2005年09月07日

債権者準備書面 (8)

平成17年(ラ)第1355号 遺伝子組換え稲の作付け禁止等仮処分即時抗告事件
債 権 者  山 田   稔 ほか11名
債 務 者  (独) 農業・生物系特定産業技術研究機構

債権者準備書面 (8)

2005年8月25日


 東京高等裁判所 民事第5部 御中

債権者ら訴訟代理人 弁護士 神山 美智子

同       弁護士  柏木 利博

同       弁護士  光前 幸一

同       弁護士  近藤 卓史

同       弁護士  馬場 秀幸

同       弁護士  柳原 敏夫

 本事件における債権者らの即時抗告の理由は以下の通りである。


目 次

第1、はじめに
1、GM技術の本質と政府の基本理念                 3頁
2、原審裁判の特徴――債務者と裁判所の対応――          4頁
3、本準備書面の目的                        7頁
第2、二重の袋がけの措置に対する事実認定と判断の誤り
1、問題の所在――重大な前提問題――               7頁
2、二重の袋がけの措置の安全性について              8頁
第3、ディフェンシン耐性菌に対する事実認定と判断の誤り
1、問題の所在                           10頁
2、原審の判断とその誤り    10頁
3、ディフェンシンの土壌微生物への影響について           14頁 
4、ディフェンシン耐性菌の圃場からの流出・伝播の危険性について 15頁
第4、本野外実験の危険性の判断基準について
1、原審の態度                          17頁
2、原審の問題点                          18頁
3、本野外実験に固有の実情・特質を踏まえた判断基準について  19頁
第5、本野外実験の第1種使用規程の承認手続について
1、原審の判断                           22頁
2、原審の問題点                          22頁
第6、最後に――問題点の一覧表の提出と技術説明会の早期開催――
1、本裁判の新しさと困難さ                     24頁
2、技術説明会の早期開催の必要性                  24頁

第1、はじめに
1、遺伝子組換え技術の本質と政府の基本理念

 20世紀の人類が手に入れた最も威力ある技術が原子力技術だとすれば、21世紀のそれは遺伝子組換え(以下、GMと略称)技術であろう。それは、「あらゆる生物的障害や境界をこえて遺伝子を移転させることは、人間の歴史上前例のない技術上の力業」という意味で、「第二の創世記」とも呼ばれる(疎甲45の3。108頁)。しかも、原子力技術が物理学の最先端の成果だとすれば、GM技術は、物理学のみならず化学、生物学、農学、医学、薬学、コンピュータ科学などの諸学問の最先端の集大成である。つまり、GM技術が人類に及ぼす影響は、原子力技術の比ではなく、我々の日常生活の隅々にまで及ぶ。
そしてまた、原子力技術がその絶大なる恩恵・威力と共に未曾有の脅威・災害をもたらしたのと同様に、GM技術もまた同様の構造にある。「ごくわずかとはいえ環境を爆発させる引き金になる可能性があり、かりに引き金となった場合には、その影響は重大であり取り返しがつかないものになるおそれがある」(疎甲45の3。111頁)。従って、GM技術が我々の日常生活の隅々にまで及ぼす影響の大きさを考えるとき、GM技術がもたらすかもしれない計り知れない脅威・災害に対し、GM技術の実用化を進める政府、試験研究機関ならびに民間企業が最大の関心と細心の注意を払わなければならないのは当然である。バイオテクノロジーの推進を掲げる「バイオテクノロジー戦略大綱」(内閣総理大臣決済文書)においても、消費者の健康、生物多様性の保全、環境への悪影響の防止を最優先課題として掲げているのもそうした理由による(疎甲51)。また、農水省がGM食物の安全性に関し、予防原則を基にするとしているのも同様である(疎甲70参照)。さらに、前記「バイオテクノロジー戦略大綱」は、GM技術の推進にあたって、「国民が適切に判断し、選択できるシステムを作」るために、「国民理解の徹底的浸透」を戦略の柱に掲げ、次の基本方針を明らかにした。
1.情報の開示と提供の充実
 国民に対し、政府は、BT(バイオテクノロジーのこと)に関する情報を積極的に提供していくことが必要である。その情報提供に当たっては、常に国としての理念を持ち、その理念の下、国民に媚びるのではなく、科学的事実を根気よく伝達することを心がけるべきである。
 情報提供は、単に科学的説明のみならず、BT技術の応用によって人々の生活がどのように改善されるかをわかりやすい形で説明することが必要である。‥‥
2.安全・倫理に対する政府の強固な姿勢を国民に提示
‥‥
安全確保対策に政府として万全を期すことに加え、その強固な姿勢を国民に分かりやすく提示することにより、国民の目から見て、BT技術の応用製品についての安全性の信認が得られるよう最大限努めることが肝要である。(疎甲51の2)

