2005年10月12日

債権者準備書面(14)

平成17年(ラ)第1355号
抗告人 山田  稔他11名
相手方 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構

債権者準備書面(14)

  平成17年10月 日
  東京高等裁判所第5民事部 御中

抗告人代理人  神山 美智子

同       柏木 利博

同       光前 幸一
 
同       近藤 卓史

同       馬場 秀行
 
同       柳原 敏夫


  
相手方の準備書面(7)に対し、次のとおり反論する。

第1 申立の趣旨変更の正当性、合理性
1 相手方の主張
相手方は、請求の趣旨の変更が許されない理由として、本件仮処分の被保全権利は「あくまでも特定の行為の差し止め」であるとし、抗告人らの申立の趣旨の変更が、@請求の基礎に顕著な変更がある、A債務者の防御に過大な負担が発生する、B著しく本件抗告手続きを遅延させる、C変更の申立は疎明提出期限後にされた、C債権者の不当な意図による申立変更権の濫用であるなどと主張し、変更を許さないことに不都合もないと述べている。
しかし、いずれの主張も、未熟な法律論と事実認識の誤りに基づくものである。やや、煩瑣であるが、逐一、相手方の主張の誤りを指摘していく。

2 請求の基礎に変更がないこと
(1)  まず、本件仮処分の被保全権利は、「特定の行為の差し止め」などではない。被保全権利は、安全なコメ(安全性の承認されていないGMイネと交雑していないコメ)を食する権利,多様な生物が共存するなかで生活する権利,不用意な耐性菌の発生により健康をおかされることなく健康に生活する権利という人格権であり、GMイネの刈り取りは、この権利を保全する目的を実現するための一手段にすぎない。相手方の法律論の誤りは、この大前提の無理解からすべてが出発している。
 なお、相手方は、抗告人らの主張している被保全権利が「今回の控訴の趣旨変更を導くという便宜的な観点から、新たに整理しあるいは創作されたものである」とまで論難しているが(6Pの(3))、被保全権利は、抗告人らの準備書面の(5)と(6)で述べているところのものであり、確認願いたい。

  (2) ところで、相手方の栽培実験計画は、平成17年から18年の2年間にわたり、平成17年度は試験栽培したGMイネの系統の選抜と採種、平成18年度は選抜したイネを試験栽培し詳細な評価と採種を行うというものであるところ(甲8号証)、抗告人らは、この計画が、抗告人らの人格権を侵害する虞の強いものであり、権利を保全するには計画の事前差し止めの必要性があると考えた。

  (3) そして、抗告人らは、相手方の栽培実験計画は2年度にわたってGMイネを野外で試験栽培するものではあるが、平成17年度に試験栽培されたGMイネの実験の危険性が法的に認知され、栽培されたGMイネの強制刈り取りが実現されれば、抗告人らの人格権は保全され、相手方の栽培計画も中止されると考え、権利を保全するための手段として、17年度に試験栽培されたGMイネの即時刈り取りを選択し、本件仮処分を提起した。

(4) しかし、仮処分の審理は遅滞し、しかもその間、相手方は試験栽培を続行し、10月3日には平成17年度の試験栽培の目的は達成されたとして栽培したGMイネを刈り取った。そのため、抗告人らは、その権利を保全するには、本年度の試験栽培により発生が危惧されるディフェンシン耐性菌を即時に除去し、かつ、次年度に計画されている試験栽培の中止を求めるしかないと考え、保全手段の変更を申立てたものである。

