2006年05月26日

第4回裁判(弁論準備手続)のご報告

晴れ裁判所 新潟地裁高田支部
晴れ期 日 平成18年5月25日 午後3時00分 弁論準備手続
晴れ出席者 原告5名,原告代理人2名
    被告職員1名,被告代理人2名
晴れ内 容
1 書面の提出
 原告から5月11日付準備書面(4)を提出しました。GMイネの細胞内部で生産されたディフェンシンがイネの外部に流出する恐れがあることについて主張する内容です。また,甲70号証を提出しました。
 これに対し,被告からは5月18日付準備書面(3)と25日付準備書面(4)(5)(6)(7)及び証拠(乙25・26)が提出されました。被告所長の黒田氏が行った実験を引用してディフェンシンが体外に流出しないことなどを主張しております。
 なお,上記被告の準備書面(4)(5)については,裁判長の判断により,陳述しない扱いになっています。

2 ディフェンシン産出・流出実験について
 現在GMイネからディフェンシン耐性菌の発生,とりわけディフェンシンの産出・体外への流出があるかどうかが重要な争点となっています。
 この点,被告は被告所長の黒田氏が行った実験結果を提出し(乙25号証は再度行った実験です),これによるとディフェンシンの流出はない,と結論づけています。
 しかし,原告は,上記黒田氏実験には数多くの問題があり,被告が引用している文献の中でもディフェンシンの流出を認めた記載があり,当然流出の恐れはあるものと主張しています。
 裁判長は,これに対し,「双方立ち会って協力して実験ができないか」という提案をしました。そして,その前提として,原告は実験の問題点について指摘をまとめるとともに,納得できる形での実験がどのようなものであるか提示して欲しいと述べました。
 原告は,これは直接的で望ましいことから,これに賛成し,次回までに,共同実験の正しいあり方について提示することとしました。
 被告も,筑波の本部に問い合わせないと分からないとしつつも,共同の実験方法について検討するとしました。

 最後に,原告の一人から,黒田氏実験の不当性について指摘する鋭い発言がありました。
 すなわち,黒田氏実験(追加で行ったもの)の中には,「水田水」を用いて実験したといいながら,実際は河川から採取した水を用いており,前提を全く欠いた不当な実験であること,どこの河川から採取した水であるかはもとより,実験の場所も日時も記載されていないことを指摘するものです。
 これに対し,被告は追加で報告書を出すことを検討すると明言しました。

3 次回までの準備
 原告は,6月15日までに,抗生物質に対するものと本件における耐性菌が別のものであるという被告の主張に対する反論の準備書面を提出することとなりました。また,被告が原告に対し釈明を求めた事項(準備書面(6)(7))について,回答を検討することとなりました。
さらに,6月末ころまでに,黒田氏実験の問題点をまとめるとともに,上記の共同実験について正しい方法について提示することになります。
 被告は,6月30日までに,本日原告が提出した準備書面(4)に対する反論の準備書面を提出することとなりました。また,上記の共同実験方法についても,被告から何らかの提案がなされるものと思われます。

晴れ次 回
7月13日 午後4時から,新潟地裁高田支部にて
posted by GMNG at 10:08| Comment(45) | TrackBack(11) | 裁 判 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

第3回裁判(弁論準備手続)のご報告

晴れ裁判所 新潟地裁高田支部
晴れ期 日 平成18年4月14日 午後3時00分 弁論準備手続
晴れ出席者 原告6名,原告代理人4名
    被告職員1名,被告代理人2名

晴れ内容
1 裁判官の変更
4月の異動により,仮処分の決定を出した裁判官らが交代し,裁判長と右陪席裁判官が交代になりました。

2 追加提訴
新たに原告8名の参加を得たことから,追加提訴をし,この訴状と答弁書が提出されました。

3 書面の提出と釈明についてのやりとり
原告から準備書面(3)などを提出しました。被告から求められた釈明に答え,また被告に対し釈明を求める内容です。原告は,昨年の野外実験について,ディフェンシン耐性菌の出現があったかどうか,自然交雑があったかどうかの調/査を行ったか否かなどについて釈明を求めております。
これに対し,被告は準備書面(2)などを提出しました。

4 次回について
裁判官は,本件裁判について,ディフェンシン流出の可能性とこれに対する耐性菌の発生が中心的論点になることを的確に指摘し,被告に対し骨子ではなくより詳細な主張を求めるとともに,原告に対し,上記論点に関し詳しく主張する準備書面を提出するよう求めました。
次回の2週間前(5月11日)までに,原告が上記に関する準備書面を提出し,次回の1週間前(5月18日)までに,被告が釈明に答える準備書面を提出するということになりました。

晴れ次回期日 平成18年5月25日 午後3時
posted by GMNG at 15:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 裁 判 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月24日

写真で見る第2回裁判

Dscf0081.JPG
快晴です

Dscf0175.JPG
直江津では殆ど雪がありませんでした
posted by GMNG at 09:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 裁 判 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

第2回裁判(弁論準備手続)のご報告

晴れ裁判所 新潟地裁高田支部
晴れ期 日 平成18年2月22日 午後4時00分 弁論準備手続
晴れ出席者 原告5名,原告代理人2名
    被告職員1名,被告代理人2名

晴れ内容
1 追加提訴
新たに原告8名の参加を得たことから,追加提訴をしました。
これで原告は総勢23名になります。

2 被告側の基本姿勢
被告が準備書面1を提出しました。
内容は,GM技術の一般論や有用性を述べるにとどまっています。

3 原告の反論
当方が準備書面2を提出しました。
当方は,次のように反論しました。
@ 被告代理人の考え方は,差し止め訴訟の法律論を誤り,また,GM実験に関するカルタヘナ法や生物多様性の保護に関する諸法規を正しく理解していない。
A 差し止め訴訟は,危害が発生する具体的な危険(本件では交雑や耐性菌の発生)があり,しかもその危害が発生すると回復困難な損害が発生する可能性があるとき,危害の発生を未然に防止することを目的としている。このような未然防止裁判に,危害が既に発生していることの実証を求めるのはナンセンスであり,裁判そのものの意味を失わせる。現実に,多くの裁判例も,「危害発生の危険」を理由に,差し止めを認めている。
原告らは,被告が明らかにしない限り,交雑や耐性菌発生の事実を知ることができないし(実証できない),実証する必要もないと考えている。仮に既に交雑もしくは耐性菌発生しているのなら,被告はただちに実験を中止すべきでる。
B カルタヘナ法や生物多様性国家戦略は,生物多様性への「予防原則」や「予防的順応的態度」の重要性を宣言している。ヒトは生物や生態系のすべてを理解しているわけではないから,常に,謙虚に,慎重に行動しろということである。
原告らは,本実験には謙虚さや慎重さにかけることを具体的に指摘し交雑や耐性菌発生の危険を指摘しているのであるから,被告らは,実験が謙虚かつ慎重なもので,交雑や耐性菌の発生の危険がないこと(原告の指摘が誤りであること)を具体的に主張し,立証しなければならない。そのような主張,立証ができければ,カルタヘナ法により,実験の続行は認められないはずである。
C 原告らの主張は,植物学や微生物の専門学者の真摯な意見に基づいたものであり,これを「空想的科学」の一言で片付けるのは,余りに不見識である。
 

晴れ次回期日 4月14日 午後3時〜
posted by GMNG at 09:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 裁 判 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月02日

第1回裁判期日のご報告(速報)

●2006年2月2日(木)午後1時半〜
●新潟地方裁判所高田支部
●裁判官 板垣千里、松井 修、満田寛子
●内 容
原告代理人神山美智子より訴状要旨を陳述。
原告佐藤ふじ枝(上越市)、原告山下惣一(佐賀県唐津市)より意見書の要旨を陳述。

●次回第2回目は、2月22日午後4時〜(予定)

裁判前の集会の様子
Dscf0002.jpg

裁判後の記者会見の様子
Dscf0018.jpg
posted by GMNG at 22:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 裁 判 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月01日

外国特派員協会での記者会見(予定)

日本外国特派員協会における本裁判に関する記者会見が,以下の日程で行われる予定です。
ご注目下さい。

日 時 2006年2月7日(火)午後4時半〜5時半
場 所 JR有楽町駅前の電気ビル北館20階
出席者 加藤登紀子(原告)、神山美智子(原告代理人)、その他
posted by GMNG at 19:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 裁 判 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

訴状の要旨

第1回口頭弁論において,原告代理人の神山美智子弁護士より陳述される訴状要旨は,以下のとおりです。

サーチ(調べる)
この訴訟は、人類及びすべての生物の危機を回避するための重大な裁判であることを最初に申し述べます。
では原告たちが求めている裁判の内容を簡潔にまとめて述べます。

第1 請求の趣旨
1 被告独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構は、平成18年4月から被告の北陸研究センター(所在地−新潟県上越市稲田1−2−1)に付設された高田圃場において予定しているカラシナ由来のディフェンシン遺伝子を挿入したイネの実験栽培をしてはならない。
2 被告は原告番号1から3に対し、それぞれ金50万円とこれに対する本訴状送達の翌日から完済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は原告番号4から15に対し、それぞれ金10万円とこれに対する本訴状送達の翌日から完済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
 との判決ならびに仮執行の宣言を求めます。

第2 請求の原因
1 被告は、農業に関する技術上の試験などを行うことを目的として設立された独立行政法人であり、資本金は2915億5317万9538円であります。
被告の研究機関とである、北陸研究センター(所在地ー新潟県上越市稲田1−2−1)は、カラシナのディフェンシン遺伝子をイネに組み込み、いもち病や白葉枯れ病に強い性質をもたせるように改変したイネ(これを
「本GMイネ」といいます)の開発に取り組んでおり、平成17年5月と同6月、多くの関係者の反対を押し切って、センターに付設されている高田圃場(以下「本件圃場」)の一画に、本GMイネの野外栽培実験を強行し、平成18年4月から、同様の野外実験を再度、実施しようとしているものであります。

2 原告番号1ないし3の原告は、本件圃場周辺においてイネを栽培している米農家であり、原告番号4ないし15の原告は、米を主食として食べている消費者であります。

3 被告が強行している本GMイネの野外栽培実験には、以下に述べるような危険性があります。
  @ まず周辺イネとの交雑の危険性です。イネの花粉は風に乗って遠くまで飛んでゆき、他のイネと受粉します。本GMイネの花粉とて同様で、花粉が飛んでいけば、原告や周辺農家の栽培している一般のイネと交雑します。原告たちが栽培しているイネが知らないうちに、被告の本件圃場から飛んでくる花粉により交雑してしまう危険性が十分あります。イネ花粉による交雑の可能性そのものは、被告も認識しており、昨年の実験においては、他の圃場との間に一定の距離を設け、周辺圃場とは開花時期をずらす、不織布で覆うなどの交雑防止措置をとっていますが、これらの措置によっても、交雑を完全に防げるという保障は一切ありません。なぜなら花粉の飛ぶ距離が20メートルや30メートルだという証明はないのです。むしろ気温、風向き、風力などにより、どこまででも飛んでゆくおそれがあります。また覆いは不完全で、ごく小さな花粉が外へ飛び出るのを防ぐことはできません。
    さらに花粉の受粉能力が数十分で尽きるなどという証明もないのです。
    原告ら周辺農家は、被告の野外実験により、欲してもいない本GMイネとの交雑を受ける危険性があるのです。
  A 次にディフェンシン耐性菌出現の危険性です。本GMイネはカラシナがディフェンシンを作るために持っている遺伝子をカラシナから取り出し、これをイネに組み込んだものであります。ディフェンシンとは、細菌に抵抗するために生物が作り出すたんぱく質のことで、抗菌たんぱくあるいは抗菌ペプチドと呼ばれています。ディフェンシンは、生体が持つ細菌感染に対する防御機能の一つであり、近時その作用が非常に注目されている物質です。
    被告が作り出した本GMイネは、このディフェンシンを常時作り出すという性質をもっており、しかも微生物と栄養の宝庫である水田に、常時ディフェンシンが流出するものでありますから、細菌がディフェンシンに対する耐性を獲得するおそれが高いものであります。
    人間がカビなどが作り出す抗生物質を人工的に製造し、乱用した結果、MRSA、VRSAなどの抗生物質耐性菌が出現し、病気になっても抗生物質が効かないという状況になっていることは公知の事実です。
    ディフェンシン耐性菌は、人間や他の生物の生体防御機能を破壊するという点において、抗生物質耐性菌よりはるかにおそろしいものであります。
    被告はこれまでディフェンシン耐性菌が出現した報告はないなどと説明していますが、これまではディフェンシンを組み込んだ植物の野外栽培などが行われてこなかったため、耐性菌も出現していないのであって、被告が世界で初めて、このような危険な野外実験を強行したことにより、世界で初めて耐性菌出現の危険性をもたらしたのであります。
    ディフェンシンには、人型、サル型、昆虫型、植物型など、さまざまな構造をもったものがあり、植物型についての研究は1990年以降に始まったばかりで、詳しい作用機序などは十分に分かっておりません。このことは被告が作成した文書にも記載されていますし、過去の研究がなく、被告の技術が新規なものであるからこそ、特許申請をすることが
   できたものであることは明らかであります。
    耐性菌が発生した場合、被害を最も受けやすいのは他のアブラナ科植物であろうと思われ、わが国の野菜栽培が大きな打撃を受けるおそれがあります。
    また最近の研究により、ディフェンシンには、HIV感染を抑止したり、口腔内の細菌の増殖を抑止する効果があることなども分かってきました。しかし耐性菌が発生すると、多くの人がHIVに感染しやすくなるなどの被害が発生するおそれがあります。
    抗生物質耐性菌はインフルエンザの例でいえば、タミフルが効かなくなることですが、ディフェンシン耐性菌は多くの人がインフルエンザにかかりやすくなることを意味します。
    被告は本GMイネのディフェンシンは、大きさからして細胞の外へ出られないとか、中和されるとか、人にはディフェンシン以外に免疫機構があるので、ディフェンシンがやられても大丈夫だなどと説明していますが、これはまったく根拠がありません。ディフェンシンの大きさに関する被告の説明は、科学の基礎的な知識不足によるものであり、中和されるということは、水田という微生物と栄養の宝庫の存在を無視したものであります。免疫機構があるから大丈夫などという議論は、暴論というべきものであります。生物界は微妙なバランスの上に互いの共働的関係を築いてきたのです。このような精緻な生態系環境に、人工的な抗菌物質を放出するなどという行為は絶対に止めなければなりません。

4 ここで遺伝子組み換え技術の規制について述べます。
   まず1992年、ブラジルのリオデジャネイロにおいて、国連環境開会
議が開催され、生物多様性に関する条約が採択されました。次に2000年に、生物多様性に関するカルタヘナ議定書が採択されました。
わが国は2002年、生物多様性国家戦略大綱を閣議決定し、2003年、通称カルタヘナ法を成立させました。こうした一連の動きは、生物の多様性の著しい減少や喪失のおそれがある場合に、予防的な措置をとるべきことを求めています。戦略大綱では、生物・生態系のすべてはわかり得ないものであることを認識し、常に謙虚に慎重に行動することを求めています。そして人の健康や環境への影響の防止の観点から、安全性の確保と国民の理解が不可欠であることもうたっています。
被告の本野外実験は、農林水産大臣及び環境大臣がした第1種使用規程承認に基づくものでありますが、この栽培実験指針には、ディフェンシン耐性菌に関する条項が含まれていないという驚くべきものであります。また交雑防止距離についても、新たな知見が出るたびに変更されるような不十分なものであります。つまりカルタヘナ法に基づいて、生物多様性を保護するために策定されたはずの使用規程そのものが、生物多様性や人の健康を保護するためのものとはなっていないのですから、被告の本GMイネ野外栽培実験は、人の健康や人を含む生態系の安全、環境保全を損なうおそれが非常に大きいものなのです。

5 次に被告の野外栽培実験と原告らの損害について述べます。
原告全員が、ディフェンシン耐性菌出現により健康を害されない固有の
権利をもっていることは自明の理ですが、これに付け加えれば、原告番号1ないし3の原告は、被告の本件圃場周辺で米を栽培している農家であって、被告の本野外栽培実験により、交雑のおそれ、遺伝子汚染のおそれを直接受けているものです。仮にその年に原告の栽培種に対し直接の交雑が起きなくても、本件圃場に近いイネが交雑を受ければ、年を経るごとに交雑範囲が広がり、ついに米所上越の米が壊滅的打撃を受けるであろうことは、農業に従事するものなら誰でも知っています。 
農家である原告らはすでにいもち病に強いコシヒカリを品種改良によって
作り上げ栽培し販売しておりますが、このコシヒカリと本GMイネが同じではないかとのあらぬ疑いをかけられる、風評被害が現実のものとなりつつあります。こうした被害に対する慰謝料は各人について、50万円を下るものではありません。
原告番号4ないし15の原告は、日本人として米を主食にし、健康な食生活を送りたいと願っている消費者であります。被告が作り出した本GMイネにより消費者原告らは、安全な食生活を送る権利を侵害されるおそれがあります。これに対する慰謝料は各人10万円を下ることはありません。

よって請求の趣旨記載のとおり、本GMイネの野外栽培実験の中止と、原告らに対する慰謝料及びこれに対する本訴状送達の翌日から支払済みまで、民法所定の年5分の遅延損害金の支払を求めるものであります。
なお、ディフェンシン耐性菌出現問題につきましては、本日付準備書面で詳しく述べております。

以上です。
posted by GMNG at 19:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 裁 判 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

第1回口頭弁論のお知らせ

晴れ
第1回口頭弁論が下記の期日で開かれます。

日 時 2006年2月2日(木)午後1時半〜2時
場 所 新潟地方裁判所高田支部
裁判官 板垣千里、松井 修、満田寛子

内 容
(予定) 原告代理人神山美智子より訴状要旨を陳述。
      原告佐藤ふじ枝(上越市)、原告山下惣一(佐賀県唐津市)より意見書の要旨を陳述。
備考 次回第2回目は、2月22日午後4時を予定。
記者会見 時間 2時〜
      場所 雁木通りプラザ6階多目的ホール
      参加者 原告山下惣一、 原告代理人神山美智子ほか

※一般市民の参加も可能です。奮ってご参加下さい。
posted by GMNG at 19:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 裁 判 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年12月20日