2、原審の特徴――債務者と裁判所の対応――
(1)、では、この「安全性最優先と徹底した情報開示」という政府の基本理念に対し、今回、GM作物の野外実験の安全性の有無が真正面から問われた日本初の裁判において、本野外実験を「国家的プロジェクト」と位置付ける債務者は、実際、どのような態度を取ったか。
一言で言って、それは政府の基本理念とは正反対の「開発最優先と徹底した情報非開示」であった。その見事なまでに徹底した態度は、今回の原決定(22〜24頁)でも指摘された裁判外においてのみならず、裁判上においても首尾一貫して貫かれた。債権者は、政府の「安全性最優先と徹底した情報開示」という基本理念にのっとり、6月24日の申立ての当初から、ディフェンシン耐性菌の問題も含め、本野外実験の安全性の有無という真相解明を切に求めたにもかかわらず、債務者が取った態度は、「耐性菌の出現の余地は科学的になく、また実際耐性菌の出現についての報告もない」(答弁書12頁12(1))などといった虚偽の答弁(債権者の指摘の前に、のちに撤回を余儀なくされたが)だけで、後は1ヶ月以上、一切固く口を閉ざした。驚くべきことに、裁判所からの度重なる釈明要求の末、債務者が重い腰を上げて、本野外実験の安全性の一部について、ようやく情報開示を行なったのは、申立てから40日前後も経過した8月1日(交雑防止の具体策について、準備書面(2))と8月8日(ディフェンシン耐性菌について、準備書面(3)と疎乙104〜107)のことであった。これに対して、非研究者である債権者に与えられた反論期限は2日しかなかった(交雑防止について、8月3日。ディフェンシン耐性菌について、8月10日)。しかも、それまで40日以上も余裕のあった研究者集団の債務者は、自らなおも反論の機会を要求し、8月12日に至って、ようやく本格的な情報開示をするに至ったのである(準備書面(4)と疎乙108〜116)。しかし、本GMイネの開花時期というタイムリミットを理由に、最も肝心な、これに対する債権者の反論という機会はついに与えられないまま、裁判所の原決定を迎えることになったものである。これが、本来の情報開示のあり方に照らして、不公正極まりない裁判であったことは言うまでもでない。
(2)、他方、GM作物の野外実験の安全性の有無が真正面から問われた初の裁判を担当することになった原審裁判所の対応はどうだったか。
債権者は、過去の判例もなく、なおかつ少なからぬ専門的知見が要求される本裁判を、これが21世紀の人類と地球環境に最も深刻な影響を及ぼすことになるという問題の重要性を受けとめ、短期間の間に、これと真正面から真摯に取り組もうとした原審裁判所に、正直なところ、敬意を評したい。しかし、惜しむらくは、
一方で、前述した通り、債務者より初めて本格的な情報開示があったのが審尋の最後段階であり、これに対する債権者の反論の機会が与えられないまま、債務者の主張・立証(準備書面(4)と疎乙108〜116)を一方的に採用してしまい(17頁に乙112、113。20頁に乙116など)、
他方で、GM作物の危険性、より一般的に言えばGM事故の基本認識について、これを従来の事故一般と同レベルのもの或いは精々その延長線上のものと捉えてしまい、債権者が申立段階から主張していた、GM技術の恐るべき力業と昨今の鳥インフルエンザの続発からも明らかな通り、これまでの有害化学物質などとは異なる生物災害に特有の「予見不可能性と回復不可能性」を本質とするGM事故固有の特質を見落としてしまった。
 その結果、前者については、間違った事実認定を行なってしまい(17頁。20頁)、後者については、野外実験の危険性の程度について、「耐性菌出現の可能性が飛躍的に増大」(21頁オ)しない限り、或いは「具体的な損害ないし支障が生ずる」(24頁8行目)ことがない限り問題ない、という誤った判断基準を採用してしまった。
この点において、原審裁判所の誤りは致命的であり、このままでは、後世に取り返しのつかない禍根を残すことになる。

3、本準備書面の目的
 本裁判における本野外実験の安全性・問題点は多岐にわたるため(疎甲25の争点一覧表参照)、原決定の判断にも様々な問題点を残したが、本書面においては、このうち、核心的な問題点について原審の「決定的な誤り」に絞って指摘する。
すなわち、債権者は、主として、
@.前述した通り、不本意にも債権者に一度も反論の機会を与えられなかった債務者からの本格的な情報開示(準備書面(4)と疎乙108〜116)に関して、抗告審において、初めてその問題点を指摘した上で正しい事実認定を求め、
A.なおかつ、従来型の事故の延長線ではなく、あくまでも「予見不可能性と回復不可能性」を本質とするGM事故固有の特質を踏まえた、GM作物の野外実験の安全性を真に担保する判断基準の定立を主張する。

第2、二重の袋がけの措置に対する事実認定と判断の誤り
1、問題の所在――重大な前提問題――
交雑の可能性があるかどうかという論点について、その大前提として「イネの花粉の交雑能力の時間がどれくらいか」という点が極めて重要となる。
この点、原決定は、主に乙112及び113を理由に、「長くとも5分程度で消滅」するとし、同じく乙112、及び113等を理由に、債権者の「イネ花粉の生存限界時間が50時間である」という主張を退けた(17頁)。
 しかし、これは「イネの花粉の交雑能力の時間」の事実認定として明らかに誤っている。なぜなら、乙112及び113で問題としている「イネの花粉の寿命」とは、本裁判で問題になっている、生物学的にみてイネの花粉がどれくらいの時間、交雑能力を有するかということではなく、あくまでも、人工受粉という特別な目的に用いる場合に適切なイネの寿命はどれくらいかを問題にしているにすぎないからである。具体的には、花粉の発芽率(調査した花粉のうち発芽した花粉の割合のこと)が100%近い状態が維持されている間は花粉の寿命があるとされ、それが維持できなくなると花粉の寿命はないとされるのである。この点を、今回、植物育種における受粉生物学の研究者である生井兵治氏の陳述書により、詳細に明らかにした(疎甲95。3〜14頁)。
 同時に、前記生井陳述書の14〜17頁により、債権者が主張する「イネ花粉の生存限界時間が50時間」という見解を非科学的なものとして排斥することができないことが明らかである。
すなわち、本野外実験で問題となる「生物学的に、イネの花粉がどれくらいの時間、交雑能力を有するか」という前提問題について、「長くとも5分程度で消滅」すると判断するのは明らかに誤りであり、なおかつ「イネ花粉の生存限界時間が50時間である」という見解を排斥することもまた明らかな誤りである。

