2005年10月12日

債権者準備書面(14)

平成17年(ラ)第1355号
抗告人 山田  稔他11名
相手方 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構

債権者準備書面(14)

  平成17年10月 日
  東京高等裁判所第5民事部 御中

抗告人代理人  神山 美智子

同       柏木 利博

同       光前 幸一
 
同       近藤 卓史

同       馬場 秀行
 
同       柳原 敏夫


  
相手方の準備書面(7)に対し、次のとおり反論する。

第1 申立の趣旨変更の正当性、合理性
1 相手方の主張
相手方は、請求の趣旨の変更が許されない理由として、本件仮処分の被保全権利は「あくまでも特定の行為の差し止め」であるとし、抗告人らの申立の趣旨の変更が、@請求の基礎に顕著な変更がある、A債務者の防御に過大な負担が発生する、B著しく本件抗告手続きを遅延させる、C変更の申立は疎明提出期限後にされた、C債権者の不当な意図による申立変更権の濫用であるなどと主張し、変更を許さないことに不都合もないと述べている。
しかし、いずれの主張も、未熟な法律論と事実認識の誤りに基づくものである。やや、煩瑣であるが、逐一、相手方の主張の誤りを指摘していく。

2 請求の基礎に変更がないこと
(1)  まず、本件仮処分の被保全権利は、「特定の行為の差し止め」などではない。被保全権利は、安全なコメ(安全性の承認されていないGMイネと交雑していないコメ)を食する権利,多様な生物が共存するなかで生活する権利,不用意な耐性菌の発生により健康をおかされることなく健康に生活する権利という人格権であり、GMイネの刈り取りは、この権利を保全する目的を実現するための一手段にすぎない。相手方の法律論の誤りは、この大前提の無理解からすべてが出発している。
 なお、相手方は、抗告人らの主張している被保全権利が「今回の控訴の趣旨変更を導くという便宜的な観点から、新たに整理しあるいは創作されたものである」とまで論難しているが(6Pの(3))、被保全権利は、抗告人らの準備書面の(5)と(6)で述べているところのものであり、確認願いたい。

  (2) ところで、相手方の栽培実験計画は、平成17年から18年の2年間にわたり、平成17年度は試験栽培したGMイネの系統の選抜と採種、平成18年度は選抜したイネを試験栽培し詳細な評価と採種を行うというものであるところ(甲8号証)、抗告人らは、この計画が、抗告人らの人格権を侵害する虞の強いものであり、権利を保全するには計画の事前差し止めの必要性があると考えた。

  (3) そして、抗告人らは、相手方の栽培実験計画は2年度にわたってGMイネを野外で試験栽培するものではあるが、平成17年度に試験栽培されたGMイネの実験の危険性が法的に認知され、栽培されたGMイネの強制刈り取りが実現されれば、抗告人らの人格権は保全され、相手方の栽培計画も中止されると考え、権利を保全するための手段として、17年度に試験栽培されたGMイネの即時刈り取りを選択し、本件仮処分を提起した。

(4) しかし、仮処分の審理は遅滞し、しかもその間、相手方は試験栽培を続行し、10月3日には平成17年度の試験栽培の目的は達成されたとして栽培したGMイネを刈り取った。そのため、抗告人らは、その権利を保全するには、本年度の試験栽培により発生が危惧されるディフェンシン耐性菌を即時に除去し、かつ、次年度に計画されている試験栽培の中止を求めるしかないと考え、保全手段の変更を申立てたものである。

(5) 以上のとおり、今回の抗告の趣旨の変更は、被保全権利を変更するものではなく、しかも、抗告人らの被保全権利を保全するという目的の範囲内で、保全(差し止め)手段を変更するにすぎないのであって、請求の基礎に、いささかの変更もない。
準備書面(12)で明らかにしたとおり、抗告人らは、民事保全法24条の解釈について、いわゆる「目的拘束説」の考えにたっており、目的拘束説においては、原則として、当事者も仮処分の目的の範囲内で権利保全手段を自由に変更できると考えるのが妥当である。今回の抗告人らの抗告の趣旨変更は、仮処分申立て後の事情の変更により、被保全権利を保全するための手段を変更しているにすぎないのであって、民事保全法24条が予定するところのものであり、審理の争点に全く異同をもたらさないから、このような手段の変更申立てが、ことさら仮処分の審理を遅延させるといった事情もない。

 3 債務者の防御の過大な負担をかけないこと
(1) 相手方は、申立ての趣旨の変更により争点が変更され、債務者の防御に過大な負担が発生すると述べている。
しかし、抗告の趣旨変更の2、3、5にかかる部分の争点は、本件GMイネ栽培によるディフェンシン耐性菌の発現可能性であり、従前の争点と何ら変更はない。

(2) また、抗告の趣旨変更の4ついて相手方は、1年後に行われる栽培計画にかかるものであり、規模や時期、交雑防止措置等については今回の試験栽培の結果をみて検討するから、従前の疎明資料を利用できる関係にない旨を述べている。
しかし、平成18年度の栽培試験計画は(既に約に半年後に迫っている)、本年度の試験栽培実績から、これが計画どおりに実施される高度の蓋然性があり、計画されている栽培試験の問題は、本年度の試験栽培と全く同様で、争点に変更はない。
もし、仮に、相手方が平成18年度の栽培計画につき、抗告人らが問題としている点を変更するのであれば、抗告審の過程で主張すれば足りることで、何ら、相手方に過大な負担をかけるものではない。

4 本件抗告手続きを著しく遅延させないこと
相手方は、抗告の趣旨の変更が、「まったく別の被保全権利とまったく別の仮処分命令発令の必要性を新たに議論することを内包する」から、抗告審の手続きを著しく遅延させると述べているが、上記のとおり、抗告の趣旨の変更によっても被告保全権利や争点に変更はないのであって、相手方が真摯に応訴すれば、抗告審の結論は迅速に下されるはずである。

5 変更の申立が疎明提出期限後になされたこと
相手方の言わんとすることが判然としないが、相手方は、変更の申立てが「決定の是非を議論する段階になって、突如求められた」ことに不満を述べている。しかし、決定の是非を議論する段階になって、突如、イネを刈り取ったとして抗告の却下を求め、決定の是非の論ずる機会を奪っているのは、相手方である。
繰り返しになるが、抗告人の抗告の趣旨変更は、このような相手方の行為による事情変更に対処した保全手段の変更にすぎない。

6 申立変更権の濫用ではないこと
相手方は、抗告人が求めていたGMイネの刈り取りを実行したのだから、抗告人らが仮処分を継続するのは権利の濫用だと主張している。さらに、相手方によるGMイネの刈り取りは評価されるべきことであるとまで主張している。
真面目に反論する気にもならないが、抗告人らが、相手方のGMイネの刈り取りを評価するとすれば、それは、相手方が、抗告人らの主張する本件栽培計画の危険性を理解してGMイネを刈り取り、次年度の栽培計画を撤回した場合のことであろう。相手方は、GMイネを刈り取るにあたり実施したプレス発表では、試験栽培の目的を達したから刈り取るとしているのである。
相手方が目的を達成した本年度の栽培試験、さらには来年度に予定している栽培試験により、抗告人らの権利は危殆に瀕し続けているのである。そして、権利の侵害を予防するには、本年度の試験栽培により発現した可能性のある耐性菌の即時滅菌と、平成18年4月から予定されている栽培試験の中止を求めるしか方法がないのであって、抗告の趣旨の変更が権利の濫用などといわれる所以はどこにもない。

7 変更を許さないことに不都合があること
相手方は、申立の趣旨の変更を認めなくても、別の仮処分や別訴の提起が可能であること、平成18年度の試験栽培については、その詳細が判明した時点で話し合いや法的手段により解決すればよい旨を述べている。
しかし、別の仮処分や別訴の提起が、抗告審での解決に比べ、裁判所を含めた関係当事者に著しい訴訟不経済をもたらすことは論をまたない。
また、本年度の試験栽培が強行、続行された経緯をみれば、相手方の主張は、来年度の試験栽培を強行するための口実にすぎない。

第2 相手方の反論(5P以下)に対する再反論
 1 相手方は、@抗告人らの趣旨変更は被保全権利の変更であり、A抗告人がよってたつところの「提案説」は不合理で、提案説たちながら被保全権利を整理、創作する矛盾は、「是が非でも債務者を本手続きから開放させない」という不当な動機からなされたアドホックなもので、B相手方によりGMイネが刈り取られたことを評価しないのは理不尽で、C「債務者を本手続きから開放せず、過大な負担を負わせる」抗告人らの行為に、相手方は困惑するばかりである等などと主張している。

2 今回の抗告の趣旨変更が被保全権利の変更でないこと、抗告人らが民事保全法24条の解釈について「提案説」ではなく、「目的拘束説」立っていることは準備書面(12)とそこに引用している文献で明らかにしており(抗告人らは準備書面(12)の第3の2で、「目的拘束説」に立つ瀬木裁判官の論考を引用しながら、「仮処分手続きにおいては,民事訴訟法246条が規定するような処分権主義が適用されるものではなく,裁判所は,申立人が達成しようとする目的という中間的レベルで申立に拘束されているにすぎない」と明記しているのであり、相手方がこの記載を「提案説」と解釈する理由が理解できない)、さらに、抗告人らにおいて危険性を指摘する試験栽培計画にしたがって実施されたにすぎないGMイネの刈り取りを評価せよと迫られても、抗告人らは面食らうばかりである。
このような粗雑とも言うべき相手方の反論は、ただ、ひたすら、本件仮処分手続きからの開放を求めんがための便法としか評しようがない。

3 しかし、抗告人らとて、何もすき好んで本件審理に貴重な時間と費用を費やしているのではない。自然環境が破壊され、人格権を侵害される可能性のある試験栽培からの開放を切望して、迅速な審理と裁判所の賢明な判断に期待を寄せているのである。
  抗告人らは、抗告審においても、審理の迅速化を再三にわたり要望してきたが(抗告人らの準備書面(10)を参照)、相手方は本年9月27日になってようやく、実質的な準備書面を提出した。そこには、「債権者の求める技術説明会の開催には貴庁の指示があれば、適宜応じる所存である」とも記載されている。
しかし、他方で、本年9月30日には、試験栽培したGMイネを10月3日に刈り取る旨のプレス発表を行い、刈り取り作業は一般に公開せず、刈り取りが終了するや、10月4日には、刈り取り終了を理由とする抗告却下の申立書を提出している。
この一連の経過を通覧すれば、相手方は、抗告審の審理を出来る限り遅延させ、書面提出時の9月27日には10月3日の刈り取りを既に決定し、その上で書面には「債権者の求める技術説明会の開催には貴庁の指示があれば、適宜応じる所存である」など実体審理に積極的な姿勢を装い、ひたすら、抗告審の審理を回避しようとしていたと指摘されても、弁解できまい。このような相手方の応訴姿勢は、科学者と市民の溝を深めるだけであり、甲24号証で提出した池内了氏の指摘する「ヤバンな科学」そのものである。
本件が、仮にこのまま終わるとすれば、多数の良心的な科学者が、自らの不利益も省みず、国家的事業の危険性に異議を唱えたことともに、公共機関に従事する科学者が手続き的不正義の限りを尽くした事例として、記憶にとどめられるべきである。
以 上

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2005年10月08日

抗告人準備書面 (13)

平成17年(ラ)第1355号 遺伝子組換え稲の作付け禁止等仮処分即時抗告事件
抗 告 人  山 田   稔 ほか11名
相 手 方  (独) 農業・生物系特定産業技術研究機構

抗告人準備書面 (13)

2005年10月4日


 東京高等裁判所 民事第5部 御中

抗告人ら訴訟代理人 弁護士  神山 美智子

同       弁護士  柏木 利博

同       弁護士  光前 幸一

同       弁護士  近藤 卓史

同       弁護士  馬場 秀幸

同       弁護士  柳原 敏夫


1、はじめに
 相手方(以下、債務者という)の準備書面(5)及び書証(乙117〜119)は、長い沈黙の末ようやく提出された抗告審における債務者の初めての反論であるが、その内容たるや、
まず、抗告人(以下、債権者という)が抗告審で明らかにした本野外実験の問題点の核心(準備書面(11))に対して一切口を閉ざした全くの肩透かしのものであり、
その一方で、今回初めて、「科学的に公知」(9頁第6、2)と称するディフェンシン耐性菌問題に関する新たな主張(6〜7頁)を持ち出すに至ったが、それは初歩的な科学的知識のレベルですら誤った杜撰な主張というほかない。

2、ディフェンシン耐性菌問題に関する債務者の誤り
(1)、まず、債務者は、第4、1(5頁)で、ディフェンシン耐性菌問題に関する債権者の主張を要約しているが、耐性菌の影響に関する(8)から(13)について、債権者はこんな順番で主張をしたことは一度もない。いったいどこでそんな主張がなされているのか、明らかにされたい。
(2)、次に、債務者が「科学的な考察においても生じようがない」(6頁2)と言い切った今回の主張の最大の目玉である「ディフェンシン耐性菌がイネの細胞から外部に出る可能性は存在しない」(6頁3)は、科学的にみて完全に誤ったものである。その誤りを理論面からも、実験面からも余すところなく解明したのが、今回提出した金川意見書(甲125)である。債権者は、この金川意見書で、ディフェンシン耐性菌問題は決着を見たと確信している。

3、 交雑の可能性に関する債務者の主張
債務者は、本野外実験の問題点のひとつである「交雑の可能性」についても、あれこれ反論をしているが、その中身たるや、
一方で、「イネの花粉の交雑能力の時間」とは、生物学的に見た交雑能力のことか、それとも人工受粉という特定の目的に用いる場合に適切なイネの花粉の寿命のことか(債権者準備書面(11)4頁(a)の争点)という肝心要の核心については、一言も明らかにせず、
他方で、それ以外のことについて、専門家の目から見て「一言で言って、身の入らない、中身の薄い、蒸し返しで、肝心なところには全く触れずじまいの」(生井陳述書(2)6頁。甲124)主張でしかない。
そのことを明らかにするため、受粉生物学の専門家生井兵治氏の陳述書(2)(甲124)を提出する。

