲第23号証    本野外実験差止の仮処分事件の特別抗告理由書(但し、別紙の一部省略)

添付書類


   1、委任状         15通
   1、資格証明書        1通

当事者目録


以下、略
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