訴 状

訴 状


2005年12月19日


新潟地方裁判所高田支部 御中

原告訴訟代理人弁護士 安藤 雅樹

同  弁護士 神山 美智子

同  弁護士 柏木 利博

同  弁護士 光前 幸一

同  弁護士 近藤 卓史

同  弁護士 竹澤 克己

同  弁護士 馬場 秀幸

同  弁護士 柳原 敏夫

同  弁護士 若槻 良宏


当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり

             
遺伝子組換えイネ野外実験栽培差止め等請求事件

訴訟物の価額 金2670万円也
貼要印紙額  金10万1000円也

第1 請求の趣旨
1 被告は、平成18年4月から被告の北陸研究センター(所在地ー新潟県上越市稲田1−2−1)に付設された高田圃場において予定しているカラシナ由来のディフェンシン遺伝子を挿入したイネの実験栽培をしてはならない。
2 被告は原告番号1から3に対し、それぞれ金50万円とこれに対する本訴状送達の日から完済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は原告番号4から15に対し、それぞれ金10万円とこれに対する本訴状送達の日から完済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 仮執行宣言

第2 請求の原因
1 当事者
(1) 被告は、農業に関する技術上の試験及び研究等を行うことにより、農業に関する技術の向上に寄与するとともに、民間において行われる生物系特定産業技術に関する試験及び研究に必要な資金の出資及び貸付け等を行うことにより、生物系特定産業技術の高度化に資することを目的として設立された、資本金2915億5317万9538円の独立行政法人である(独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構法4条)。
被告における農業技術の研究機関として、北陸研究センター(所在地ー新潟県上越市稲田1−2−1)があるが、同センターは、遺伝子組換え技術を用いてカラシナのディフェンシン遺伝子をイネに組み込み耐病性を付与することを企図したイネ(以下、「本GMイネ」という)の開発に取り組んでいるところ、平成17年5月と同6月、交雑の危険や実験の安全性を危惧する農業従事者、消費者、研究者らの反対を押し切り、同センターに付設されている高田圃場(以下「本件圃場」)の一画に、国による食品安全性の審査を経ていない本GMイネの野外栽培実験を強行し、平成18年4月から、同様の野外実験を再度、実施しようとしている。

(2) 原告ら
原告番号1〜3は、本件圃場の近隣で新潟産ブランドのコメを生産、出荷している農業従事者、同番号4〜15は、いずれもコメの安全な生産,地球環境の保全,生物多様性の維持等に多大な利益、関心を抱くものであるところ、とりわけ、農業従事者においては、本GMイネの実験栽培による新潟産コメの市場評価が下落することに懸念しているものである。

2 本GMイネの構造及びディフェンシンについて
(1) 本GMイネは、アブラナ科の越年草であるカラシナ(芥子菜)からディフェンシンという殺菌作用を持つたんぱく質(抗菌たんぱく質)を作り出す遺伝子を取り出し、これをイネの細胞内に組み込んで、イネが常時ディフェンシンを生成するよう形質を変更して、これによりイネの病害であるいもち病や白葉枯病の病原菌に耐性を付与しようとするものである(甲1,2号証)。
20051219a

(被告北陸研究センターのHP〔一部加筆〕より)                           
(2) 近時におけるディフェンシンの重要性の認識
ディフェンシンなどの抗菌ペプチドについては、最近、感染予防の第一線で大きな役割を果たしていることが明らかになりつつあり、その重要性が認識されるに至っている。
ディフェンシンは生物種を問わず広く存在する抗菌たんぱく質で,病原菌に対する防御機構の一つとして重要な役割を担っている。抗菌活性の強度や範囲を特徴付けるアミノ酸構造の違いによりα型(ヒト),β型(サル),サペシンA型(昆虫),植物型などに分類されているが,哺乳類のディフェンシンについては,白血球やパリア上皮細胞など,宿主防御に携わる免疫細胞中に豊富に存在し,微生物の殺滅に直接関わっているという知見が増加しており,αディフェンシン−1からHIV感染を抑止する作用が明らかとなったり,歯周病との関係で,β−ディフェンシンが口腔内の細菌の増殖を抑止する作用があることなどが発表されている。
病原菌からの防御機能としては免疫反応があるが,免疫能が病原菌進入から数日後に作動しはじめるのに対し,ディフェンシンは病原菌の進入に対し直ちに反応することから,とみにその重要性が認識されるようになった(甲3,4号証)。

(3) 植物型ディフェンシンについて
植物型ディフェンシンは,その存在が報告されたのが1990年と比較的最近のことであるが,45〜54のアミノ酸残基からなり,生物学的活性から,@病原菌の成長を抑制する,A病原菌の成長を遅らせる,B抗菌活性はなく,α−アミラーゼを阻害する3グループに分類され,現在,80種にのぼる植物種でディフェンシン遺伝子の存在が知られており,被告は,植物由来のディフェンシンを利用した新規抗菌剤の開発を目指している(甲3号証)。 

3 科学技術開発と安全性の確保、国民との相互コミュニケーション
(1)  科学技術基本計画
科学技術基本法(平成7年11月施行)に基づき5年毎に策定される科学技術基本計画は、現在、内閣総理大臣を議長とする総合科学技術会議において、第3期(平成18年から23年度)計画の内容を審議、策定中であるが、基本政策専門部会は、平成17年6月、「科学技術基本政策策定の基本方針」を取りまとめた(甲5号証)。
(2) これによれば、第3期計画における基本姿勢を「社会、国民に支持され、成果を還元する科学技術」におき、科学技術システムは、社会・国民から独立して存在するものではなく、社会・国民に支持されて初めて発展が可能になるとの認識のもとに、@科学技術が及ぼす倫理的・法的・社会的課題への責任ある取組、活動ルールの策定、A科学技術政策に関する説明責任の強化、B国民の科学技術への主体的参加の促進の各必要性を強調している(報告書18P以下)。

(3) また、21世紀に向けた食料、農業の基本施策を定めた「食料・農業・農村基本法」(平成11年7月制定)15条に基づき政府が策定する「食料・農業・農村基本計画」は、農業の担い手の育成、近時における狂牛病、食品の不正表示問題等による国民の「食の安全」に関する不安の増大、持続可能型社会に向けた環境保全型農業の必要性等の諸要請を受け、平成17年3月全面改訂され、新たな基本計画が制定された。
そこでは、農産品の研究・技術開発においても、消費者の視点を政策に反映させること、すなわち、消費者の信頼に応え、消費者から支持される食料供給の実現に向け、企業等の社会的責任(SR)の理念も十分踏まえつつ農業団体や食品産業等の関係者の意識改革を促していくことを、改革の基本視点としている(甲6号証)。

(4) そして、政府のバイオテクノロジー戦略会議(BT戦略会議)によって策定された「バイオテクノロジー戦略大綱」(平成14年12月)も、「研究開発の圧倒的充実」、「産業化プロセスの圧倒的強化」とともに、「国民理解の徹底的浸透」(国民が適切に判断し、選択できるシステムの構築)をバイオテクノロジー技術開発における基本戦略とし、以下のような指摘をしている(甲7号証)。
「BT関連製品・サービスには、医薬品や食品など直接人体に摂取されるもの、植物・動物・微生物等環境に放出されるものなどがあり、人の健康や環境への影響の防止の観点で安全性の確保が不可欠である。
 BTの発展には、産業への応用技術開発とその安全確保が車の両輪であり、BTの応用が進められる際に、これに対応して安全情報の収集や科学的分析、評価などの安全確保対策とその充実のための基盤の確立に取り組んでいくことが必要である。
 一方、確たるルールの確立のないまま、研究開発が先行している側面もあり、クローン人間の生成、個人遺伝情報の取扱いなど、倫理面での課題について国民の関心も高まってきている。」
「国民に対し、政府は、BTに関する情報を積極的に提供していくことが必要である。その情報提供に当たっては、常に国としての理念を持ち、その理念の下、国民に媚びるのではなく、科学的事実を根気よく伝達することを心がけるべきである。
 情報提供は、単に科学的説明のみならず、BT技術の応用によって人々の生活がどのように改善されるかをわかりやすい形で説明することが必要である。
 一方、官からの一方的な価値観の押しつけとならないよう、NPO法人、学界、消費生活センター等の民間団体との多様な連携を積極的に図ることが肝要と考える。また、これまで各府省がそれぞれ行ってきた情報提供に関し、共通の窓口を設定することが重要である。」
「BTの発展には、産業への応用技術開発とその安全性の確保が車の両輪であり、まず、安全情報の収集や科学的分析、評価などの安全確保対策とその充実のための基盤の確立を行うことが不可欠である。
 その上で、安全確保対策に政府として万全を期すことに加え、その強固な姿勢を国民に分かりやすく提示することにより、国民の目から見て、BT技術の応用製品についての安全性の信認が得られるよう最大限努めることが肝要である。
 その一環として、BT製品の安全審査や安全管理に関する大規模な組織を整備し、抜本的に強化することが必要である。現状では、米国FDA(食品医薬品局)などの例を見ても、この面で、我が国は大きく欧米に遅れている。安全性に関する透明な審査機構の確立は、行政の重要な役割であることを改めて認識し、対応を強化すべきである。
 また、BTに係る合理的な規制の整備が必要である。なぜなら国際的にも整合性を持つ科学的根拠に基づく合理的な規制の存在が、消費者の安全性の信認を得る大きな道だからである。そうした合理的な規制に関する科学的な研究を進めるべきである。消費者の信頼を得る規制が、結局は、研究開発や産業活動の活性化につながることを改めて認識すべきである。
 一方、BTが広く国民に受け入れられるためには、研究者・産業人の倫理の確立が不可欠である。BTの進展に合わせ国民各界各層において、倫理的・法的・社会的問題についての理解を深め、BTを適切に進めるためのルールの設定・見直しを行うことが重要である。特に、今後、BTの発展に伴い、利用・提供が進むことが想定される個人遺伝情報に関しては、個人の権利を守るとともにその公共利用に関するルールの整備を行うべきである。
 国民の理解の基本は、個々の研究者、従事者が国民に適切な説明・対話を行うことである。研究機関、研究者及び企業、従事者は、研究の内容や成果を社会に対して説明することが基本的責務であることを改めて認識し、国民との双方向のコミュニケーションを充実すべきである。」

4 GM作物の栽培実験に関する法規制
(1) 「生物多様性条約」、「カルタヘナ議定書」、「カルタヘナ法」、「生物多様性国家戦略」
平成4年6月にリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議において署名開放された「生物多様性に関する条約」は、地球上の多様な生物をその棲息環境とともに保全することを目的と、現在、わが国を含め180ケ国以上の国や地域が締約している。
その前文には、
「生物の多様性の著しい減少又は喪失のおそれがある場合には、科学的な確実性が十分にないことをもって、そのようなおそれを回避し又は最小にするための措置をとることを延期する理由とすべきではない」と予防原則の内容が表明されている(甲7号証)。

また、同条約19条3項に規定されている「バイオテクノロジーにより改変された生物であって、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に悪影響を及ぼす可能性のあるものについて、その安全な移送、取扱い及び利用の分野における適当な手続(特に事前の情報に基づく合意についての規定を含むもの)を定める議定書」(いわゆる「生物多様性に関するカルタヘナ議定書」)が平成12年1月に採択された(甲8号証)。
カルタヘナ議定書の第1条には、目的として、
「 環境及び開発に関するリオ宣言の原則15に含まれる予防的アプローチに従い、本議定書の目的は、人の健康に対するリスクをも考慮し、特に国境を越える移動に焦点を当て、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に悪影響を及ぼす可能性のあるモダン・バイオテクノロジーによって改変された生物(LMOs)の安全な輸送、取扱及び利用の分野における適切な水準の保護を確保するために貢献することにある。」
と予防原則を適用することが宣言されている。

わが国も平成15年5月にこれを承認し、同議定書の担保法である「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(いわゆる「カルタヘナ法」)を同年6月公布した。
さらにわが国は,生物多様性条約に署名後、平成7年10月には「生物多様性」を維持するための国家戦略を閣議決定し、平成14年7月には、自然環境の荒廃、移入種や新種との交雑や化学物質による環境撹乱の増悪という事態を踏まえ、「新・生物多様性国家戦略」を閣議決定した。そして,新戦略においては、生物多様性確保のための理念の1つに、「予防的順応的態度」を掲げ、これを、次のように説明している。

20051219b

(2)  カルタヘナ法
@ 同法は、国際的に協力して生物多様性の確保を図るため、遺伝子組換え生物等の使用等の規制を講ずることにより、カルタヘナ議定書の的確かつ円滑な実施を確保することを目的として制定された(同法1条、但し、わが国の法律は、野生生物のみを保護対象としている)。
A そして、遺伝子組換え作物を、新規に、野外の圃場等で試験栽培しようとするものに対しては、事前にその使用規程(第一種使用規程)を定め、かつ、その使用等による生物多様性への影響を評価した「生物多様性影響評価書」を添付して主務大臣(農林水産省、環境省)に提出し、承認を受ける義務を課している(同法4条)。
B  また、生物多様性評価書が適正に作成されることを担保するため、関係各省庁合同の告示により,「遺伝子組換え生物等の第一種使用等による生物多様性評価実施要領」が示されている(平成15年財務省・文部科学省・厚生労働省・農林水産省・環境省講告示第2号,甲10号証))。
同告示では、適正な評価書の記載項目として、宿主の基本的特性、宿主に供与される核酸の構成や機能、遺伝子組換え生物が生物多様性に影響を生ずるおそれのある場合にはその防止措置等があげられているが、生物多様性に影響を生ずるおそれがあるか否かの判断にあたっては、当該野生動植物等の固体の反応について実験を行い、関連する情報を集めることや、当該野生動植物等の生息又は生育する場所又は時期その他の関連する情報を集め、影響の生じやすさを評価すべきとしている。
C  そして,上記関係各省の同年告示第1号は,「第1種使用規程の承認」の基準として,I.実験により,影響が危惧される野性動植物種等に影響が出ないこと,II.生物多様性への影響を評価するための情報が既に得られていること,III.生物多様性に対する影響を防止する措置が確実に講じられることの3要件を明示している(同告示1の(2)のロ,甲11号証))。

(3)  農林水産省の指針
@ 農林水産省は、カルタヘナ法4条または9条により第1種使用規程の承認を受けた組換え作物が,同種ならびに近縁の栽培作物と交雑することを防止し、また実験に関する情報を一般に公開させること等を目的とする「第1種使用規程承認組換え作物栽培実験指針」を定め、栽培実験者にその遵守を求めている(甲12号証)。
A 同指針は、実験者に「栽培実験計画書」を作成することを義務付け、計画書には、栽培実験の目的、期間、場所、交雑防止措置の内容、栽培実験に係る情報提供に関する事項等を記載することを求めており、情報の提供に関しては、実験開始前の計画書の公表、説明会の開催、実験中は経過に関する情報提供や見学会の開催、実験終了後は栽培実験結果の説明会の適宜開催等を義務付けている。
B なお、同指針では、組換えイネと同種栽培作物との交雑を防止するために必要な離隔距離を20メートルと定めていたところ、農林水産省農林水産技術会議事務局長は、平成17年4月、「平成17年度における第1種使用規程の承認を受けた組換え作物に係る栽培実験の留意点について」と題する書面で、交雑防止措置として開花前の摘花や袋かけ、防止ネットによる被覆等を行わない場合は、実験対象イネとその周辺イネとの離隔距離を26メートル以上とし、周辺イネ(26メートル近辺)にある栽培イネとの出穂期を2週間程度以上離なす旨を通知している。(甲13号証)

5 被告の野外栽培実験について
(1) 経過(甲22号証)
@ 被告は、平成16年11月17日に農林水産大臣および環境大臣に本GMイネの野外栽培実験(以下、本野外実験という)に関する第1種使用規程承認を申請し(以下、本申請書という。甲1号証)、同年12月24日から地元説明会を開始し、平成17年4月22日には栽培実験計画書を公表した。
A  計画による栽培実験の播種時期は、平成17年度は4月下旬と5月下旬から6月上旬、平成18年度は4月下旬から6月上旬,移植(苗上)時期はいずれも5月下旬から7月上旬というものであったところ,栽培されるGMイネと周辺イネとの交雑や生物多様性への影響等を危惧した生産者や消費者からの反対は根強く、新潟県や上越市等からも、「生産者や消費者らの意向を無視した実験の強行は控えて欲しい」旨の申し入れが再三なされた。
しかし,被告は、平成17年5月25日に上記両大臣の承認がおりるや、同月31日には第1回目の移植、また、翌6月29日には第2回目の移植を強行した。
B  本件原告らの一部は、平成17年6月24日,新潟地方裁判所高田支部に対し、第2回目の移植の禁止、移植された場合にはイネの即時刈り取りを求める仮処分を提起した(平成17年(ヨ)第9号 遺伝子組換え稲の作付け禁止等仮処分事件)。現在、申立ての趣旨を平成18年度の栽培実験禁止、本GMイネの作付けにより発生するおそれのあるディフェンシン耐性菌の土壌等からの即時殺菌として,特別抗告中である(最高裁判所平成17年(ク)第1148号。甲23号証)。

(2) 被告の野外栽培実験の概要、目的等
@ 本野外実験は、いもち病と白葉枯病に複合抵抗性を持つイネの実用化を目指したもので、イネ品種「どんとこい」に、カラシナ由来のディフェンシン遺伝子を挿入したイネを、上記の被告北陸研究センター稲田圃場(本件圃場)内に植え、耐病性と栽培特性評価、試験研究用種子の採種、周辺への生物多様性への影響評価を目的としている(甲1,2号証)。
A 実験期間は平成17年と18年の2年間であり、17年は系統の選抜と採取、18年は選抜した系統の詳細な評価と採取が予定されている(甲2号証)。

(3) 近隣栽培イネとの交雑防止措置
@ 被告は,公表した栽培実験計画書において,以下のような交雑防止措置を取ることを明記している(甲2号証)。
I. 近隣栽培イネとは26メートル以上の距離を保つ(最も近接した近隣栽培イネは220メートル)。
II. いもち病抵抗性検定の目的で周囲の水田と同時期に移植されたGMイネは開花前に穂または植物体を刈り取る。
III. 白葉枯病抵抗性検定,栽培実験・採取目的で移植するGMイネの移植時期は6月下旬から7月上旬に遅らせることにより,周辺栽培イネとの開花期間の間隔を2週間以上見込む。
IV. GMイネの開花期には,イネ固体を袋掛けするか,栽培区全体を不織布で覆う。

(4) 生物多様性影響評価
 本来、被告の本申請書は、農水省等で作成した告示「遺伝子組換え生物等の第一種使用等による生物多様性影響評価実施要領 」(以下、本実施要領という。甲14号証)にのっとって作成されるべきものであり(第一、趣旨)、評価すべき項目として別表第二が掲げられ、そのうち「微生物」の項目中に「その他の性質」という欄があるが、本件ではこの欄に後記するディフェンシン耐性菌が該当する。また、本実施要領は、評価すべき手順として別表第三が掲げられているが、本件では、まず第一に、カラシナディフェンシン耐性菌の出現とその耐性菌のカラシナへの影響のことが考慮されるべきである。
 しかるに、本申請書の生物多様性評価においては,ディフェンシン耐性菌の出現による土壌微生物等への影響を含めた生物多様性への評価に関する記載が全くない。
 また,イネの交雑に関しては,イネ花粉の寿命は最大で10分程度,花粉飛散距離との関係では20メートルを越すと交雑率は0%に至るとの見解が引用されている(甲1号証)。