4、結語
以上の通り、今回の債務者の主張、立証とこれに対する債権者側の証拠により、次のことが明らかになった。
一方で、債権者が準備書面(11)で明らかにした本野外実験の問題点の核心に対して、債務者には積極的に反論するものが何ひとつないこと、
他方で、今回、債務者が起死回生の一打として持ち出した「科学的に公知」と称する「ディフェンシン耐性菌がイネの細胞から外部に出る可能性は存在しない」という主張は、初歩的な科学的知識のレベルですら誤った、撤回するしかないような杜撰なものであること。              
以 上
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債権者準備書面(12)

平成17年(ラ)第1355号
抗告人 山田  稔他11名
相手方 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構

債権者準備書面(12)

平成17年10月4日
東京高等裁判所第5民事部 御中

抗告人代理人  神 山 美智子

同       柏 木 利 博

同       光 前 幸 一
 
同       近 藤 卓 史

同       馬 場 秀 行
 
同       柳 原 敏 夫

  
第1 抗告の趣旨の変更   
抗告の趣旨の2以下を次のとおり変更する。

2 相手方は,刈り取った本件GMイネ、収穫したもみおよび圃場に残された株につき,発生したディフェンシン耐性菌もしくはその発生を予防するため,本決定受領後2日以内に,火炎滅菌、乾熱滅菌(160℃で4時間、または180℃で2時間)、加圧蒸気滅菌(121℃で20分)のいずれかの方法により耐性菌の殺菌処理をせよ。

3 相手方は,本件圃場の土壌につき,発生したディフェンシン耐性菌もしくはその発生を予防するため,本決定受領後2日以内に,火炎滅菌、乾熱滅菌(160℃で4時間、または180℃で2時間)、加圧蒸気滅菌(121℃で20分)のいずれかの方法により耐性菌の殺菌処理をせよ。

4 相手方は,平成18年4月上旬から6月下旬に予定している本件圃場へのカラシナ由来のディフェンシン遺伝子挿入イネの野外実験栽培をしてはならない。

5 相手方が,2,3につき,その期間内に耐性菌の殺菌処理をしないとき,抗告人らは新潟地方裁判所執行官に相手方の費用で耐性菌の殺菌処理をさせることができる。

第2 申立の趣旨を変更する理由
 1 相手方は,平成17年9月30日,上越記者クラブ等のマスコミに,本年10月3日に本件GMイネを刈り取る予定である旨を発表し,予定どおり,これを実行した。なお,刈り取り作業は,原審決定が明示した市民への情報公開要請や,第1種使用規定承認組換え栽培実験指針(疎甲14号証の1,2)が定める情報公開規定を無視し,一般には公開されず,新聞記者のみの立会いで行われた。

 2 抗告人らは,本件GMイネの花粉が周辺の一般イネと交雑する危険と,本件GMイネから発現されるディフェンシンに対する耐性菌が発生し,これが本件圃場外に流出する可能性を指摘して,未だ科学的に不可知で,しかも不可逆的損害が発生するおそれの高い「遺伝子交雑」及び「耐性菌」被害を未然に防ぐには,近時におけるリスク論の趨勢となっている予防原則が取られるべきことを説明し,本件仮処分申立の合理性,必要性,緊急性を述べてきた。

 3 ところが,本件手続きの審理は,相手方の怠慢ともいうべき応訴姿勢により長期化し,裁判所の最終結論が出る以前に,本件GMイネの実験計画にしたがった刈り取りという事態に至った。しかも,地元の生産者の言によれば,刈り取られたイネはいまだ青く,本来の刈り取り時期からすれば10日以上も早い時期の刈り取りだったとのことである。この緩慢な応訴と迅速な刈り取りというコントラストが,健全な市民感情を無視した相手方の開発優先思想を如実に示している。
しかし,本件GMイネを刈り取ったとしても,既に発生したディフェンシン耐性菌は引き続き刈り取った本件GMイネ、そのもみ、圃場に残った株または圃場の土壌中のいずれかに存在している可能性があり、発生した耐性菌が自然条件下で死滅することを期待するわけにもいかない。そこで、抗告人からの権利を保全するには,既に発生している可能性のあるディフェンシン耐性菌を除去する必要がある。

4 また,相手方の栽培実験計画書(疎甲8号証)によれば,相手方は,平成18年4月下旬から6月上旬には,刈り取った本件GMイネから選抜,発芽したGMイネを,今回と同様に相手方圃場に試験栽培するとしており,これが予定どおり実行されれば,現時点において抗告人らが晒されている以上のGMイネ花粉の周辺イネとの交雑,ディフェンシン耐性菌の発現とその流出の危険を生じさせるから,抗告人らの権利を保全するには,相手方が平成18年度に予定しているGMイネの試験栽培を事前に禁止しておく必要があり,残された時間のなかでこれを事前に禁止するには,本件仮処分手続きによるしかない。

第3 申立の趣旨変更の正当性
1 仮処分審理においても,民事訴訟法147条の規定が類推されるとするのが一般であるところ,今回の申立の趣旨の変更は,被保全権利(安全なコメ−安全性の承認されていないGMイネと交雑していないコメ−を食する権利,多様な生物が共存するなかで生活する権利,不用意な耐性菌の発生により健康をおかされることなく健康に生活する権利という人格権)には変更はなく,この権利を保全するための手段を変更するにすぎないものである。

2 ところで,民事保全法は,裁判所に,仮処分命令の目的を達するに必要な処分をなすことを認めていること(24条)からも明らかとおり,仮処分手続きにおいては,民事訴訟法246条が規定するような処分権主義が適用されるものではなく,裁判所は,申立人が達成しようとする目的という中間的レベルで申立に拘束されているにすぎない(瀬木比呂志「民事保全法」前訂第2版の355P,431P等参照)。

3 抗告人は,本件GMイネの刈り取りが認められれば,権利保全の目的が達成されるとの見地から申立の趣旨を構成してきたが,相手方が抗告人らの主張を理解せず,当初の実験計画に則って本件GMイネの刈り取りを実施したことから,抗告人らは,その権利を保全するには,本件GMイネや圃場に残された耐性菌の完全な除去と,相手方が予定している同様な栽培実験の中止を求めざるをえず,このような事情の変更に基づく保全手段の変更が,審理をことさら遅延させるような恐れもないことから,申立の趣旨を変更するに至ったものである。
以 上
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債権者準備書面 (11)

平成17年(ラ)第1355号 遺伝子組換え稲の作付け禁止等仮処分即時抗告事件
債 権 者  山 田   稔 ほか11名
債 務 者  (独) 農業・生物系特定産業技術研究機構

債権者準備書面 (11)

2005年9月20日


 東京高等裁判所 民事第5部 御中

債権者ら訴訟代理人 弁護士  神山 美智子

同       弁護士  柏木 利博

同       弁護士  光前 幸一

同       弁護士  近藤 卓史

同       弁護士  馬場 秀幸

同       弁護士  柳原 敏夫



本書面は、債権者のこれまでの主張・立証をその骨格に絞って整理したものである。

目  次

第1、債権者の抗告審における事実主張・立証の整理            
1、主要な証拠について                        2頁
2、(a)の争点(二重の袋がけの措置の安全性)と主張・立証について    3頁
3、(b)の争点(ディフェンシン耐性菌の出現の可能性)と主張・立証について   7頁
4、(c)の争点(第1種使用規程の承認手続違反)と主張・立証について  11頁
第2、債権者の抗告審における法的主張の整理
1、債権者の法的主張の射程距離                   14頁
2、予防原則のエッセンスと実際の適用                15頁
3、予防原則の具体的内容――とりわけ立証責任の転換―― 17頁
4、小括                              18頁

第1、債権者の抗告審における事実主張・立証の整理
1、主要な証拠について
 債権者が原決定を覆すに足りると考える証拠は、ほぼ次の3つに尽きる。
@. 植物育種における受粉生物学の体系化に長年研究してきた前筑波大学教授の生井兵治氏の陳述書(疎甲95)
A. 微生物生態を研究する東大教授の木暮一啓氏の意見書(疎甲99)
B. 地元上越市で有機農業に従事する天明伸浩氏の本件圃場を視察した報告書(疎甲102)
なぜなら、抗告審における主要な争点は次の3つであるが、
(a)、二重の袋がけの措置の安全性について(原決定17頁以下)
(b)、ディフェンシン耐性菌の出現の可能性について(同19頁以下)
(c)、第1種使用規程の承認手続違反について(同18頁。準備書面(8)22頁)
 このうち、
(a)の争点については、
理論面から疎甲95の生井陳述書(乙113の横尾陳述書の誤りを明らかにしたもの)、実際面から同102の天明報告書が、
(b)の争点については、
理論面から疎甲99の木暮意見書(乙106の高木報告書と乙116の黒田陳述書の誤りを明らかにしたもの)、実際面から同102の天明報告書が、
債権者の主張を余すところなく立証したものだからである。

2、(a)の争点(二重の袋がけの措置の安全性)と主張・立証について(1)、議論の整理
 問題点を理論面と実際面に分けて, 以下検討する。
(2)、理論面における問題の所在
(a) の争点の決め手となる大前提の争点として、
「イネの花粉の交雑能力の時間がどれくらいか」
という論点があり、これをめぐって、原審では、
(。)、「長くとも5分程度で消滅」という見解(以下、「5分」説という)
(「)、「50時間である」という見解(以下、「50時間」説という)
が対立し、原決定は、(不当にも債権者に反論の機会を与えられないまま)主に乙112を根拠に、(。)の「5分」説を採用した(17頁)。
そこで、問題は、原決定のこの事実認定が正しいか否かにある。

(3)、理論面に関する債権者の主張・立証
この点、債権者は、「原決定のこの事実認定は明らかに間違っている」と主張する。
その理由は、疎甲95の生井陳述書3頁以下に詳細に明らかにされている通りであり、要約すれば以下の通りである。
ア、本裁判で問題になっている「交雑能力の時間」とは、言うまでもなく、生物学的にみてイネの花粉がどれくらいの時間、交雑能力を有するかということであるが、これに対し、乙112の横尾陳述書が問題にしている「イネの花粉の寿命」とは、「人工受粉」というあくまでも特定の目的に用いる場合に適切なイネの寿命はどれくらいまでかということであり(したがって、それは当然、生物学的にみたイネの交雑能力の時間より短くなる)、両者は明らかに違う問題である。にもかかわらず、乙112の横尾陳述書は、驚くべきことに、両者を同じ問題であるかにように主張し、債権者の反論を聞く機会を持たなかった原審裁判所は、これを鵜呑みにしてしまった。この顛末が、これまで「裁判に関わることをしてこなかった」一介の研究者にすぎない生井氏をして、「横尾政雄氏の陳述書(乙第113号証)を読み、さすがの私も植物の生殖の専門家としての立場から、どうしても黙っているわけにいかなくなった」(1頁前文)と言わしめ、周到な陳述書を書かしめたのである。
イ、同時に、生井陳述書は、債権者が主張する「50時間」説を非科学的なものとして排斥することができないことも詳細に明らかにした(14〜17頁)。
ウ、以上の理由から、「イネの花粉の交雑能力の時間がどれくらいか」という論点について、「50時間」説を前提にして、具体的な交雑防止策を検討しなければならないという結論が導かれる。

(4)、実際面における問題の所在
 次に、上の結論を前提にして、債務者が実際に行なった交雑防止策が、交雑防止として原審裁判所が求めたような完璧なものといえるかどうか――これが実際面における問題である。

(5)、実際面に関する債権者の主張・立証
この点、債権者は、「債務者の実際に行なった交雑防止策は原審裁判所が求めたようなものとは全く異なり、交雑防止として不十分極まりなく、これでは交雑の可能性は大いにあると言わざるを得ない」と主張する。
その理由は、実際に、本件圃場を視察した疎甲102の天明報告書1〜5頁に詳細に明らかにされている通りであり、要約すれば以下の通りである。
ア、原審裁判所が、それまでの債務者主張の交雑防止策では不十分であるとして、審理の中で、完璧な防止策の実施を釈明したところ、債務者が
@ 個々のイネとイネの栽培地域全体とを二重に覆う物理的に完璧な防止策を採用。
A さらに、@の期間中、イネの開花特性や交雑能力の限界等を踏まえて観察を実施。
B 本GMイネの刈り取り後、二番穂が生じた場合には再度刈り取ること。
を確約したのでこれを信用し(原決定17頁下から4行目以下)、「一般イネとの自然交雑の可能性はほとんどない」と判断した(同19頁5行目)。
イ、しかし、債務者の実際の防止策は、
@:イネに被せたパラフィン袋が、至るところで、傷がつき、穴が開き、袋からイネの葉が飛び出しており(別紙1の写真の赤丸で囲んだ部分)、こうした穴は、たとえ1cm2 ほどの小さなものであっても、直径0.04o〜0.02oのイネの花粉にしてみれば、約8〜30万倍の巨大な穴であり(4頁2行目以下)、そこから容易に花粉が外に飛び出していく。
A:債務者は、理論面における前提問題である「イネの花粉の交雑能力の時間」について「長くとも5分程度で消滅」という立場に立ち、これを前提に、「午後には花粉が交雑能力を完全に喪失した状態となっていることが科学的に明らかであ」り、「午後3時以降にイネの観察を行なう」(準備書面(3)2頁3(2))としたが、午後3時以降に袋を外すのでは、交雑能力を持つ花粉が外に飛び出す可能性が極めて大と言わざるを得ない。なぜなら、上記「5分」説は前述の通り間違った見解であり、本来なら、「50時間」説を踏まえて、1つの開花につき「最低でも2日間(48時間)は袋を外さない」ことが求められ、なおかつ1つの穂の花は次々に開花して約7日間で全てが咲き終わるため、各穂につきその開花期間中は袋を外さないことが求められるからである(天明陳述書(2)1頁。疎甲85。生井陳述書17〜18頁【それ以外の理由についても同頁参照】。疎甲95)。
B:本野外実験のひとつとして、既に8月1日に刈り取った本GMイネについて(疎甲122参照)、その後、二番穂が生じ、花が咲いたが、にもかかわらず、債務者は、確約に反し「再度刈り取ること」をしないで放置しており(別紙3の写真の赤丸で囲んだ部分)、その結果、袋も何の防止策もしていない二番穂から花粉が飛散し、自然交雑するのは火を見るより明らかである。
 もっとも、債務者は、「この二番穂は本GMイネではない」と反論するであろうが、もし本GMイネの栽培用の本件圃場に発生した二番穂が、本GMイネでないというのなら、どうしてそう言えるのか証明する責任が債務者にはあるが、天明氏らの質問にもかかわらず、これに対する証明は未だ一切ない。