2、二重の袋がけの措置の安全性について
(1)、従って、二重の袋がけの措置について、交雑の可能性を検討するにあたっては、大前提の問題である「イネの花粉の交雑能力の時間」について、「50時間」という見解を踏まえなければならない。なぜなら、「未然防止、科学的不確実性への対応、高水準の保全目標、環境の観点の重視、将来への配慮、危険可能性への配慮」(疎甲42の3)をその基本要素とする予防原則に立てば、いやしくも「50時間」という科学的な見解が存在する以上、これを無視できないのは当然だからである。
(2)、その結果、天明陳述書(2)1頁でも指摘した通り、自然交雑の防止のためには「一粒の開花につき、最低でも2日間(48時間)は袋を外さない」ようにしなければならない(疎甲85)。
ところが、これに対し、債務者は、「午後には花粉が交雑能力を完全に喪失した状態となっていることが科学的に明らかである」として、構築部内に入って「午後3時以降にイネの観察を行なう」とする(準備書面(3)2頁3(2))。つまり、午後3時以降、イネの観察のため、構築部内に入り、パラフィン紙をはずすのである(パラフィン紙をはずさなければ、イネの正確な観察ができないことは、天明陳述書(2)3頁で実証済みである。)。
しかし、イネ花粉の寿命は「長くとも5分程度で消滅」という前提が明確な誤りであり、最低でも2日間は袋を外すべきでない以上、債務者のこの野外実験計画では、イネの観察に際して、「一般イネとの自然交雑の可能性はほとんどない」(原決定。19頁)どころか、その可能性は大いにあり得ると言わざるを得ない。
(3)、加えて、二重の袋がけの措置そのものについても、長年、野外実験に携わってきた前記生井兵治氏も指摘する通り、自然界における以下の重大な問題点を看過することはできない。
「二重の袋掛けの防止策にしても、物理的な覆いは、抜かりなく覆ってある積りでも、えてして台風や突風などの物理的または昆虫や鳥やモグラなどの生物的な要因によって交配袋が破けたり外れたり、不織布の覆いに隙間が出来たりすることは、長い間、野外実験の研究生活をしている人たちは私を含めて一度ならず経験していることです。したがって、このように二重の袋掛けの防止策をしたからといって、『一般イネとの自然交雑の可能性はほとんどない』とは断定できません。」(生井陳述書17頁下から3行目以下。疎甲95)。

第3、ディフェンシン耐性菌に対する事実認定と判断の誤り
1、問題の所在

債権者は、申立ての最初から終始一貫、次の危険性を指摘した(申立書18頁。準備書面(2)11頁以下。同(5)4頁以下。同(6)3頁以下。同(7)9頁以下)。
@. 本実験の圃場の田の水中に、ディフェンシン耐性菌が容易に出現する可能性があること。
A. @で出現したディフェンシン耐性菌が圃場の外部に容易に流出・伝播するおそれがあること。