6 被告の野外栽培実験における交雑の可能性,生物多様性に及ぼす影響
(1) 予防的配慮,被告における安全性の立証責任
@ 上記のとおり,わが国は,リオデジャネイロ国際環境会議の開催期間中に,地球上の多様な生物をその棲息環境とともに保全することを目的とした「生物多様性に関する条約」に批准した上で,その後,同条約の国内担保法たるカルタヘナ法を制定し,また,生物多様性条約を実効あらしめ生物多様性を真に維持していくための国の方策(生物多様性国家戦略)を閣議決定し,その後、上記条約の国内担保法たるカルタヘナ法を制定した。
A 上記環境会議において宣言された環境政策の諸原則(「リオ宣言」)は,既に環境政策の世界ルールとなっているが,同宣言の15は,環境保護における予防的配慮の重要性を明らかにしている。
B そして,わが国の「生物多様性国家戦略」は,上記のとおり,リオ宣言の主意を平易な文章で国民に示しながら,「予防的順応 的態度」の重要性を説いている。そこで述べられている「エコシステムアプローチ」を,ここに再記する。

20051219c

C このエコシステムアプローチが,科学者や技術者に謙虚な予防的姿勢や,国民への情報公開・説明責任を求める所以は,生物の多様性と自然の物質循環を基礎とする健全な生態系は,これが侵害されればヒトの生存そのものを脅かすこととなり(被害の甚大性),しかもその回復は困難で(回復の困難性),被害の発生は時を経てから発生するためその原因究明も困難になる(被害の晩発性)という事情があるためである。
それだからこそ,科学技術やバイオテクノロジー開発の重要性を説く科学技術基本計画やBT戦略会議,食料自給率の向上を目指し農業技術の開発の重要性を説く新食料・農業・農村基本計画も,おしなべて,開発者に対し,安全性の重視,開発倫理の確立,国民への情報提供,説明責任を基本理念に掲げているのである。
そして,上記した関係各省告示も,このような諸要請を踏まえたうえで,第一種使用規程の承認基準として,申請者に対し,I.生物多様性に影響がないこと(の証明),II.その点について確たる知見,情報があること,III.きちんとした防護措置が取れることという,厳しい3要件を課しているのである(告示第1号第一1(2)ロ)。
D 以上のような,遺伝子組換え栽培実験の規制に関する国際条約,これを担保する国内法令,法令運用基準等に鑑みるとき,本件栽培実験に関し,原告らが指摘し,危惧する生物多様性に対する影響については,開発者たる被告らが,指摘された事実の不存在を証明する責任を負っているというべきである。
 本件のような,科学技術の開発にともなう公共的利益の侵害を背景とした民事訴訟において,旧来の証明責任理論にしたがい,権利の救済を求める原告らに権利侵害事実の厳格な立証を求めることは,生物多様性の保護に関する国際条約や関係国内法令の趣意に照らし,著しく時代感覚を逸したものとなる。

(2) 本GMイネ実験栽培による近隣栽培イネとの交雑の可能性。
 前記のとおり,被告は,本野外実験における交雑防止措置として,I.近隣栽培イネとの26メートル以上の離隔,II.開花時期の2週間以上の離間,III.開花時期のイネ固体への袋掛けもしくは栽培区全体への不織布掛けを予定し,これにより,周辺イネとの交雑は完全に防止できるとしている。
 しかし,原告らは,以下の事実から,本GMイネによる交雑の懸念を払拭できない。
@ 防止条件I.(26メートル以上の離隔)は,イネ花粉の交雑能力は5分程度という知見を前提にしていることが窺えるが,この知見は,イネの人口受粉という人為的,効率的交雑を検証した際に得られた知見(人口受粉に使用するに適したイネ花粉は開花から5分程度という知見)にすぎない。
 これに対し,生物学的な意味でのイネの受粉能力は50時間に及ぶとの有力な知見が存在するのであって,自然交雑の防止という観点からは,この50時間を基礎に,離隔距離を設けなければならない筈であり,26メートル程度の離隔では,自然交雑を十分に防止できないと考える(甲15号証)。
 そもそも,農水省の「第1種使用規程承認組換え作物栽培実験指針」が,イネの交雑防止に必要な距離20メートルを出す根拠にしたのは5検出例にとどまり,しかも,この5検出例のうち、最大の交雑距離を検出したとされる事例で調査したイネの株数はわずか2株にすぎないのであって,交雑防止に関する情報としては,余りに不十分なものである。
A 次に,防止条件II.(開花時期の2週間程度以上の離間)については,イネの生育は,当該年度の天候や気温といった自然環境や栽培土壌,生育技術等により影響を受けるから,机上の計画どおりの離間を保つことは本来至難なことであるが,平成17年に栽培されたGMイネと近隣イネとの開花期日の離間も1日程度となってしまい,開花期の調整は困難であって交雑防止の有力な手段とはなりえないことが被告自身の手により既に実証されている。
B また,防止条件III.(袋掛け,不織布)も,人為的な措置として十分な実効性が保てるのか,このような措置による実験目的への障害が,措置自体を不十分なものにするのではないかとの懸念を抱かざるをえなかったところ,平成17年に栽培されたGMイネ固体への袋掛けの杜撰さは,原告らの危惧を遥かに上回るもので,いたるところで,袋が破れ,イネが飛び出していることが視認された。
 栽培区全体への不織布についても,栽培期間中におけるGMイネの観察,破損した固体袋の補修等のため,栽培区への出入りが不可欠であり,これによる花粉の飛散の懸念も払拭できていない。
 イネの花粉の大きさは直径0.04o〜0.02oであり,袋の破損がわずか1cm2 (1cm×1cm) であったとしても,直径0.02oの花粉にとっては約30万倍もの大きさになることを考えれば,袋掛け等による交雑防止が完全でないことも明らかである。

 以上のとおり,被告が計画において示している交雑防止策はいずれも不十分なものである。言うまでもなく,イネは自己増殖していく。たとえ1粒のGM種子でも、5年後には約28兆粒のGMイネが発生している可能性がある。仮に,1穂約100粒のイネの1粒(1%)に交雑が発生したとしても,1坪1,200穂で1,200粒。10aで約40万粒,50aでは200万粒、1haでは400万粒が交雑する可能性があり,数年後には莫大な数のGMイネとなって生態系を脅かすこととなる。

(3) ディフェンシン耐性菌出現の可能性
 抗生物質に対する耐性菌の出現が医療を混乱に陥れ,生態系そのものに重大な脅威を与えていることは,既に公知の事実である。抗生物質ペニシリンは,イギリスの研究者フレミングがアオカビの周囲で細菌が死滅しているのを発見したことを端緒に作り出されたものであるが,細菌は数百万年にわたりこの自然の抗生物質に接触してきた。ところが,これが1940年代から医薬として広く使われたことにより,多くの耐性菌を出現させ,1960年代にはペニシリンを無力化させてしまった。抗生物質と耐性遺伝子との協調関係を破壊する抗生物質の濫用が,耐性遺伝子の量を爆発的に増加させる結果となったのであり,病原菌の耐性獲得は,物質との接触の頻度によることが明らかとなっている。
 前述のとおり,ディフェンシンの抗菌作用に関する研究,技術開発は,近年盛んになってきているが,それとともに,耐性菌問題に対する認識も深まってきている。動物型ディフェンシンに対する耐性獲得例は枚挙にいとまがないが,植物型ディフェンシンについては,研究の歴史が浅いこともあって,抗菌性等の作用機作そのものが未解明であり,耐性菌についても動物型ほどの事例報告はないが,酵母菌がダリアのディフェンシンに耐性を獲得した事実や,実験で耐性獲得が認められた例は報告されており,現時点で,植物型ディフェンシンには自然条件で耐性菌が発生しないと考える科学的合理性はない(甲3,4,16から21号証)。

 ところで,原告らが,本GMイネの実験栽培により,ディフェンシン耐性菌が出現し、外部に流出する可能性を危惧するのは以下の事実からである。
@ ディフェンシン遺伝子は,病原菌に感染したときだけ発現(誘導的発現)して,抗菌性ペプチドを生産するのに対し,本GMイネは,使用したプロモーター遺伝子(pLS)により,挿入されたディフェンシン遺伝子は,病原菌の有無にかかわらず不必要に常時発現(構成的発現)される結果,抗生物質の濫用と同様に,耐性菌が発生する虞がある(甲4,16から20号証)。
A 既知の実験例において,水にディフェンシンと微生物と微生物のエサにある物質を混ぜるだけで耐性菌が出現する報告があるところ,本野外実験の圃場は,水田の水や土壌中で微生物が増殖しており,イネの茎から漏出したディフェンシンが水にとけ,水田内でディフェンシン濃度差も発生することから,より耐性菌は出現しやすく,しかもディフェンシン耐性のない微生物の生育は阻害されるから,耐性菌の増殖も促進されると予測される。
 いわば,水田には多種多様な微生物が生存し,また多種多様の病原菌も存在するが,水田そのものが耐性菌を繁殖させる巨大な培養装置となって,様々な病原菌がカラシナ由来のディフェンシンに耐性を獲得し,これが,他の生物種のディフェンシンに対しても耐性を持つことが懸念される(甲4,16から20号証)。
B 被告の圃場には昆虫やネズミが出入りできるスペースがあることから,水田で生育した耐性菌が圃場外に容易に流出する虞がある。
また 被告の本栽培実験の計画書(甲2号証)では,水田の水やドロ,使用した機械の殺菌処理が予定されていなことから,水やドロ,機械に付着した耐性菌がそのまま放置され,これが外部に流失する虞れがある(甲18号証)。
     
 このような原告らの懸念に対し,被告らは,仮処分手続きのなかで,以下のとおり弁明していた。
@ カラシナもディフェンシン遺伝子は常時作動しており,ディフェンシンの発現態様は本GMイネと異ならない。本GMイネについてだけ耐性菌の発生を危惧するのヘ不合理である。
A 細胞同士をつなぐ細い通路(プラスモデスム)の直径は20〜40ナノメーターであり、そこを通過できる物質の大きさは分子量に換算して800以下のサイズであるところ、カラシナディフェンシンの分子量は約5、700あるから,細胞膜を通過できず外部に分泌しない。
B カラシナディフェンシンはプラスに荷電されているが,細胞膜外に分泌されようとする際,マイナス荷電されて細胞を取り囲んでいる細胞壁と結合(トラップ)するから,ディフェンシンは細胞間隔にとどまっている。このトラップを乖離させるには,細胞壁の電荷を中和させる必要がある。
C 植物由来のディフェンシン耐性菌出現の報告論文は,ディフェンシンの病原菌に対する作用機構等を明らかにする実験過程で,他の生物相等の環境の存在しない,およそ自然とかけ離れた特殊な人工的環境のもとによるものであり,自然界で容易に耐性菌が発生する根拠にはならない。

しかし,これらの反論は以下に述べる通り誤っており,少なくとも,上記したエコシステムアプローチにおける予防的順応的態度に照らせば,開発者としての説明義務,耐性菌不出現の立証義務を尽くしていない。
@ まず,カラシナにおいても遺伝子が常時発現しているとの点であるが,甲17号証の河田陳述書および甲19号証の金川陳述書(3)が述べているとおり,ディフェンシン遺伝子は,通常,病原菌に感染したときだけ発現する(誘導的発現)ものであるのに対し,被告の承認申請書11頁の4(2)によれば,本GMイネは,「供試した全ての組換え固体において,茎および葉特異的にDEFに由来するRNAバンドが検出された」と明記されており,これは,本GMイネが病原菌に感染しなくても常時ディフェンシンを発現していることを意味しているものである。
A 次に,カラシナディフェンシンのイネ細胞膜通過の可否の点であるが,同ディフェンシンのサイズは直径約2〜4ナノメーターにとどまるから,容易に細胞膜を通過する。
B さらに細胞壁との結合(トラップ)の点も,水田の水にはCa2+、Mg2+、Na+、 K+など、マイナスの荷電を中和するイオンが十分に存在するので、これらのイオンで細胞壁の荷電が中和され、結合したディフェンシンが容易に解離し、溶出する。
C 最後に,耐性菌出現の実験報告論文については,菌とエサとディフェンシンを混ぜて放置するだけで耐性菌が出現したというものであるから,自然界でもこの三者が混合すれば耐性菌が出現する可能性があり,他の生物相との環境影響が耐性菌発生にとってプラスとなる場合も多いのである。少なくとも,他の生物相との環境影響が,耐性菌の発生を否定する根拠にはならない。

詳細は,専門家の意見書に譲るが(甲4,16から20号証),被告の上記反論は,到底,原告らの提起している懸念を払拭させるようなものではない。

(4) 本野外実験の違法性と原告らの差し止め請求等
@ 以上のとおり,本野外実験は,近隣イネとの交雑の防止,導入されるディフェンシン遺伝子から常時生み出されるディフェンシンと水田に棲息する各種病原菌との接触による耐性菌の出現,増殖,流出・伝播に対する十分な検討を欠いたまま,第一種使用規程の承認を受け,栽培計画を実行したものであって,生物多様性の維持に厳重な注意を払うべきとしているカルタヘナ法(同法4条5項は、「野生動植物の種又は個体群の維持に支障を及ぼすおそれがある影響その他の生物多様性影響が生ずるおそれがないと認めるとき」に限り使用を承認するとして定めている)に実体的にも手続き的にも違反する瑕疵があるばかりでなく,この瑕疵は,現実に,生態系に重大な影響を及ぼす可能性を有している。

A 安全性審査を受けていない本GMイネと周辺栽培イネとの交雑は,原告らはコメ生産者に直接の被害を与えるばかりでなく,安全なコメを選択して食するという一般消費者の権利(人格権)も侵害するものであって違法である。
また,専門家が指摘するとおり,ディフェンシンという抗菌たんぱく質に対する耐性菌の出現・流出は,生態系をかく乱する要因となり,世界的規模で,人間を始めとした動植物の生存に重大な脅威となるのであり,これを防止するには,本野外実験の中止しかない。とくに,抗生物質に対する耐性菌が抗生物質を服用していない者には影響を与えないのに対し,ディフェンシン耐性菌はすべての生物種から病原菌に対する抵抗性を失わせる可能性を秘めているのであって,生態系、人体の健康に及ぼす影響はとうてい抗生物質耐性菌の比ではない(この問題の深刻さが、仮処分手続において、日本及び世界の少なからぬ研究者に、実験中止の要望書を提出させたのである)。
B 以上の危険を防止するには、本件栽培実験の中止しか方法はなく、原告らは被告に対し、平成18年4月から本件圃場において予定しているカラシナ由来のディフェンシン遺伝子を挿入したイネの実験栽培(本件栽培実験)を差し止めるよう請求する。

また、被告の違法な本件栽培実験の強行により、本件圃場の近隣でコメを生産・出荷し生計を立てている原告1ないし3は、新潟産米という高品質ブランドの毀損による販売量・販売額の低下、耐性菌の増加による将来の生産コストの増加等、農業従事者としての生産基盤を一挙に失わせ、回復不能の損害を蒙らせるおそれに直面しており、原告1ないし3が被告による違法な栽培実験の強行により受けた精神的損害は金50万円を下らない。

さらに、原告4ないし15は、コメを主食として生活するものである。健全な食物の生産と消費を基礎とする食の安全、安心は、ヒトが平穏に生存し、自らを発展させ、持続可能な社会を維持するための最も基本的な前提条件というべきものであって、それ自体が安全に、安心して食するという人格権であるのみならず、現代におけるあらゆる生存権、人格権の基礎をなすものであるところ、原告4ないし15は、本GMイネの実験栽培により交雑が起きる危険があることやディフェンシンという抗菌たんぱく質に対する耐性菌の発生の危険があること等から、コメの安全な生産、地球環境の保全、生物多様性の維持等について強い危惧を覚えており、原告4ないし15が被告による違法な栽培実験の強行により受けた精神的損害は金10万円を下らない。
   
C以上より、原告らは、被告に対し、
I.人格権に基づき、本件栽培実験の中止
II.これまでの違法な栽培実験の強行という不法行為に基づく精神的損害の賠償として、原告1ないし3については各金50万円及び原告3ないし15については各金10万円並びにそれぞれ訴状送達の日から支払済みまで民法所定年5分の遅延損害金の支払い
を、求める。
以上


証拠方法


甲第22号証    原告代理人柳原敏夫作成の報告書(本野外実験差止の仮処分事件の一審決定後の経過について)
甲第23号証    本野外実験差止の仮処分事件の特別抗告理由書(但し、別紙の一部省略)

添付書類


   1、委任状         15通
   1、資格証明書        1通

当事者目録


以下、略
posted by GMNG at 01:49| Comment(7) | TrackBack(0) | 裁 判 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年11月25日

特別抗告申立理由補充書

平成17年(ラク)第561号
申立人 山田 稔他11名
相手方 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構

特別抗告申立理由補充書


平成17年11月10日


東京高等裁判所第5民事部 御中

申立人ら代理人
弁護士     神山 美智子

同       柳原 敏夫

同       光前 幸一

同       柏木 利博
 
同       近藤 卓史

同       馬場 秀行



頭書事件の特別抗告申立理由を以下のとおり補充して主張する。

1 本件特別抗告は、原審裁判所が、民事保全法7条が準用する民事訴訟法143条の解釈を誤り、抗告人らの適正な裁判を受ける権利を侵害したので、憲法に第32条に違反するものであり、また国民の幸福追求権を保障した憲法第13条にも違反するものであることをも、理由として補充追加主張するものである。

2 原審裁判所は、抗告人らの抗告の趣旨変更の申立を却下したが、これは民事訴訟法第143条の解釈を誤ったものである。

3 抗告人らは原審において、以下のとおり抗告の趣旨の変更の申立をした。
(1) 相手方は、刈り取った本件GMイネ、収穫したもみおよび圃場に残された株につき、発生したディフェンシン耐性菌もしくはその発生を予防するため、本決定受領後2日以内に、火炎滅菌、乾熱滅菌(160℃で4時間、または180℃で2時間)、加圧蒸気滅菌(121℃で20分)のいずれかの方法により耐性菌の殺菌処理をせよ。
 (2) 相手方は、本件圃場の土壌につき、発生したディフェンシン耐性菌もしくはその発生を予防するため、本決定受領後2日以内に、火炎滅菌、乾熱滅菌(160℃で4時間、または180℃で2時間)、加圧蒸気滅菌(121℃で20分)のいずれかの方法により耐性菌の殺菌処理をせよ。