(6)、小括
 以上の検討から、「債務者が実際に行なった交雑防止策が、交雑防止として原審裁判所が求めたような完璧なものといえるかどうか」という論点について、「原審裁判所への確約に反し、実際の交雑防止策は杜撰極まりないもので、これでは交雑の可能性は大いにあると言わざるを得ない」という結論が導かれる。

3、(b)の争点(ディフェンシン耐性菌の出現の可能性)と主張・立証について
(1)、議論の整理
問題点を理論面と実際面に分けて, 以下検討する。

(2)、理論面における問題の所在
 第一に核心的な問題は次のことである――「ディフェンシン耐性菌の出現を報告したとする2つの論文(甲82,83)から、本野外実験においてディフェンシン耐性菌が出現する可能性は高いと推測することが合理的かどうか」(木暮意見書の第4と第5.4頁2行目以下。疎甲99)。
なぜなら、この点について、債権者は肯定したのに対し、原決定は債務者提出の証拠(乙105、106、116)を根拠にこれを否定し、ここからディフェンシン耐性菌の出現の可能性について疎明がないとしたからである(20頁イ・21頁オ)。
 第二の問題は、「ディフェンシン耐性菌の出現の危険性というのは、『出現するディフェンシン耐性菌の数が飛躍的に増加すること』を意味するのか、それとも『ディフェンシン耐性菌が出現すること』そのものなのか」

(3)、第一の問題に関する債権者の主張・立証
この点、債権者は、「これを否定した原決定の事実認定は明らかに間違っている」と主張する。
その理由は、疎甲99の木暮意見書8頁3に詳細に明らかにされている通りであり、そのエッセンスを以下に要約する。
ア、そもそも、原決定も認める通り、本GMイネの際立った点として、
「本件GMイネに組み込まれたカラシナ由来のディフェンシンは,必要に応じて生産される自然界のディフェンシンとは異なり,いもち病等の病原菌の有無にかかわらず,常時ディフェンシン遺伝子が発現してディフェンシンを多量に作り続ける性質を有して」(20頁下から3行目以下)いるという過去前例のない特徴が認められる。
イ、なおかつ、本件圃場の水田には、菌のエサになる物質が存在し、多種多様の菌が大量に生育しており、その結果、本野外実験において、常時大量に産出されるディフェンシンが多種多様の菌とが接触する機会が、過去の状況に比べ飛躍的に増加する。
ウ、他方で、疎甲82と83の報告は、実験室において菌とエサとディフェンシンを混ぜて放置するだけで自然に(spontaneous)起こった変異で耐性菌が出たというものであり、ここから、自然界においても、この三者が混じり合えば、自然に(spontaneous)起こった変異で、耐性菌が出るだろうと予想できる。
エ、以上から、本野外実験において、多種多様の菌が大量に生育している本件圃場で、それらの菌が常時大量に産出されるディフェンシンと頻繁に接触する以上、そこに耐性菌が出現する可能性は、過去に比べ、飛躍的に増えると考えるのが合理的である。さらに、野外では突然変異を誘発する紫外線が存在するので、実験室よりも変異の頻度が増すと考えられる。
オ、こうした推理は、昨今、深刻な社会問題となっている抗生物質の多用・乱用が耐性菌の出現を促したという事実からも容易に理解できる(疎甲111〜113)。
 
これに対し、債務者は、「疎甲82と83で報告された実験は、耐性菌の生育を可能にさせるため、他の生物相等の環境影響の存在しない、およそ自然界とはかけ離れた、特殊な、人工的環境の下で実験を行ったもので、この実験から、自然界で容易に、ディフェンシン耐性菌が出現するという主張の根拠にはならない」旨反論し(黒田陳述書2頁第2。疎乙116)、原決定もまたこの反論を採用した(19〜20頁のア・イ)。
しかし、この反論が全く的外れであることは、木暮意見書の第4(4〜7頁)で、完膚なきまでに再反論した通りである。

(4)、第二の問題に関する債権者の主張・立証
この点、債権者は、「ディフェンシン耐性菌の出現の危険性とは、『出現するディフェンシン耐性菌の数が飛躍的に増加すること』ではなく、『ディフェンシン耐性菌が出現すること』そのものである」と主張する。
その理由は、微生物の研究者なら誰もが指摘する通り、それゆえ、疎甲99の木暮意見書8頁の第6、第8もくり返し指摘する通り、耐性菌は有害化学物質などと異なり、短時間のうちに細胞分裂をくり返して爆発的に自己増殖する微生物であり、たとえ1匹でも出現すれば、通常、それが何万匹、何億匹に増えるのに1日とかからないものだからである。

(5)、実際面における問題の所在
 次に、債務者が実際に行なっている本野外実験が、ディフェンシン耐性菌の出現・流出を防止する上で完璧なものといえるかどうか――これが実際面における問題である。

(6)、実際面に関する債権者の主張・立証
この点、債権者は、「債務者は何の対策も講じておらず、その結果、出現するディフェンシン耐性菌の流出の可能性は確実にある」と主張する。
その理由は、そもそもディフェンシン耐性菌の出現について、「耐性菌の出現の余地は科学的になく」(答弁書12頁12(1))を首尾一貫して主張してきた債務者は、近時も、
「2.ディフェンシン耐性菌の発生については、今回の実験の目的ではなく、調査する予定はない」(債権者らの質問に対する9月7日付回答。疎甲105・106)
と、耐性菌の出現及び流出に対する防止策を何ひとつ講じていないことを明らかにしており、その結果、「職員から、実験圃場内の水は、外部にそのまま流していると説明を聞いた」(疎甲102の天明報告書3頁。別紙4の写真の赤丸で囲んだ部分参照)の通り、出現するディフェンシン耐性菌は間違いなく外部に流出することになるからである。

(7)、小括
以上の検討から、
@「本野外実験においてディフェンシン耐性菌が出現する可能性は高いと推測されるか」
A「もしその場合、債務者が実際に行なっている本野外実験が、ディフェンシン耐性菌の出現・流出を防止する上で完璧なものかどうか」
という論点について、
@:「ディフェンシン耐性菌が出現する可能性は高いと推測され、耐性菌出現の可能性についての疎明は十分である」
A:「債務者は耐性菌の出現及び流出に対する防止策を何ひとつ講じておらず、その結果、出現する耐性菌は確実に外部に流出する」
という結論が導かれる。

4、(c)の争点(第1種使用規程の承認手続違反)と主張・立証について(1)、問題の所在
本件における承認手続違反として看過できない重大な問題とは次の2つである。
第1に、債務者は、本来ならば、承認申請書(疎甲21。以下、本申請書という)にディフェンシン遺伝子がコマツナ由来と書くべきところ、これとは別種の植物であるカラシナ由来と記載して、本野外実験の承認を受けた点について。
第2に、前述したディフェンシン耐性菌の出現とその影響という重大な問題について、本来ならば、本申請書に記載し、これについて十分な審査を受けなければならないのに、債務者は、これを記載せず、この点の審査を受けずに実験の承認を受けた点について。

(2)、第一の問題に関する債権者の主張・立証
この点、債権者は、「カラシナとコマツナは明らかに別種の植物であり、遺伝子組換え実験の安全性審査において最も基本的で重要な事項である『導入した遺伝子』の記載について、専門家であれば間違う筈がなく、虚偽としか言いようのない記載をした債務者の行為は凡そ科学者としてあるまじき行為であり、その責任は極めて重大である」と主張する。
その理由は、先般提出された疎甲115の金川報告書により明らかにされた通りであるが、要約すれば以下の通りである。
今回の本申請書からすれば、挿入したDNAの塩基配列がコマツナ由来であるから、債務者が承認を受けたのは、あくまでもコマツナのディフェンシン遺伝子を導入したイネである。言いかえれば、カラシナのディフェンシン遺伝子を挿入したイネの実験については申請されておらず、したがって承認もされていない。よって、承認されていないカラシナのディフェンシン遺伝子を導入したイネである称する今回の実験は直ちに中止しなければならず、もしカラシナのディフェンシン遺伝子を挿入したイネの実験を実施するのであれば、これを正しく記載した申請書を作成し、再申請しなければならない。

(3)、第二の問題に関する債権者の主張・立証
この点、債権者は、「もし申請段階でこれについて記載していれば、本野外実験の承認がおりなかった可能性が高く、この意味において、債務者の第1種使用規程の承認手続に関して、手続的に重大な違法がある」と主張する。
その理由は、疎甲80の金川陳述書(2)に詳細に明らかにされている通りであり、要約すれば以下の通りである。
ア、もともと、債務者の本申請書は、農水省等で作成した告示「遺伝子組換え生物等の第一種使用等による生物多様性影響評価実施要領 」(以下、本実施要領という。疎甲79)にのっとって作成されるべきものである(第一、趣旨)。
イ、本実施要領は、第三で、生物多様性影響の評価の項目及び手順を定め、評価すべき項目として別表第二が掲げられ、そのうち「微生物」の項目中に「その他の性質」という欄があるが、本件ではこの欄にディフェンシン耐性菌が該当する。
ウ、次に、本実施要領は、評価すべき手順として別表第三が掲げられているが、本件では、まず第一に、カラシナディフェンシン耐性菌の出現とその耐性菌のカラシナへの影響のことが考慮されるべきである。
エ、したがって、本来ならば、本申請書には、カラシナディフェンシン耐性菌の出現とその耐性菌のカラシナへの影響について記載されなければならない。
オ、しかるに、本申請書には、こうした記載が一切ない(4〜5頁)。
(4)、小括
以上の検討から、最も基本的で重要な導入遺伝子について虚偽としか言いようのない記載をし、さらに、本来なら記載すべき重大な項目を記載しなかった本野外実験の承認申請手続には重大な違法があり、債務者の申請は無効と言わざるを得ない。この点からも、本野外実験は直ちに中止されなければならない。

第2、債権者の抗告審における法的主張の整理
1、債権者の法的主張の射程距離

 債権者が本野外実験中止の判断基準と考えている最大の規範は予防原則である。
しかし、原決定が「ア 債権者らの本件仮処分命令の申立ての趣旨・目的は、現在問題となっているGM技術及び同技術の農作物等への応用の是非、あるいはGM作物の野外実験一般を問題としているものではなく、あくまでも債務者が現に実施している本件野外実験が今後も継続されることにより」(15頁)と認定した通り、債権者が本裁判で差止を求める対象が様々な危険性・問題点をはらんだ本野外実験だけであることと対応して、債権者が主張する予防原則もまた、GM技術及び同技術の農作物等への応用の是非、あるいはGM作物の野外実験一般にまで適用を要求するものではなく、あくまでも本野外実験についてだけその適用を主張するものである。
なぜなら、前述した通り、本野外実験の最大の特質である、ディフェンシンの常時大量産出という歴史上未だかつてなかった事態の下で、ディフェンシン耐性菌の出現とその外部への流出という問題は、今や、日本のみならず世界中の研究者・関係者らが憂慮するところとなり(疎甲81〜94・116〜117のみならず118〜121)、その場合の「予見不可能性」と「回復不可能性」という特質は、まさに予防原則の適用が要請されるに最も相応しい事態だからである。