2、原審の判断とその誤り
 このうち@の点につき、原決定は次のように判断した。
ア「債権者らは、‥‥自然界におけるディフェンシン耐性菌の出現を認めた論文として甲82.83を引用」しているが、
イ「疎明(乙105、106、116)によれば、‥‥前記各論文は‥‥、いわば自然界とは全く異なる実験環境下において、ディフェンシン耐性菌の出現を確認したというにすぎず」
ウ「そのことから、本件野外実験のように自然界に近い状況下において実験を継続している過程で、ディフェンシン耐性菌の出現が飛躍的に増加することが確認されているとか、本件野外実験を今後継続することにより、その危険性が高くなる」とはいえない(20頁4〜15行目)。
 しかし、これは、ディフェンシン耐性菌の出現を報告した疎甲82及び83の各論文(以下、本論文という)の誤読、そして、本論文や本野外実験におけるディフェンシン耐性菌の出現の可能性等を解説した金川陳述書(疎甲19、80、91)の誤読に基づく誤った事実認定である。債権者は、近く、この点を詳しく明らかにした研究者の意見書を提出するが、ここでは以下に、その概略を述べる。
(1)、前記アに関して、そもそも、債権者は、原審において、本論文を「自然界におけるディフェンシン耐性菌の出現を認めた論文として」引用したことは一度もない。債権者が論拠とする金川陳述書(2)(疎甲80)は、本論文を紹介するにあたって、正しく、「1.実験室でのディフェンシン耐性菌の作成方法」と明示している(1頁9行目)。精々、これと似て非なるものを挙げるならば、金川陳述書(3)(疎甲91)で、本論文を紹介する際に、突然変異を誘発する薬を使用した場合と使用しなかった場合の両方の実験が行なわれ、後者の実験について、「自然に起きる変異の割合を計算するために(To calculate the rate of spontaneous mutagenesis)、エチルメタンスルフォン酸を加えないで、胞子を同様に処理した」という論文の文章を引用したときだけである(疎甲91。2頁11〜17行目)。
むしろ、本論文を「自然界におけるディフェンシン耐性菌の出現を認めた論文として」決めつけて間違って引用したのは債務者であり(準備書面(4)4頁末行〜5頁4行目)、疎乙116の陳述書の作成者黒田秧氏である(2頁3行目以下)。
(2)、前記イに関して、債務者は、確かに本論文を評して、「いわば自然界とは全く異なる実験環境下において、ディフェンシン耐性菌の出現を確認したというにすぎず」(疎乙105、同116)と主張し、そこから自然界での耐性菌出現の可能性を否定しようとし、そして、原決定もこれを採用した。
 しかし、債務者のこの判断は明らかに間違っている。なぜなら、債務者は、当初、本論文を、疎乙105で「自然界では起こりえないような特殊な突然変異剤あるいは抗生物質抵抗性を利用した」と主張したが、金川陳述書(3)(疎甲91)の指摘によりその誤りに気づき、そのあと、黒田陳述書(疎乙116)において、「突然変異剤を使用していないだけであって」(1頁下から4行目)と訂正してきた。その上で、「他の生物相等の環境影響の存在しない、およそ自然界とはかけ離れた、特殊な、人工的環境の下で実験を行った」と言い直し、「他の生物相等の環境影響の存在」の相違を根拠にして、本論文は「自然界で容易に、ディフェンシン耐性菌が出現するという主張の根拠にはならない」と主張し直してきた(同1頁下から3行目以下。同2頁第2、3と4)。
 確かに、本論文における実験が「他の生物相等の環境影響の存在しない」点はその通りである。ところで、黒田陳述書はここで「他の生物相等の環境影響の存在しない」ことが耐性菌の出現にとって有利に働くという前提に立っている。しかし、この前提が常に成立するとは限らない。なぜなら、「他の生物相等の環境影響の存在する」ことが、他の生物と協調しあって、かえって多様な菌の出現を促し、耐性菌の出現に有利な場合もあり、果して「他の生物相等の環境影響の存在しない」ことが、耐性菌の出現にとって有利に働くか、不利に働くかは一概に言えないからである。それゆえ、「他の生物相等の環境影響の存在しない」ことが耐性菌の出現にとって有利に働くという前提に立つことはできず、結局、この点を根拠にして自然界での耐性菌出現の可能性を否定することはできない(その詳細は近日中に提出予定の意見書参照)。
(3)、そして、本論文が教えることは、「水にディフェンシンと微生物と微生物のエサになる物質とを混ぜて放置するだけで、数百万個に一個の割合で、数日以内に耐性菌が現れること」(金川陳述書(3) 4頁下から3行目。疎甲91)である。そして、原決定が認定する通り、「本件GMイネに組み込まれたカラシナ由来のディフェンシンは、必要に応じて生産される自然界のディフェンシンとは異なり、いもち病等の病原菌の有無にかかわらず、常時ディフェンシン遺伝子が発現してディフェンシンを多量に作り続ける性質を有しており」(20頁下から3行目以下)、そこで、常時大量に作り続けられるディフェンシンが、本実験の圃場の田の水の中で微生物と頻繁に接触することになるから、この点において、本論文における耐性菌の作出方法に合致している。その結果、自然に(spontaneous)起こった変異で、ディフェンシン耐性菌が生じることは容易に可能である(その詳細は、金川陳述書(3)4〜5頁参照)。さらに、屋外では、突然変異を誘発する紫外線が存在するので、変異の頻度が増して、耐性菌出現の可能性が一層大きくなると考えられる(その詳細は近日中に提出予定の意見書参照)。
(4)、前記ウに関して、原決定は、本野外実験について「ディフェンシン耐性菌の出現が飛躍的に増加することが確認されているとか、本件野外実験を今後継続することにより、その危険性が高くなる」とはいえないとして、その危険性を否定する。しかし、これは耐性菌を従来の有害化学物質などと同一レベルで考えるという誤りに陥っている。なぜなら、耐性菌は有害化学物質などとは異なり、短時間のうちに細胞分裂をくり返して爆発的に自己増殖する微生物であり、たとえ1匹でも出現すれば、通常、それが何万匹、何億匹に増えるのに1日とかからない。だから、ここでは、1匹であれ、凡そディフェンシン耐性菌の出現の可能性があるのかどうかということ、そして、その1匹の耐性菌が数万匹、数億匹にふえる可能性があるのかどうかが問題であって、「ディフェンシン耐性菌の出現が飛躍的に増加する」か否かではない。たとえ1匹でもいったん耐性菌が出現すれば、通常、そこから爆発的な増殖が起こるから危険なのである。これが、耐性菌の出現の危険性を考える上で決定的に重要な点である。