(5) 以上のとおり、今回の抗告の趣旨の変更は、被保全権利を変更するものではなく、しかも、抗告人らの被保全権利を保全するという目的の範囲内で、保全(差し止め)手段を変更するにすぎないのであって、請求の基礎に、いささかの変更もない。
準備書面(12)で明らかにしたとおり、抗告人らは、民事保全法24条の解釈について、いわゆる「目的拘束説」の考えにたっており、目的拘束説においては、原則として、当事者も仮処分の目的の範囲内で権利保全手段を自由に変更できると考えるのが妥当である。今回の抗告人らの抗告の趣旨変更は、仮処分申立て後の事情の変更により、被保全権利を保全するための手段を変更しているにすぎないのであって、民事保全法24条が予定するところのものであり、審理の争点に全く異同をもたらさないから、このような手段の変更申立てが、ことさら仮処分の審理を遅延させるといった事情もない。

 3 債務者の防御の過大な負担をかけないこと
(1) 相手方は、申立ての趣旨の変更により争点が変更され、債務者の防御に過大な負担が発生すると述べている。
しかし、抗告の趣旨変更の2、3、5にかかる部分の争点は、本件GMイネ栽培によるディフェンシン耐性菌の発現可能性であり、従前の争点と何ら変更はない。

(2) また、抗告の趣旨変更の4ついて相手方は、1年後に行われる栽培計画にかかるものであり、規模や時期、交雑防止措置等については今回の試験栽培の結果をみて検討するから、従前の疎明資料を利用できる関係にない旨を述べている。
しかし、平成18年度の栽培試験計画は(既に約に半年後に迫っている)、本年度の試験栽培実績から、これが計画どおりに実施される高度の蓋然性があり、計画されている栽培試験の問題は、本年度の試験栽培と全く同様で、争点に変更はない。
もし、仮に、相手方が平成18年度の栽培計画につき、抗告人らが問題としている点を変更するのであれば、抗告審の過程で主張すれば足りることで、何ら、相手方に過大な負担をかけるものではない。

4 本件抗告手続きを著しく遅延させないこと
相手方は、抗告の趣旨の変更が、「まったく別の被保全権利とまったく別の仮処分命令発令の必要性を新たに議論することを内包する」から、抗告審の手続きを著しく遅延させると述べているが、上記のとおり、抗告の趣旨の変更によっても被告保全権利や争点に変更はないのであって、相手方が真摯に応訴すれば、抗告審の結論は迅速に下されるはずである。

5 変更の申立が疎明提出期限後になされたこと
相手方の言わんとすることが判然としないが、相手方は、変更の申立てが「決定の是非を議論する段階になって、突如求められた」ことに不満を述べている。しかし、決定の是非を議論する段階になって、突如、イネを刈り取ったとして抗告の却下を求め、決定の是非の論ずる機会を奪っているのは、相手方である。
繰り返しになるが、抗告人の抗告の趣旨変更は、このような相手方の行為による事情変更に対処した保全手段の変更にすぎない。

6 申立変更権の濫用ではないこと
相手方は、抗告人が求めていたGMイネの刈り取りを実行したのだから、抗告人らが仮処分を継続するのは権利の濫用だと主張している。さらに、相手方によるGMイネの刈り取りは評価されるべきことであるとまで主張している。
真面目に反論する気にもならないが、抗告人らが、相手方のGMイネの刈り取りを評価するとすれば、それは、相手方が、抗告人らの主張する本件栽培計画の危険性を理解してGMイネを刈り取り、次年度の栽培計画を撤回した場合のことであろう。相手方は、GMイネを刈り取るにあたり実施したプレス発表では、試験栽培の目的を達したから刈り取るとしているのである。
相手方が目的を達成した本年度の栽培試験、さらには来年度に予定している栽培試験により、抗告人らの権利は危殆に瀕し続けているのである。そして、権利の侵害を予防するには、本年度の試験栽培により発現した可能性のある耐性菌の即時滅菌と、平成18年4月から予定されている栽培試験の中止を求めるしか方法がないのであって、抗告の趣旨の変更が権利の濫用などといわれる所以はどこにもない。