4 これに対し原審裁判所は、「民事保全手続には暫定性(仮定性)、迅速性(緊急性)、付随性という特徴があるから、この手続の性質上、保全の趣旨の変更については、より厳格に判断すべきであると考える。」とし、「抗告人らは、本件審理が大詰めに近づいた平成17年10月4日に至って、突然に抗告の趣旨を変更すると主張したもので」あり、「明らかに従前の趣旨で求めていた本件GMイネの刈り取り等とは別の仮処分を求めるものであると言わざるを得ず、その余の(1)及び(2)にしても、相手方の防御に関して新たに過大な負担をかけるものであり、いずれも、本件手続を遅延させることになるといわざるを得ない。」として退けた。

5 しかしながら、ディフェンシン耐性菌が出現した場合の、人類を含む生物・生態系へ及ぼす影響の深刻さを考えれば、その影響を未然に防止することは、本件GMイネの野外実験に踏み切った相手方本来の、当然の責務であり、このような防止策は、抗告人らが求める前に相手方自ら当然行うべき措置である。 
 抗告人らが申立の趣旨を変更してまで相手方に求めた措置は、いわば花火の後始末に等しいものである。火事になるおそれを主張して花火の中止を求める仮処分が却下されたとしても、花火の後始末は、花火で遊んだ者の当然の義務である。
原審裁判所の上記認定は、ディフェンシン耐性菌の出現を杞憂とした判断に基づくものであるが、相手方は、本件実験許可に際し、ディフェンシン耐性菌出現の有無につき何らの調査も、室内実験もしていないのであるから、耐性菌出現の報告がないなどという程度のことで、耐性菌を未然に防止するための後始末をしなくて良いはずがない。

6 原審裁判所が述べるように、仮処分には迅速性(緊急性)があるからこそ、後始末に等しい変更後の趣旨で求める程度の措置を相手方に緊急にとらせる必要があるのである。
しかも相手方にとって、この程度の後始末をすることは一挙手一投足の労に過ぎず、過大な負担をかけるようなものでは決してない。
なお、本件仮処分を遅延させてきたのは相手方であって抗告人らではない。原審裁判所は、抗告人らの迅速な裁判進行を求める上申書を無視し、自ら裁判を遅延させた相手方を擁護しているに等しいものである。

7 人類の未来にも直結する野外実験の適切な後始末も命じることができないのでは、裁判制度の存在価値が失われると言っても過言ではない。
相手方に過大な負担をかけることもなく、裁判が遅延するおそれもないとき、抗告の趣旨変更を許さないのは、民事保全法7条が準用する民事訴訟法143条の解釈を誤り、抗告人らの憲法第32条により保障された適正な裁判を受ける権利を奪うものである。

8 また憲法第13条は、「すべて国民は個人として尊重される。生命、
 生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に
 反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」
 と定めている。国民はすべて、生命及び幸福を追求する権利を有しており、裁判所も当然のことながらその権利を最大限に尊重すべき義務がある。
  しかるに原審は、ディフェンシン耐性菌出現のおそれを杞憂として退けたが、世界中の良心的な微生物学者が指摘するそのおそれが現実のものとなったときには、人間を含む生物・生態系が破壊されるのである。そうならないように、抗告人らは相手方の実験の適正な後始末を要求し
 ているに過ぎないのであって、このような抗告の趣旨変更は、憲法第1
 3条の生命・幸福の追求権に根拠がある。その変更を許さない原審裁判所の判断は、憲法第13条に違反した許されないものであることは明らかである。

9 なお11月4日付で提出した理由書末尾の別紙概要中、同5の生井兵治氏の肩書き「筑波大学農学部教授」とあるは誤記であるから、「筑波大学農林学系教授」と訂正する。
posted by GMNG at 14:12| Comment(21) | TrackBack(0) | 裁 判 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年11月12日

抗告不許可決定

東京高裁より抗告不許可決定(PDF)が出されました。(11/07)
posted by GMNG at 11:45| Comment(2) | TrackBack(2) | 裁 判 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年11月10日

特別抗告理由書

平成17年(ラク)第561号
申立人 山田 稔 外11名
相手方 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構

特別抗告理由書


2005年11月4日


東京高等裁判所第5民事部 御中

申立人ら代理人
弁護士     神 山 美智子
同       柏 木 利 博
同       光 前 幸 一
同       近 藤 卓 史
同       馬 場 秀 行
同       柳 原 敏 夫



頭書事件の抗告理由は以下のとおりである。

目 次

1、申立人が特別抗告に及んだ理由              2頁
2、憲法違反の意味について                 3頁
3、はじめに――申立人にとって予想外の出来事――      4頁
4、本裁判の主題                      5頁
5、本裁判の争点解明と抗告審の審理経過           6頁
6、本GMイネと一般イネと交雑の可能性           7頁
7、ディフェンシン耐性菌の出現とその影響          9頁
8、野外実験承認のための申請段階における重大な手続違反   12頁
9、判断基準としての「予防原則」の必要性          14頁
10、抗告の趣旨変更の可否について 15頁
11、終わりに――未だ生まれざる者たちに対する義務の履行―― 17頁


1、申立人が特別抗告に及んだ理由
言うまでもなく、申立人が本件で最も危惧してやまないことは、ディフェンシン耐性菌の出現・流出による人類その他動植物に及ぼす重大かつ深刻な影響(健康被害、生態系の破壊)に対し、このような重大な侵害を受けずに健康で文化的な生活を営む権利が憲法上保障されているにも関わらず(憲法25条・13条)、学問研究の自由の名の下に、憲法上も最も尊重されて然るべきこの生存権が回復不可能な形で損なわれてしまうことである。
こうした危惧が決して申立人の「杞憂」でないことは、いったん発生するや、国内において、あれほど徹底した予防対策を繰り返してきたにも関わらず、少しも続発を食い止めることができないばかりか、今や世界的流行の懸念さえ現実化してきた(ディフェンシン耐性菌と同様の生物災害である)鳥インフルエンザの猛威を見れば明らかである。
また、近年の大規模食品事故の過去には見られなかった顕著な特徴として、社会衛生の素晴らしい向上にもかかわらず、O157食中毒やBSE(狂牛病)などの深刻な生物災害が続発し(甲1)、しかもその被害の発生、拡大に、本来草食動物の牛に死亡牛のリサイクル利用(飼料として肉骨粉を使用)の導入といった経済効率優先の人為的な操作の導入が大きく寄与している点である。つまり、現代の重大かつ深刻な生物災害は、たまたま自然発生的に生じたものではなく、人為的な操作が引き金となって発生する可能性が極めて高いものであることを承認せざるを得ない。
そこで、こうした大規模食品事故の脅威の結果、今や、O157食中毒やBSE(狂牛病)などの被害を受けずに健康で文化的な生活を営むことは現代市民にとって極めて切実な、それゆえ最も根源的な要請となっており、したがって、それが、憲法25条、同13条により、生存権の人格権的側面・自由権的側面として保障されるべきものであることは言うをまたない。
しかるに、原審裁判所は、この点の重大性をまったく顧みないまま、学問研究の自由の名の下に相手方の遺伝子組換え(以下、GMという)イネの野外実験を認め、その結果、憲法上も最も尊重されて然るべき生存権の侵害をもたらす憲法違反の決定を下した。
そこで、申立人は、本裁判で問われている問題が今世紀の人類の生存に深く関わる最重要の問題であることにかんがみ、特別抗告を行なったものである。

2、憲法違反の意味について
「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」を定めた憲法25条は、裁判上これまで、主として「最低限度の生活を」実現するための経済的な保障をめぐって問題になったが、しかし、生存権はもともとそのような経済的、財産的側面だけにとどまるものではなかった。生存権に基づき「食品衛生法、環境基本法、大気汚染防止法など公衆衛生のための制度の整備も図られてきた」(芦部信喜「憲法」新版239頁)ことからも明らか通り、また、1960年代の高度成長の結果、大規模な公害が発生し、環境が著しく破壊される中で、「健康で快適な生活を維持するための条件として、良い環境を享受し、これを支配する権利」(環境権)が、生存権の一内容として主張されるに至ったことからも明らかな通り、さらには、文化的な創造物保護に関する基本法である著作権法が、財産的な権利(著作権)のみならず、人格的な権利(著作者人格権)をも保障していることからも明らかな通り、生存権もまた、経済的、財産的側面の保障のみならず、人格権的な側面まで保障されることにより、初めてその本来の目的が達成されるものである。つまり、市民は、生存権の人格権的側面として、健康を破壊されることなく、また我々の生存の基盤である生態系を破壊されることなく、健康で文化的な生活を営む権利を有する。同時にそれは、この権利の実現を図るために、公権力による積極的な環境保全・改善のための施策を公権力に要求するという意味で社会権的な側面を有すると共に、健康被害、生態系の破壊をもたらす他者の経済活動・研究活動を規制するという意味で自由権的な側面を有する(その意味で、憲法の体系上、13条の幸福追求権の一内容をなすと言うことができる)。
そして、表現の自由が民主主義社会の死命を制し、その根幹をなす極めて重要な人権であるとすれば、生態系を破壊されることなく健康で文化的な生活を営む権利は、それが失われたときには人類のすべての自由と権利がもはや存立し得なくなるほどの、人間社会にとって根幹をなす最も重要な人権である。
本件では、「人間の歴史上前例のない技術上の力業」である遺伝子組換え技術という人為的な操作により、市民の健康や生態系に深刻な災厄をもたらす危険性という問題が問われており、まさに、生存権の自由権的な側面、つまり、人間社会の根幹をなす最重要な生存権と学問研究の自由という人権相互の最も深刻な衝突の調整が問われており、原審裁判所は、その調整の仕方について、「人権の実質的公平な保障を確保」(宮沢俊義「憲法T」235頁)することが求められている憲法の解釈を誤ったものである。
 また、10で後述する通り、原審決定は、不適切な訴訟指揮と申立人らの申立の趣旨変更に対し不当な制限を加えることにより、申立人らの裁判を受ける権利(憲法32条)をも侵害したものである。

3、はじめに――申立人にとって予想外の出来事――
 正直なところ、我々申立人らやその代理人ですら全く予想していなかった事態が本仮処分裁判を通じて起きた。それは、「GM技術に従事する科学者の95%は開発側に立っている」(甲58のNHK-BS番組のラスト)現状では、号令一下で70通もの研究者の署名をかき集めることは絶大な力を持つ相手方なら不思議でも何でもないことであるが、これとは好対照をなす、新潟県の全く無名の市民である申立人らにとって、それまで何のご縁もなく、名前すら知らなかった科学者・研究者たちから、しかも日本全国のみならず世界中から、本野外実験の最大の危険性(ディフェンシン耐性菌出現の危険性)について、警鐘を鳴らす声が次から次へと届けられたことである(甲86〜92。94。同118〜121)。なぜ、彼らは、見も知らない我々の裁判のために、一文の得にもならないどころか我が身の研究に不利益・障害が及ぶであろうことを承知でその危険を顧みず、敢えて今回の国家的プロジェクトに異議の声をあげたのだろうか――思うに、科学的な認識として、ディフェンシン耐性菌出現の可能性が市民の人体の安全のみならず地球上の生態系に及ぼす影響の重大性を考えたとき、研究者として自らの理性と良心に照らし、とうてい黙っていることができなかったからとしか思えない。
これに対し、司法(原審の高等裁判所)は、本野外実験の危険性について、これらの研究者に匹敵するだけの理性と良心をもって誠実に判断に臨んだであろうか。答えは遺憾ながら完全に否である。その結果、原審裁判所は、憲法23条の学問研究の自由の名の下に、この自由と鋭く衝突・対立する「健康を破壊されることなく、また我々の生存の基盤である生態系を破壊されることなく、健康で文化的な生活を営む権利」(憲法25条、13条)が不当に侵害されることを容認し、地球の環境破壊に手を貸したのみならず、環境保全との調和の中でしか科学的研究の未来はないことを真摯に考えている多くの研究者の人たちに深い失望を与えた(別紙4〜8の研究者の感想参照)。本特別抗告は、こうした彼らに希望を取り戻すための裁判である。

4、本裁判の主題
本裁判の主題は単純明快である。生産者または消費者である申立人らが本野外実験に対し抱く根本的な疑問とは以下のように要約することができる。
本野外実験で栽培される、「ディフェンシン」を常時大量に産出する本GMイネについて、
(1)、何よりも第一に、ディフェンシン耐性菌が容易に出現し、なおかつ外部に流出して大量に自己増殖する可能性があるにもかかわらず、これに対する対策が全く取られていないこと、
(2)、未だ食品安全性の審査を受けておらず、殺菌剤などと同様に殺菌作用を持つ「ディフェンシン」が果して人体へ害作用がないのかなどの作用機構も未解明であること、
(3)、その「ディフェンシン」が(単に、胚乳部分だけではなく)およそコメの食用部分には絶対に発現または移行しないかどうかも未解明であること、
 このような状況で本野外実験を強行した結果、
(a)、出現したディフェンシン耐性菌が実験場の外部に流出し、自己増殖したディフェンシン耐性菌が、人体の健康のみならず地球上の生態系に重大かつ深刻な影響を及ぼす恐れがあり、
(b)、自然交雑の可能性は大いにあり得る以上、上述(2)の安全性が確保されない本GMイネが自然交雑を通じて一般水田に広がり、一般米と混じった本GM米を消費者が口にする蓋然性は高く、
(c)、さらには、自然交雑を通じて一般水田に広がった本GMイネを通じて、ディフェンシン耐性菌はここでも容易に出現する可能性があり、そうなったら、ディフェンシン耐性菌は電光石火に至るところに広まることは避けられない。
それに対し、申立人はこう問わずにはおれない。
消費者への健康、生物多様性の保全、環境への悪影響の防止を政府のバイオテクノロジー戦略の最優先課題として掲げ(甲51)、また、「疑わしきは罰する」を旨とする予防原則をGM食品の安全性や生物多様性の保全に関する原則として掲げるわが政府の下で(甲70。同110の放送大学講義)、
予見不可能性 と回復不可能性 を本質とするGM事故が問われる本件について(甲108)、
本GMイネに関してリスク(危険)のみ負い、ベネフット(利益)は何も享受しない生産者または消費者である申立人らが、
一体いかなる理由でもって、上述したように人体の健康を脅かし、生物多様性の保全を危うくし、生産と環境への悪影響が確実に懸念される本GMイネの野外実験という危険な状態を受忍しなければならないのだろうか、と。

5、本裁判の争点解明と原審の審理経過
(1)、前述の主題をめぐって、申立人は、原審の冒頭から、争点を4つに絞って、次の通り提示した(準備書面8・11)。
@. 自然交雑の可能性につき、これを判断する上で決め手となる「イネの花粉の交雑能力の時間はどれくらいか」という前提問題をめぐって、相手方及び一審裁判所は、本来なら生物学的な見地に立つべきところ、これを「人工受粉」的な見地と取り違えるという致命的な誤りに陥っているという問題。
A. ディフェンシン耐性菌の出現につき、この出現を報告した2つの論文(甲82、83)から本野外実験においてもディフェンシン耐性菌が出現する可能性は高いと推測することが合理的であるのに、これを否定する相手方及び一審裁判所の見解は誤ったものではないかという問題。
B. 第1にコマツナ由来の導入遺伝子を、カラシナ由来と偽って本実験承認の申請を行なった点で、第2にディフェンシン耐性菌の出現とその影響という重大な問題について記載を怠った点で重大な手続違反ではないかという問題。
C. 予見不可能性と回復不可能性を本質とするGM事故が問われる本件では、判断基準として「疑わしきは罰する」の予防原則の適用が必要不可欠ではないかという問題。
(2)、これに対し、「説明責任を尽くす」と表明した相手方は、驚くべきことに、Bを除いて(その反論すら10月4日までかかった)、原審の間、何ひとつ反論をせず、首尾一貫して「黙して語らず」の態度を取った。
(3)、そこで、本野外実験の安全性について徹底的な解明を望む申立人は、相手方の沈黙を「申立人の主張を認めたもの」と認めてよいか明確にするために、原審裁判所に、これらの争点に関する相手方の認否・反論を尽くすように求めた。
(4)、しかるに、原審裁判所は、一方で、相手方からこれらの争点に対する明確な認否・反論が一切出されなかったにもかかわらず、寛大にも、相手方の頑なな沈黙を「申立人の主張を認めたもの」とは扱わず、他方で、原審裁判所自身もまた、申立人が原審の核心であると提示したこれらの争点について、相手方と同様、Bを除いて、全てに沈黙し、ひとつも判断しなかった。
しかし、結果として、原審裁判所は、申立人の提示した争点につき、申立人の主張をすべて否定する形で申立を棄却する結論を導いた(なぜなら、申立人の主張を肯定するのであれば、原審の結論を導き出すことは不可能だから)。しかし、申立人が提示した争点を、最低限度の理性と良心でもって、注意深く正確に理解さえすれば、申立人の主張を否定する態度が「いかにまちがいであるか」が、一点の疑義もなく明らかにされる筈である。以下、これをひとつずつ明らかにする。

6、本GMイネと一般イネと交雑の可能性
(1)、問題の所在
イネの自然交雑の可能性について判断する上で、「イネの花粉の交雑能力の時間はどれくらいか」という前提問題の判断が決定的に重要であった。なぜなら、本野外実験で採られた交雑防止策は、イネの花粉の交雑能力の時間が「5分説」を前提に策定されたものであって、申立人が主張する「50時間」であれば完全に破綻する内容だったからである。
そこで、この問題をめぐって、両者は真っ向から対立し、相手方から「5分説」を裏付ける証拠(甲112、113の研究者の意見書)が提出され、一審裁判所もこれを採用した。
しかし、この証拠には、致命的な問題があった――この証拠が論拠とする研究論文はいずれも、生物学的にみてイネの花粉はどれくらいの時間、交雑能力を有するのかを問うたものではなく、もっぱら、人工受粉の見地からみて人工受粉に適するイネの花粉はどれくらいの時間までか、を問うたものだったからである。つまり、人工受粉に適するイネの花粉の寿命を、本野外実験の自然交雑の可能性を判断するために用いることが科学的に正しいことか。これがここでの争点である。
(2)、結論とその理由
結論として、これは明らかに間違っていると言うほかない。なぜなら、
そもそも、本野外実験におけるイネの自然交雑の可能性の問題とは、人工受粉が想定するような生命力ある元気な花粉に限定されず、どんなひ弱な花粉であろうとも、いやしくも交雑能力さえ保持しているものならばこれらをすべて前提にして、一般イネとの交雑の可能性を検討しなければならないものだからである。つまり、純粋に生物学的にみて、イネの交雑能力がどれくらいの時間あるのかを問題にしなければならないものだからである。
これに対し、人工受粉においては、その目的からして当然のことであるが、元気で生命力ある花粉だけが問題となり、それゆえ、人工受粉における交雑能力の時間とは、「元気で生命力ある花粉の状態は、どれくらいの時間か」ということを意味する。それゆえ、植物育種学を専攻する生井兵治氏の指摘(甲95。13頁下から7行目)を待つまでもなく、元気で生命力ある花粉の状態として、「5分説」を唱えるのは正しい。しかし、その結論を、およそ交雑能力を保持するすべてのイネの花粉の時間に当てはめるのは、明らかに間違っている。
(3)、原審裁判所の対応
以上の理由は、冷静に説明を聞けば誰でも分かる程度のことである(だからこそ、相手方も沈黙するしかなかったのである)。ところが、同時にこれは、正確に理解するか否かによって、本野外実験の危険性の判断が正反対になってしまう程の重大な問題である。にもかかわらず、原審裁判所は、この極めて重要な論点に対して、申立人が詳細を尽くした生井陳述書(甲95)に基づきくり返し主張・立証したにもかかわらず、これらに何ひとつ触れることなく、単に、
「疎明によれば、イネの花粉の交雑能力は5分程度であり」(3頁9行目)
とだけ認定した。つまり、申立人があれだけ指摘したにもかかわらず、原審裁判所は、本野外実験におけるイネの花粉の交雑能力の時間は、人工受粉で考える花粉の寿命(5分説)で考えればいいという非科学的な完全に間違った立場を取ってしまった。その結果、本野外実験の危険性の判断についても、正反対の結論を導いてしまったのである。