3、ディフェンシンの土壌微生物への影響について
(1)、この点につき、原決定は、次のように判断した。
ア「カラシナは、これまで長年にわたって圃場で栽培されてきたものであって、カラシナ由来のディフェンシンが土壌や雨水中に流れ出していたにもかかわらず、これまで強力なディフェンシン耐性菌が出現したとの報告はされていないし、また、田畑に棲む動植物への悪影響も特に認められておらず」
イ「そうすると、カラシナ由来のディフェンシン遺伝子を用いた本件GMイネの栽培によって、特に土壌微生物に対して重大な影響を及ぼす」とはいえない(20頁ウ)。
(2)、しかし、既に、金川陳述書(3)が詳細に論証した通り、本GMイネは「過去にはあり得なかった人工的な遺伝子の組み合わせを行うことにより、常時多量のディフェンシンを生産するように加工したイネ」(6頁7行目以下)であって、「ディフェンシンが必要に応じて生産される」カラシナとは全く状況が異なる。従って、このように、単なる過去の経験から、過去にあり得なかった人工的な本GMイネの危険性を推定することは誤りと言わなければならない(6〜7頁。疎甲91)。
そして、本GMイネの水田における栽培は、上記2(3)で前述した通り、本論文(疎甲82、83)で報告されたディフェンシン耐性菌の作成方法と共通している。この点に着目すれば、本野外実験においても、ディフェンシン耐性菌が容易に出現する可能性があると合理的に推測することができる。そして、この耐性菌が出現した場合には、田畑に棲む動植物のみならず、広く動植物一般、さらにはヒトにも危険なものであり得ると合理的に推測することができる(その詳細は金川陳述書(3)3頁(2)に解説済み。疎甲91)。
 ところが、原審は、債務者提出の高木陳述書(疎乙106)の次のくだり、
「カラシナのディフェンシンは既に、歴史的に栽培されてきているカラシナが産生していることから、耐性菌が出現する可能性がある場合にはすでに出現しているはずであるし、可能性がない場合にはないことになる。すなわち、本組換えイネがある以前に、そのような可能性は歴史上既にあったはずであり、本組換えイネを栽培することによって耐性菌出現の可能性が特段に増大するとは考えられない」(高木陳述書4頁第3段落)。
をそのまま鵜呑みにして、間違った判断に陥った。しかし、このくだりが、本GMイネが過去の地球上には存在しなかった人工的な植物であるというGM植物の特性を全く無視した誤ったものであることは、既に金川陳述書(3)で詳細に反論済みである(5頁下から2行目以下。疎甲91)。

4、ディフェンシン耐性菌の圃場からの流出・伝播の危険性について
この点につき、原決定は、次のように判断した。
「本件圃場内にディフェンシン耐性菌が出現する可能性があるとしても、本件野外実験は、一般圃場ではなく、債務者の北陸研究センター稲田圃場内のうち、一応他から区別された隔離圃場で行われているものであり、したがって、本件野外実験の過程で、耐性菌が飛躍的に増加した上、同耐性菌が本件圃場の外に自然に流れ出し、一般の水路等を通って債権者山田らの農地内に流入し、そこに生育しているイネ等に具体的な損害を与えるおそれがある」とはいえない(21頁エ)。
しかし、ここでもまた、原審は、2で前述した通り、耐性菌を従来の有害化学物質などと同一レベルで考えるという誤りに陥ってしまった。耐性菌はたった1匹出現しただけでも短時間で爆発的に増殖するものであり、従って、ディフェンシン耐性菌の圃場からの流出・伝播についても、ここで問題とすべきなのは、1匹であれ、凡そディフェンシン耐性菌が流出・伝播する可能性があるのかどうかということ、そして、その1匹の耐性菌が数万匹、数億匹に増える可能性があるのかどうかということである。たとえ1匹でもいったん耐性菌が流出・伝播すれば、通常、そこから爆発的な増殖が起こるから危険なのである。これがまた、耐性菌の流出・伝播の危険性を考える上で決定的に重要な点である。
この点、債権者は既に指摘した通り、自然の大雨、洪水、台風などによって耐性菌が容易に本件圃場から流出・伝播する(準備書面(6)4頁)のみならず、日常的にも、本件圃場内にトンボが飛び、昆虫・小動物の出入り可能な隙間があり、これにより、耐性菌が容易に本件圃場から流出・伝播する危険性があることが明らかである(本件圃場を視察した報告書。疎甲84)。さらには、本件圃場内の水路は、田んぼに一定量の水がたまるとその水を外部に流す仕組みとなっており、この点からも雨によって、耐性菌が容易に本件圃場から流出することが明らかである。
以上から、ディフェンシン耐性菌が圃場から外部に流出・伝播する危険性は容易にあり、そして、いったんこれが流出・伝播した場合には、再び安全な状態に回復することがいかに困難であるかは、昨今、「ウイルスが見つかった鶏舎以外も、その養鶏場の鶏はすべて殺処分にしてきた」(疎甲97)ほど厳格極まりない予防措置を取ってきても、なお鳥インフルエンザの続発が防げない事実ひとつ取っても、明らかである。