2、予防原則のエッセンスと実際の適用(1)、予防原則に関する概括的な解説として、三菱総研の研究ノートがある(疎甲108)が、これを簡潔にまとめたものが債権者代理人がまとめた疎甲114の基礎知識の6頁以下である。
そこでも解説した通り、予防原則のエッセンスは「疑わしきは罰する」である(疎甲110の放送大学「集団と環境の生物学」第15回講義参照)。
しかし、これは、「疑わしきは罰せず」を原則と信じてきた者にとって躓きの石である。しかし、すべて原則は特定の文脈の下でのみ妥当するのであって、これを離れて普遍性を持つことはない。それは、「契約自由の原則」、「過失責任の原則」の変遷を考えれば明白である。
(2)、では、なぜ、「疑わしきは罰する」という逆転が生じたのか。それは、現代文明が、これまで地球上にはなかった未知の事故に直面することになったからである。では、どういう点で、それはかつてない新しさ、未知と言えるのか。これについて、前記三菱総研の研究ノートは、以下の4つの要素を挙げる(99頁。疎甲108)。
@ .リスクの不確実性(申立書11頁にいう「予見不可能性」)
A .不可逆性(申立書11頁にいう「回復不可能性」)
B .晩発生(病原体やアスベスト等を体内に取り込んでから実際の被害が発生するまでに時間がかかること。疎甲2の153頁下段参照)
C .越境性(リスク源が国境を超えて移動すること)
つまり、このような新たな要素をはらんだ事故については、もはや従来の事故を想定したリスク管理の原則では対応できないため、そこで、この新しい事態に即応した新しい管理の原則を発見するしかなかった。そこで見出されたのが、この予防原則=「疑わしきは罰する」である。
(3)、そして、この新たな要素をはらんだ事故が発生する分野として、三菱総研の研究レポートは、遺伝子組み替え技術をはじめとする、以下の分野を挙げる(99頁。疎甲108の)。
−化学物質(環境中の化学物質、温暖化ガス)
−食品(BSE、ホルモン牛肉)
−技術(遺伝子組み替え技術、クローン技術)
−生態系(絶滅危機種、捕鯨)
−電磁波、放射線
(4)、しかも、予防原則は、国際関係では既に数多くの条約、協定に適用されており、三菱総研の研究ノートは、その具体例を紹介している(100頁。疎甲108)が、そこには本裁判でその適用が問題となる次の条約、議定書も含まれている。
−生物多様性条約(1993年)
−カルタヘナ議定書(2000年)
(5)、のみならず、この予防原則が、既に国内の食品安全に関する原則として適用されていることは、(社)農林水産先端技術産業振興センター作成のハンドブック「バイテク小事典」に、
《バイオの分野では、遺伝子組換え食品の安全性に関して、予防原則を基に話し合いが進められている事実。》(111頁。疎甲70)
と明記されている通りである。
 さらに、先月8月29日放送のクローズアップ現代「食の安全をどう伝えるか」で、同月12日、わが国の食品安全委員会が、予防原則に基づいて、「魚介類等に含まれるメチル水銀に関する食品健康影響評価について」、2年前の基準より厳しい基準を明らかにしたことが取り上げられ、放送された(疎甲123の映像参照)。
これは、魚介類等に含まれるメチル水銀が胎児に何等かの影響を与える恐れがあると判断され、そこで、その影響がたとえわずかであっても、それが疑われる限り、予防原則の立場に立って、それを未然に防ぐ必要があるとして、食品健康影響評価について見直しを行なったものであり、食品安全に関する行政の現場では、予防原則が既に使われている。
(6)、他方、本裁判で問題となる生物多様性の保全に関しても、予防原則が確立した原則となっている(疎甲110の放送大学「集団と環境の生物学」第14回、第15回講義参照)。

3、予防原則の具体的内容――とりわけ立証責任の転換――
 予防原則の具体的内容については、この間、多くの人たちの手により、その内容が詰められてきた。そのひとつの成果が、EUが2000年に発表した「予防原則に関する欧州委員会からのコミュニケーション」である。
この中で、とりわけ注目に値することは、リスクに関する立証責任が取り上げられている点にある(三菱総研の研究ノート101頁参照。疎甲108)。
もっとも、その責任の内容は「適切な関係者に課す必要がある」とやや曖昧であるが、その後、2004年11月22日にEUが発表した Questions and Answers on REACH Part II(ただし、これは化学物質の分野である)の中では、立証責任について、安全性の立証責任は当局側から開発する企業側に転換された。(疎甲109「EU 新化学物質政策REACH の紹介」より)
つまり、予防原則の内容を吟味していけば、その適用はおのずと立証責任の問題にまで行かざるを得ず、そして、リスクの不確実性や不可逆性などの新しい事態の特質を熟慮すれば、その解決の仕方もまた証拠を独占し開発する者の側にあるとするしかないことは自明である。現に、スウェーデンや英国では、既にこれを明記している(疎甲44「予防原則」242頁)。

4、小括
前記(1)で既述した通り、ディフェンシンの常時大量産出という歴史上未だかつてなかった事態をもたらした本野外実験こそ、予防原則が適用されるに最も相応しいケースである。
そこで、債権者は、この極めて重大な特質を直視したとき、取り返しのつかない事態を回避するために、予防原則を適用して、本野外実験が即時中止されるべきことを主張する。
なお、念のために言えば、債権者は、本GMイネの実験自体を中止せよといった法外な主張をしている訳ではない。あくまで、債務者側のGM作物の研究の必要性も十分尊重した上で、回復不可能な事態を回避するためにやむを得ない必要最小限度の措置として「安全性が確保されるまでの間、本GMイネの実験を野外から室内に戻すべきである」とごく控え目な主張をしているにすぎない。
以 上

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債権者準備書面 (10)

平成17年(ラ)第1355号
抗告人 山田  稔他11名
相手方 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構

準 備 書 面(10)

                                          東京高等裁判所民事第5部  御中
平成17年9月20日
                 
抗告人ら代理人弁護士  神山 美智子

同       光前 幸一

同       柳原 敏夫

同       柏木 利博
 
同       近藤 卓史

同       馬場 秀行
 
                  
  本書面は,原決定後の事情をふまえ,本手続きの審理促進とともに,予防原則に基づく裁判所の早期判断について意見を述べるものである。

第1 信義誠実を欠いた相手方の応訴姿勢(民事訴訟法2条)
1 即時抗告の申立て後、既に1ケ月余りが経過した。
   この間、抗告人らは、8月25日には準備書面(8)を提出して原決定の誤りを指摘したが、とくに、原審での審理が不十分であったディフェンシン耐性菌の問題については、あらたに東京大学海洋学研究所教授である小暮一啓氏の意見書(甲99号証)を提出し、また、交雑の危険性に関する原決定の誤りについても、筑波大学教授であった生井兵治氏の詳細な陳述書等を提出した。そして、9月5日には、審理促進の上申書を提出し、相手方にもその意向は伝えられているはずである(なお,ディフェンシン耐性菌問題については,その後,山形大学理学部・物質生命化学化教授である西田雄三氏の要望書−甲116号証−も提出した)。
しかし、相手方は、抗告人らのこれらの主張に対して全く応答、反論をしないまま、GMイネの実験栽培を強行している。しかも、その栽培方法は、原審において自らが提示・確約した交雑防止措置さえ怠っているのである。

2 原決定は、相手方が提示・確約している交雑防止措置(イネ自体にパラフィン紙及びビニールシートを被せる他、さらにGMイネの作付け部分全体を不織布で覆う)等により、周辺農家のイネとの自然交雑の可能性は殆どないこと、ディフェンシン耐性菌の出現、流出の可能性については疎明がないことを理由に本仮処分申請を却下したが、併せて、相手方の対応には適切さを欠いたものがあることを指摘し、実験を継続するにあたっては、「生産者や消費者の不安感や不信感等を払拭するよう努めていく責任があり、仮にも、上記の情報(交雑の可能性やディフェンシン耐性菌の発生状況等を意味する)公開等が円滑に行われず、いたずらに生産者や消費者の不安感等を助長するような事態を招き、その結果、農業等を行う上で具体的な損害ないし支障が生ずるような状況に立ち至ったときには、本件野外実験の差止めを求められてやむを得ない」との異例の警告を発した(24頁)。

3 しかし、原決定が交雑防止のよりどころとしたイネの袋がけの実態は、甲101号証の写真や102号証の説明のとおりで、袋は穴がアキ、そこからイネの葉が飛びだしたまま放置され、およそ花粉飛散を防止するようなものではなかった(この写真は、8月30日に、相手方職員により撮影されたものである)。
  また,相手方は,原決定が指摘したディヘンシン耐性菌の調査と情報公開についても,「実施するつもりはない」と抗告人らに言明し(甲102号証参照),原決定の警告を真摯に受け止める姿勢がない。

4 このように,相手方は,抗告人らの不安を助長させ、原審裁判所との確約を反故にし、原審裁判所からの警告を無視する一方,抗告審においては,裁判所からの審理促進の要請にもかかわらず,書面の提出を9月26日に行うと申し入れているとのことである。
保全処分の抗告審において,本野外実験の資料や情報をすべて掌握し、原審において詳細な答弁書の提出に3日足らずで対応できた相手方が,素人集団呼ばわりしている抗告人らの書面に対する応答に1ケ月以上もの日時を必要とする理由は理解不可能としか言いようがないが,抗告人らは,次の事実だけは,指摘しておかなければならない。
抗告人らが,原審の段階から審理促進を要請した理由は,仮処分の対象が室内ではなく、野外における実験栽培中のイネだからである。野外実験栽培のため,耐性菌は人知の及ばぬところでいつ発生するやも知れず,なおかつそれがいとも容易に外部に流出するかもしれず、また,本GMイネの開花は8月中旬から始まり,周辺イネは交雑の危険に晒された。しかも,相手方の栽培実験計画書(甲8号証)によれば,GMイネの栽培終了予定時期(刈り取り時期)は,「9月下旬〜10月上旬」とされているのである。
もし,万が一にも,相手方が9月26日まで書面を提出しない理由が,抗告審の審理を引き延ばし,抗告審での決定前にイネを刈り取ることで本手続きの無効化を目論み,期待しているのだとすれば,相手方は,抗告人らだけでなく,司法を冒涜したものとなるし,裁判所が,相手方のそのような手続き進行を容認すれば,自らの権威を失わせることとなる。

5 相手方は原審答弁書において,抗告人らの主張を,「一般的な高等教育機関で教授ないし研究されている遺伝子科学の理論に基づいた主張を展開しているものではなく,遺伝子科学に関し聞きかじりをした程度の知識を前提に特定の指向をもった偏頗な主張を抽象的述べているに過ぎず」とまで論じている(19頁(4))。
しかし,本件の特長の一つは,高等教育機関の現職の専門学者の多数が,科学者としての良心に基づいて,本件実験の危険性を,自らの言葉で表明して下さっていることである(たとえば甲81〜94号証)。かつて,この種の裁判に,国立系のしかも現職の学者諸氏が,国家的プロジェクトなるものに,ここまで表立って反対表明されるようなことはなかった。
しかも,諸氏は,遺伝子組み換え研究そのものに反対している方々ではない。むしろ,これまで,組み替え技術の研究を専門とさえしてきた方々である。それが何故,嫌がらせや不利益処分を覚悟してまで本野外実験に反対表明されたかと言えば,このような安全性を無視した本野外実験は,これまで培ってきたリスク管理を重視した研究手法と相容れないもので,新たな危険微生物の出現とともに,GM研究そのものを後退させる結果になることを危惧されるからである。
相手方は,素人ではない専門家のこのような真摯な指摘に,専門家として,同様な真摯さをもって応える義務がある。そのような専門家の応答こそが,今後の研究開発を実り多いものとし,市民の信頼を得るための捷径となるからである。

6 以上のとおり,相手方のこれまでの応訴姿勢は,民事訴訟法2条が規定する「裁判所は,民事訴訟が公正かつ迅速に行われるように努め,当事者は,信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない。」に明白に違反している。
裁判所におかれては,前述した相手方の原審裁判所への確約違反、原決定の相手方に対する警告事実をも踏まえ,直ちに,仮処分決定を下すよう求めたいし,相手方のイネの刈り取り作業終了により,保全事件の終結という事態だけは絶対に回避していただきたい。

第2 予防原則に基づく審理の促進の必要性 
1 抗告人らは,本件野外実験の即時中止を求める根拠や疎明のあり方として,予防原則を主張してきた(準備書面(8)19頁以下。準備書面(10) 
  頁以下など)。
すなわち,これまでのように、危険性に関する科学的知見が十分に得られているような事項が紛争の対象であれば,事実を認定し,当該事実に当該知見を適用することの合理性を判断するという,旧来型の司法判断(いわゆる法的三段論法)が妥当するが,しかし、危険の発生に関する科学的知見が十分でなく(予見不可能性),危害の兆候がなくても長い期間を経て被害が発生し(晩発性),しかも危害がひとたび発現すれば取り返しのつかない事態を引き起こす(不可逆性)事項が対象となっている事案においては,事実の特定や科学的知見の適応において,予防的なアプローチが必要になるということである(甲108号証)。
遺伝子組み換え技術は,まさに,このような予防的アプローチが必要な事案であり,事実の特定や科学的知見の適用において旧来の証明責任にしたがえば,危険は垂れ流し状態となり,被害が現実化した時点では被害回復の可能性もない(甲108号証)。
わけても本件は、遺伝子組み換え技術のうちでも、外部との遮断が不可能なため、危害が外として確立しており(甲110号証)、また、国の食品安全委員会でも、予防原則にのっとった措置が取られているが(甲114号証7頁)、裁判所部へ流出する可能性が高い野外実験であり、その上、ディフェンシン耐性菌という極めて危険な微生物が出現し、外部に流出する可能性が高い野外実験である以上、予防的なアプローチが最も必要とされる事案にほかならない。
にもかかわらず、抗告人にとって最も重大なこの指摘に対し、相手方は、抗告審において何ひとつ対応しない。

2 言葉を返せば,抗告人らの危惧する交雑や耐性菌発生の問題に対し相手方が平然としておられるのは,仮に交雑や耐性菌が発生したとしても,被害の発生は晩発的で,本野外実験との因果関係の特定も困難なことから,相手方は,組織としても,また個人としても,事後的な損害賠償責任を負担する恐れが少ないからである。近時,ようやく、血友病患者のワクチン使用によるHIV感染に関する事件で,規制官庁の公務員が刑事責任を問われるようになったものの,このような裁判は,今後はいざ知らず,わが国では稀有なことだからである。
昨今,リスク管理の手法について,リスクの性質に応じ,決定分析型から予防原則型への転換が叫ばれており(甲108号証),既に生物多様性の保全の領域では基本原則の差止め訴訟においても,同様の意識転換が強く求められる。

3 また、本野外実験の有用性が乏しいことはこれまで指摘したとおりである(準備書面(5)8〜9頁)。
  本野外実験の負の側面である食品安全性の承認されていない(相手方の栽培実験計画書2(3).甲8号証)GMイネの交雑やディフェンシン耐性菌出現の可能性を考量すれば,本件は,裁判所においても,予防的なアプローチに基づく早期審理,決定が求められる事案である。
以 上