7、ディフェンシン耐性菌の出現とその影響
 ディフェンシン耐性菌については、時期的に次の2つの争点が存在する。
(1)、一審以来の論点に関する問題の所在
 一審において、申立人は、次のように主張した。
ディフェンシン耐性菌の出現につき、この出現を報告した2つの論文(甲82、83)から本野外実験においてもディフェンシン耐性菌が出現する可能性は高いと推測することが合理的である、と。
これに対し、相手方は、一審のギリギリの最終段階に至って(そのため、申立人には反論する機会が与えられなかった)、次の通り反論してきて、一審裁判所もこれを採用した。
甲82と83で報告された実験は、耐性菌の生育を可能にさせるため、他の生物相等の環境影響の存在しない、およそ自然界とはかけ離れた、特殊な、人工的環境の下で実験を行ったもので、この実験から、自然界で容易に、ディフェンシン耐性菌が出現するという主張の根拠にはならない(黒田陳述書2頁第2。乙116)。つまり、甲82や83の実験は「他の生物相等の環境影響の存在しない」室内の条件だから初めて耐性菌の出現が可能だったのであり、これと異なる、「他の生物相等の環境影響の存在する」自然界の条件では、同様に考えることはできない、と。
しかし、このような反論が科学的にみて正しいかどうか。これがディフェンシン耐性菌に関する第1の争点である。
(2) 、結論とその理由
結論として、この反論は科学的にみて正しいとは言えない。その理由は以下に述べる通りである。
木暮意見書(甲99。6頁(」))が指摘するように、「疎甲82と83には、菌とエサとディフェンシンを混ぜて放置するだけで、耐性菌が出たと書いてあるのですから、自然界でもこの三者が混じり合えば、耐性菌が出るだろうと予想するのが合理的」であり、この三者が混じり合う条件下にある本野外実験もまたこれと同様に考えるべきだからである。
したがって、木暮意見書が指摘する通り、「この予想を否定するには、相当に強力な根拠を示す必要があ」(7頁1行目)るが、以下に明らかにした通り、相手方の反論はこの推論を覆すに足りる「相当に強力な根拠」にはほど遠い。
第一に、相手方は、「他の生物相の環境影響の存在」の違いを強調するが、しかし、木暮意見書(甲99。6頁(。))が指摘するように、生物と他の生物との相互関係は「排他的に働く場合、協調する場合、何の影響もない場合」と多種多様であって、微生物間の共生関係も多くの例があり、それゆえ、科学的には、他の生物相が存在することが、耐性菌の出現を促進するのかそれとも抑制するのかは一概に言えない。
第二に、相手方は、他の生物相以外のものについて、たとえば最も典型的なものとして「餌の環境影響の存在」の違い、すなわち「実験室での人工の餌」と「自然界での餌」の違いも強調するが、しかし、木暮意見書(甲99。6頁(」))が指摘するように、どちらが「耐性菌の出現を促進するか」は一概に言えない。なぜなら、「人工的なエサだけよりも、多様なエサがある自然界の方が、多様な菌が生育して、耐性菌出現に有利な場合も出てくるから」であり、また、一般に、水田土壌1グラム中には数億個ないし数十億個に及ぶ大量の微生物が存在できるくらいエサになる物質が存在しており、むしろ本野外実験の水田のほうが「実験室での人工の餌」よりも耐性菌出現に有利な条件がそろっているとも言えるからである(金川陳述書(3)5頁2行目以下。甲91)。
第三に、相手方からの指摘ではないが、木暮意見書(甲99。7頁(、))が指摘するように、甲83の実験で、「突然変異誘発剤(エチルメタンスルフォン酸:EMS)を用いると耐性菌の出現頻度が8倍になった」と報告されているが、本野外実験のような「自然界」でも、この突然変異誘発剤EMSに匹敵する、突然変異を誘発する強力なものとして紫外線が存在する。このため、(突然変異誘発剤を使用しない)「室内実験」より「野外実験」のほうが、むしろ、「耐性菌の出現を促進する」と言うことができる。
以上の内容を、申立人は、原審において、詳細を尽くした木暮意見書(甲99)に基づきくり返し主張・立証したのである。
(3)、相手方の対応
この科学的な論点に関する申立人の主張・立証に対して、科学者の専門家集団である相手方は、原審において一言も反論しなかった。それは、相手方自身も申立人の主張を認めざるを得なかったからにほかならない。なぜなら、その後、相手方は、新たに次の論点を出してきて勝負に挑んできたからである。

(4)、原審の終盤に至り、相手方が新たに持ち出した論点に関する問題の所在
申立人の抗告理由提出後1ヶ月以上経過した9月27日に至って、相手方は、ディフェンシン耐性菌が出現する可能性がない理由として、新たに、「科学的に公知」な事実と称して、
「ディフェンシンがイネの細胞から外部に出る可能性は存在しない」
という反論を持ち出すに至った(相手方準備書面(5)。さらに、これは科学的に公知だから、平成16年11月の実験承認の申請手続のときにも問題はなかったと主張するが、それほどまでに科学的に公知と言うのなら、どうして、本仮処分申立から3ヶ月も経過した原審の最終段階に至って初めて、これを主張するに至ったのか、理解不可能である)。
しかし、このような反論が科学的にみて正しいかどうか。これがディフェンシン耐性菌に関する第2の争点である。
(5)、結論とその理由
結論として、この反論は科学的にみて、というより科学以前の初歩的な知識のレベルで誤った杜撰な主張というほかない。その理由は以下に述べる通りである。
ア、相手方は、ディフェンシンがイネの細胞から外部に出ない理由のひとつとして、「植物の細胞壁の構造的な特徴」を挙げる。つまり、細胞同士をつなぐ細い通路(プラスモデスム=原形質連絡)の直径は20〜40ナノメーターであり、そこを通過できる物質の大きさは分子量に換算して800以下のサイズであるところ、カラシナディフェンシンの分子量は約5、700であって、「大きすぎて‥‥この通路を物理的に通過することができない」、と(準備書面(5)7頁(6))。
しかし、これは科学以前の初歩的な知識のレベルで二重に誤っている。なぜなら、
第1に、ディフェンシンが細胞同士をつなぐプラスモデスムを通過したところで、あくまでも隣の細胞膜の内部に移動するだけであって、これをなんべんくり返したところで細胞膜の外に出るわけではなく、そもそもこの議論自体が失当だからである。
第2に、分子量約5、700のカラシナディフェンシンの直径は、約2〜4ナノメーターであり(分子量がほぼ同じインシュリンの直径を示した別紙1図面参照)、直径は20〜40ナノメーターのプラスモデスムをらくらく通過できるからである。
イ、相手方は、ディフェンシンがイネの細胞から外部に出ない理由の2つ目として、「ディフェンシンとマイナスに荷電した細胞壁とのトラップ(結合)」を挙げる。つまり、
「ディフェンシンは、・・塩基性の蛋白質であり、・・マイナスに荷電した細胞壁と結合」し、解離しない、と(6ページ(2)(5))。
 しかし、これもまた、科学的に公知なレベルで完全な間違いである。なぜなら、金川意見書(甲125。3頁b)が指摘する通り、「これは科学的に公知な事実ですが、水田の水にはCa2+、Mg2+、Na+、 K+など、マイナスの荷電を中和するイオンが十分に存在するので、これらのイオンで細胞壁の荷電が中和され、結合したディフェンシンが容易に解離し、溶出するからです。」
ウ、そして、「ディフェンシンがイネの細胞から外部に出る可能性」について言えば、科学的に公知な次の理由により当然肯定できる。
(。)、そもそもディフェンシンは「分泌型たんぱく質」であり、分泌小胞に運ばれて、細胞内から細胞膜の外に放出される(別紙2図面参照)。
(「)、細胞膜の外に放出されたディフェンシンは、20〜40ナノメーターのプラスモデスムが通れるだけの籠状の細胞壁の間をらくらく通過できる(別紙3図面参照)。
(」)、たとえ、ディフェンシンがマイナスに荷電した細胞壁と結合したとしても、イで前述した通り、水田の水にマイナスの荷電を中和するイオンが十分に存在するため、細胞壁の荷電が中和され、結合したディフェンシンは容易に解離する。

(6)、以上から、ディフェンシン耐性菌が容易に出現する可能性は高いと言わざるを得ず、そこで「疑わしきは罰する」を旨とする予防原則に従えば、ディフェンシン耐性菌に対する対策が不可欠というべきである。
 しかるに、原審裁判所は、本裁判の最重要のこの論点について、全く何一つ具体的な言及をすることなく、にもかかわらず、申立人及び微生物の専門家たちの意見書を評して「杞憂」にすぎないと断じた(3頁)。「疎明がない」としか言わなかった一審の決定と異なり、「杞憂であり」とまで表明した以上、よほどの科学上の確信に支えられたものと思われるが、それならば、前述した科学以前の初歩的な知識のレベルですら間違いに陥っている相手方の杜撰な主張を一体どのように理解したのだろうか。

8、野外実験承認のための申請段階における重大な手続違反
(1)、コマツナ由来の導入遺伝子を、カラシナ由来と偽って本実験承認の申請を行なった点
ア、問題の所在
申立人は、本実験承認の申請手続について、「本来ならば、承認申請書(疎甲21。以下、本申請書という)にディフェンシン遺伝子がコマツナ由来と書くべきところ、これとは別種の植物であるカラシナ由来と記載して、本野外実験の承認を受けた点」を問題とし、遺伝子組換え実験の安全性審査において最も基本的で重要な事項である『導入した遺伝子』に関する虚偽の記載として、その重大性を指摘した。
これに対し、原審裁判所は、
@.まず、「承認申請書に、ディフェンシン遺伝子がコマツナ由来と書くべきところ、カラシナ由来と記載して、本野外実験の承認を受けた」(4頁4行目)事実を認めたものの、
A.その違法性の評価については、その虚偽の記載の事実は「遺憾であるというべきであるが、本件野外実験承認手続に重大な瑕疵があるとは評価できない」と、なぜ重大な瑕疵でないのか一言も理由を明らかにすることなく結論を下した。
しかし、この虚偽の記載が重大な瑕疵ではないといえるかどうか。これがここでの問題である。
イ、結論とその理由
 結論として、これは重大な瑕疵と言わざるを得ない。なぜなら、たとえ同じアブラナ科の植物とはいえ、コマツナとカラシナではその遺伝子の配列は異なり、それゆえ、コマツナとカラシナのディフェンシンでは、いもち病菌等に対する作用も異なる。したがって、遺伝子組換え実験の安全性の確認についても、それぞれ別個独立に検証しなければならないものであって、同じアブラナ科の植物だから、どちらでもたいした違いはないと評価することはできないからである(現に、これらの特許でも、作用が異なれば別々に保護されており、別々の評価を受けている)。

(2)、ディフェンシン耐性菌の出現とその影響という重大な問題について記載を怠った点
 原審裁判所は、ディフェンシン耐性菌の出現とその影響に関する申立人の主張は「杞憂」にすぎないと評価したので、承認申請書にこれを記載しなくても「何ら違法とはいえない」とした(4頁)。確かに首尾一貫している。しかし、前述した通り、この大前提が全くの間違いである以上、この手続違反の問題も依然重要な問題として問われなければならない。

9、判断基準としての「予防原則」の必要性
(1)、申立人は、伝統的な事故の枠内に収まり切れない予見不可能性と回復不可能性を本質とするGM事故の特質にかんがみ、本GMイネの野外実験の危険性を適切に判断するためにはその判断基準として、既にGM食品の安全性や生物多様性の保全に関する原則として確立している予防原則を採用すべきであると、すなわち「新しい酒は新しい革袋に盛られなければならない」と一審以来首尾一貫して主張してきた。
(2)、しかるに、原審決定は、これに対する判断を一切明らかにすることなく、なおかつ結果的に予防原則の適用を真っ向から否定する態度に出た。なぜなら、損害の予見が不可能なのがGM事故の特質であるにもかかわらず、「本件野外実験によって、‥‥抗告人山田らの農地等にディフェンシン耐性菌が流入するなどして多大の損害を与えるおそれがあるとの疎明はなく」「消費者の抗告人平出らに明確かつ具体的な損害が発生する蓋然性が高いとの疎明も全くない」(4頁6)と判断したからである。
(3)、しかし、この態度は、本件で予見不可能性と回復不可能性を本質とするGM事故の危険性という未知の深刻な問題が鋭く問われているにもかかわらず、これに対する適切な判断基準はどうあるべきかについて何一つ吟味することもなく、ただ単に旧態依然たる伝統的な事故の判断基準で足れりとしたものであり、その結果、これは、上記(1)及び以下に示す通り、GM事故における生存権と学問研究の自由との人権相互の衝突の調整の判断基準を誤った憲法違反と言わざるを得ない。
ア、「疑わしきは罰する」を旨とする予防原則登場の必要性
「疑い」に関するこれまでの伝統的な法律原則は「疑わしきは罰せず」であった。では、近時、GM食品の安全性や生物多様性の保全に関する原則として、これと真正面から対立するような「疑わしきは罰する」を旨とする予防原則がなぜ登場するに至ったのか。
それは、近時、伝統的な事故の枠組みには収まり切れない「新しい事故」が出現するに至ったからである。なぜなら、この「新しい事故」は伝統的な事故にはなかった次の4つの新しさを持つ。
@ リスクの不確実性。
A 不可逆性。
B 晩発生(たとえば、病原体を体内に取り込んでから実際の被害が発生するまでに時間がかかること)。
C 越境性(リスク源が国境を超えて移動すること)(甲108。99頁)
そこで、この新しさを持つ深刻な事態に適応した適切な対処方法はどうあるべきかが問われた。その吟味の末に見出されたものがほかならぬこの予防原則であった。
 そして、この4つの新しさをはらんだ事故の典型のひとつがGM事故である(準備書面(11)16頁。甲108。99頁)。
この予防原則は、国際関係では既に数多くの条約、協定に適用されており(甲108。100頁)、本件にも関係する物多様性条約(1993年)、カルタヘナ議定書(2000年)にもそれが含まれている。
イ、予防原則の内容
では、それはどんな内容を持つものか。新しく登場する原則の常として、その内容は未だ生成途上にある。しかし、少なくとも、その最も重要な内容として、「立証責任の転換=安全性の立証責任は開発する側にある」が挙げられ(甲108。101頁)、それは既に、スウェーデンや英国では、明記されている(甲44「予防原則」242頁)。
(4)、小括
本件もまた、本野外実験の安全性の立証責任は実験を実施する相手方にあるというべきであり、そうだとすれば、これまでの本裁判の審理内容からして、相手方が「本野外実験の安全性を疎明した」とは到底言えないことが明々白々である。