第4、本野外実験の危険性の判断基準について
1、原審の態度

 この点、原審は、正面からこれについて論じ、結論を出していないが、原決定の中で、次のように個別に明らかにしている。
ア「一応、現在周辺農家において生育中の一般イネとの自然交雑の可能性はほとんどないものと考えられ、」(19頁4行目以下)
イ「一般の水路等を通って債権者山田らの農地内に流入し、そこに生育しているイネ等に具体的な損害を与えるおそれがあるとする点についても、これを裏付ける疎明は特にない。」(21頁エ)
ウ「以上によれば、本件GMイネを栽培することにより、直ちに耐性菌出現の可能性が飛躍的に増大し、その結果、債権者山田ら周辺農家の農業に重大な影響を与えるとの点に関しては、疎明不十分といわざるを得ない。」(21頁オ)
エ「仮にも、上記の情報公開等が円滑に行われず、いたずらに生産者や消費者の不安感等を助長するような事態を招き、その結果、農業等を行う上で具体的な損害ないし支障が生ずるような状況に立ち至ったときには、本件野外実験の差止めを求められてもやむを得ないものというべきである。」(24頁)
つまり、原審は、本野外実験の危険性の判断基準として、次のようなものを想定している。
@. 交雑防止については、一般イネとの自然交雑の可能性は、万全でなくとも、「ほとんどなければよい」。
A. ディフェンシン耐性菌の危険性について、債権者らが「生育しているイネ等に具体的な損害を与えるおそれがある」、「債権者山田ら周辺農家の農業に重大な影響を与える」
B. 本野外実験全般の危険性について、「農業等を行う上で具体的な損害ないし支障が生ずるような状況に立ち至ったとき」

2、原審の問題点
 しかし、最大の問題は、原審が、本野外実験の危険性を、本来「予見不可能性と回復不可能性」を本質とするGM事故特有の問題として正面から受け止めようとせず、単に、伝統的な公害、有害化学物質の事故の延長線上でしか考えていないことである。そのことは最後のBに端的に現れている。伝統的な事故ならばともかく、ことGM事故では、「農業等を行う上で具体的な損害ないし支障が生ずるような状況に立ち至ったとき」ではもう完全に手遅れだからである。その意味で、原審は、これまでの伝統的な事故の下では登場しなかった「予防原則」という聞き慣れない原則が、なぜGM作物の安全性を考える上で基本原理として採用されるに至ったのか、その意味するところを正確に理解していないと思わざるを得ない。しかし、その無理解がもたらす後世への影響は計り知れないものがある。
むろん債権者とて、たった1件の本事件を通じて、GM作物の野外実験一般の危険性に通用する判断基準を定立できるとは思っていない。しかし、少なくとも、本野外実験の実情・特質に即して、その危険性を適正に評価できる判断基準を明らかにする必要性を痛感している。

3、本野外実験に固有の実情・特質を踏まえた判断基準について
 そのように考えたとき、本野外実験に固有の実情・特質として次の諸点を考慮せざるを得ない。
(1)、第1に、室内実験において、次の本GMイネの安全性・問題点を十分に詰め、解決していないまま、野外実験に移行したということ。
@.ディフェンシンが人体へ害作用がないかなどの作用機構が未解明であること(準備書面(2)9〜10頁)
A.ディフェンシンが(単に、胚乳部分だけではなく)およそコメの食用部分には絶対に移行しないかどうか未解明であること(同10〜11頁)
B.ディフェンシン耐性菌が容易に出現する可能性があり、これに対する対策が未解明であること(同11〜13頁)
つまり、仮に、室内実験でGMイネの安全性・問題点を十分に解決済みであれば、野外実験において、自然交雑の可能性について、万全でなく、「殆どない」というゆるやかな基準も可能かもしれない。なぜなら、一応、そのGMイネの安全性が確認されているからである。しかし、本件に限っていれば、債権者がくり返し指摘した通り、本GMイネの様々な安全性・問題点を室内実験で十分に詰め、解決しておらず(債務者は、口では「これまで閉鎖系の室内における各種の実験を通じて、安全性を含めた多種多様な実験・研究がなされた」と言うが、本裁判では、債権者の度重なる要請にもかかわらず、これを裏付ける具体的な証拠は1つも開示しなかった)、にもかかわらず、野外実験を強行しようとした。本来であれば、「未然防止、科学的不確実性への対応、高水準の保全目標、環境の観点の重視、将来への配慮、危険可能性への配慮」(疎甲42の3)をその基本要素とする予防原則に立てば、それだけでも野外実験中止となっておかしくないところ、万が一それが許容されるとしても、その場合の自然交雑の可能性については、「絶対にない」という厳しい基準でなければならない。なぜなら、もともと室内実験で解決済みでなければならないGMイネの安全性の問題を未解明のまま、野外に出ていくのだからである。
ところが、原審は、本野外実験がGMイネの安全性の問題を未解明のままであることを認識しながら(16頁イ(ア))、これが本野外実験の危険性を判断する上で極めて重要な意味を持つことを看過した。
(2)、第2に、本野外実験がGMイネの安全性の問題を未解明のまま野外実験に出ていくものである以上、そこで交雑防止策として採用された重畳的な安全対策の性格は、GMイネの安全性・問題点を室内実験で十分に解決済みの上で野外実験に出る場合とは自ずと異なること。
 つまり、GMイネの安全性・問題点を室内実験で十分に解決済みのケースならば、交雑防止策としての重畳的な安全対策は、そのひとつが実効性を失ったとしても、他の対策が依然有効ならば、その野外実験は許容されるかもしれない。なぜなら、この場合には、前述した通り、自然交雑の可能性について、「殆どない」というゆるやかな基準でよいからである。しかし、本件はそのような場合ではなく、GMイネの安全性の問題が未解明なものである以上、交雑防止策としての重畳的な安全対策は、そのひとつでも実効性を失った場合には、安全性を損なうとして実験中止するほかない。なぜなら、「高水準の保全目標」を内容とする予防原則によれば、もともとGMイネの安全性が確保されていない本野外実験においては、重畳的な安全対策を重ねて初めて「絶対にない」という基準を満たすといえるからである。
 ところが、債務者は、時間的な交雑防止策として、当初「周辺の水稲とは、出穂期で2週間以上の時間的間隔がある」(原決定15頁)と主張していたところ、実際には、債務者も自認し、原決定も次のように認定する通り、わずか1日しか時間的間隔がないことが判明した。
「本件圃場に近隣する一般イネの予想開花時期は8月7目から同月20日ころであり、本件GMイネの予想開花時期が8月21目から9月3日ころである」(8頁下から6行目)
すなわち、債務者が採用した3つの交雑防止策のひとつである時間的な交雑防止策は、原決定が「本件GMイネと周辺農家のイネとの開花時期に関する債務者の前記主張によれば、天候やイネの個体の性質如何によっては、開花時期が重なるおそれがある」(17頁)と認定した通り、その実効性を失った。
 したがって、GMイネの安全性が確保されていない本野外実験において、重畳的な安全対策のひとつが実効性を失った以上、実験は中止するほかない。
 ところが、原審は、債務者の時間的な交雑防止策が実効性を失ったことを認定しておきながら、前記(1)の問題(19頁)を正しく理解しなかったため、結局、そこから正しい結論を導き出すことができなかった。

