2005年10月08日

債権者準備書面 (11)

平成17年(ラ)第1355号 遺伝子組換え稲の作付け禁止等仮処分即時抗告事件
債 権 者  山 田   稔 ほか11名
債 務 者  (独) 農業・生物系特定産業技術研究機構

債権者準備書面 (11)

2005年9月20日


 東京高等裁判所 民事第5部 御中

債権者ら訴訟代理人 弁護士  神山 美智子

同       弁護士  柏木 利博

同       弁護士  光前 幸一

同       弁護士  近藤 卓史

同       弁護士  馬場 秀幸

同       弁護士  柳原 敏夫



本書面は、債権者のこれまでの主張・立証をその骨格に絞って整理したものである。

目  次

第1、債権者の抗告審における事実主張・立証の整理            
1、主要な証拠について                        2頁
2、(a)の争点(二重の袋がけの措置の安全性)と主張・立証について    3頁
3、(b)の争点(ディフェンシン耐性菌の出現の可能性)と主張・立証について   7頁
4、(c)の争点(第1種使用規程の承認手続違反)と主張・立証について  11頁
第2、債権者の抗告審における法的主張の整理
1、債権者の法的主張の射程距離                   14頁
2、予防原則のエッセンスと実際の適用                15頁
3、予防原則の具体的内容――とりわけ立証責任の転換―― 17頁
4、小括                              18頁

第1、債権者の抗告審における事実主張・立証の整理
1、主要な証拠について
 債権者が原決定を覆すに足りると考える証拠は、ほぼ次の3つに尽きる。
@. 植物育種における受粉生物学の体系化に長年研究してきた前筑波大学教授の生井兵治氏の陳述書(疎甲95)
A. 微生物生態を研究する東大教授の木暮一啓氏の意見書(疎甲99)
B. 地元上越市で有機農業に従事する天明伸浩氏の本件圃場を視察した報告書(疎甲102)
なぜなら、抗告審における主要な争点は次の3つであるが、
(a)、二重の袋がけの措置の安全性について(原決定17頁以下)
(b)、ディフェンシン耐性菌の出現の可能性について(同19頁以下)
(c)、第1種使用規程の承認手続違反について(同18頁。準備書面(8)22頁)
 このうち、
(a)の争点については、
理論面から疎甲95の生井陳述書(乙113の横尾陳述書の誤りを明らかにしたもの)、実際面から同102の天明報告書が、
(b)の争点については、
理論面から疎甲99の木暮意見書(乙106の高木報告書と乙116の黒田陳述書の誤りを明らかにしたもの)、実際面から同102の天明報告書が、
債権者の主張を余すところなく立証したものだからである。

2、(a)の争点(二重の袋がけの措置の安全性)と主張・立証について(1)、議論の整理
 問題点を理論面と実際面に分けて, 以下検討する。
(2)、理論面における問題の所在
(a) の争点の決め手となる大前提の争点として、
「イネの花粉の交雑能力の時間がどれくらいか」
という論点があり、これをめぐって、原審では、
(。)、「長くとも5分程度で消滅」という見解(以下、「5分」説という)
(「)、「50時間である」という見解(以下、「50時間」説という)
が対立し、原決定は、(不当にも債権者に反論の機会を与えられないまま)主に乙112を根拠に、(。)の「5分」説を採用した(17頁)。
そこで、問題は、原決定のこの事実認定が正しいか否かにある。

(3)、理論面に関する債権者の主張・立証
この点、債権者は、「原決定のこの事実認定は明らかに間違っている」と主張する。
その理由は、疎甲95の生井陳述書3頁以下に詳細に明らかにされている通りであり、要約すれば以下の通りである。
ア、本裁判で問題になっている「交雑能力の時間」とは、言うまでもなく、生物学的にみてイネの花粉がどれくらいの時間、交雑能力を有するかということであるが、これに対し、乙112の横尾陳述書が問題にしている「イネの花粉の寿命」とは、「人工受粉」というあくまでも特定の目的に用いる場合に適切なイネの寿命はどれくらいまでかということであり(したがって、それは当然、生物学的にみたイネの交雑能力の時間より短くなる)、両者は明らかに違う問題である。にもかかわらず、乙112の横尾陳述書は、驚くべきことに、両者を同じ問題であるかにように主張し、債権者の反論を聞く機会を持たなかった原審裁判所は、これを鵜呑みにしてしまった。この顛末が、これまで「裁判に関わることをしてこなかった」一介の研究者にすぎない生井氏をして、「横尾政雄氏の陳述書(乙第113号証)を読み、さすがの私も植物の生殖の専門家としての立場から、どうしても黙っているわけにいかなくなった」(1頁前文)と言わしめ、周到な陳述書を書かしめたのである。
イ、同時に、生井陳述書は、債権者が主張する「50時間」説を非科学的なものとして排斥することができないことも詳細に明らかにした(14〜17頁)。
ウ、以上の理由から、「イネの花粉の交雑能力の時間がどれくらいか」という論点について、「50時間」説を前提にして、具体的な交雑防止策を検討しなければならないという結論が導かれる。