10、抗告の趣旨変更の可否について
(1)、原審において、申立人が8月25日に抗告理由を明らかにしたにもかかわらず、これに対し、相手方が、ズルズルと1ヶ月以上何の反論も提出せず、裁判所もまた、申立人の再三再四の審理促進の上申にもかかわらず、相手方の故意としか言いようのない訴訟遅延行為を極めて寛大な態度で容認したため、その結果、原審裁判所の判断が熟さないうちに、10月3日、本GMイネの刈り取りが実行されてしまった。そこで、申立人は、本GMイネの刈り取りの事態を想定して、その約2週間前から、本裁判の最大の論点であるディフェンシン耐性菌出現の危険性に対処するために仮処分申立を変更する旨裁判所に予告し、その後に抗告の趣旨変更の申立を行なった。しかるに、原審裁判所は、以下に明らかにするように訴訟手続上何一つ問題がない申立人の抗告の趣旨変更の申立を、残忍酷薄としか言いようのない非寛容な態度で対応し、これを認めなかった。しかし、これは訴訟手続上も明らかに間違っている。なぜなら、本仮処分裁判において、訴えの変更の規定が準用される以上、もともと、
@. 請求の基礎に変更がないこと(審判の基礎をなす事実資料が新・旧両訴の間で或る程度同一性を持つこと)
A. 著しく訴訟手続を遅延させないこと
さえ満たされれば、抗告の趣旨変更が認められる(民訴法143条)。
 ところで、本件は、前記@につき、本趣旨の変更により、従来、申立人が主張・立証してきた事実資料が無用になることは1つもなく、また新たに申立人が主張・立証しなければならないようなものも1つもない。すなわち、従前の主張・立証に何一つ減らしも足しもせず、そっくりそのままで新しい趣旨の判断ができる。
なぜなら、変更後の趣旨の(3)である「来年度の実験の中止」については、もともと相手方は、本野外実験の承認申請時に、本年度のみならず来年度の実験をセットで申請しており、その実験内容が同一であることは相手方自身の申請書(甲21の1頁)、栽培実験計画書(甲8)で明らかだからである。また、変更後の趣旨の(1)と(2)である「ディフェンシン耐性菌の殺菌行為」についても、従来、申立人が強力に主張してきたディフェンシン耐性菌の出現の可能性さえ肯定されれば、こうした防止策を取る必要性は直ちに明々白々だからである。現に、一審でも、文字通り「審理が大詰めに近づいた」8月3日、申立の趣旨を、本GMイネの「作付け禁止」から「刈り取りせよ」に変更したが、問題なく、認められた。
 それゆえ、前記Aについても、本趣旨の変更により訴訟遅延の問題は何一つ生じない。もし本裁判において訴訟遅延が生じたとしたら、それはひとえに、一審において、答弁書提出後1ヶ月以上も主要争点について書面を一切提出しなかった相手方が、原審においても、8月25日提出の申立人の抗告理由に対して、1ヶ月以上反論を提出しなかったという、国民の税金を使い、公共的プロジェクトを遂行する立場上国民に徹底した情報公開と説明責任を負う筈の相手方の、その責任を放棄した徹底した手続的不正義さにある。
(2)、さらに、原審決定は、「抗告人らは、本件原審の審理が大詰めに近づいた平成17年10月4日に至って、突然に抗告の趣旨を変更すると主張した」と認定するが、これは明らかにおかしい。
なぜなら、第1に、申立人は、9月22日に早々と、「進行に関する上申書」の中で、次の通り、趣旨変更の予告を明確にしており、原審決定が認定するような「突然に」では全くないからである。
《申立人は、当初、「GMイネを刈り取れ」という申立ての趣旨との関係で、本GMイネの刈り取りの有無を問題視してきましたが、今般、ディフェンシン耐性菌の専門家との協議の結果、ディフェンシン耐性菌に関する防止策の必要は、本GMイネの刈り取りの有無とは基本的に関係がないことが判明しましたので、本GMイネの刈り取りの有無に関わらず、原審の審理を進めていただき、できるだけ早期の判断をお願いしたいと考えます。
もっとも、申立人も、近日中に、「ディフェンシン耐性菌に関する防止策」に相応しい申立ての趣旨の変更を提出する予定です。》(3頁)
第2に、9月26日、相手方からようやく原審における反論が出されたのを受けて、申立人は、9月30日付で「進行に関する上申書」の中で、
《相手方の今回の反論の見事な特徴は、申立人がくり返し明らかにした次の核心部分に対して、一切、黙して語らずという態度を徹底させた‥‥やはり、これら本件問題の核心部分については、逃げないで、申立人の主張に対する相手方自身の見解をきちんと表明してもらいたいと思います。》(2頁)
とあくまでも相手方の積極的な反論の提出を求め、なおかつ、
《来週早々提出の申立人の反論により、本件の問題点の核心が貴裁判所にもかなり明らかになると思いますが、同時に(この種の専門的事件の常ですが)前提問題や専門知識に関する疑問点、不明点もまた初めて明らかになると思われます。その意味で、争点整理のみならず前提問題・専門知識に関する疑問点、不明点の解明のために、是非とも、技術説明会の早期開催を要望いたします。この点、相手方も異議がない旨を表明しており(準備書面(5)10頁)、我々としては、必要な専門家にも同席してもらい、前提問題・専門知識に関する疑問点を徹底的に解明しておきたいと願っております。》(1〜2頁)
と審理がようやく正念場を迎え、これから争点を煮詰めるための徹底した議論を交わす矢先ではあったのであり、原審が認定するような「審理が大詰めに近づいた」わけでは全くないからである。
(3)、小括
以上、牽強付会と言うほかない事実認定により趣旨変更を認めなかった原審裁判所は、手続的不正義さの限りを尽くした相手方の後追いをしているものと評されても仕方なく、その結果、申立人らの裁判を受ける権利(憲法32条)は著しく侵害された。

11、終わりに――未だ生まれざる者たちに対する義務の履行――
申立人らは、本書面の冒頭で、《本件では、「人間の歴史上前例のない技術上の力業」である遺伝子組換え技術という人為的な操作により、‥‥人間社会の根幹をなす最重要な生存権と学問研究の自由という人権相互の最も深刻な衝突の調整が問われて》いると書いた(4頁)。
しかし、GM事故の特質のひとつである「晩発生」 に思いを致したとき、本件の最大の被害者は実は申立人たちではないだろうと思わざるを得ない。本件の最大の被害者は、恐らく私たちの子供、孫たち、そして未だ生まれざる私たちの子孫たちにちがいない。しかし、GM事故のもうひとつの特質である「回復不可能性」に思いを致したとき、彼らが救済を求めて申立人になろうというときにはもう遅いのである。その意味で、申立人らは、私たちの子供たち、未だ生まれざる私たちの子孫たちに代わって代表してこの裁判を行なっているということができる。それゆえ、これは単なる私権と国家的プロジェクトと称する本野外実験の間の問題ではない。その本質は、私たちの子供たち、未だ生まれざる私たちの子孫たちの人権と国家的プロジェクトの間の問題にほかならない。その意味で、我が国初のGM作物をめぐる本裁判こそ21世紀の倫理が最も鋭く問われる最もパブリックな裁判である。
以 上

別紙の概要

別紙1図面:Trudy McKeeほか「マッキー生化学(第3版)」100頁
同2図面:同書41頁
同3図面:Bruce Albertsほか「細胞の分子生物学(第4版)」1120頁
同4:山形大学理学部物質生命化学科教授 西田雄三作成(甲94、116の作成者)
同5:前筑波大学農学部教授 生井兵治作成(甲95の作成者)
同6:東京大学海洋研究所教授 木暮一啓作成(甲99の作成者)
同7:産業技術総合研究所 生物機能工学研究部門主任研究員 金川貴博作成(甲19、80、91の作成者)
同8:産業技術総合研究所 生物機能工学研究部門 研究員 陶山哲志作成(甲87の作成者)



posted by GMNG at 20:38| Comment(2) | TrackBack(0) | 裁 判 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年10月22日

特別抗告申立書

特別抗告申立書


平成17年10月18日


最高裁判所 御中

申立人ら代理人                  
弁護士     神 山 美智子

同       光 前 幸 一

同       柳 原 敏 夫

同       柏 木 利 博
 
同       近 藤 卓 史

同       馬 場 秀 行


                  
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり


上記当事者間の東京高等裁判所平成17年(ラ)第1355号遺伝子組換え稲の作付け禁止等仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件について,同裁判所は,平成17年10月12日抗告棄却の決定をなし,当該決定は,平成17年10月13日に抗告人らに送達されたが,憲法違反があり不服があるので,特別抗告の申立てをする。

原決定の表示

1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は,抗告人らの負担とする。

申立ての趣旨

1 原決定を取り消す。
2 (変更前の抗告の趣旨)
(1) 相手方は,即時抗告決定の送達の日から2日以内に,原決定別紙記載の圃場に試験作付けしたディフェンシン遺伝子を組み込ませたイネを刈り取らなければならない。
   (2) 相手方が,上記期間内に上記イネを刈り取らないときは,抗告人らは,新潟地方裁判所執行官に相手方の費用で上記イネを刈り取らせることができる。
  3 (変更後の抗告の趣旨)
(1) 相手方は,刈り取った本件GMイネ,収穫したもみおよび圃場に残された株につき,発生したディフェンシン耐性菌もしくはその発生を予防するため,本決定受領後2日以内に,火炎滅菌,乾熱滅菌(160℃で4時間,または180℃で2時間),加圧蒸気滅菌(121℃で20分)のいずれかの方法により耐性菌の殺菌処理をせよ。
(2) 相手方は,本件圃場の土壌につき,発生したディフェンシン耐性菌もしくはその発生を予防するため,本決定受領後2日以内に,火炎滅菌,乾熱滅菌(160℃で4時間,または180℃で2時間),加圧蒸気滅菌(121℃で20分)のいずれかの方法により耐性菌の殺菌処理をせよ。
(3) 相手方は,平成18年4月上旬から6月下旬に予定している本件圃場へのカラシナ由来のディフェンシン遺伝子挿入イネの野外実験栽培をしてはならない。
(4) 相手方が,(1),(2)につき,その期間内に耐性菌の殺菌処理をしないとき,抗告人らは新潟地方裁判所執行官に相手方の費用で耐性菌の殺菌処理をさせることができる。

特別抗告の趣旨

原決定を破棄し,変更後の抗告の趣旨に記載のとおりの裁判を求める。

特別抗告の理由

おって,抗告理由書を提出する。

添 付 資 料
1 委任状        通
posted by GMNG at 23:28| Comment(2) | TrackBack(0) | 裁 判 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

抗告許可の申立書

抗告許可の申立書


平成17年10月18日


東京高等裁判所 御中

申立人ら代理人                  
弁護士     神 山 美智子

同       光 前 幸 一

同       柳 原 敏 夫

同       柏 木 利 博
 
同       近 藤 卓 史

同       馬 場 秀 行



当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり

上記当事者間の東京高等裁判所平成17年(ラ)第1355号遺伝子組換え稲の作付け禁止等仮処分申立命令却下決定に対する抗告事件について,同裁判所は,平成17年10月12日抗告棄却の決定をなし,当該決定は,平成17年10月13日に抗告人らに送達されたが,当該決定には民事訴訟法第337条第2項の理由があるので,抗告を許可されたく申し立てる。

原決定の表示

1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は,抗告人らの負担とする。

申立ての趣旨

1 原決定を取り消す。
2 (変更前の抗告の趣旨)
(1) 相手方は,即時抗告決定の送達の日から2日以内に,原決定別紙記載の圃場に試験作付けしたディフェンシン遺伝子を組み込ませたイネを刈り取らなければならない。
   (2) 相手方が,上記期間内に上記イネを刈り取らないときは,抗告人らは,新潟地方裁判所執行官に相手方の費用で上記イネを刈り取らせることができる。
  3 (変更後の抗告の趣旨)
(1) 相手方は,刈り取った本件GMイネ,収穫したもみおよび圃場に残された株につき,発生したディフェンシン耐性菌もしくはその発生を予防するため,本決定受領後2日以内に,火炎滅菌,乾熱滅菌(160℃で4時間,または180℃で2時間),加圧蒸気滅菌(121℃で20分)のいずれかの方法により耐性菌の殺菌処理をせよ。
(2) 相手方は,本件圃場の土壌につき,発生したディフェンシン耐性菌もしくはその発生を予防するため,本決定受領後2日以内に,火炎滅菌,乾熱滅菌(160℃で4時間,または180℃で2時間),加圧蒸気滅菌(121℃で20分)のいずれかの方法により耐性菌の殺菌処理をせよ。
(3) 相手方は,平成18年4月上旬から6月下旬に予定している本件圃場へのカラシナ由来のディフェンシン遺伝子挿入イネの野外実験栽培をしてはならない。
(4) 相手方が,(1),(2)につき,その期間内に耐性菌の殺菌処理をしないとき,抗告人らは新潟地方裁判所執行官に相手方の費用で耐性菌の殺菌処理をさせることができる。

抗告の趣旨

原決定を破棄し,変更後の抗告の趣旨記載のとおりの裁判を求める。

抗告の理由

おって,理由書を提出する。

添 付 資 料
1 委任状        通
posted by GMNG at 23:25| Comment(49) | TrackBack(1) | 裁 判 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年10月13日

高裁決定

高裁決定が出されました。(2005年10月12日)

PDF形式:240KB
*閲覧にはAcrobat ReaderまたはAdobe Readerが必要です。
posted by GMNG at 13:03| Comment(2) | TrackBack(0) | 裁 判 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年10月12日

債権者準備書面(14)

平成17年(ラ)第1355号
抗告人 山田  稔他11名
相手方 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構

債権者準備書面(14)

  平成17年10月 日
  東京高等裁判所第5民事部 御中

抗告人代理人  神山 美智子

同       柏木 利博

同       光前 幸一
 
同       近藤 卓史

同       馬場 秀行
 
同       柳原 敏夫


  
相手方の準備書面(7)に対し、次のとおり反論する。

第1 申立の趣旨変更の正当性、合理性
1 相手方の主張
相手方は、請求の趣旨の変更が許されない理由として、本件仮処分の被保全権利は「あくまでも特定の行為の差し止め」であるとし、抗告人らの申立の趣旨の変更が、@請求の基礎に顕著な変更がある、A債務者の防御に過大な負担が発生する、B著しく本件抗告手続きを遅延させる、C変更の申立は疎明提出期限後にされた、C債権者の不当な意図による申立変更権の濫用であるなどと主張し、変更を許さないことに不都合もないと述べている。
しかし、いずれの主張も、未熟な法律論と事実認識の誤りに基づくものである。やや、煩瑣であるが、逐一、相手方の主張の誤りを指摘していく。

2 請求の基礎に変更がないこと
(1)  まず、本件仮処分の被保全権利は、「特定の行為の差し止め」などではない。被保全権利は、安全なコメ(安全性の承認されていないGMイネと交雑していないコメ)を食する権利,多様な生物が共存するなかで生活する権利,不用意な耐性菌の発生により健康をおかされることなく健康に生活する権利という人格権であり、GMイネの刈り取りは、この権利を保全する目的を実現するための一手段にすぎない。相手方の法律論の誤りは、この大前提の無理解からすべてが出発している。
 なお、相手方は、抗告人らの主張している被保全権利が「今回の控訴の趣旨変更を導くという便宜的な観点から、新たに整理しあるいは創作されたものである」とまで論難しているが(6Pの(3))、被保全権利は、抗告人らの準備書面の(5)と(6)で述べているところのものであり、確認願いたい。

  (2) ところで、相手方の栽培実験計画は、平成17年から18年の2年間にわたり、平成17年度は試験栽培したGMイネの系統の選抜と採種、平成18年度は選抜したイネを試験栽培し詳細な評価と採種を行うというものであるところ(甲8号証)、抗告人らは、この計画が、抗告人らの人格権を侵害する虞の強いものであり、権利を保全するには計画の事前差し止めの必要性があると考えた。

  (3) そして、抗告人らは、相手方の栽培実験計画は2年度にわたってGMイネを野外で試験栽培するものではあるが、平成17年度に試験栽培されたGMイネの実験の危険性が法的に認知され、栽培されたGMイネの強制刈り取りが実現されれば、抗告人らの人格権は保全され、相手方の栽培計画も中止されると考え、権利を保全するための手段として、17年度に試験栽培されたGMイネの即時刈り取りを選択し、本件仮処分を提起した。

(4) しかし、仮処分の審理は遅滞し、しかもその間、相手方は試験栽培を続行し、10月3日には平成17年度の試験栽培の目的は達成されたとして栽培したGMイネを刈り取った。そのため、抗告人らは、その権利を保全するには、本年度の試験栽培により発生が危惧されるディフェンシン耐性菌を即時に除去し、かつ、次年度に計画されている試験栽培の中止を求めるしかないと考え、保全手段の変更を申立てたものである。

(5) 以上のとおり、今回の抗告の趣旨の変更は、被保全権利を変更するものではなく、しかも、抗告人らの被保全権利を保全するという目的の範囲内で、保全(差し止め)手段を変更するにすぎないのであって、請求の基礎に、いささかの変更もない。
準備書面(12)で明らかにしたとおり、抗告人らは、民事保全法24条の解釈について、いわゆる「目的拘束説」の考えにたっており、目的拘束説においては、原則として、当事者も仮処分の目的の範囲内で権利保全手段を自由に変更できると考えるのが妥当である。今回の抗告人らの抗告の趣旨変更は、仮処分申立て後の事情の変更により、被保全権利を保全するための手段を変更しているにすぎないのであって、民事保全法24条が予定するところのものであり、審理の争点に全く異同をもたらさないから、このような手段の変更申立てが、ことさら仮処分の審理を遅延させるといった事情もない。

 3 債務者の防御の過大な負担をかけないこと
(1) 相手方は、申立ての趣旨の変更により争点が変更され、債務者の防御に過大な負担が発生すると述べている。
しかし、抗告の趣旨変更の2、3、5にかかる部分の争点は、本件GMイネ栽培によるディフェンシン耐性菌の発現可能性であり、従前の争点と何ら変更はない。

(2) また、抗告の趣旨変更の4ついて相手方は、1年後に行われる栽培計画にかかるものであり、規模や時期、交雑防止措置等については今回の試験栽培の結果をみて検討するから、従前の疎明資料を利用できる関係にない旨を述べている。
しかし、平成18年度の栽培試験計画は(既に約に半年後に迫っている)、本年度の試験栽培実績から、これが計画どおりに実施される高度の蓋然性があり、計画されている栽培試験の問題は、本年度の試験栽培と全く同様で、争点に変更はない。
もし、仮に、相手方が平成18年度の栽培計画につき、抗告人らが問題としている点を変更するのであれば、抗告審の過程で主張すれば足りることで、何ら、相手方に過大な負担をかけるものではない。

4 本件抗告手続きを著しく遅延させないこと
相手方は、抗告の趣旨の変更が、「まったく別の被保全権利とまったく別の仮処分命令発令の必要性を新たに議論することを内包する」から、抗告審の手続きを著しく遅延させると述べているが、上記のとおり、抗告の趣旨の変更によっても被告保全権利や争点に変更はないのであって、相手方が真摯に応訴すれば、抗告審の結論は迅速に下されるはずである。

5 変更の申立が疎明提出期限後になされたこと
相手方の言わんとすることが判然としないが、相手方は、変更の申立てが「決定の是非を議論する段階になって、突如求められた」ことに不満を述べている。しかし、決定の是非を議論する段階になって、突如、イネを刈り取ったとして抗告の却下を求め、決定の是非の論ずる機会を奪っているのは、相手方である。
繰り返しになるが、抗告人の抗告の趣旨変更は、このような相手方の行為による事情変更に対処した保全手段の変更にすぎない。

6 申立変更権の濫用ではないこと
相手方は、抗告人が求めていたGMイネの刈り取りを実行したのだから、抗告人らが仮処分を継続するのは権利の濫用だと主張している。さらに、相手方によるGMイネの刈り取りは評価されるべきことであるとまで主張している。
真面目に反論する気にもならないが、抗告人らが、相手方のGMイネの刈り取りを評価するとすれば、それは、相手方が、抗告人らの主張する本件栽培計画の危険性を理解してGMイネを刈り取り、次年度の栽培計画を撤回した場合のことであろう。相手方は、GMイネを刈り取るにあたり実施したプレス発表では、試験栽培の目的を達したから刈り取るとしているのである。
相手方が目的を達成した本年度の栽培試験、さらには来年度に予定している栽培試験により、抗告人らの権利は危殆に瀕し続けているのである。そして、権利の侵害を予防するには、本年度の試験栽培により発現した可能性のある耐性菌の即時滅菌と、平成18年4月から予定されている栽培試験の中止を求めるしか方法がないのであって、抗告の趣旨の変更が権利の濫用などといわれる所以はどこにもない。

7 変更を許さないことに不都合があること
相手方は、申立の趣旨の変更を認めなくても、別の仮処分や別訴の提起が可能であること、平成18年度の試験栽培については、その詳細が判明した時点で話し合いや法的手段により解決すればよい旨を述べている。
しかし、別の仮処分や別訴の提起が、抗告審での解決に比べ、裁判所を含めた関係当事者に著しい訴訟不経済をもたらすことは論をまたない。
また、本年度の試験栽培が強行、続行された経緯をみれば、相手方の主張は、来年度の試験栽培を強行するための口実にすぎない。