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地元上越市で有機農業に従事する天明伸浩氏の本件圃場を視察した報告書(疎甲102)

報告書

天明 伸浩



私は、疎甲71、同85の陳述書を作成した有機農業者ですが、去る8月24日と30日に、2回、今回のGMイネの実験圃場の現地調査・周辺農家の圃場調査を行い、本裁判の中心的な争点である@花粉飛散防止とAディフェンシン耐性菌の伝播について、いくつか問題点が明らかになりましたので、ご報告させていただきます。

1.調査方法
実験圃場の現地調査は、事前に北陸研究センター(以下、債務者という)に申し入れた上で行いました。実験圃場内は関係者以外立ち入り禁止のため、債務者職員(矢頭氏)にカメラを渡し、撮影をお願いしました。
・8/24  調査担当:安藤・天明(以上、上越有機農業研究会)
・8/30  調査担当:青木・佐藤・山田(以上、債権者)、長谷川・小山(以上、総合生協)、天明

2.写真説明
8月24日に撮影した別紙の写真と前回裁判所に提出した8月30日撮影の疎甲101の証拠写真について、ここでは@花粉飛散防止とAディフェンシン耐性菌の伝播について、重要な問題となるものをとりあげ、説明を補足させていただきます。

@花粉飛散防止について
(1)花粉飛散防止のためイネに被せたパラフィン袋の破損について
  8月30日撮影の疎甲101の写真について
・写真56−写真中央に、袋に傷がつき、穴が開いている(該当箇所を赤丸で表示した別紙1参照)。
・写真57−袋からイネの葉が飛び出している。(写真左および最下段の袋。)袋が破れ穴が開いている。(写真右。以上、同じく別紙1参照)
・写真59−袋が裂けて中からイネが飛び出している。(写真左端を初め、至るところ。同じく別紙1参照

(2)GMイネの開花と周辺農家のイネの開花が重なっていたことについて
別紙2の写真 
8月24日、本件圃場に隣接した周辺農家の圃場でもイネが開花していた様子を撮影したもの(日付の証明のため、24日の新聞を持参して撮影)。さらに、まだ開花が始まっていないものも確認することができた。
一方、債務者の主張では、「本件GMイネの予想開花時期が8月21日から9月3日ころ」(原決定8頁下から4行目)であり、周辺農家のイネと開花期が重なっていたことが明らかである。
ちなみに、予想開花時期(=出穂期)とは、たくさんあるイネの穂のうち、全体の穂のおよそ5割が開花状態になったとき出穂期に入ったとされる。したがって、中にはそれより早く開花が始まっている穂も当然ある。予想開花時期(=出穂期)が21日からであれば、すべての穂のうち開花が早く始まったものは19日ごろからであり、その意味でも、「本件圃場に近隣する一般イネの予想開花時期は8月7目から同月20日ころ」(原決定8頁下から5行目)と開花時期が重なっていたことが明らかである。       

(3)GMイネ実験区内で二番穂が発生していたことについて
 8月30日撮影の疎甲101の写真について
写真19、41(別紙3参照)  
8月30日、債務者のGMイネの実験圃場のうち、既に刈り取りが済んだイモチ病接種検定区内で二番穂が発生し放置されていた様子を撮影したもの(二番穂:一度刈り取った後でも株元から再び成長し、二回目の穂がつくこと)。
穂は、頴が開き中から葯が飛び出し花粉が漏出していた。二番穂は実験区内のあちこちで発生していた。「GMイネの二番穂ではないのか」と職員に質したところ、正確な確認をせずに「GMイネではないイネの二番穂だ」と説明した。

Aディフェンシン耐性菌の伝播について
(4)GMイネ実験圃場の排水について
 8月30日撮影の疎甲101の写真について
・写真16、51(別紙4参照) 
別紙4の写真
 ディフェンシン耐性菌の流出・伝播という観点から、GMイネ実験圃場内の水が、最後どのように外部に排出されるか確認をした。職員から、実験圃場内の水は、外部にそのまま流していると説明を聞いた。

3.問題点の指摘
(1)、花粉飛散防止
ア、これらの写真を、疎甲95の陳述書の作成者である前筑波大学教授の生井兵治先生に見ていただいたところ、花粉飛散防止策について、
「写真付きのセンター訪問報告有難うございます。
穴あきパラフィン紙袋など、思ったとおりの状況ですね。
裁判での彼らの主張は、この一見だけでも分かるとおり、
実験進行が第一優先で、ひどすぎます。

新たな写真も有難うございました。
いずれにしても、笑い話にもなりませんね。

前便で、『実験進行が第一優先で、ひどすぎます。』とか、
『笑い話にもなりません。』と書いた意味は、
物理的隔離も距離的隔離も有名無実という私の感想でした。
ほんとにひどすぎますね。」
とメールでおっしゃっておりました。

イ、一方、実験過程を随時適正に公開していると債務者が主張する、ホームページの内容を、今回調査を行った私たち自身で確認したところ、イネにパラフィン袋が被せてある写真は、袋に傷一つないきれいな状態で写されたもので、上記に報告しました、傷や穴が無数にある現場の実際の状況とまったく異なっていました。
 たしかに、債務者の職員に撮影してもらった写真では、穴の大きさはそれほど大きくは見えません。ですが、穴が小さいからといって、見過ごすことはできません。小さくとも、穴があったこと自体が重大なのです。
なぜなら、仮にここで、穴がわずか、1cm×1cm=1cm2 であったとします。イネの花粉の大きさは直径0.04o〜0.02oです。1cm2の穴は、直径0.04oの花粉にとって、約8万倍の大きさ、また、直径0.02oの花粉にとっては、約30万倍もの大きさだからです。
果たして、「すべての観点において安全性を実現すべく完全な対策を実施している」と主張する債務者は、本当に「完全」な対策を行っているといえるのでしょうか? 微細な花粉を一粒たりとも漏れ出さないような対策が、本当に実現されているのでしょうか?

ウ、次の問題点は、前記(2)で述べたように、GMイネと一般イネの開花期が実際には重なってしまっていたということです。これにより、債務者が当初、「周辺農家とは田植えの時期をずらすので、開花時期は重ならない」と主張したことも、現実には不可能であったことが明らかです。
本来、債務者には、つねに周辺農家のイネの生育状況に注意を払いながら実験を遂行するという、社会的責務があるはずです。室内GM実験と野外GM実験とでは、周辺農家に対する危険性が格段に違うからです。周辺のイネは、簡単にひと括りできるような開花時期を示しません。それは、それぞれのイネが、個々の農家の自由な栽培管理のもと、自然の天候に左右されながら育つものだからです。そのことを十分わきまえた上で、周辺イネの開花(特に開花終了)について、最後の一粒まで見落とさずに確認を行うのが、より現実に即した「時間的隔離」の方法だと考えます。
その際、周辺農家のイネの開花終了ばかりでなく、実験中のGMイネの開花終了についても厳密に調査する必要があります。債務者は、9月5日にGMイネの開花終了を確認したと公表しています。しかしこれが本当に真実かどうか、750株、すべての稲穂について、一粒も漏らさず証拠写真なり、映像で示すなりして、いま開花中のものも、これから花が咲く予定のものも、一切ないのだということを、債権者はじめこの事態を注視する一般市民に広く公開していただきたいほどなのです。
なぜなら、真っ白いシートを被ったテントのなかは、私たち市民には確認のしようがなく、花粉とは、0.04o〜0.02oの大きさしかなくとも、生命力さえあれば、たった一粒でも受粉するに十分なものだからです。
「情報公開している」という債務者のホームページには、一つの穴もないきれいなパラフィン紙をイネに被せた写真が載せられ、
「8月22日(月) 出穂期
8月30日(火) 開花期終期を迎えています。
9月 5日(月) イネの開花終了を確認しましたのでパラフィン紙の袋を取り外しました。」
と書かれてあるだけです。出穂期の写真、開花終了の写真はもちろん、パラフィン紙をはずして調査を行っている様子も一切示されていません。これでは、秘密に行われているといわれても仕方がないでしょう。このような債務者の態度に、私たち生産者・消費者はとても満足できません。

エ、その他、前記(3)で指摘したとおり、GM実験区内のあちこちで二番穂を確認しました。しかもその稲穂から、雄しべまで出ているのを確認しました。債務者職員は、「あれはGMイネではない」と言いましたが、花粉一粒が持つ交雑の危険性に対し、十分感度を高めれば、紛らわしいものをあのようなかたちで放置することなどできないはずです。調査のあと、参加者から、「GMイネの二番穂が一株も混ざっていないとなぜ明確に分るのか?どのように確認したのか?」と疑問が出ました。証拠を示していただきたいところです。

(2)、ディフェンシン耐性菌の問題
さらに、前記(4)で述べたとおり、ディフェンシン耐性菌の伝播について耐性菌の流出に何も対策が講じられておらず、これだけ耐性菌の問題が争点となっているのに債務者にまったく危機感が無いことに、参加者より不安の声が出ていました。

 以上、問題点を指摘しましたとおり、「万全の対策を講じている」と自認する債務者の主張と、現場の実際の状況はあまりにも食い違っております。それでも実験が続けられていることに生産者・消費者は以前にも増して強い危機感を感じております。
ちなみに、先の新潟地方裁判所高田支部の決定でも、本件の野外実験に関する情報について、そのうち、花粉飛散防止とディフェンシン耐性菌の問題については「特に」と断り書きをつけて、「今後とも、生産者や消費者に的確に情報提供をしたり説明をすることにより、本件GMイネに対する不安感や不信感等を払拭するよう努めていく責任があり」(原決定24頁1行目以下)と債務者の説明責任を認めておりました。
ところが、8月30日、債権者と生産者・消費者の団体「新潟県の米と自然を守る連絡会」より、債務者に対し、それぞれ、情報公開を求める申入書(疎甲103)と情報開示を求める公開質問状(疎甲104)を提出し、回答を求めましたが(その申入れの様子は、疎甲101の写真12と13にあります)、9月8日に届いた債務者からの回答によりますと、ディフェンシン耐性菌の問題については、
「ディフェンシン耐性菌の発生については、今回の実験の目的ではなく、調査する予定はない」
という回答でした(疎甲105・106)。
 しかし、原決定は、ディフェンシン耐性菌の発生について、
「本件野外実験の過程で、耐性菌が飛躍的に増加」することを裏付ける疎明資料はないと判断しただけでして、
「本件野外実験の過程で、債権者らの主張するように、本件圃場内にディフェンシン耐性菌が出現する可能性があるとしても、」(21頁2行目以下)
とその発生の可能性を認めています。そして、原決定が見落としてしまった微生物の特質である「短期間に爆発的に増殖する性質」(疎甲99の木暮陳述書9頁・11頁参照)のことを考えますと、耐性菌は1匹出現するだけで、それが大いに増殖する可能性があり、「耐性菌が飛躍的に増加」してしまうことは容易に可能です。
にもかかわらず、債務者はディフェンシン耐性菌の発生について、現在までのみらず、今度とも何も調査しないと回答してきたのです、たった1匹の耐性菌の出現でも飛躍的に増加する怖れがあるとき、これは、私たち生産者や消費者を、とてつもない不安感や不信感に落とし入れるものです。これは紛れもない現実的な精神的苦痛です。その意味で、債務者の今回の態度は、原決定がいみじくも指摘されたような
「仮にも、上記の情報公開等が円滑に行われず、いたずらに生産者や消費者の不安感等を助長するような事態を招き、その結果、農業等を行う上で具体的な損害ないし支障が生ずるような状況に立ち至ったときには、本件野外実験の差止めを求められてもやむを得ないものというべきである。」(24頁ラスト)
に該当するのではないでしょうか。
 
4、まとめ
最後に、今まで債務者が実験を行ううえで周囲の理解を得るために地域住民や関係機関に実験の説明を繰り返し行ってきました。多くの人はその説明が科学的な事実に基づいて正確に情報を伝え、誠実に交雑防止・危機管理などを実行すると考えて実験を了承してきました。また新潟地方裁判所高田支部での仮処分申請においても債務者が説明してきたことを信用して「差し止め」には至らないと判断を下しました。
しかし、今回、現地調査を行ってみると、その説明とはあまりに異なる状況を目にすることになりました。
このような状況で実験を続行することは今まで説明を受けてきた地域住民、関係機関、さらには司法を侮辱するものと考えられます。さらに法廷で述べたことはその場限りで、責任を一切持たないとするならばどのような空理空論を述べてでも実験を行えることになります。言葉が軽くなっている昨今ですが、司法の場で述べる言葉までそのようなものになってしまえば、この世に正義を実現することは不可能になってしまいます。
つきましては1日も早くこの実験を中止されることを願います。

以 上
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債権者準備書面 (9)

平成17年(ラ)第1355号 遺伝子組換え稲の作付け禁止等仮処分即時抗告事件
債 権 者  山 田   稔 ほか11名
債 務 者  (独) 農業・生物系特定産業技術研究機構

債権者準備書面 (9)