(4)、実際面における問題の所在
 次に、上の結論を前提にして、債務者が実際に行なった交雑防止策が、交雑防止として原審裁判所が求めたような完璧なものといえるかどうか――これが実際面における問題である。

(5)、実際面に関する債権者の主張・立証
この点、債権者は、「債務者の実際に行なった交雑防止策は原審裁判所が求めたようなものとは全く異なり、交雑防止として不十分極まりなく、これでは交雑の可能性は大いにあると言わざるを得ない」と主張する。
その理由は、実際に、本件圃場を視察した疎甲102の天明報告書1〜5頁に詳細に明らかにされている通りであり、要約すれば以下の通りである。
ア、原審裁判所が、それまでの債務者主張の交雑防止策では不十分であるとして、審理の中で、完璧な防止策の実施を釈明したところ、債務者が
@ 個々のイネとイネの栽培地域全体とを二重に覆う物理的に完璧な防止策を採用。
A さらに、@の期間中、イネの開花特性や交雑能力の限界等を踏まえて観察を実施。
B 本GMイネの刈り取り後、二番穂が生じた場合には再度刈り取ること。
を確約したのでこれを信用し(原決定17頁下から4行目以下)、「一般イネとの自然交雑の可能性はほとんどない」と判断した(同19頁5行目)。
イ、しかし、債務者の実際の防止策は、
@:イネに被せたパラフィン袋が、至るところで、傷がつき、穴が開き、袋からイネの葉が飛び出しており(別紙1の写真の赤丸で囲んだ部分)、こうした穴は、たとえ1cm2 ほどの小さなものであっても、直径0.04o〜0.02oのイネの花粉にしてみれば、約8〜30万倍の巨大な穴であり(4頁2行目以下)、そこから容易に花粉が外に飛び出していく。
A:債務者は、理論面における前提問題である「イネの花粉の交雑能力の時間」について「長くとも5分程度で消滅」という立場に立ち、これを前提に、「午後には花粉が交雑能力を完全に喪失した状態となっていることが科学的に明らかであ」り、「午後3時以降にイネの観察を行なう」(準備書面(3)2頁3(2))としたが、午後3時以降に袋を外すのでは、交雑能力を持つ花粉が外に飛び出す可能性が極めて大と言わざるを得ない。なぜなら、上記「5分」説は前述の通り間違った見解であり、本来なら、「50時間」説を踏まえて、1つの開花につき「最低でも2日間(48時間)は袋を外さない」ことが求められ、なおかつ1つの穂の花は次々に開花して約7日間で全てが咲き終わるため、各穂につきその開花期間中は袋を外さないことが求められるからである(天明陳述書(2)1頁。疎甲85。生井陳述書17〜18頁【それ以外の理由についても同頁参照】。疎甲95)。
B:本野外実験のひとつとして、既に8月1日に刈り取った本GMイネについて(疎甲122参照)、その後、二番穂が生じ、花が咲いたが、にもかかわらず、債務者は、確約に反し「再度刈り取ること」をしないで放置しており(別紙3の写真の赤丸で囲んだ部分)、その結果、袋も何の防止策もしていない二番穂から花粉が飛散し、自然交雑するのは火を見るより明らかである。
 もっとも、債務者は、「この二番穂は本GMイネではない」と反論するであろうが、もし本GMイネの栽培用の本件圃場に発生した二番穂が、本GMイネでないというのなら、どうしてそう言えるのか証明する責任が債務者にはあるが、天明氏らの質問にもかかわらず、これに対する証明は未だ一切ない。