第2 相手方の反論(5P以下)に対する再反論
 1 相手方は、@抗告人らの趣旨変更は被保全権利の変更であり、A抗告人がよってたつところの「提案説」は不合理で、提案説たちながら被保全権利を整理、創作する矛盾は、「是が非でも債務者を本手続きから開放させない」という不当な動機からなされたアドホックなもので、B相手方によりGMイネが刈り取られたことを評価しないのは理不尽で、C「債務者を本手続きから開放せず、過大な負担を負わせる」抗告人らの行為に、相手方は困惑するばかりである等などと主張している。

2 今回の抗告の趣旨変更が被保全権利の変更でないこと、抗告人らが民事保全法24条の解釈について「提案説」ではなく、「目的拘束説」立っていることは準備書面(12)とそこに引用している文献で明らかにしており(抗告人らは準備書面(12)の第3の2で、「目的拘束説」に立つ瀬木裁判官の論考を引用しながら、「仮処分手続きにおいては,民事訴訟法246条が規定するような処分権主義が適用されるものではなく,裁判所は,申立人が達成しようとする目的という中間的レベルで申立に拘束されているにすぎない」と明記しているのであり、相手方がこの記載を「提案説」と解釈する理由が理解できない)、さらに、抗告人らにおいて危険性を指摘する試験栽培計画にしたがって実施されたにすぎないGMイネの刈り取りを評価せよと迫られても、抗告人らは面食らうばかりである。
このような粗雑とも言うべき相手方の反論は、ただ、ひたすら、本件仮処分手続きからの開放を求めんがための便法としか評しようがない。

3 しかし、抗告人らとて、何もすき好んで本件審理に貴重な時間と費用を費やしているのではない。自然環境が破壊され、人格権を侵害される可能性のある試験栽培からの開放を切望して、迅速な審理と裁判所の賢明な判断に期待を寄せているのである。
  抗告人らは、抗告審においても、審理の迅速化を再三にわたり要望してきたが(抗告人らの準備書面(10)を参照)、相手方は本年9月27日になってようやく、実質的な準備書面を提出した。そこには、「債権者の求める技術説明会の開催には貴庁の指示があれば、適宜応じる所存である」とも記載されている。
しかし、他方で、本年9月30日には、試験栽培したGMイネを10月3日に刈り取る旨のプレス発表を行い、刈り取り作業は一般に公開せず、刈り取りが終了するや、10月4日には、刈り取り終了を理由とする抗告却下の申立書を提出している。
この一連の経過を通覧すれば、相手方は、抗告審の審理を出来る限り遅延させ、書面提出時の9月27日には10月3日の刈り取りを既に決定し、その上で書面には「債権者の求める技術説明会の開催には貴庁の指示があれば、適宜応じる所存である」など実体審理に積極的な姿勢を装い、ひたすら、抗告審の審理を回避しようとしていたと指摘されても、弁解できまい。このような相手方の応訴姿勢は、科学者と市民の溝を深めるだけであり、甲24号証で提出した池内了氏の指摘する「ヤバンな科学」そのものである。
本件が、仮にこのまま終わるとすれば、多数の良心的な科学者が、自らの不利益も省みず、国家的事業の危険性に異議を唱えたことともに、公共機関に従事する科学者が手続き的不正義の限りを尽くした事例として、記憶にとどめられるべきである。
以 上

posted by GMNG at 00:38| Comment(1) | TrackBack(0) | 裁 判 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年10月08日

抗告人準備書面 (13)

平成17年(ラ)第1355号 遺伝子組換え稲の作付け禁止等仮処分即時抗告事件
抗 告 人  山 田   稔 ほか11名
相 手 方  (独) 農業・生物系特定産業技術研究機構

抗告人準備書面 (13)

2005年10月4日


 東京高等裁判所 民事第5部 御中

抗告人ら訴訟代理人 弁護士  神山 美智子

同       弁護士  柏木 利博

同       弁護士  光前 幸一

同       弁護士  近藤 卓史

同       弁護士  馬場 秀幸

同       弁護士  柳原 敏夫


1、はじめに
 相手方(以下、債務者という)の準備書面(5)及び書証(乙117〜119)は、長い沈黙の末ようやく提出された抗告審における債務者の初めての反論であるが、その内容たるや、
まず、抗告人(以下、債権者という)が抗告審で明らかにした本野外実験の問題点の核心(準備書面(11))に対して一切口を閉ざした全くの肩透かしのものであり、
その一方で、今回初めて、「科学的に公知」(9頁第6、2)と称するディフェンシン耐性菌問題に関する新たな主張(6〜7頁)を持ち出すに至ったが、それは初歩的な科学的知識のレベルですら誤った杜撰な主張というほかない。

2、ディフェンシン耐性菌問題に関する債務者の誤り
(1)、まず、債務者は、第4、1(5頁)で、ディフェンシン耐性菌問題に関する債権者の主張を要約しているが、耐性菌の影響に関する(8)から(13)について、債権者はこんな順番で主張をしたことは一度もない。いったいどこでそんな主張がなされているのか、明らかにされたい。
(2)、次に、債務者が「科学的な考察においても生じようがない」(6頁2)と言い切った今回の主張の最大の目玉である「ディフェンシン耐性菌がイネの細胞から外部に出る可能性は存在しない」(6頁3)は、科学的にみて完全に誤ったものである。その誤りを理論面からも、実験面からも余すところなく解明したのが、今回提出した金川意見書(甲125)である。債権者は、この金川意見書で、ディフェンシン耐性菌問題は決着を見たと確信している。

3、 交雑の可能性に関する債務者の主張
債務者は、本野外実験の問題点のひとつである「交雑の可能性」についても、あれこれ反論をしているが、その中身たるや、
一方で、「イネの花粉の交雑能力の時間」とは、生物学的に見た交雑能力のことか、それとも人工受粉という特定の目的に用いる場合に適切なイネの花粉の寿命のことか(債権者準備書面(11)4頁(a)の争点)という肝心要の核心については、一言も明らかにせず、
他方で、それ以外のことについて、専門家の目から見て「一言で言って、身の入らない、中身の薄い、蒸し返しで、肝心なところには全く触れずじまいの」(生井陳述書(2)6頁。甲124)主張でしかない。
そのことを明らかにするため、受粉生物学の専門家生井兵治氏の陳述書(2)(甲124)を提出する。

4、結語
以上の通り、今回の債務者の主張、立証とこれに対する債権者側の証拠により、次のことが明らかになった。
一方で、債権者が準備書面(11)で明らかにした本野外実験の問題点の核心に対して、債務者には積極的に反論するものが何ひとつないこと、
他方で、今回、債務者が起死回生の一打として持ち出した「科学的に公知」と称する「ディフェンシン耐性菌がイネの細胞から外部に出る可能性は存在しない」という主張は、初歩的な科学的知識のレベルですら誤った、撤回するしかないような杜撰なものであること。              
以 上
posted by GMNG at 12:24| Comment(5) | TrackBack(0) | 裁 判 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

債権者準備書面(12)

平成17年(ラ)第1355号
抗告人 山田  稔他11名
相手方 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構

債権者準備書面(12)

平成17年10月4日
東京高等裁判所第5民事部 御中

抗告人代理人  神 山 美智子

同       柏 木 利 博

同       光 前 幸 一
 
同       近 藤 卓 史

同       馬 場 秀 行
 
同       柳 原 敏 夫

  
第1 抗告の趣旨の変更   
抗告の趣旨の2以下を次のとおり変更する。

2 相手方は,刈り取った本件GMイネ、収穫したもみおよび圃場に残された株につき,発生したディフェンシン耐性菌もしくはその発生を予防するため,本決定受領後2日以内に,火炎滅菌、乾熱滅菌(160℃で4時間、または180℃で2時間)、加圧蒸気滅菌(121℃で20分)のいずれかの方法により耐性菌の殺菌処理をせよ。

3 相手方は,本件圃場の土壌につき,発生したディフェンシン耐性菌もしくはその発生を予防するため,本決定受領後2日以内に,火炎滅菌、乾熱滅菌(160℃で4時間、または180℃で2時間)、加圧蒸気滅菌(121℃で20分)のいずれかの方法により耐性菌の殺菌処理をせよ。

4 相手方は,平成18年4月上旬から6月下旬に予定している本件圃場へのカラシナ由来のディフェンシン遺伝子挿入イネの野外実験栽培をしてはならない。

5 相手方が,2,3につき,その期間内に耐性菌の殺菌処理をしないとき,抗告人らは新潟地方裁判所執行官に相手方の費用で耐性菌の殺菌処理をさせることができる。

第2 申立の趣旨を変更する理由
 1 相手方は,平成17年9月30日,上越記者クラブ等のマスコミに,本年10月3日に本件GMイネを刈り取る予定である旨を発表し,予定どおり,これを実行した。なお,刈り取り作業は,原審決定が明示した市民への情報公開要請や,第1種使用規定承認組換え栽培実験指針(疎甲14号証の1,2)が定める情報公開規定を無視し,一般には公開されず,新聞記者のみの立会いで行われた。

 2 抗告人らは,本件GMイネの花粉が周辺の一般イネと交雑する危険と,本件GMイネから発現されるディフェンシンに対する耐性菌が発生し,これが本件圃場外に流出する可能性を指摘して,未だ科学的に不可知で,しかも不可逆的損害が発生するおそれの高い「遺伝子交雑」及び「耐性菌」被害を未然に防ぐには,近時におけるリスク論の趨勢となっている予防原則が取られるべきことを説明し,本件仮処分申立の合理性,必要性,緊急性を述べてきた。

 3 ところが,本件手続きの審理は,相手方の怠慢ともいうべき応訴姿勢により長期化し,裁判所の最終結論が出る以前に,本件GMイネの実験計画にしたがった刈り取りという事態に至った。しかも,地元の生産者の言によれば,刈り取られたイネはいまだ青く,本来の刈り取り時期からすれば10日以上も早い時期の刈り取りだったとのことである。この緩慢な応訴と迅速な刈り取りというコントラストが,健全な市民感情を無視した相手方の開発優先思想を如実に示している。
しかし,本件GMイネを刈り取ったとしても,既に発生したディフェンシン耐性菌は引き続き刈り取った本件GMイネ、そのもみ、圃場に残った株または圃場の土壌中のいずれかに存在している可能性があり、発生した耐性菌が自然条件下で死滅することを期待するわけにもいかない。そこで、抗告人からの権利を保全するには,既に発生している可能性のあるディフェンシン耐性菌を除去する必要がある。

4 また,相手方の栽培実験計画書(疎甲8号証)によれば,相手方は,平成18年4月下旬から6月上旬には,刈り取った本件GMイネから選抜,発芽したGMイネを,今回と同様に相手方圃場に試験栽培するとしており,これが予定どおり実行されれば,現時点において抗告人らが晒されている以上のGMイネ花粉の周辺イネとの交雑,ディフェンシン耐性菌の発現とその流出の危険を生じさせるから,抗告人らの権利を保全するには,相手方が平成18年度に予定しているGMイネの試験栽培を事前に禁止しておく必要があり,残された時間のなかでこれを事前に禁止するには,本件仮処分手続きによるしかない。

第3 申立の趣旨変更の正当性
1 仮処分審理においても,民事訴訟法147条の規定が類推されるとするのが一般であるところ,今回の申立の趣旨の変更は,被保全権利(安全なコメ−安全性の承認されていないGMイネと交雑していないコメ−を食する権利,多様な生物が共存するなかで生活する権利,不用意な耐性菌の発生により健康をおかされることなく健康に生活する権利という人格権)には変更はなく,この権利を保全するための手段を変更するにすぎないものである。

2 ところで,民事保全法は,裁判所に,仮処分命令の目的を達するに必要な処分をなすことを認めていること(24条)からも明らかとおり,仮処分手続きにおいては,民事訴訟法246条が規定するような処分権主義が適用されるものではなく,裁判所は,申立人が達成しようとする目的という中間的レベルで申立に拘束されているにすぎない(瀬木比呂志「民事保全法」前訂第2版の355P,431P等参照)。

3 抗告人は,本件GMイネの刈り取りが認められれば,権利保全の目的が達成されるとの見地から申立の趣旨を構成してきたが,相手方が抗告人らの主張を理解せず,当初の実験計画に則って本件GMイネの刈り取りを実施したことから,抗告人らは,その権利を保全するには,本件GMイネや圃場に残された耐性菌の完全な除去と,相手方が予定している同様な栽培実験の中止を求めざるをえず,このような事情の変更に基づく保全手段の変更が,審理をことさら遅延させるような恐れもないことから,申立の趣旨を変更するに至ったものである。
以 上
posted by GMNG at 12:22| Comment(2) | TrackBack(0) | 裁 判 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

債権者準備書面 (11)

平成17年(ラ)第1355号 遺伝子組換え稲の作付け禁止等仮処分即時抗告事件
債 権 者  山 田   稔 ほか11名
債 務 者  (独) 農業・生物系特定産業技術研究機構

債権者準備書面 (11)

2005年9月20日


 東京高等裁判所 民事第5部 御中

債権者ら訴訟代理人 弁護士  神山 美智子

同       弁護士  柏木 利博

同       弁護士  光前 幸一

同       弁護士  近藤 卓史

同       弁護士  馬場 秀幸

同       弁護士  柳原 敏夫



本書面は、債権者のこれまでの主張・立証をその骨格に絞って整理したものである。

目  次

第1、債権者の抗告審における事実主張・立証の整理            
1、主要な証拠について                        2頁
2、(a)の争点(二重の袋がけの措置の安全性)と主張・立証について    3頁
3、(b)の争点(ディフェンシン耐性菌の出現の可能性)と主張・立証について   7頁
4、(c)の争点(第1種使用規程の承認手続違反)と主張・立証について  11頁
第2、債権者の抗告審における法的主張の整理
1、債権者の法的主張の射程距離                   14頁
2、予防原則のエッセンスと実際の適用                15頁
3、予防原則の具体的内容――とりわけ立証責任の転換―― 17頁
4、小括                              18頁

第1、債権者の抗告審における事実主張・立証の整理
1、主要な証拠について
 債権者が原決定を覆すに足りると考える証拠は、ほぼ次の3つに尽きる。
@. 植物育種における受粉生物学の体系化に長年研究してきた前筑波大学教授の生井兵治氏の陳述書(疎甲95)
A. 微生物生態を研究する東大教授の木暮一啓氏の意見書(疎甲99)
B. 地元上越市で有機農業に従事する天明伸浩氏の本件圃場を視察した報告書(疎甲102)
なぜなら、抗告審における主要な争点は次の3つであるが、
(a)、二重の袋がけの措置の安全性について(原決定17頁以下)
(b)、ディフェンシン耐性菌の出現の可能性について(同19頁以下)
(c)、第1種使用規程の承認手続違反について(同18頁。準備書面(8)22頁)
 このうち、
(a)の争点については、
理論面から疎甲95の生井陳述書(乙113の横尾陳述書の誤りを明らかにしたもの)、実際面から同102の天明報告書が、
(b)の争点については、
理論面から疎甲99の木暮意見書(乙106の高木報告書と乙116の黒田陳述書の誤りを明らかにしたもの)、実際面から同102の天明報告書が、
債権者の主張を余すところなく立証したものだからである。

2、(a)の争点(二重の袋がけの措置の安全性)と主張・立証について(1)、議論の整理
 問題点を理論面と実際面に分けて, 以下検討する。
(2)、理論面における問題の所在
(a) の争点の決め手となる大前提の争点として、
「イネの花粉の交雑能力の時間がどれくらいか」
という論点があり、これをめぐって、原審では、
(。)、「長くとも5分程度で消滅」という見解(以下、「5分」説という)
(「)、「50時間である」という見解(以下、「50時間」説という)
が対立し、原決定は、(不当にも債権者に反論の機会を与えられないまま)主に乙112を根拠に、(。)の「5分」説を採用した(17頁)。
そこで、問題は、原決定のこの事実認定が正しいか否かにある。

(3)、理論面に関する債権者の主張・立証
この点、債権者は、「原決定のこの事実認定は明らかに間違っている」と主張する。
その理由は、疎甲95の生井陳述書3頁以下に詳細に明らかにされている通りであり、要約すれば以下の通りである。
ア、本裁判で問題になっている「交雑能力の時間」とは、言うまでもなく、生物学的にみてイネの花粉がどれくらいの時間、交雑能力を有するかということであるが、これに対し、乙112の横尾陳述書が問題にしている「イネの花粉の寿命」とは、「人工受粉」というあくまでも特定の目的に用いる場合に適切なイネの寿命はどれくらいまでかということであり(したがって、それは当然、生物学的にみたイネの交雑能力の時間より短くなる)、両者は明らかに違う問題である。にもかかわらず、乙112の横尾陳述書は、驚くべきことに、両者を同じ問題であるかにように主張し、債権者の反論を聞く機会を持たなかった原審裁判所は、これを鵜呑みにしてしまった。この顛末が、これまで「裁判に関わることをしてこなかった」一介の研究者にすぎない生井氏をして、「横尾政雄氏の陳述書(乙第113号証)を読み、さすがの私も植物の生殖の専門家としての立場から、どうしても黙っているわけにいかなくなった」(1頁前文)と言わしめ、周到な陳述書を書かしめたのである。
イ、同時に、生井陳述書は、債権者が主張する「50時間」説を非科学的なものとして排斥することができないことも詳細に明らかにした(14〜17頁)。
ウ、以上の理由から、「イネの花粉の交雑能力の時間がどれくらいか」という論点について、「50時間」説を前提にして、具体的な交雑防止策を検討しなければならないという結論が導かれる。

(4)、実際面における問題の所在
 次に、上の結論を前提にして、債務者が実際に行なった交雑防止策が、交雑防止として原審裁判所が求めたような完璧なものといえるかどうか――これが実際面における問題である。