2005年9月13日


 東京高等裁判所 民事第5部 御中

債権者ら訴訟代理人 弁護士  神山 美智子

同       弁護士  柏木 利博

同       弁護士  光前 幸一

同       弁護士  近藤 卓史

同       弁護士  馬場 秀幸

同       弁護士  柳原 敏夫



1、原審裁判所の予測と注文について
 原審裁判所は、原決定の中で、債務者が主張した二重の交雑防止策について、「債務者の予定する前記飛散防止策により、一応、現在周辺農家において生育中の一般イネとの自然交雑の可能性はほとんどないものと考えられ」と予測し、これを理由に本野外実験を許容した(19頁4行目)。
しかし、実際には、債務者が実行した交雑防止策が「一般イネとの自然交雑の可能性をはらんだ」極めて杜撰なものであることが、現実に本件圃場を見学した天明伸浩氏の報告書(疎甲102)により明々白々となった。この点からして、本野外実験は即刻中止されるべきである。
 また、原審裁判所は、ディフェンシン耐性菌の出現について、「本件野外実験の過程で、耐性菌が飛躍的に増加」することを裏付ける疎明資料はないと判断したのみで、
「本件野外実験の過程で、債権者らの主張するように、本件圃場内にディフェンシン耐性菌が出現する可能性があるとしても、」(21頁2行目以下)
とその発生の可能性を認め、それゆえ、債務者に、引き続き、
「本件の隔離圃場内におけるディフェンシン耐性菌の発生状況と伝播の有無等)に関しては、今後とも生産者や消費者に的確に情報提供したり説明をすることにより、本件GMイネに対する不安感や不信感等を払拭するよう努めていく責任があり」(24頁3行目)
という条件を課した。
にもかかわらず、債務者は、この点に関する債権者や生産者・消費者らの質問状(疎甲103.104)に対して、
「ディフェンシン耐性菌の発生については、今回の実験の目的ではなく、調査する予定はない」
と回答した(疎甲105・106)。
 これは、原審裁判所が、こうした説明責任を十分に果たした場合に限って本野外実験は許容される(なぜなら、このあと、「仮にも、上記の情報公開等が円滑に行われず、いたずらに生産者や消費者の不安感等を助長するような事態を招」いた場合には、「本件野外実験の差止めを求められてもやむを得ない」としているからである)とした前提を債務者自らが否定するものにひとしく、この点からしても、本野外実験は中止されるほかない。

2、耐性菌問題の重要性について
本野外実験の最も重要な争点は、ディフェンシン耐性菌の出現・流出の問題であるが、ディフェンシン耐性菌に限らず、いわゆる耐性菌問題が、抗生物質の濫用により、現在、最も深刻な問題のひとつであることは、つい最近の朝日新聞の9月5日付記事(疎甲113)、2002年の日本化学療養学会の第50回総会のシンポジウム「我が国における抗菌化学療法50年の功罪」(疎甲112)や、耐性菌問題のわが国の第一人者である平松啓一氏(順天堂大学医学部細菌学教室)の著作「抗生物質が効かない」(疎甲111)などから明らかであり、本野外実験もまた、この最も深刻で厄介な問題のひとつにほかならない。

3、本裁判の国内及び国外での反響
こうした深刻な問題をはらんだ本野外実験に対しては、これを容認する原審裁判所の決定後も、全国の消費者たちから、実験中止を求める決議がなされ、債務者の下に届けられている(現在、入手した分として、疎甲107の1〜5)。
のみならず、GMイネの野外実験によるディフェンシン耐性菌の出現・流出という深刻な問題は、国内のみならず、世界的に反響を呼び、本野外実験の実情を知った海外の研究者からも、問題の重要性を述べたEメールが寄せられている(その詳細は、近日中に報告書を提出予定)。
つまり、ディフェンシン耐性菌の出現・流出という深刻な問題をはらんだ本野外実験に対しては、国内のみならず世界中から注目が集まっている。

4、予防原則について
こうした、GM技術により、いまだかつてなかったディフェンシンの常時大量の産出とこれに対するディフェンシン耐性菌の出現の可能性という事態に対しては、従来の事故の延長線上では捉え切れないものがあり、ここに、こうした新しい事故に対する新しい対応の原則である予防原則が極めて重要になる。
債権者は、この予防原則が、既に、生物多様性の保全や食品安全性の確保に関する確立した基本原則であることを明らかにする文献・映像(疎甲108〜110)を提出する。また、予防原則及び、本裁判で登場する専門用語に関する基礎知識をまとめた書面を提出する(疎甲114)。

以 上


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債権者準備書面 (8)

平成17年(ラ)第1355号 遺伝子組換え稲の作付け禁止等仮処分即時抗告事件
債 権 者  山 田   稔 ほか11名
債 務 者  (独) 農業・生物系特定産業技術研究機構

債権者準備書面 (8)

2005年8月25日


 東京高等裁判所 民事第5部 御中

債権者ら訴訟代理人 弁護士 神山 美智子

同       弁護士  柏木 利博

同       弁護士  光前 幸一

同       弁護士  近藤 卓史

同       弁護士  馬場 秀幸

同       弁護士  柳原 敏夫

 本事件における債権者らの即時抗告の理由は以下の通りである。


目 次

第1、はじめに
1、GM技術の本質と政府の基本理念                 3頁
2、原審裁判の特徴――債務者と裁判所の対応――          4頁
3、本準備書面の目的                        7頁
第2、二重の袋がけの措置に対する事実認定と判断の誤り
1、問題の所在――重大な前提問題――               7頁
2、二重の袋がけの措置の安全性について              8頁
第3、ディフェンシン耐性菌に対する事実認定と判断の誤り
1、問題の所在                           10頁
2、原審の判断とその誤り    10頁
3、ディフェンシンの土壌微生物への影響について           14頁 
4、ディフェンシン耐性菌の圃場からの流出・伝播の危険性について 15頁
第4、本野外実験の危険性の判断基準について
1、原審の態度                          17頁
2、原審の問題点                          18頁
3、本野外実験に固有の実情・特質を踏まえた判断基準について  19頁
第5、本野外実験の第1種使用規程の承認手続について
1、原審の判断                           22頁
2、原審の問題点                          22頁
第6、最後に――問題点の一覧表の提出と技術説明会の早期開催――
1、本裁判の新しさと困難さ                     24頁
2、技術説明会の早期開催の必要性                  24頁

第1、はじめに
1、遺伝子組換え技術の本質と政府の基本理念

 20世紀の人類が手に入れた最も威力ある技術が原子力技術だとすれば、21世紀のそれは遺伝子組換え(以下、GMと略称)技術であろう。それは、「あらゆる生物的障害や境界をこえて遺伝子を移転させることは、人間の歴史上前例のない技術上の力業」という意味で、「第二の創世記」とも呼ばれる(疎甲45の3。108頁)。しかも、原子力技術が物理学の最先端の成果だとすれば、GM技術は、物理学のみならず化学、生物学、農学、医学、薬学、コンピュータ科学などの諸学問の最先端の集大成である。つまり、GM技術が人類に及ぼす影響は、原子力技術の比ではなく、我々の日常生活の隅々にまで及ぶ。
そしてまた、原子力技術がその絶大なる恩恵・威力と共に未曾有の脅威・災害をもたらしたのと同様に、GM技術もまた同様の構造にある。「ごくわずかとはいえ環境を爆発させる引き金になる可能性があり、かりに引き金となった場合には、その影響は重大であり取り返しがつかないものになるおそれがある」(疎甲45の3。111頁)。従って、GM技術が我々の日常生活の隅々にまで及ぼす影響の大きさを考えるとき、GM技術がもたらすかもしれない計り知れない脅威・災害に対し、GM技術の実用化を進める政府、試験研究機関ならびに民間企業が最大の関心と細心の注意を払わなければならないのは当然である。バイオテクノロジーの推進を掲げる「バイオテクノロジー戦略大綱」(内閣総理大臣決済文書)においても、消費者の健康、生物多様性の保全、環境への悪影響の防止を最優先課題として掲げているのもそうした理由による(疎甲51)。また、農水省がGM食物の安全性に関し、予防原則を基にするとしているのも同様である(疎甲70参照)。さらに、前記「バイオテクノロジー戦略大綱」は、GM技術の推進にあたって、「国民が適切に判断し、選択できるシステムを作」るために、「国民理解の徹底的浸透」を戦略の柱に掲げ、次の基本方針を明らかにした。
1.情報の開示と提供の充実
 国民に対し、政府は、BT(バイオテクノロジーのこと)に関する情報を積極的に提供していくことが必要である。その情報提供に当たっては、常に国としての理念を持ち、その理念の下、国民に媚びるのではなく、科学的事実を根気よく伝達することを心がけるべきである。
 情報提供は、単に科学的説明のみならず、BT技術の応用によって人々の生活がどのように改善されるかをわかりやすい形で説明することが必要である。‥‥
2.安全・倫理に対する政府の強固な姿勢を国民に提示
‥‥
安全確保対策に政府として万全を期すことに加え、その強固な姿勢を国民に分かりやすく提示することにより、国民の目から見て、BT技術の応用製品についての安全性の信認が得られるよう最大限努めることが肝要である。(疎甲51の2)

2、原審の特徴――債務者と裁判所の対応――
(1)、では、この「安全性最優先と徹底した情報開示」という政府の基本理念に対し、今回、GM作物の野外実験の安全性の有無が真正面から問われた日本初の裁判において、本野外実験を「国家的プロジェクト」と位置付ける債務者は、実際、どのような態度を取ったか。
一言で言って、それは政府の基本理念とは正反対の「開発最優先と徹底した情報非開示」であった。その見事なまでに徹底した態度は、今回の原決定(22〜24頁)でも指摘された裁判外においてのみならず、裁判上においても首尾一貫して貫かれた。債権者は、政府の「安全性最優先と徹底した情報開示」という基本理念にのっとり、6月24日の申立ての当初から、ディフェンシン耐性菌の問題も含め、本野外実験の安全性の有無という真相解明を切に求めたにもかかわらず、債務者が取った態度は、「耐性菌の出現の余地は科学的になく、また実際耐性菌の出現についての報告もない」(答弁書12頁12(1))などといった虚偽の答弁(債権者の指摘の前に、のちに撤回を余儀なくされたが)だけで、後は1ヶ月以上、一切固く口を閉ざした。驚くべきことに、裁判所からの度重なる釈明要求の末、債務者が重い腰を上げて、本野外実験の安全性の一部について、ようやく情報開示を行なったのは、申立てから40日前後も経過した8月1日(交雑防止の具体策について、準備書面(2))と8月8日(ディフェンシン耐性菌について、準備書面(3)と疎乙104〜107)のことであった。これに対して、非研究者である債権者に与えられた反論期限は2日しかなかった(交雑防止について、8月3日。ディフェンシン耐性菌について、8月10日)。しかも、それまで40日以上も余裕のあった研究者集団の債務者は、自らなおも反論の機会を要求し、8月12日に至って、ようやく本格的な情報開示をするに至ったのである(準備書面(4)と疎乙108〜116)。しかし、本GMイネの開花時期というタイムリミットを理由に、最も肝心な、これに対する債権者の反論という機会はついに与えられないまま、裁判所の原決定を迎えることになったものである。これが、本来の情報開示のあり方に照らして、不公正極まりない裁判であったことは言うまでもでない。
(2)、他方、GM作物の野外実験の安全性の有無が真正面から問われた初の裁判を担当することになった原審裁判所の対応はどうだったか。
債権者は、過去の判例もなく、なおかつ少なからぬ専門的知見が要求される本裁判を、これが21世紀の人類と地球環境に最も深刻な影響を及ぼすことになるという問題の重要性を受けとめ、短期間の間に、これと真正面から真摯に取り組もうとした原審裁判所に、正直なところ、敬意を評したい。しかし、惜しむらくは、
一方で、前述した通り、債務者より初めて本格的な情報開示があったのが審尋の最後段階であり、これに対する債権者の反論の機会が与えられないまま、債務者の主張・立証(準備書面(4)と疎乙108〜116)を一方的に採用してしまい(17頁に乙112、113。20頁に乙116など)、
他方で、GM作物の危険性、より一般的に言えばGM事故の基本認識について、これを従来の事故一般と同レベルのもの或いは精々その延長線上のものと捉えてしまい、債権者が申立段階から主張していた、GM技術の恐るべき力業と昨今の鳥インフルエンザの続発からも明らかな通り、これまでの有害化学物質などとは異なる生物災害に特有の「予見不可能性と回復不可能性」を本質とするGM事故固有の特質を見落としてしまった。
 その結果、前者については、間違った事実認定を行なってしまい(17頁。20頁)、後者については、野外実験の危険性の程度について、「耐性菌出現の可能性が飛躍的に増大」(21頁オ)しない限り、或いは「具体的な損害ないし支障が生ずる」(24頁8行目)ことがない限り問題ない、という誤った判断基準を採用してしまった。
この点において、原審裁判所の誤りは致命的であり、このままでは、後世に取り返しのつかない禍根を残すことになる。

3、本準備書面の目的
 本裁判における本野外実験の安全性・問題点は多岐にわたるため(疎甲25の争点一覧表参照)、原決定の判断にも様々な問題点を残したが、本書面においては、このうち、核心的な問題点について原審の「決定的な誤り」に絞って指摘する。
すなわち、債権者は、主として、
@.前述した通り、不本意にも債権者に一度も反論の機会を与えられなかった債務者からの本格的な情報開示(準備書面(4)と疎乙108〜116)に関して、抗告審において、初めてその問題点を指摘した上で正しい事実認定を求め、
A.なおかつ、従来型の事故の延長線ではなく、あくまでも「予見不可能性と回復不可能性」を本質とするGM事故固有の特質を踏まえた、GM作物の野外実験の安全性を真に担保する判断基準の定立を主張する。