(6)、小括
 以上の検討から、「債務者が実際に行なった交雑防止策が、交雑防止として原審裁判所が求めたような完璧なものといえるかどうか」という論点について、「原審裁判所への確約に反し、実際の交雑防止策は杜撰極まりないもので、これでは交雑の可能性は大いにあると言わざるを得ない」という結論が導かれる。

3、(b)の争点(ディフェンシン耐性菌の出現の可能性)と主張・立証について
(1)、議論の整理
問題点を理論面と実際面に分けて, 以下検討する。

(2)、理論面における問題の所在
 第一に核心的な問題は次のことである――「ディフェンシン耐性菌の出現を報告したとする2つの論文(甲82,83)から、本野外実験においてディフェンシン耐性菌が出現する可能性は高いと推測することが合理的かどうか」(木暮意見書の第4と第5.4頁2行目以下。疎甲99)。
なぜなら、この点について、債権者は肯定したのに対し、原決定は債務者提出の証拠(乙105、106、116)を根拠にこれを否定し、ここからディフェンシン耐性菌の出現の可能性について疎明がないとしたからである(20頁イ・21頁オ)。
 第二の問題は、「ディフェンシン耐性菌の出現の危険性というのは、『出現するディフェンシン耐性菌の数が飛躍的に増加すること』を意味するのか、それとも『ディフェンシン耐性菌が出現すること』そのものなのか」

(3)、第一の問題に関する債権者の主張・立証
この点、債権者は、「これを否定した原決定の事実認定は明らかに間違っている」と主張する。
その理由は、疎甲99の木暮意見書8頁3に詳細に明らかにされている通りであり、そのエッセンスを以下に要約する。
ア、そもそも、原決定も認める通り、本GMイネの際立った点として、
「本件GMイネに組み込まれたカラシナ由来のディフェンシンは,必要に応じて生産される自然界のディフェンシンとは異なり,いもち病等の病原菌の有無にかかわらず,常時ディフェンシン遺伝子が発現してディフェンシンを多量に作り続ける性質を有して」(20頁下から3行目以下)いるという過去前例のない特徴が認められる。
イ、なおかつ、本件圃場の水田には、菌のエサになる物質が存在し、多種多様の菌が大量に生育しており、その結果、本野外実験において、常時大量に産出されるディフェンシンが多種多様の菌とが接触する機会が、過去の状況に比べ飛躍的に増加する。
ウ、他方で、疎甲82と83の報告は、実験室において菌とエサとディフェンシンを混ぜて放置するだけで自然に(spontaneous)起こった変異で耐性菌が出たというものであり、ここから、自然界においても、この三者が混じり合えば、自然に(spontaneous)起こった変異で、耐性菌が出るだろうと予想できる。
エ、以上から、本野外実験において、多種多様の菌が大量に生育している本件圃場で、それらの菌が常時大量に産出されるディフェンシンと頻繁に接触する以上、そこに耐性菌が出現する可能性は、過去に比べ、飛躍的に増えると考えるのが合理的である。さらに、野外では突然変異を誘発する紫外線が存在するので、実験室よりも変異の頻度が増すと考えられる。
オ、こうした推理は、昨今、深刻な社会問題となっている抗生物質の多用・乱用が耐性菌の出現を促したという事実からも容易に理解できる(疎甲111〜113)。
 
これに対し、債務者は、「疎甲82と83で報告された実験は、耐性菌の生育を可能にさせるため、他の生物相等の環境影響の存在しない、およそ自然界とはかけ離れた、特殊な、人工的環境の下で実験を行ったもので、この実験から、自然界で容易に、ディフェンシン耐性菌が出現するという主張の根拠にはならない」旨反論し(黒田陳述書2頁第2。疎乙116)、原決定もまたこの反論を採用した(19〜20頁のア・イ)。
しかし、この反論が全く的外れであることは、木暮意見書の第4(4〜7頁)で、完膚なきまでに再反論した通りである。

(4)、第二の問題に関する債権者の主張・立証
この点、債権者は、「ディフェンシン耐性菌の出現の危険性とは、『出現するディフェンシン耐性菌の数が飛躍的に増加すること』ではなく、『ディフェンシン耐性菌が出現すること』そのものである」と主張する。
その理由は、微生物の研究者なら誰もが指摘する通り、それゆえ、疎甲99の木暮意見書8頁の第6、第8もくり返し指摘する通り、耐性菌は有害化学物質などと異なり、短時間のうちに細胞分裂をくり返して爆発的に自己増殖する微生物であり、たとえ1匹でも出現すれば、通常、それが何万匹、何億匹に増えるのに1日とかからないものだからである。