第5、本野外実験の第1種使用規程の承認手続について
1、原審の判断

 原決定は、本野外実験とカルタヘナ法に基づき制定された第1種使用(GM作物の野外実験)規程の承認手続との関係について、次のように判断する。
ア、交雑の可能性について
「これまで閉鎖系の室内における各種の実験を通じて、安全性を含めた多種多様な実験・研究がなされ、それらの実験結果を踏まえて、農林水産大臣及び環境大臣から第1種使用規程の承認を受けた組換え作物であること、」(18頁下から2行目以下)
イ、まとめ
「本件野外実験自体は、法で定められた所定の手続を経て、学識経験者の意見を聴取した上、パブリックコメントの手続を経た後、農林水産大臣や環境大臣の承認を得て実施されているものであって、手続的には何ら違法の点は認められない」(21頁)

2、原審の問題点
しかし、以下に述べる通り、本野外実験の第1種使用規程の承認手続に関しては、手続的に重大な違法があるのみならず、本野外実験が遵守したとされるわが国のカルタヘナ法及びそれに基づく告示自体も、イネなどの栽培植物の安全性確保の点からみたとき、全く不十分と言わざるを得ない。
第1に、第1種使用規程の承認に際して、審査の重要な対象として、生物多様性影響評価の問題があるが、その実施要領(告示。疎甲79)に従えば、本野外実験が殺菌作用を持つディフェンシンの産出に関する実験である以上、当然のことながら、債務者は、ディフェンシン耐性菌の出現とその影響という問題について、申請書に記載し、これについて十分な審査を受けなければならない筈である。にもかかわらず、債務者は、この重大な問題について、申請書に一切記載せず、その結果、審査を担当する学識経験者もこの重大な問題に対する審査を失念したまま、本野外実験を承認してしまった。もし申請段階で、この問題が申請書に記載されていれば、本野外実験の承認がおりなかった可能性が高く、この意味において、今回の第1種使用規程の承認手続に関して、手続的に重大な違法があると言わなければならない(その詳細は金川陳述書(2)4〜5頁。疎甲80)。
第2に、それ以外にも、第1種使用規程の承認に当たって考慮すべき事項として告示に定められている食品安全性の審査の点(告示第1号第一、1、(2)、二。疎甲35)においても、さらにはイネ花粉による花粉症防止の点(同上告示)においても、債務者は、全くこれを遵守していない(準備書面(2)18頁。22〜24頁)。
第3に、より基本的な問題として、わが国のカルタヘナ法が保全する「生物」とは、その元になった「生物多様性条約」やEUのカルタヘナ法と異なり、基本的に野生生物だけであって、本件のイネなどの栽培植物や飼育動物は除外している(疎甲67)。従って、本GMイネの野外実験の安全性について、野生生物保護を目的としたカルタヘナ法及びこれに基づき制定された告示がそれを十分に担保しているとは到底言えず、よって、これらの法令を遵守したからといって、本GMイネの野外実験の安全性が認められた訳では全くない(準備書面(2)30頁ハ)。