第2、二重の袋がけの措置に対する事実認定と判断の誤り
1、問題の所在――重大な前提問題――
交雑の可能性があるかどうかという論点について、その大前提として「イネの花粉の交雑能力の時間がどれくらいか」という点が極めて重要となる。
この点、原決定は、主に乙112及び113を理由に、「長くとも5分程度で消滅」するとし、同じく乙112、及び113等を理由に、債権者の「イネ花粉の生存限界時間が50時間である」という主張を退けた(17頁)。
 しかし、これは「イネの花粉の交雑能力の時間」の事実認定として明らかに誤っている。なぜなら、乙112及び113で問題としている「イネの花粉の寿命」とは、本裁判で問題になっている、生物学的にみてイネの花粉がどれくらいの時間、交雑能力を有するかということではなく、あくまでも、人工受粉という特別な目的に用いる場合に適切なイネの寿命はどれくらいかを問題にしているにすぎないからである。具体的には、花粉の発芽率(調査した花粉のうち発芽した花粉の割合のこと)が100%近い状態が維持されている間は花粉の寿命があるとされ、それが維持できなくなると花粉の寿命はないとされるのである。この点を、今回、植物育種における受粉生物学の研究者である生井兵治氏の陳述書により、詳細に明らかにした(疎甲95。3〜14頁)。
 同時に、前記生井陳述書の14〜17頁により、債権者が主張する「イネ花粉の生存限界時間が50時間」という見解を非科学的なものとして排斥することができないことが明らかである。
すなわち、本野外実験で問題となる「生物学的に、イネの花粉がどれくらいの時間、交雑能力を有するか」という前提問題について、「長くとも5分程度で消滅」すると判断するのは明らかに誤りであり、なおかつ「イネ花粉の生存限界時間が50時間である」という見解を排斥することもまた明らかな誤りである。

2、二重の袋がけの措置の安全性について
(1)、従って、二重の袋がけの措置について、交雑の可能性を検討するにあたっては、大前提の問題である「イネの花粉の交雑能力の時間」について、「50時間」という見解を踏まえなければならない。なぜなら、「未然防止、科学的不確実性への対応、高水準の保全目標、環境の観点の重視、将来への配慮、危険可能性への配慮」(疎甲42の3)をその基本要素とする予防原則に立てば、いやしくも「50時間」という科学的な見解が存在する以上、これを無視できないのは当然だからである。
(2)、その結果、天明陳述書(2)1頁でも指摘した通り、自然交雑の防止のためには「一粒の開花につき、最低でも2日間(48時間)は袋を外さない」ようにしなければならない(疎甲85)。
ところが、これに対し、債務者は、「午後には花粉が交雑能力を完全に喪失した状態となっていることが科学的に明らかである」として、構築部内に入って「午後3時以降にイネの観察を行なう」とする(準備書面(3)2頁3(2))。つまり、午後3時以降、イネの観察のため、構築部内に入り、パラフィン紙をはずすのである(パラフィン紙をはずさなければ、イネの正確な観察ができないことは、天明陳述書(2)3頁で実証済みである。)。
しかし、イネ花粉の寿命は「長くとも5分程度で消滅」という前提が明確な誤りであり、最低でも2日間は袋を外すべきでない以上、債務者のこの野外実験計画では、イネの観察に際して、「一般イネとの自然交雑の可能性はほとんどない」(原決定。19頁)どころか、その可能性は大いにあり得ると言わざるを得ない。
(3)、加えて、二重の袋がけの措置そのものについても、長年、野外実験に携わってきた前記生井兵治氏も指摘する通り、自然界における以下の重大な問題点を看過することはできない。
「二重の袋掛けの防止策にしても、物理的な覆いは、抜かりなく覆ってある積りでも、えてして台風や突風などの物理的または昆虫や鳥やモグラなどの生物的な要因によって交配袋が破けたり外れたり、不織布の覆いに隙間が出来たりすることは、長い間、野外実験の研究生活をしている人たちは私を含めて一度ならず経験していることです。したがって、このように二重の袋掛けの防止策をしたからといって、『一般イネとの自然交雑の可能性はほとんどない』とは断定できません。」(生井陳述書17頁下から3行目以下。疎甲95)。

第3、ディフェンシン耐性菌に対する事実認定と判断の誤り
1、問題の所在

債権者は、申立ての最初から終始一貫、次の危険性を指摘した(申立書18頁。準備書面(2)11頁以下。同(5)4頁以下。同(6)3頁以下。同(7)9頁以下)。
@. 本実験の圃場の田の水中に、ディフェンシン耐性菌が容易に出現する可能性があること。
A. @で出現したディフェンシン耐性菌が圃場の外部に容易に流出・伝播するおそれがあること。

2、原審の判断とその誤り
 このうち@の点につき、原決定は次のように判断した。
ア「債権者らは、‥‥自然界におけるディフェンシン耐性菌の出現を認めた論文として甲82.83を引用」しているが、
イ「疎明(乙105、106、116)によれば、‥‥前記各論文は‥‥、いわば自然界とは全く異なる実験環境下において、ディフェンシン耐性菌の出現を確認したというにすぎず」
ウ「そのことから、本件野外実験のように自然界に近い状況下において実験を継続している過程で、ディフェンシン耐性菌の出現が飛躍的に増加することが確認されているとか、本件野外実験を今後継続することにより、その危険性が高くなる」とはいえない(20頁4〜15行目)。
 しかし、これは、ディフェンシン耐性菌の出現を報告した疎甲82及び83の各論文(以下、本論文という)の誤読、そして、本論文や本野外実験におけるディフェンシン耐性菌の出現の可能性等を解説した金川陳述書(疎甲19、80、91)の誤読に基づく誤った事実認定である。債権者は、近く、この点を詳しく明らかにした研究者の意見書を提出するが、ここでは以下に、その概略を述べる。
(1)、前記アに関して、そもそも、債権者は、原審において、本論文を「自然界におけるディフェンシン耐性菌の出現を認めた論文として」引用したことは一度もない。債権者が論拠とする金川陳述書(2)(疎甲80)は、本論文を紹介するにあたって、正しく、「1.実験室でのディフェンシン耐性菌の作成方法」と明示している(1頁9行目)。精々、これと似て非なるものを挙げるならば、金川陳述書(3)(疎甲91)で、本論文を紹介する際に、突然変異を誘発する薬を使用した場合と使用しなかった場合の両方の実験が行なわれ、後者の実験について、「自然に起きる変異の割合を計算するために(To calculate the rate of spontaneous mutagenesis)、エチルメタンスルフォン酸を加えないで、胞子を同様に処理した」という論文の文章を引用したときだけである(疎甲91。2頁11〜17行目)。
むしろ、本論文を「自然界におけるディフェンシン耐性菌の出現を認めた論文として」決めつけて間違って引用したのは債務者であり(準備書面(4)4頁末行〜5頁4行目)、疎乙116の陳述書の作成者黒田秧氏である(2頁3行目以下)。
(2)、前記イに関して、債務者は、確かに本論文を評して、「いわば自然界とは全く異なる実験環境下において、ディフェンシン耐性菌の出現を確認したというにすぎず」(疎乙105、同116)と主張し、そこから自然界での耐性菌出現の可能性を否定しようとし、そして、原決定もこれを採用した。
 しかし、債務者のこの判断は明らかに間違っている。なぜなら、債務者は、当初、本論文を、疎乙105で「自然界では起こりえないような特殊な突然変異剤あるいは抗生物質抵抗性を利用した」と主張したが、金川陳述書(3)(疎甲91)の指摘によりその誤りに気づき、そのあと、黒田陳述書(疎乙116)において、「突然変異剤を使用していないだけであって」(1頁下から4行目)と訂正してきた。その上で、「他の生物相等の環境影響の存在しない、およそ自然界とはかけ離れた、特殊な、人工的環境の下で実験を行った」と言い直し、「他の生物相等の環境影響の存在」の相違を根拠にして、本論文は「自然界で容易に、ディフェンシン耐性菌が出現するという主張の根拠にはならない」と主張し直してきた(同1頁下から3行目以下。同2頁第2、3と4)。
 確かに、本論文における実験が「他の生物相等の環境影響の存在しない」点はその通りである。ところで、黒田陳述書はここで「他の生物相等の環境影響の存在しない」ことが耐性菌の出現にとって有利に働くという前提に立っている。しかし、この前提が常に成立するとは限らない。なぜなら、「他の生物相等の環境影響の存在する」ことが、他の生物と協調しあって、かえって多様な菌の出現を促し、耐性菌の出現に有利な場合もあり、果して「他の生物相等の環境影響の存在しない」ことが、耐性菌の出現にとって有利に働くか、不利に働くかは一概に言えないからである。それゆえ、「他の生物相等の環境影響の存在しない」ことが耐性菌の出現にとって有利に働くという前提に立つことはできず、結局、この点を根拠にして自然界での耐性菌出現の可能性を否定することはできない(その詳細は近日中に提出予定の意見書参照)。
(3)、そして、本論文が教えることは、「水にディフェンシンと微生物と微生物のエサになる物質とを混ぜて放置するだけで、数百万個に一個の割合で、数日以内に耐性菌が現れること」(金川陳述書(3) 4頁下から3行目。疎甲91)である。そして、原決定が認定する通り、「本件GMイネに組み込まれたカラシナ由来のディフェンシンは、必要に応じて生産される自然界のディフェンシンとは異なり、いもち病等の病原菌の有無にかかわらず、常時ディフェンシン遺伝子が発現してディフェンシンを多量に作り続ける性質を有しており」(20頁下から3行目以下)、そこで、常時大量に作り続けられるディフェンシンが、本実験の圃場の田の水の中で微生物と頻繁に接触することになるから、この点において、本論文における耐性菌の作出方法に合致している。その結果、自然に(spontaneous)起こった変異で、ディフェンシン耐性菌が生じることは容易に可能である(その詳細は、金川陳述書(3)4〜5頁参照)。さらに、屋外では、突然変異を誘発する紫外線が存在するので、変異の頻度が増して、耐性菌出現の可能性が一層大きくなると考えられる(その詳細は近日中に提出予定の意見書参照)。
(4)、前記ウに関して、原決定は、本野外実験について「ディフェンシン耐性菌の出現が飛躍的に増加することが確認されているとか、本件野外実験を今後継続することにより、その危険性が高くなる」とはいえないとして、その危険性を否定する。しかし、これは耐性菌を従来の有害化学物質などと同一レベルで考えるという誤りに陥っている。なぜなら、耐性菌は有害化学物質などとは異なり、短時間のうちに細胞分裂をくり返して爆発的に自己増殖する微生物であり、たとえ1匹でも出現すれば、通常、それが何万匹、何億匹に増えるのに1日とかからない。だから、ここでは、1匹であれ、凡そディフェンシン耐性菌の出現の可能性があるのかどうかということ、そして、その1匹の耐性菌が数万匹、数億匹にふえる可能性があるのかどうかが問題であって、「ディフェンシン耐性菌の出現が飛躍的に増加する」か否かではない。たとえ1匹でもいったん耐性菌が出現すれば、通常、そこから爆発的な増殖が起こるから危険なのである。これが、耐性菌の出現の危険性を考える上で決定的に重要な点である。

3、ディフェンシンの土壌微生物への影響について
(1)、この点につき、原決定は、次のように判断した。
ア「カラシナは、これまで長年にわたって圃場で栽培されてきたものであって、カラシナ由来のディフェンシンが土壌や雨水中に流れ出していたにもかかわらず、これまで強力なディフェンシン耐性菌が出現したとの報告はされていないし、また、田畑に棲む動植物への悪影響も特に認められておらず」
イ「そうすると、カラシナ由来のディフェンシン遺伝子を用いた本件GMイネの栽培によって、特に土壌微生物に対して重大な影響を及ぼす」とはいえない(20頁ウ)。
(2)、しかし、既に、金川陳述書(3)が詳細に論証した通り、本GMイネは「過去にはあり得なかった人工的な遺伝子の組み合わせを行うことにより、常時多量のディフェンシンを生産するように加工したイネ」(6頁7行目以下)であって、「ディフェンシンが必要に応じて生産される」カラシナとは全く状況が異なる。従って、このように、単なる過去の経験から、過去にあり得なかった人工的な本GMイネの危険性を推定することは誤りと言わなければならない(6〜7頁。疎甲91)。
そして、本GMイネの水田における栽培は、上記2(3)で前述した通り、本論文(疎甲82、83)で報告されたディフェンシン耐性菌の作成方法と共通している。この点に着目すれば、本野外実験においても、ディフェンシン耐性菌が容易に出現する可能性があると合理的に推測することができる。そして、この耐性菌が出現した場合には、田畑に棲む動植物のみならず、広く動植物一般、さらにはヒトにも危険なものであり得ると合理的に推測することができる(その詳細は金川陳述書(3)3頁(2)に解説済み。疎甲91)。
 ところが、原審は、債務者提出の高木陳述書(疎乙106)の次のくだり、
「カラシナのディフェンシンは既に、歴史的に栽培されてきているカラシナが産生していることから、耐性菌が出現する可能性がある場合にはすでに出現しているはずであるし、可能性がない場合にはないことになる。すなわち、本組換えイネがある以前に、そのような可能性は歴史上既にあったはずであり、本組換えイネを栽培することによって耐性菌出現の可能性が特段に増大するとは考えられない」(高木陳述書4頁第3段落)。
をそのまま鵜呑みにして、間違った判断に陥った。しかし、このくだりが、本GMイネが過去の地球上には存在しなかった人工的な植物であるというGM植物の特性を全く無視した誤ったものであることは、既に金川陳述書(3)で詳細に反論済みである(5頁下から2行目以下。疎甲91)。