(5)、実際面における問題の所在
 次に、債務者が実際に行なっている本野外実験が、ディフェンシン耐性菌の出現・流出を防止する上で完璧なものといえるかどうか――これが実際面における問題である。

(6)、実際面に関する債権者の主張・立証
この点、債権者は、「債務者は何の対策も講じておらず、その結果、出現するディフェンシン耐性菌の流出の可能性は確実にある」と主張する。
その理由は、そもそもディフェンシン耐性菌の出現について、「耐性菌の出現の余地は科学的になく」(答弁書12頁12(1))を首尾一貫して主張してきた債務者は、近時も、
「2.ディフェンシン耐性菌の発生については、今回の実験の目的ではなく、調査する予定はない」(債権者らの質問に対する9月7日付回答。疎甲105・106)
と、耐性菌の出現及び流出に対する防止策を何ひとつ講じていないことを明らかにしており、その結果、「職員から、実験圃場内の水は、外部にそのまま流していると説明を聞いた」(疎甲102の天明報告書3頁。別紙4の写真の赤丸で囲んだ部分参照)の通り、出現するディフェンシン耐性菌は間違いなく外部に流出することになるからである。

(7)、小括
以上の検討から、
@「本野外実験においてディフェンシン耐性菌が出現する可能性は高いと推測されるか」
A「もしその場合、債務者が実際に行なっている本野外実験が、ディフェンシン耐性菌の出現・流出を防止する上で完璧なものかどうか」
という論点について、
@:「ディフェンシン耐性菌が出現する可能性は高いと推測され、耐性菌出現の可能性についての疎明は十分である」
A:「債務者は耐性菌の出現及び流出に対する防止策を何ひとつ講じておらず、その結果、出現する耐性菌は確実に外部に流出する」
という結論が導かれる。

4、(c)の争点(第1種使用規程の承認手続違反)と主張・立証について(1)、問題の所在
本件における承認手続違反として看過できない重大な問題とは次の2つである。
第1に、債務者は、本来ならば、承認申請書(疎甲21。以下、本申請書という)にディフェンシン遺伝子がコマツナ由来と書くべきところ、これとは別種の植物であるカラシナ由来と記載して、本野外実験の承認を受けた点について。
第2に、前述したディフェンシン耐性菌の出現とその影響という重大な問題について、本来ならば、本申請書に記載し、これについて十分な審査を受けなければならないのに、債務者は、これを記載せず、この点の審査を受けずに実験の承認を受けた点について。

(2)、第一の問題に関する債権者の主張・立証
この点、債権者は、「カラシナとコマツナは明らかに別種の植物であり、遺伝子組換え実験の安全性審査において最も基本的で重要な事項である『導入した遺伝子』の記載について、専門家であれば間違う筈がなく、虚偽としか言いようのない記載をした債務者の行為は凡そ科学者としてあるまじき行為であり、その責任は極めて重大である」と主張する。
その理由は、先般提出された疎甲115の金川報告書により明らかにされた通りであるが、要約すれば以下の通りである。
今回の本申請書からすれば、挿入したDNAの塩基配列がコマツナ由来であるから、債務者が承認を受けたのは、あくまでもコマツナのディフェンシン遺伝子を導入したイネである。言いかえれば、カラシナのディフェンシン遺伝子を挿入したイネの実験については申請されておらず、したがって承認もされていない。よって、承認されていないカラシナのディフェンシン遺伝子を導入したイネである称する今回の実験は直ちに中止しなければならず、もしカラシナのディフェンシン遺伝子を挿入したイネの実験を実施するのであれば、これを正しく記載した申請書を作成し、再申請しなければならない。