第6、最後に――問題点の一覧表の提出と技術説明会の早期開催――
1、本裁判の新しさと困難さ

 本裁判は、次の諸点で、一般民事事件にはない新しさと困難さを有している。
@. 事実関係において、GMに関する専門的知見の理解を求められること。
A. 法的判断においても、伝統的な事故概念がそのまま通用せず、GM事故固有の特質を踏まえた新たな判断基準が求められること。
B. 紛争類型としても、環境裁判と知財裁判の合体といった新たな複合類型であること
 しかし、他方で、本裁判の判断を誤ったとき、それが後世にもたらす影響は計り知れない。
そこで、限られた時間内で、こうした新しさと困難さに対応するため、債権者は、本書面において、原決定のうち核心となる「決定的な誤り」に絞ってこれを指摘した。むろん、これ以外にも看過できない問題点(例えば、(6)まとめの「債務者が現在計画し、その実施を進めている本件GMイネ開発計画の趣旨・目的、その有用性や必要性については一応肯認することができ」(21頁)るという事実認定は明らかに間違っている)があり、近日中に、それらの問題点を一覧にした書面を提出する。
2、技術説明会の早期開催の必要性
 他方で、本裁判は専門的知見の早期理解が不可欠であり、この点で、知財裁判で日常的に実施されている技術説明会を、本裁判でも本GM技術に関して開催することが有益である(「工業所有権関係民事事件の処理に関する諸問題」(平成7年)197頁以下参照)。債権者側は、本裁判で陳述書を作成された微生物の研究者である金川貴博氏(疎甲19、80、91)と受粉生物学の研究者である生井兵治氏(疎甲95)が補佐人として出廷する予定であるので、本GM技術に関する技術説明会の早期開催を強く要望する次第である(なお、参考人の証拠調べを定めた民訴187条または釈明処分の発動として参考人からの意見聴取を定めた民事保全法9条を参照されたい)。
以 上 
posted by GMNG at 23:37| Comment(2) | TrackBack(0) | 裁 判 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
書き込むadult amatuer women jbj http://amatuer.bluesauce.com/adult-amatuer-women.html adult amatuer women
springbreak amatuer sex jbj http://amatuer.bluesauce.com/springbreak-amatuer-sex.html springbreak amatuer sex
phone sex amatuer jbj http://amatuer.bluesauce.com/phone-sex-amatuer.html phone sex amatuer
free teen amatuer porn jbj http://amatuer.bluesauce.com/free-teen-amatuer-porn.html free teen amatuer porn
swinging amatuer porn jbj http://amatuer.bluesauce.com/swinging-amatuer-porn.html swinging amatuer porn
free amatuer video sex jbj http://amatuer.bluesauce.com/free-amatuer-video-sex.html free amatuer video sex
amatuer hot anal sex jbj http://amatuer.bluesauce.com/amatuer-hot-anal-sex.html amatuer hot anal sex
amatuer lesbo porn jbj http://amatuer.bluesauce.com/amatuer-lesbo-porn.html amatuer lesbo porn
amatuer ass sex jbj http://amatuer.bluesauce.com/amatuer-ass-sex.html amatuer ass sex
search amatuer wife gallery sex jbj http://amatuer.bluesauce.com/search-amatuer-wife-gallery-sex.html search amatuer wife gallery sex
amatuer latina porn jbj http://amatuer.bluesauce.com/amatuer-latina-porn.html amatuer latina porn
women amatuer nude photo jbj http://amatuer.bluesauce.com/women-amatuer-nude-photo.html women amatuer nude photo
hot amatuer porn jbj http://amatuer.bluesauce.com/hot-amatuer-porn.html hot amatuer porn
free swinging amatuer porn samples jbj http://amatuer.bluesauce.com/free-swinging-amatuer-porn-samples.html free swinging amatuer porn samples
amatuer videos sex jbj http://amatuer.bluesauce.com/amatuer-videos-sex.html amatuer videos sex
amatuer sex family jbj http://amatuer.bluesauce.com/amatuer-sex-family.html amatuer sex family
mobile phone amatuer sex pic jbj http://amatuer.bluesauce.com/mobile-phone-amatuer-sex-pic.html mobile phone amatuer sex pic
redhead amatuer porn free jbj http://amatuer.bluesauce.com/redhead-amatuer-porn-free.html redhead amatuer porn free
canada women amatuer jbj http://amatuer.bluesauce.com/canada-women-amatuer.html canada women amatuer
amatuer high school sex jbj http://amatuer.bluesauce.com/amatuer-high-school-sex.html amatuer high school sex
amatuer wife and husband sex tapes jbj http://amatuer.bluesauce.com/amatuer-wife-and-husband-sex-tapes.html amatuer wife and husband sex tapes
amatuer video uk sex jbj http://amatuer.bluesauce.com/amatuer-video-uk-sex.html amatuer video uk sex
amatuer sex chat rooms jbj http://amatuer.bluesauce.com/amatuer-sex-chat-rooms.html amatuer sex chat rooms
usa amatuer porn jbj http://amatuer.bluesauce.com/usa-amatuer-porn.html usa amatuer porn
couples amatuer sex pictures jbj http://amatuer.bluesauce.com/couples-amatuer-sex-pictures.html couples amatuer sex pictures
free amatuer sex gallery jbj http://amatuer.bluesauce.com/free-amatuer-sex-gallery.html free amatuer sex gallery
amatuer home made porn video jbj http://amatuer.bluesauce.com/amatuer-home-made-porn-video.html amatuer home made porn video
amatuer sex couple jbj http://amatuer.bluesauce.com/amatuer-sex-couple.html amatuer sex couple
nude pics of amatuer girls jbj http://amatuer.bluesauce.com/nude-pics-of-amatuer-girls.html nude pics of amatuer girls
hot amatuer black girls jbj http://amatuer.bluesauce.com/hot-amatuer-black-girls.html hot amatuer black girls
Posted by adult amatuer women at 2006年10月03日 09:30
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。