4、ディフェンシン耐性菌の圃場からの流出・伝播の危険性について
この点につき、原決定は、次のように判断した。
「本件圃場内にディフェンシン耐性菌が出現する可能性があるとしても、本件野外実験は、一般圃場ではなく、債務者の北陸研究センター稲田圃場内のうち、一応他から区別された隔離圃場で行われているものであり、したがって、本件野外実験の過程で、耐性菌が飛躍的に増加した上、同耐性菌が本件圃場の外に自然に流れ出し、一般の水路等を通って債権者山田らの農地内に流入し、そこに生育しているイネ等に具体的な損害を与えるおそれがある」とはいえない(21頁エ)。
しかし、ここでもまた、原審は、2で前述した通り、耐性菌を従来の有害化学物質などと同一レベルで考えるという誤りに陥ってしまった。耐性菌はたった1匹出現しただけでも短時間で爆発的に増殖するものであり、従って、ディフェンシン耐性菌の圃場からの流出・伝播についても、ここで問題とすべきなのは、1匹であれ、凡そディフェンシン耐性菌が流出・伝播する可能性があるのかどうかということ、そして、その1匹の耐性菌が数万匹、数億匹に増える可能性があるのかどうかということである。たとえ1匹でもいったん耐性菌が流出・伝播すれば、通常、そこから爆発的な増殖が起こるから危険なのである。これがまた、耐性菌の流出・伝播の危険性を考える上で決定的に重要な点である。
この点、債権者は既に指摘した通り、自然の大雨、洪水、台風などによって耐性菌が容易に本件圃場から流出・伝播する(準備書面(6)4頁)のみならず、日常的にも、本件圃場内にトンボが飛び、昆虫・小動物の出入り可能な隙間があり、これにより、耐性菌が容易に本件圃場から流出・伝播する危険性があることが明らかである(本件圃場を視察した報告書。疎甲84)。さらには、本件圃場内の水路は、田んぼに一定量の水がたまるとその水を外部に流す仕組みとなっており、この点からも雨によって、耐性菌が容易に本件圃場から流出することが明らかである。
以上から、ディフェンシン耐性菌が圃場から外部に流出・伝播する危険性は容易にあり、そして、いったんこれが流出・伝播した場合には、再び安全な状態に回復することがいかに困難であるかは、昨今、「ウイルスが見つかった鶏舎以外も、その養鶏場の鶏はすべて殺処分にしてきた」(疎甲97)ほど厳格極まりない予防措置を取ってきても、なお鳥インフルエンザの続発が防げない事実ひとつ取っても、明らかである。

第4、本野外実験の危険性の判断基準について
1、原審の態度

 この点、原審は、正面からこれについて論じ、結論を出していないが、原決定の中で、次のように個別に明らかにしている。
ア「一応、現在周辺農家において生育中の一般イネとの自然交雑の可能性はほとんどないものと考えられ、」(19頁4行目以下)
イ「一般の水路等を通って債権者山田らの農地内に流入し、そこに生育しているイネ等に具体的な損害を与えるおそれがあるとする点についても、これを裏付ける疎明は特にない。」(21頁エ)
ウ「以上によれば、本件GMイネを栽培することにより、直ちに耐性菌出現の可能性が飛躍的に増大し、その結果、債権者山田ら周辺農家の農業に重大な影響を与えるとの点に関しては、疎明不十分といわざるを得ない。」(21頁オ)
エ「仮にも、上記の情報公開等が円滑に行われず、いたずらに生産者や消費者の不安感等を助長するような事態を招き、その結果、農業等を行う上で具体的な損害ないし支障が生ずるような状況に立ち至ったときには、本件野外実験の差止めを求められてもやむを得ないものというべきである。」(24頁)
つまり、原審は、本野外実験の危険性の判断基準として、次のようなものを想定している。
@. 交雑防止については、一般イネとの自然交雑の可能性は、万全でなくとも、「ほとんどなければよい」。
A. ディフェンシン耐性菌の危険性について、債権者らが「生育しているイネ等に具体的な損害を与えるおそれがある」、「債権者山田ら周辺農家の農業に重大な影響を与える」
B. 本野外実験全般の危険性について、「農業等を行う上で具体的な損害ないし支障が生ずるような状況に立ち至ったとき」

2、原審の問題点
 しかし、最大の問題は、原審が、本野外実験の危険性を、本来「予見不可能性と回復不可能性」を本質とするGM事故特有の問題として正面から受け止めようとせず、単に、伝統的な公害、有害化学物質の事故の延長線上でしか考えていないことである。そのことは最後のBに端的に現れている。伝統的な事故ならばともかく、ことGM事故では、「農業等を行う上で具体的な損害ないし支障が生ずるような状況に立ち至ったとき」ではもう完全に手遅れだからである。その意味で、原審は、これまでの伝統的な事故の下では登場しなかった「予防原則」という聞き慣れない原則が、なぜGM作物の安全性を考える上で基本原理として採用されるに至ったのか、その意味するところを正確に理解していないと思わざるを得ない。しかし、その無理解がもたらす後世への影響は計り知れないものがある。
むろん債権者とて、たった1件の本事件を通じて、GM作物の野外実験一般の危険性に通用する判断基準を定立できるとは思っていない。しかし、少なくとも、本野外実験の実情・特質に即して、その危険性を適正に評価できる判断基準を明らかにする必要性を痛感している。

3、本野外実験に固有の実情・特質を踏まえた判断基準について
 そのように考えたとき、本野外実験に固有の実情・特質として次の諸点を考慮せざるを得ない。
(1)、第1に、室内実験において、次の本GMイネの安全性・問題点を十分に詰め、解決していないまま、野外実験に移行したということ。
@.ディフェンシンが人体へ害作用がないかなどの作用機構が未解明であること(準備書面(2)9〜10頁)
A.ディフェンシンが(単に、胚乳部分だけではなく)およそコメの食用部分には絶対に移行しないかどうか未解明であること(同10〜11頁)
B.ディフェンシン耐性菌が容易に出現する可能性があり、これに対する対策が未解明であること(同11〜13頁)
つまり、仮に、室内実験でGMイネの安全性・問題点を十分に解決済みであれば、野外実験において、自然交雑の可能性について、万全でなく、「殆どない」というゆるやかな基準も可能かもしれない。なぜなら、一応、そのGMイネの安全性が確認されているからである。しかし、本件に限っていれば、債権者がくり返し指摘した通り、本GMイネの様々な安全性・問題点を室内実験で十分に詰め、解決しておらず(債務者は、口では「これまで閉鎖系の室内における各種の実験を通じて、安全性を含めた多種多様な実験・研究がなされた」と言うが、本裁判では、債権者の度重なる要請にもかかわらず、これを裏付ける具体的な証拠は1つも開示しなかった)、にもかかわらず、野外実験を強行しようとした。本来であれば、「未然防止、科学的不確実性への対応、高水準の保全目標、環境の観点の重視、将来への配慮、危険可能性への配慮」(疎甲42の3)をその基本要素とする予防原則に立てば、それだけでも野外実験中止となっておかしくないところ、万が一それが許容されるとしても、その場合の自然交雑の可能性については、「絶対にない」という厳しい基準でなければならない。なぜなら、もともと室内実験で解決済みでなければならないGMイネの安全性の問題を未解明のまま、野外に出ていくのだからである。
ところが、原審は、本野外実験がGMイネの安全性の問題を未解明のままであることを認識しながら(16頁イ(ア))、これが本野外実験の危険性を判断する上で極めて重要な意味を持つことを看過した。
(2)、第2に、本野外実験がGMイネの安全性の問題を未解明のまま野外実験に出ていくものである以上、そこで交雑防止策として採用された重畳的な安全対策の性格は、GMイネの安全性・問題点を室内実験で十分に解決済みの上で野外実験に出る場合とは自ずと異なること。
 つまり、GMイネの安全性・問題点を室内実験で十分に解決済みのケースならば、交雑防止策としての重畳的な安全対策は、そのひとつが実効性を失ったとしても、他の対策が依然有効ならば、その野外実験は許容されるかもしれない。なぜなら、この場合には、前述した通り、自然交雑の可能性について、「殆どない」というゆるやかな基準でよいからである。しかし、本件はそのような場合ではなく、GMイネの安全性の問題が未解明なものである以上、交雑防止策としての重畳的な安全対策は、そのひとつでも実効性を失った場合には、安全性を損なうとして実験中止するほかない。なぜなら、「高水準の保全目標」を内容とする予防原則によれば、もともとGMイネの安全性が確保されていない本野外実験においては、重畳的な安全対策を重ねて初めて「絶対にない」という基準を満たすといえるからである。
 ところが、債務者は、時間的な交雑防止策として、当初「周辺の水稲とは、出穂期で2週間以上の時間的間隔がある」(原決定15頁)と主張していたところ、実際には、債務者も自認し、原決定も次のように認定する通り、わずか1日しか時間的間隔がないことが判明した。
「本件圃場に近隣する一般イネの予想開花時期は8月7目から同月20日ころであり、本件GMイネの予想開花時期が8月21目から9月3日ころである」(8頁下から6行目)
すなわち、債務者が採用した3つの交雑防止策のひとつである時間的な交雑防止策は、原決定が「本件GMイネと周辺農家のイネとの開花時期に関する債務者の前記主張によれば、天候やイネの個体の性質如何によっては、開花時期が重なるおそれがある」(17頁)と認定した通り、その実効性を失った。
 したがって、GMイネの安全性が確保されていない本野外実験において、重畳的な安全対策のひとつが実効性を失った以上、実験は中止するほかない。
 ところが、原審は、債務者の時間的な交雑防止策が実効性を失ったことを認定しておきながら、前記(1)の問題(19頁)を正しく理解しなかったため、結局、そこから正しい結論を導き出すことができなかった。

第5、本野外実験の第1種使用規程の承認手続について
1、原審の判断

 原決定は、本野外実験とカルタヘナ法に基づき制定された第1種使用(GM作物の野外実験)規程の承認手続との関係について、次のように判断する。
ア、交雑の可能性について
「これまで閉鎖系の室内における各種の実験を通じて、安全性を含めた多種多様な実験・研究がなされ、それらの実験結果を踏まえて、農林水産大臣及び環境大臣から第1種使用規程の承認を受けた組換え作物であること、」(18頁下から2行目以下)
イ、まとめ
「本件野外実験自体は、法で定められた所定の手続を経て、学識経験者の意見を聴取した上、パブリックコメントの手続を経た後、農林水産大臣や環境大臣の承認を得て実施されているものであって、手続的には何ら違法の点は認められない」(21頁)

2、原審の問題点
しかし、以下に述べる通り、本野外実験の第1種使用規程の承認手続に関しては、手続的に重大な違法があるのみならず、本野外実験が遵守したとされるわが国のカルタヘナ法及びそれに基づく告示自体も、イネなどの栽培植物の安全性確保の点からみたとき、全く不十分と言わざるを得ない。
第1に、第1種使用規程の承認に際して、審査の重要な対象として、生物多様性影響評価の問題があるが、その実施要領(告示。疎甲79)に従えば、本野外実験が殺菌作用を持つディフェンシンの産出に関する実験である以上、当然のことながら、債務者は、ディフェンシン耐性菌の出現とその影響という問題について、申請書に記載し、これについて十分な審査を受けなければならない筈である。にもかかわらず、債務者は、この重大な問題について、申請書に一切記載せず、その結果、審査を担当する学識経験者もこの重大な問題に対する審査を失念したまま、本野外実験を承認してしまった。もし申請段階で、この問題が申請書に記載されていれば、本野外実験の承認がおりなかった可能性が高く、この意味において、今回の第1種使用規程の承認手続に関して、手続的に重大な違法があると言わなければならない(その詳細は金川陳述書(2)4〜5頁。疎甲80)。
第2に、それ以外にも、第1種使用規程の承認に当たって考慮すべき事項として告示に定められている食品安全性の審査の点(告示第1号第一、1、(2)、二。疎甲35)においても、さらにはイネ花粉による花粉症防止の点(同上告示)においても、債務者は、全くこれを遵守していない(準備書面(2)18頁。22〜24頁)。
第3に、より基本的な問題として、わが国のカルタヘナ法が保全する「生物」とは、その元になった「生物多様性条約」やEUのカルタヘナ法と異なり、基本的に野生生物だけであって、本件のイネなどの栽培植物や飼育動物は除外している(疎甲67)。従って、本GMイネの野外実験の安全性について、野生生物保護を目的としたカルタヘナ法及びこれに基づき制定された告示がそれを十分に担保しているとは到底言えず、よって、これらの法令を遵守したからといって、本GMイネの野外実験の安全性が認められた訳では全くない(準備書面(2)30頁ハ)。

第6、最後に――問題点の一覧表の提出と技術説明会の早期開催――
1、本裁判の新しさと困難さ

 本裁判は、次の諸点で、一般民事事件にはない新しさと困難さを有している。
@. 事実関係において、GMに関する専門的知見の理解を求められること。
A. 法的判断においても、伝統的な事故概念がそのまま通用せず、GM事故固有の特質を踏まえた新たな判断基準が求められること。
B. 紛争類型としても、環境裁判と知財裁判の合体といった新たな複合類型であること
 しかし、他方で、本裁判の判断を誤ったとき、それが後世にもたらす影響は計り知れない。
そこで、限られた時間内で、こうした新しさと困難さに対応するため、債権者は、本書面において、原決定のうち核心となる「決定的な誤り」に絞ってこれを指摘した。むろん、これ以外にも看過できない問題点(例えば、(6)まとめの「債務者が現在計画し、その実施を進めている本件GMイネ開発計画の趣旨・目的、その有用性や必要性については一応肯認することができ」(21頁)るという事実認定は明らかに間違っている)があり、近日中に、それらの問題点を一覧にした書面を提出する。
2、技術説明会の早期開催の必要性
 他方で、本裁判は専門的知見の早期理解が不可欠であり、この点で、知財裁判で日常的に実施されている技術説明会を、本裁判でも本GM技術に関して開催することが有益である(「工業所有権関係民事事件の処理に関する諸問題」(平成7年)197頁以下参照)。債権者側は、本裁判で陳述書を作成された微生物の研究者である金川貴博氏(疎甲19、80、91)と受粉生物学の研究者である生井兵治氏(疎甲95)が補佐人として出廷する予定であるので、本GM技術に関する技術説明会の早期開催を強く要望する次第である(なお、参考人の証拠調べを定めた民訴187条または釈明処分の発動として参考人からの意見聴取を定めた民事保全法9条を参照されたい)。
以 上 
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