(3)、第二の問題に関する債権者の主張・立証
この点、債権者は、「もし申請段階でこれについて記載していれば、本野外実験の承認がおりなかった可能性が高く、この意味において、債務者の第1種使用規程の承認手続に関して、手続的に重大な違法がある」と主張する。
その理由は、疎甲80の金川陳述書(2)に詳細に明らかにされている通りであり、要約すれば以下の通りである。
ア、もともと、債務者の本申請書は、農水省等で作成した告示「遺伝子組換え生物等の第一種使用等による生物多様性影響評価実施要領 」(以下、本実施要領という。疎甲79)にのっとって作成されるべきものである(第一、趣旨)。
イ、本実施要領は、第三で、生物多様性影響の評価の項目及び手順を定め、評価すべき項目として別表第二が掲げられ、そのうち「微生物」の項目中に「その他の性質」という欄があるが、本件ではこの欄にディフェンシン耐性菌が該当する。
ウ、次に、本実施要領は、評価すべき手順として別表第三が掲げられているが、本件では、まず第一に、カラシナディフェンシン耐性菌の出現とその耐性菌のカラシナへの影響のことが考慮されるべきである。
エ、したがって、本来ならば、本申請書には、カラシナディフェンシン耐性菌の出現とその耐性菌のカラシナへの影響について記載されなければならない。
オ、しかるに、本申請書には、こうした記載が一切ない(4〜5頁)。
(4)、小括
以上の検討から、最も基本的で重要な導入遺伝子について虚偽としか言いようのない記載をし、さらに、本来なら記載すべき重大な項目を記載しなかった本野外実験の承認申請手続には重大な違法があり、債務者の申請は無効と言わざるを得ない。この点からも、本野外実験は直ちに中止されなければならない。

第2、債権者の抗告審における法的主張の整理
1、債権者の法的主張の射程距離

 債権者が本野外実験中止の判断基準と考えている最大の規範は予防原則である。
しかし、原決定が「ア 債権者らの本件仮処分命令の申立ての趣旨・目的は、現在問題となっているGM技術及び同技術の農作物等への応用の是非、あるいはGM作物の野外実験一般を問題としているものではなく、あくまでも債務者が現に実施している本件野外実験が今後も継続されることにより」(15頁)と認定した通り、債権者が本裁判で差止を求める対象が様々な危険性・問題点をはらんだ本野外実験だけであることと対応して、債権者が主張する予防原則もまた、GM技術及び同技術の農作物等への応用の是非、あるいはGM作物の野外実験一般にまで適用を要求するものではなく、あくまでも本野外実験についてだけその適用を主張するものである。
なぜなら、前述した通り、本野外実験の最大の特質である、ディフェンシンの常時大量産出という歴史上未だかつてなかった事態の下で、ディフェンシン耐性菌の出現とその外部への流出という問題は、今や、日本のみならず世界中の研究者・関係者らが憂慮するところとなり(疎甲81〜94・116〜117のみならず118〜121)、その場合の「予見不可能性」と「回復不可能性」という特質は、まさに予防原則の適用が要請されるに最も相応しい事態だからである。