(5)、実際面に関する債権者の主張・立証
この点、債権者は、「債務者の実際に行なった交雑防止策は原審裁判所が求めたようなものとは全く異なり、交雑防止として不十分極まりなく、これでは交雑の可能性は大いにあると言わざるを得ない」と主張する。
その理由は、実際に、本件圃場を視察した疎甲102の天明報告書1〜5頁に詳細に明らかにされている通りであり、要約すれば以下の通りである。
ア、原審裁判所が、それまでの債務者主張の交雑防止策では不十分であるとして、審理の中で、完璧な防止策の実施を釈明したところ、債務者が
@ 個々のイネとイネの栽培地域全体とを二重に覆う物理的に完璧な防止策を採用。
A さらに、@の期間中、イネの開花特性や交雑能力の限界等を踏まえて観察を実施。
B 本GMイネの刈り取り後、二番穂が生じた場合には再度刈り取ること。
を確約したのでこれを信用し(原決定17頁下から4行目以下)、「一般イネとの自然交雑の可能性はほとんどない」と判断した(同19頁5行目)。
イ、しかし、債務者の実際の防止策は、
@:イネに被せたパラフィン袋が、至るところで、傷がつき、穴が開き、袋からイネの葉が飛び出しており(別紙1の写真の赤丸で囲んだ部分)、こうした穴は、たとえ1cm2 ほどの小さなものであっても、直径0.04o〜0.02oのイネの花粉にしてみれば、約8〜30万倍の巨大な穴であり(4頁2行目以下)、そこから容易に花粉が外に飛び出していく。
A:債務者は、理論面における前提問題である「イネの花粉の交雑能力の時間」について「長くとも5分程度で消滅」という立場に立ち、これを前提に、「午後には花粉が交雑能力を完全に喪失した状態となっていることが科学的に明らかであ」り、「午後3時以降にイネの観察を行なう」(準備書面(3)2頁3(2))としたが、午後3時以降に袋を外すのでは、交雑能力を持つ花粉が外に飛び出す可能性が極めて大と言わざるを得ない。なぜなら、上記「5分」説は前述の通り間違った見解であり、本来なら、「50時間」説を踏まえて、1つの開花につき「最低でも2日間(48時間)は袋を外さない」ことが求められ、なおかつ1つの穂の花は次々に開花して約7日間で全てが咲き終わるため、各穂につきその開花期間中は袋を外さないことが求められるからである(天明陳述書(2)1頁。疎甲85。生井陳述書17〜18頁【それ以外の理由についても同頁参照】。疎甲95)。
B:本野外実験のひとつとして、既に8月1日に刈り取った本GMイネについて(疎甲122参照)、その後、二番穂が生じ、花が咲いたが、にもかかわらず、債務者は、確約に反し「再度刈り取ること」をしないで放置しており(別紙3の写真の赤丸で囲んだ部分)、その結果、袋も何の防止策もしていない二番穂から花粉が飛散し、自然交雑するのは火を見るより明らかである。
 もっとも、債務者は、「この二番穂は本GMイネではない」と反論するであろうが、もし本GMイネの栽培用の本件圃場に発生した二番穂が、本GMイネでないというのなら、どうしてそう言えるのか証明する責任が債務者にはあるが、天明氏らの質問にもかかわらず、これに対する証明は未だ一切ない。

(6)、小括
 以上の検討から、「債務者が実際に行なった交雑防止策が、交雑防止として原審裁判所が求めたような完璧なものといえるかどうか」という論点について、「原審裁判所への確約に反し、実際の交雑防止策は杜撰極まりないもので、これでは交雑の可能性は大いにあると言わざるを得ない」という結論が導かれる。

3、(b)の争点(ディフェンシン耐性菌の出現の可能性)と主張・立証について
(1)、議論の整理
問題点を理論面と実際面に分けて, 以下検討する。

(2)、理論面における問題の所在
 第一に核心的な問題は次のことである――「ディフェンシン耐性菌の出現を報告したとする2つの論文(甲82,83)から、本野外実験においてディフェンシン耐性菌が出現する可能性は高いと推測することが合理的かどうか」(木暮意見書の第4と第5.4頁2行目以下。疎甲99)。
なぜなら、この点について、債権者は肯定したのに対し、原決定は債務者提出の証拠(乙105、106、116)を根拠にこれを否定し、ここからディフェンシン耐性菌の出現の可能性について疎明がないとしたからである(20頁イ・21頁オ)。
 第二の問題は、「ディフェンシン耐性菌の出現の危険性というのは、『出現するディフェンシン耐性菌の数が飛躍的に増加すること』を意味するのか、それとも『ディフェンシン耐性菌が出現すること』そのものなのか」

(3)、第一の問題に関する債権者の主張・立証
この点、債権者は、「これを否定した原決定の事実認定は明らかに間違っている」と主張する。
その理由は、疎甲99の木暮意見書8頁3に詳細に明らかにされている通りであり、そのエッセンスを以下に要約する。
ア、そもそも、原決定も認める通り、本GMイネの際立った点として、
「本件GMイネに組み込まれたカラシナ由来のディフェンシンは,必要に応じて生産される自然界のディフェンシンとは異なり,いもち病等の病原菌の有無にかかわらず,常時ディフェンシン遺伝子が発現してディフェンシンを多量に作り続ける性質を有して」(20頁下から3行目以下)いるという過去前例のない特徴が認められる。
イ、なおかつ、本件圃場の水田には、菌のエサになる物質が存在し、多種多様の菌が大量に生育しており、その結果、本野外実験において、常時大量に産出されるディフェンシンが多種多様の菌とが接触する機会が、過去の状況に比べ飛躍的に増加する。
ウ、他方で、疎甲82と83の報告は、実験室において菌とエサとディフェンシンを混ぜて放置するだけで自然に(spontaneous)起こった変異で耐性菌が出たというものであり、ここから、自然界においても、この三者が混じり合えば、自然に(spontaneous)起こった変異で、耐性菌が出るだろうと予想できる。
エ、以上から、本野外実験において、多種多様の菌が大量に生育している本件圃場で、それらの菌が常時大量に産出されるディフェンシンと頻繁に接触する以上、そこに耐性菌が出現する可能性は、過去に比べ、飛躍的に増えると考えるのが合理的である。さらに、野外では突然変異を誘発する紫外線が存在するので、実験室よりも変異の頻度が増すと考えられる。
オ、こうした推理は、昨今、深刻な社会問題となっている抗生物質の多用・乱用が耐性菌の出現を促したという事実からも容易に理解できる(疎甲111〜113)。
 
これに対し、債務者は、「疎甲82と83で報告された実験は、耐性菌の生育を可能にさせるため、他の生物相等の環境影響の存在しない、およそ自然界とはかけ離れた、特殊な、人工的環境の下で実験を行ったもので、この実験から、自然界で容易に、ディフェンシン耐性菌が出現するという主張の根拠にはならない」旨反論し(黒田陳述書2頁第2。疎乙116)、原決定もまたこの反論を採用した(19〜20頁のア・イ)。
しかし、この反論が全く的外れであることは、木暮意見書の第4(4〜7頁)で、完膚なきまでに再反論した通りである。

(4)、第二の問題に関する債権者の主張・立証
この点、債権者は、「ディフェンシン耐性菌の出現の危険性とは、『出現するディフェンシン耐性菌の数が飛躍的に増加すること』ではなく、『ディフェンシン耐性菌が出現すること』そのものである」と主張する。
その理由は、微生物の研究者なら誰もが指摘する通り、それゆえ、疎甲99の木暮意見書8頁の第6、第8もくり返し指摘する通り、耐性菌は有害化学物質などと異なり、短時間のうちに細胞分裂をくり返して爆発的に自己増殖する微生物であり、たとえ1匹でも出現すれば、通常、それが何万匹、何億匹に増えるのに1日とかからないものだからである。

(5)、実際面における問題の所在
 次に、債務者が実際に行なっている本野外実験が、ディフェンシン耐性菌の出現・流出を防止する上で完璧なものといえるかどうか――これが実際面における問題である。

(6)、実際面に関する債権者の主張・立証
この点、債権者は、「債務者は何の対策も講じておらず、その結果、出現するディフェンシン耐性菌の流出の可能性は確実にある」と主張する。
その理由は、そもそもディフェンシン耐性菌の出現について、「耐性菌の出現の余地は科学的になく」(答弁書12頁12(1))を首尾一貫して主張してきた債務者は、近時も、
「2.ディフェンシン耐性菌の発生については、今回の実験の目的ではなく、調査する予定はない」(債権者らの質問に対する9月7日付回答。疎甲105・106)
と、耐性菌の出現及び流出に対する防止策を何ひとつ講じていないことを明らかにしており、その結果、「職員から、実験圃場内の水は、外部にそのまま流していると説明を聞いた」(疎甲102の天明報告書3頁。別紙4の写真の赤丸で囲んだ部分参照)の通り、出現するディフェンシン耐性菌は間違いなく外部に流出することになるからである。

(7)、小括
以上の検討から、
@「本野外実験においてディフェンシン耐性菌が出現する可能性は高いと推測されるか」
A「もしその場合、債務者が実際に行なっている本野外実験が、ディフェンシン耐性菌の出現・流出を防止する上で完璧なものかどうか」
という論点について、
@:「ディフェンシン耐性菌が出現する可能性は高いと推測され、耐性菌出現の可能性についての疎明は十分である」
A:「債務者は耐性菌の出現及び流出に対する防止策を何ひとつ講じておらず、その結果、出現する耐性菌は確実に外部に流出する」
という結論が導かれる。

4、(c)の争点(第1種使用規程の承認手続違反)と主張・立証について(1)、問題の所在
本件における承認手続違反として看過できない重大な問題とは次の2つである。
第1に、債務者は、本来ならば、承認申請書(疎甲21。以下、本申請書という)にディフェンシン遺伝子がコマツナ由来と書くべきところ、これとは別種の植物であるカラシナ由来と記載して、本野外実験の承認を受けた点について。
第2に、前述したディフェンシン耐性菌の出現とその影響という重大な問題について、本来ならば、本申請書に記載し、これについて十分な審査を受けなければならないのに、債務者は、これを記載せず、この点の審査を受けずに実験の承認を受けた点について。

(2)、第一の問題に関する債権者の主張・立証
この点、債権者は、「カラシナとコマツナは明らかに別種の植物であり、遺伝子組換え実験の安全性審査において最も基本的で重要な事項である『導入した遺伝子』の記載について、専門家であれば間違う筈がなく、虚偽としか言いようのない記載をした債務者の行為は凡そ科学者としてあるまじき行為であり、その責任は極めて重大である」と主張する。
その理由は、先般提出された疎甲115の金川報告書により明らかにされた通りであるが、要約すれば以下の通りである。
今回の本申請書からすれば、挿入したDNAの塩基配列がコマツナ由来であるから、債務者が承認を受けたのは、あくまでもコマツナのディフェンシン遺伝子を導入したイネである。言いかえれば、カラシナのディフェンシン遺伝子を挿入したイネの実験については申請されておらず、したがって承認もされていない。よって、承認されていないカラシナのディフェンシン遺伝子を導入したイネである称する今回の実験は直ちに中止しなければならず、もしカラシナのディフェンシン遺伝子を挿入したイネの実験を実施するのであれば、これを正しく記載した申請書を作成し、再申請しなければならない。

(3)、第二の問題に関する債権者の主張・立証
この点、債権者は、「もし申請段階でこれについて記載していれば、本野外実験の承認がおりなかった可能性が高く、この意味において、債務者の第1種使用規程の承認手続に関して、手続的に重大な違法がある」と主張する。
その理由は、疎甲80の金川陳述書(2)に詳細に明らかにされている通りであり、要約すれば以下の通りである。
ア、もともと、債務者の本申請書は、農水省等で作成した告示「遺伝子組換え生物等の第一種使用等による生物多様性影響評価実施要領 」(以下、本実施要領という。疎甲79)にのっとって作成されるべきものである(第一、趣旨)。
イ、本実施要領は、第三で、生物多様性影響の評価の項目及び手順を定め、評価すべき項目として別表第二が掲げられ、そのうち「微生物」の項目中に「その他の性質」という欄があるが、本件ではこの欄にディフェンシン耐性菌が該当する。
ウ、次に、本実施要領は、評価すべき手順として別表第三が掲げられているが、本件では、まず第一に、カラシナディフェンシン耐性菌の出現とその耐性菌のカラシナへの影響のことが考慮されるべきである。
エ、したがって、本来ならば、本申請書には、カラシナディフェンシン耐性菌の出現とその耐性菌のカラシナへの影響について記載されなければならない。
オ、しかるに、本申請書には、こうした記載が一切ない(4〜5頁)。
(4)、小括
以上の検討から、最も基本的で重要な導入遺伝子について虚偽としか言いようのない記載をし、さらに、本来なら記載すべき重大な項目を記載しなかった本野外実験の承認申請手続には重大な違法があり、債務者の申請は無効と言わざるを得ない。この点からも、本野外実験は直ちに中止されなければならない。

第2、債権者の抗告審における法的主張の整理
1、債権者の法的主張の射程距離

 債権者が本野外実験中止の判断基準と考えている最大の規範は予防原則である。
しかし、原決定が「ア 債権者らの本件仮処分命令の申立ての趣旨・目的は、現在問題となっているGM技術及び同技術の農作物等への応用の是非、あるいはGM作物の野外実験一般を問題としているものではなく、あくまでも債務者が現に実施している本件野外実験が今後も継続されることにより」(15頁)と認定した通り、債権者が本裁判で差止を求める対象が様々な危険性・問題点をはらんだ本野外実験だけであることと対応して、債権者が主張する予防原則もまた、GM技術及び同技術の農作物等への応用の是非、あるいはGM作物の野外実験一般にまで適用を要求するものではなく、あくまでも本野外実験についてだけその適用を主張するものである。
なぜなら、前述した通り、本野外実験の最大の特質である、ディフェンシンの常時大量産出という歴史上未だかつてなかった事態の下で、ディフェンシン耐性菌の出現とその外部への流出という問題は、今や、日本のみならず世界中の研究者・関係者らが憂慮するところとなり(疎甲81〜94・116〜117のみならず118〜121)、その場合の「予見不可能性」と「回復不可能性」という特質は、まさに予防原則の適用が要請されるに最も相応しい事態だからである。

2、予防原則のエッセンスと実際の適用(1)、予防原則に関する概括的な解説として、三菱総研の研究ノートがある(疎甲108)が、これを簡潔にまとめたものが債権者代理人がまとめた疎甲114の基礎知識の6頁以下である。
そこでも解説した通り、予防原則のエッセンスは「疑わしきは罰する」である(疎甲110の放送大学「集団と環境の生物学」第15回講義参照)。
しかし、これは、「疑わしきは罰せず」を原則と信じてきた者にとって躓きの石である。しかし、すべて原則は特定の文脈の下でのみ妥当するのであって、これを離れて普遍性を持つことはない。それは、「契約自由の原則」、「過失責任の原則」の変遷を考えれば明白である。
(2)、では、なぜ、「疑わしきは罰する」という逆転が生じたのか。それは、現代文明が、これまで地球上にはなかった未知の事故に直面することになったからである。では、どういう点で、それはかつてない新しさ、未知と言えるのか。これについて、前記三菱総研の研究ノートは、以下の4つの要素を挙げる(99頁。疎甲108)。
@ .リスクの不確実性(申立書11頁にいう「予見不可能性」)
A .不可逆性(申立書11頁にいう「回復不可能性」)
B .晩発生(病原体やアスベスト等を体内に取り込んでから実際の被害が発生するまでに時間がかかること。疎甲2の153頁下段参照)
C .越境性(リスク源が国境を超えて移動すること)
つまり、このような新たな要素をはらんだ事故については、もはや従来の事故を想定したリスク管理の原則では対応できないため、そこで、この新しい事態に即応した新しい管理の原則を発見するしかなかった。そこで見出されたのが、この予防原則=「疑わしきは罰する」である。
(3)、そして、この新たな要素をはらんだ事故が発生する分野として、三菱総研の研究レポートは、遺伝子組み替え技術をはじめとする、以下の分野を挙げる(99頁。疎甲108の)。
−化学物質(環境中の化学物質、温暖化ガス)
−食品(BSE、ホルモン牛肉)
−技術(遺伝子組み替え技術、クローン技術)
−生態系(絶滅危機種、捕鯨)
−電磁波、放射線
(4)、しかも、予防原則は、国際関係では既に数多くの条約、協定に適用されており、三菱総研の研究ノートは、その具体例を紹介している(100頁。疎甲108)が、そこには本裁判でその適用が問題となる次の条約、議定書も含まれている。
−生物多様性条約(1993年)
−カルタヘナ議定書(2000年)
(5)、のみならず、この予防原則が、既に国内の食品安全に関する原則として適用されていることは、(社)農林水産先端技術産業振興センター作成のハンドブック「バイテク小事典」に、
《バイオの分野では、遺伝子組換え食品の安全性に関して、予防原則を基に話し合いが進められている事実。》(111頁。疎甲70)
と明記されている通りである。
 さらに、先月8月29日放送のクローズアップ現代「食の安全をどう伝えるか」で、同月12日、わが国の食品安全委員会が、予防原則に基づいて、「魚介類等に含まれるメチル水銀に関する食品健康影響評価について」、2年前の基準より厳しい基準を明らかにしたことが取り上げられ、放送された(疎甲123の映像参照)。
これは、魚介類等に含まれるメチル水銀が胎児に何等かの影響を与える恐れがあると判断され、そこで、その影響がたとえわずかであっても、それが疑われる限り、予防原則の立場に立って、それを未然に防ぐ必要があるとして、食品健康影響評価について見直しを行なったものであり、食品安全に関する行政の現場では、予防原則が既に使われている。
(6)、他方、本裁判で問題となる生物多様性の保全に関しても、予防原則が確立した原則となっている(疎甲110の放送大学「集団と環境の生物学」第14回、第15回講義参照)。

3、予防原則の具体的内容――とりわけ立証責任の転換――
 予防原則の具体的内容については、この間、多くの人たちの手により、その内容が詰められてきた。そのひとつの成果が、EUが2000年に発表した「予防原則に関する欧州委員会からのコミュニケーション」である。
この中で、とりわけ注目に値することは、リスクに関する立証責任が取り上げられている点にある(三菱総研の研究ノート101頁参照。疎甲108)。
もっとも、その責任の内容は「適切な関係者に課す必要がある」とやや曖昧であるが、その後、2004年11月22日にEUが発表した Questions and Answers on REACH Part II(ただし、これは化学物質の分野である)の中では、立証責任について、安全性の立証責任は当局側から開発する企業側に転換された。(疎甲109「EU 新化学物質政策REACH の紹介」より)
つまり、予防原則の内容を吟味していけば、その適用はおのずと立証責任の問題にまで行かざるを得ず、そして、リスクの不確実性や不可逆性などの新しい事態の特質を熟慮すれば、その解決の仕方もまた証拠を独占し開発する者の側にあるとするしかないことは自明である。現に、スウェーデンや英国では、既にこれを明記している(疎甲44「予防原則」242頁)。

4、小括
前記(1)で既述した通り、ディフェンシンの常時大量産出という歴史上未だかつてなかった事態をもたらした本野外実験こそ、予防原則が適用されるに最も相応しいケースである。
そこで、債権者は、この極めて重大な特質を直視したとき、取り返しのつかない事態を回避するために、予防原則を適用して、本野外実験が即時中止されるべきことを主張する。
なお、念のために言えば、債権者は、本GMイネの実験自体を中止せよといった法外な主張をしている訳ではない。あくまで、債務者側のGM作物の研究の必要性も十分尊重した上で、回復不可能な事態を回避するためにやむを得ない必要最小限度の措置として「安全性が確保されるまでの間、本GMイネの実験を野外から室内に戻すべきである」とごく控え目な主張をしているにすぎない。
以 上

posted by GMNG at 12:18| Comment(2) | TrackBack(0) | 裁 判 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。