7 変更を許さないことに不都合があること
相手方は、申立の趣旨の変更を認めなくても、別の仮処分や別訴の提起が可能であること、平成18年度の試験栽培については、その詳細が判明した時点で話し合いや法的手段により解決すればよい旨を述べている。
しかし、別の仮処分や別訴の提起が、抗告審での解決に比べ、裁判所を含めた関係当事者に著しい訴訟不経済をもたらすことは論をまたない。
また、本年度の試験栽培が強行、続行された経緯をみれば、相手方の主張は、来年度の試験栽培を強行するための口実にすぎない。

第2 相手方の反論(5P以下)に対する再反論
 1 相手方は、@抗告人らの趣旨変更は被保全権利の変更であり、A抗告人がよってたつところの「提案説」は不合理で、提案説たちながら被保全権利を整理、創作する矛盾は、「是が非でも債務者を本手続きから開放させない」という不当な動機からなされたアドホックなもので、B相手方によりGMイネが刈り取られたことを評価しないのは理不尽で、C「債務者を本手続きから開放せず、過大な負担を負わせる」抗告人らの行為に、相手方は困惑するばかりである等などと主張している。

2 今回の抗告の趣旨変更が被保全権利の変更でないこと、抗告人らが民事保全法24条の解釈について「提案説」ではなく、「目的拘束説」立っていることは準備書面(12)とそこに引用している文献で明らかにしており(抗告人らは準備書面(12)の第3の2で、「目的拘束説」に立つ瀬木裁判官の論考を引用しながら、「仮処分手続きにおいては,民事訴訟法246条が規定するような処分権主義が適用されるものではなく,裁判所は,申立人が達成しようとする目的という中間的レベルで申立に拘束されているにすぎない」と明記しているのであり、相手方がこの記載を「提案説」と解釈する理由が理解できない)、さらに、抗告人らにおいて危険性を指摘する試験栽培計画にしたがって実施されたにすぎないGMイネの刈り取りを評価せよと迫られても、抗告人らは面食らうばかりである。
このような粗雑とも言うべき相手方の反論は、ただ、ひたすら、本件仮処分手続きからの開放を求めんがための便法としか評しようがない。

3 しかし、抗告人らとて、何もすき好んで本件審理に貴重な時間と費用を費やしているのではない。自然環境が破壊され、人格権を侵害される可能性のある試験栽培からの開放を切望して、迅速な審理と裁判所の賢明な判断に期待を寄せているのである。
  抗告人らは、抗告審においても、審理の迅速化を再三にわたり要望してきたが(抗告人らの準備書面(10)を参照)、相手方は本年9月27日になってようやく、実質的な準備書面を提出した。そこには、「債権者の求める技術説明会の開催には貴庁の指示があれば、適宜応じる所存である」とも記載されている。
しかし、他方で、本年9月30日には、試験栽培したGMイネを10月3日に刈り取る旨のプレス発表を行い、刈り取り作業は一般に公開せず、刈り取りが終了するや、10月4日には、刈り取り終了を理由とする抗告却下の申立書を提出している。
この一連の経過を通覧すれば、相手方は、抗告審の審理を出来る限り遅延させ、書面提出時の9月27日には10月3日の刈り取りを既に決定し、その上で書面には「債権者の求める技術説明会の開催には貴庁の指示があれば、適宜応じる所存である」など実体審理に積極的な姿勢を装い、ひたすら、抗告審の審理を回避しようとしていたと指摘されても、弁解できまい。このような相手方の応訴姿勢は、科学者と市民の溝を深めるだけであり、甲24号証で提出した池内了氏の指摘する「ヤバンな科学」そのものである。
本件が、仮にこのまま終わるとすれば、多数の良心的な科学者が、自らの不利益も省みず、国家的事業の危険性に異議を唱えたことともに、公共機関に従事する科学者が手続き的不正義の限りを尽くした事例として、記憶にとどめられるべきである。
以 上

posted by GMNG at 00:38| Comment(1) | TrackBack(0) | 裁 判 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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