2、予防原則のエッセンスと実際の適用(1)、予防原則に関する概括的な解説として、三菱総研の研究ノートがある(疎甲108)が、これを簡潔にまとめたものが債権者代理人がまとめた疎甲114の基礎知識の6頁以下である。
そこでも解説した通り、予防原則のエッセンスは「疑わしきは罰する」である(疎甲110の放送大学「集団と環境の生物学」第15回講義参照)。
しかし、これは、「疑わしきは罰せず」を原則と信じてきた者にとって躓きの石である。しかし、すべて原則は特定の文脈の下でのみ妥当するのであって、これを離れて普遍性を持つことはない。それは、「契約自由の原則」、「過失責任の原則」の変遷を考えれば明白である。
(2)、では、なぜ、「疑わしきは罰する」という逆転が生じたのか。それは、現代文明が、これまで地球上にはなかった未知の事故に直面することになったからである。では、どういう点で、それはかつてない新しさ、未知と言えるのか。これについて、前記三菱総研の研究ノートは、以下の4つの要素を挙げる(99頁。疎甲108)。
@ .リスクの不確実性(申立書11頁にいう「予見不可能性」)
A .不可逆性(申立書11頁にいう「回復不可能性」)
B .晩発生(病原体やアスベスト等を体内に取り込んでから実際の被害が発生するまでに時間がかかること。疎甲2の153頁下段参照)
C .越境性(リスク源が国境を超えて移動すること)
つまり、このような新たな要素をはらんだ事故については、もはや従来の事故を想定したリスク管理の原則では対応できないため、そこで、この新しい事態に即応した新しい管理の原則を発見するしかなかった。そこで見出されたのが、この予防原則=「疑わしきは罰する」である。
(3)、そして、この新たな要素をはらんだ事故が発生する分野として、三菱総研の研究レポートは、遺伝子組み替え技術をはじめとする、以下の分野を挙げる(99頁。疎甲108の)。
−化学物質(環境中の化学物質、温暖化ガス)
−食品(BSE、ホルモン牛肉)
−技術(遺伝子組み替え技術、クローン技術)
−生態系(絶滅危機種、捕鯨)
−電磁波、放射線
(4)、しかも、予防原則は、国際関係では既に数多くの条約、協定に適用されており、三菱総研の研究ノートは、その具体例を紹介している(100頁。疎甲108)が、そこには本裁判でその適用が問題となる次の条約、議定書も含まれている。
−生物多様性条約(1993年)
−カルタヘナ議定書(2000年)
(5)、のみならず、この予防原則が、既に国内の食品安全に関する原則として適用されていることは、(社)農林水産先端技術産業振興センター作成のハンドブック「バイテク小事典」に、
《バイオの分野では、遺伝子組換え食品の安全性に関して、予防原則を基に話し合いが進められている事実。》(111頁。疎甲70)
と明記されている通りである。
 さらに、先月8月29日放送のクローズアップ現代「食の安全をどう伝えるか」で、同月12日、わが国の食品安全委員会が、予防原則に基づいて、「魚介類等に含まれるメチル水銀に関する食品健康影響評価について」、2年前の基準より厳しい基準を明らかにしたことが取り上げられ、放送された(疎甲123の映像参照)。
これは、魚介類等に含まれるメチル水銀が胎児に何等かの影響を与える恐れがあると判断され、そこで、その影響がたとえわずかであっても、それが疑われる限り、予防原則の立場に立って、それを未然に防ぐ必要があるとして、食品健康影響評価について見直しを行なったものであり、食品安全に関する行政の現場では、予防原則が既に使われている。
(6)、他方、本裁判で問題となる生物多様性の保全に関しても、予防原則が確立した原則となっている(疎甲110の放送大学「集団と環境の生物学」第14回、第15回講義参照)。

3、予防原則の具体的内容――とりわけ立証責任の転換――
 予防原則の具体的内容については、この間、多くの人たちの手により、その内容が詰められてきた。そのひとつの成果が、EUが2000年に発表した「予防原則に関する欧州委員会からのコミュニケーション」である。
この中で、とりわけ注目に値することは、リスクに関する立証責任が取り上げられている点にある(三菱総研の研究ノート101頁参照。疎甲108)。
もっとも、その責任の内容は「適切な関係者に課す必要がある」とやや曖昧であるが、その後、2004年11月22日にEUが発表した Questions and Answers on REACH Part II(ただし、これは化学物質の分野である)の中では、立証責任について、安全性の立証責任は当局側から開発する企業側に転換された。(疎甲109「EU 新化学物質政策REACH の紹介」より)
つまり、予防原則の内容を吟味していけば、その適用はおのずと立証責任の問題にまで行かざるを得ず、そして、リスクの不確実性や不可逆性などの新しい事態の特質を熟慮すれば、その解決の仕方もまた証拠を独占し開発する者の側にあるとするしかないことは自明である。現に、スウェーデンや英国では、既にこれを明記している(疎甲44「予防原則」242頁)。

4、小括
前記(1)で既述した通り、ディフェンシンの常時大量産出という歴史上未だかつてなかった事態をもたらした本野外実験こそ、予防原則が適用されるに最も相応しいケースである。
そこで、債権者は、この極めて重大な特質を直視したとき、取り返しのつかない事態を回避するために、予防原則を適用して、本野外実験が即時中止されるべきことを主張する。
なお、念のために言えば、債権者は、本GMイネの実験自体を中止せよといった法外な主張をしている訳ではない。あくまで、債務者側のGM作物の研究の必要性も十分尊重した上で、回復不可能な事態を回避するためにやむを得ない必要最小限度の措置として「安全性が確保されるまでの間、本GMイネの実験を野外から室内に戻すべきである」とごく控え目な主張をしているにすぎない。
以 上

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Posted by english amatuer porn at 2006年10月03日 12:40
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